東京交響楽団 名曲全集第161回 Live from Muza!
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2020年11月14日(土) 14:00  ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:広上淳一
ピアノ:小菅 優
コンサートマスター:水谷 晃
 


ベートーヴェン:序曲 ハ長調「命名祝日」op.115

矢代秋雄:ピアノ協奏曲

 (ソリストアンコール)
  メシアン:前奏曲集より 鳩

(休憩20分)

ベートーヴェン:交響曲第4番 変ロ長調 op.60

 

 東京交響楽団の無料配信が、10月3日の東京オペラシティシリーズ第118回に引き続いて、今日も行われることになり、せっかくですので聴かせていただくことにしました。

 本来、本日の名曲全集第161回と明日の第686回定期演奏会(サントリーホール)は、音楽監督のジョナサン・ノットの指揮で、矢代秋雄のピアノ協奏曲とブルックナーの交響曲第6番が演奏される予定であり、つい最近までそのように宣伝されていました。
 11月1日の新潟特別演奏会「2020霜月」で配布されたプログラムでもノットの予定のままになっており、本当かなと疑問に思っていましたが、予想通りにノットの来日は困難となりました。本日と明日の公演、そして21日のモーツァルト・マチネ第43回(ミューザ川崎)は、指揮者と演目の変更が行われるとの案内が、11月2日になってありました。

 7月のオペラシティシリーズ第116回、フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2020、第682回定期演奏会、新潟特別演奏会2020盛夏は、ノットは映像での指揮という離れ業を演じてくれましたが、さすがに今回は無理せずに指揮者交代となりました。
 
 今日と明日は、指揮者が広上淳一さんに変更され、後半のブルックナーの交響曲第6番がベートーヴェンの交響曲第4番に変更され、ベートーヴェンの序曲ハ長調「命名祝日」が追加されました。ブルックナーがなくなりましたが、ベートーヴェンの明るく晴れやかな2曲を並べることで、ベートーヴェン生誕250周年記念として帳尻合わせした格好になりました。
 そして、21日のモーツァルト・マチネは、指揮者が沼尻竜典さんに変更になり、最初に演奏されるはずだったリゲティのラミフィケーションがモーツァルトの交響曲第32番に変更になりました。
 当初予定していたブルックナーの交響曲第6番とリゲティのラミフィケーションの2曲は、機会を改めて演奏したいというノットと東京交響楽団の意向により変更されたとのことです。

 先週から今日まで、政府間協議による特例としてウィーン・フィルの来日公演が行われましたが、ノットの来日はかないませんでした。現在の感染拡大状況を鑑みれば、今後も海外から演奏家の招聘は困難であり、これからも公演の変更や中止が続くことでしょう。

 ということで、変更になった名曲全集第161回を視聴させていただくことにしました。毎度のことながら、無料配信を決めた東響や関係者の皆さんには感謝申し上げます。


 開場時間に合わせ、ニコニコ生放送のサイトに接続し、会場の雰囲気を味わいつつ開演を待ちました。ステージ上では団員が音出ししていましたが、コントラバスの皆さんは早くからステージに出ておられました。ステージ上にはピアノがありませんでしたが、ピアノの調律の音が聴こえていました。
 客席は間隔を空けず、全席使用されましたが、空席も多かったようです。密の場所と空席の場所とがあり、ちょっとアンバランスに感じました。

 開演時間となり、拍手の無い中に団員が入場。新潟方式に慣れていますと、やはり寂しさを感じます。全員揃って、最後にコンマスの水谷さんが入場し拍手が贈られました。次席は田尻さんです。
 水谷さんはマスクなしですが、コントラバスもマスクなしの方が半分おられました。グレーのいつもの東響マスクでなくて黒いマスクの人もおられました。オケは14型で、ヴァイオリンが左右に分かれる対向配置です。チェロとコントラバスが左、ヴィオラが右です。

 チューニングを終えて、広上さんが登場して開演です。左指を怪我されているようで、左手に包帯が巻かれていました。

 最初はベートーヴェンの序曲ハ長調「命名祝日」です。CDでは聴いていますが、これまで実演で聴く機会はありませんでした。
 ラジオ体操のように両手を大きく動かす広上さんの指揮に応えて、東響の皆さんのアンサンブルが美しかったです。明るく爽やかな序曲で盛り上げてくれました。

 一旦第2ヴァイオリンが下がり、ステージ右手からピアノが運び込まれました。団員がステージに戻ってチューニング。赤地に白い模様のドレスの小菅さんと広上さんが登場し、矢代秋雄のピアノ協奏曲です。
 この曲は、1999年6月の東京交響楽団第2回新潟定期演奏会で、初演者である故・中村紘子さんの演奏を聴いたことがあり、そのとき以来21年ぶりです。

 小菅さんの演奏を聴くのは久しぶりで、2007年12月の東京交響楽団第45回新潟定期演奏会以来でしょうか。風格すら感じられる堂々としたお姿で、存在感抜群です。

 演奏が始まるとともに、いかにも現代の音楽というような不気味な音楽が奏でられましたが、私も成長したようで、深淵な音楽を美しく感じられるようになりました。
 小菅さんのパワーあふれるピアノ、東響の各パートもお見事。張りつめた緊張感は、生で聴いたらもっと胸に響いたものと思います。
 ピアノの単音が繰り返し奏でられる第2楽章。深い霧が立ち込めた森をさまような不安な空気が漂います。怪しげにリズムを刻み、銅鑼が打ち鳴らされて恐怖感がピークとなります。次第に霧が晴れてきて安らぎを感じ、第3楽章へと移りました。
 激しくかき鳴らされるピアノ。軽快に飛び跳ねたかと思うと機関銃の連射で攻め込み、ピアノとオケとの激しいせめぎ合い。激しく打ち鳴らされる打楽器。戦闘状態が激しくなり、興奮のフィナーレを迎えました。

 これは素晴らしい演奏でした。小菅さんのピアノの素晴らしさ、一歩も引かず渡り合った東響。その演奏を引き出した広上さん。三位一体となり、興奮と感動が作り出されました。曲の良さも再認識できてよかったです。

 拍手に応えてソリストアンコールはメシアンの前奏曲集から鳩。矢代秋雄の師ということでメシアンの曲を選んだのでしょうか。静かな音楽でクールダウンさせてくれました。

 後半の開演時間となり団員が入場。最後に水谷さんが入場してチューニング。広上さんが登場して、ベートーヴェンの交響曲第4番です。この曲を東響で聴くのは、2010年11月の東京交響楽団第62回新潟定期演奏会以来10年ぶりです。前半広上さんはメガネをしてスコアを見ながらの指揮でしたが、後半はメガネなしで、暗譜での指揮でした。

 第1楽章の出だしはかなりゆっくりでした。大きくためを作ってスピードアップしましたが、スピード違反はせずに安全運転というところでしょうか。個人的にはもっと爆走しても良いかもと感じました。
 第2楽章はゆったりと美しく歌わせ、第3楽章も安全運転で遅め。第4楽章はスピードアップ。でも爆走することはなく、制限速度内で、それなりの興奮の中で終演となりました。

 東響が誇る管楽器の皆さんの頑張りもあって、聴き応えのある演奏だったと思います。もっと大爆発してくれたら最高でしたが、手の怪我を押して頑張ってくれた広上さんに拍手を贈りましょう。

 今回も無料でいい演奏を聴かせていただきました。特に前半の矢代秋雄のピアノ協奏曲が良かったです。生で聴いたなら最高だったものと思います。無料配信してくれた東京交響楽団にあらためて感謝したいと思います。

 

(客席:ネット配信、無料)