東京フィルハーモニー交響楽団 長岡特別演奏会
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2022年9月18日(日) 14:00 長岡市立劇場 大ホール
指揮:アンドレア・バッティストーニ
コンサートマスター:近藤 薫
 
リスト(バッティストーニ編):「巡礼の年」第2年「イタリア」より
               「ダンテを読んで」

(休憩20分)

マーラー:交響曲第5番 嬰ハ短調


 

 東京フィルの9月の定期演奏会は、首席指揮者であるアンドレア・バッティストーニの指揮により、9月15日(木)は東京オペラシティ、16日(金)はサントリーホール、19日はオーチャードホールで開催され、その合間を縫って、事業提携を結んでいる長岡市で、同じ内容の長岡特別演奏会が開催されることになりました。

 バッティストーニは、この4公演が今シーズンの東京フィルとの最初の演奏会であり、唯一の演奏会となります。メインプログラムとしては、東京フィルと初めてマーラーの5番を演奏します。さらに前半には、リストのピアノ曲集「巡礼の年」第2年「イタリア」より「ダンテを読んで」を、バッティストーニ自身がオーケストラ用に編曲して日本初演するという注目すべき演奏会です。
 私が東京フィル&バッティストーニを聴くのは、2019年9月の長岡特別演奏会以来であり、ちょうど3年振りになります。

 今年の新潟は、マーラーの5番の当たり年で、4月の東京都交響楽団スペシャルコンサート(指揮:大野和士)、7月の東京交響楽団第127回新潟定期演奏会(指揮:ジョナサン・ノット)で演奏されており、わずか5か月弱の間に3回も演奏されることになりましたが、在京プロオケ3団体の揃い踏みということで、楽しませていただくことにしました。
 長岡遠征するのは、5月の長岡リリックホールでの松田華音ピアノリサイタル以来です。また、長岡市立劇場へ行くのは、2月のNHK交響楽団長岡特別演奏会以来となります。

 9月も半分が過ぎ、稲刈りも大方終わろうとしており、いよいよ秋も本格化してきました。芸術の秋の到来ということか、今週末もたくさんのコンサートが目白押しです。
 特に今日は、新潟市ではりゅーと新潟フィルハーモニー管弦楽団、上越市では上越交響楽団の定期演奏会が開催され、長岡市では東京フィルと、新潟県内の主要都市でオーケストラの演奏会が3つ同時に開催という事態になりました。重ならなければりゅーと新潟フィルに行きたかったのですが、こちらを選んでしまいました。
 また、来週の土曜は新潟市で新日本フィルの演奏会がありますし、その翌日には新潟メモリアルオーケストラの定期演奏会があり、オーケストラ好きの私にはたまらない日々なのですが、スケジュール調整も大変です。

 シルバーウィークが始まりましたが、せっかくの連休をあざ笑うかのように大型台風が襲来中であり、これから新潟にも接近してきます。被害が出ないことを祈ります。

 そんな日曜日の朝、雑務を終えて、10時頃に家を出ました。長岡市立劇場へは高速を使わずに、下道だけで行くのがお徳です。国道116号線を分水まで進み、大河津橋を渡ってすぐに左折し、信濃川沿いを与板へと進みます。町を抜けて右折して広域農道1号線に入り、ひたすら直進しますと国道8号線喜多IC手前の「ながおか花火館」の横に出ますので、喜多ICから長生橋方面に進み、橋を渡って右へ進めば長岡市立劇場に到着できます。
 西区の私の家からでは55kmで、1時間半かからずに行くことができますが、今日は早めに出て、三島町の某所に立ち寄って休憩し、市立劇場入りしました。

 13時前に到着しましたので、しばし駐車場に車をとめて休憩しました。市立劇場もリリックホールも無料の駐車場があるのがありがたいですね。
 13時15分開場でしたので、5分前に開場の列に並び、開場とともに入場し、席に着いてこの原稿を書きながら、開演を待ちました。
 となれば良かったのですが、私のすぐ近くに、早々とご婦人の二人連れが来られ、ペットボトルの飲料を飲みながら、賑やかにお喋りを始めましたので、いたたまれずにロビーに避難して、この原稿を書き始めました。ホール内からは、管楽器やハープ、コントラバスの音出しの音が賑やかに聴こえてきて気分が盛り上がりました。

 開演5分前となり、アナウンスに促されて席に着きましたが、先ほどのご婦人方は、大きな身振りも交えながら賑やかなおしゃべりをされており、そのパワーに圧倒されました。会話を控えるようにとのアナウンスなどどこ吹く風。一発殴ってやろうかと心の中で密かに思っている私は、修行が足りませんね。

 開演時間となり、拍手の中に団員が入場。全員揃うまで起立して待ち、最後にコンマスの近藤さんが入場して一礼し、チューニングとなりました。
 弦は12型で、左から第1ヴァイオリン(12人)、第2ヴァイオリン(10人)、チェロ(8人)、ヴィオラ(8人)、コントラバス(6人)というオーソドックスな配置です。左手にハープが2台、後方には多彩な打楽器が配置され、打楽器奏者は5人いました。
 東京の演奏会では16型だったと伝え聞きましたが、長岡では12型。地方遠征ということで団員を切り詰めて、経費削減というところでしょうか。

 バッティストーニさんが登場して、1曲目はバッティストーニさん自身の編曲による「ダンテを読んで」です。リストがダンテの「神曲」を読んで、その情景と印象をピアノ曲として作曲し、それをさらにバッティストーニさんがオーケストラ用に編曲したものです。「神曲」という名前は歴史の教科書に出てきますので、私でも知ってはいますが、その内容はすっかりと忘れてしまっています。したがって、プログラムの解説文を読んでもピンとこないのが寂しいところです。

 金管による「地獄門の動機」で演奏開始です。恐ろしい地獄篇の光景を想像したりしましたが、無学な私にはよく分かりません。途中でハープとともに演奏されるコンマスのソロ、その後のハープと絡み合うチェロのソロが美しく、うっとりと聴き入りました。
 全体としては、前時代的といいますか、ちょっとおどろおどろしい感じで、悪くいえば俗っぽいオーケストレーションで、斬新さは感じられませんでした。
 まあ、無学な私には、ダンテの物語の意味することなど理解できず、交響詩としての音の絵巻を楽しませていただきました。

 休憩時間は、オバサマ方のおしゃべりを避けてロビーで過ごし、時間となって係員に促されて席に着きましたが、やはりおしゃべりの真っ最中でした。さすがですね。

 気を取り直して、後半はマーラーの交響曲第5番です。オケは前半同様の12型ですが、ハープが1台になっていました。
 バッティストーニさんが登場して演奏開始です。マーラーの指示通りに、第1部(第1楽章、第2楽章)、第2部(第3楽章)、第3部(第4楽章、第5楽章)とはっきり分けての演奏でした。

 第1楽章冒頭のトランペットソロが完璧であり、これを聴いただけで、これからの名演が確約されたように感じられました。ゆっくりとした演奏で、牛歩とでも言いますか、1歩1歩踏みしめるように進み、テレビで見たエリザベス女王の葬列のようでした。まさに葬送行進曲です。随所に現れるトランペットがキラリと輝き、一貫してトランペットがいい仕事をしてくれて演奏を引き締めました。
 第1楽章が静かに終わり、アタッカで第2楽章へ。嵐のような一撃でハッとさせられました。戦いの楽章であり、激しさと、束の間の安らぎとが繰り返され、静かに楽章を閉じました。

 ここで十分な休憩を取りましたが、客席からは咳払いがありません。客席の皆さんも集中しているようでした。おもむろにチューニングが始まり、一息ついて第2部の第3楽章の開始です。この楽章はホルンの素晴らしさが際立っていました。ホルン協奏曲というくらいに、音量豊かに鳴り響き、独奏ホルンも、それを支えるバックのホルン群も安定感があり、完璧な演奏に口をあんぐりとしました。

 ここでひと休みですが、ここでも客席からは咳払いは聞こえません。そして第3部の演奏開始です。第4楽章のアダージェットは、ハープと弦楽だけで奏でられますが、ゆっくりと歌い上げ、ゆっくり過ぎて弦がばらけて破綻しそうな感じでしたが、しっかりと踏みとどまりました。弦が12型ということで、音の厚みに欠け、甘く切ない感情のうねりが十分でなかったのが残念でした。
 続けて第5楽章へ。アダージェットの夢幻の世界の余韻からホルンが現実へと呼び戻し、軽快に明るく演奏が進み、勝利の凱歌を高らかに歌い上げ、スピードアップして興奮と感動の中に終演となりました。

 カーテンコールでは真っ先にホルンを起立させ、そしてトランペットのパフォーマンスを讃えました。カーテンコールが繰り返され、バッティストーニさんはオケの各パートまで出向いてその演奏を賞賛し、オケも足踏みで指揮者を讃えました。ホールは大きな感動で満たされ、コンマスが一礼してお開きとなりました。

 胸の高鳴りとともに家路に着きましたが、4時5分に駐車場を出て、家には5時半前には着きました。距離にして55km。やはり農道経由は高速を使うより便利ですね。

 と、感動の演奏に胸が高鳴りましたが、特にトランペットとホルンの素晴らしさは賞賛すべきであり、これが今日の演奏の主役だったことは間違いありません。先日の東響の演奏も素晴らしいと思っていましたが、この点では東京フィルが一段上だったと認めなければなりません。とにかくいい演奏でした。
 ただし、弦が12型だったこともあり、弦楽の厚みに欠けたのが残念でした。長岡市立劇場は横幅が広く、響きが全く感じられないデッドなホールですので、直接音しか聴こえず、音が散漫になります。そのため、弦の弱さがそのまま伝わってしまいました。でも、少ない人数で頑張ってくれたことは賞賛すべきでしょう。
 たとえ12型でも、響きの良いりゅーとぴあで聴いたら、感動は倍増したものと推測します。そもそもは、東京公演と同様に16型で演奏して欲しかったです。新潟市での4月の都響、7月の東響とも16型でした。どうして長岡は・・・。

 ともあれ、先日はノット/東響が最高だと感想を書いたばかりでしたが、バッティストーニ/東フィルも負けていません。ホルン、トランペットを始め、管楽器群のできは今日のほうが上でした。ホールの悪条件がなければ、さらに感動したことは間違いありません。
 こんな素晴らしい演奏を安価に聴けて良かったです。長岡遠征した甲斐がありました。早くも来年の公演が楽しみです。

 

(客席:28-24、A席:¥4000)