長岡高校から愛知県立芸術大学、シュトゥットガルト音楽演劇大学大学院へと進み、2016年のオルレアン国際ピアノコンクールでの優勝で一躍注目され、その後国内外で目覚しい活躍をされている大瀧拓哉さんの凱旋コンサートです。
先週は出身地の長岡でリサイタルを開催し、長岡リリックホールを満席にしました。そして今日は新潟市でのコンサートです。
ソロリサイタルではなく、協奏曲、それも2曲というのが驚きであり、新潟セントラルフィルが特別演奏会として若き俊英を支えます。期待は高まるばかりで、この貴重な演奏会を聴かないわけにはいきません。
大瀧さんはときどき新潟で小規模なコンサートをされていますが、私が演奏を聴くのは2014年8月のリサイタル以来になります。今日はオーケストラとの共演ということで、どんな演奏を聴かせてくれるでしょうか。
新潟セントラルフィルは新潟で活躍するプロの音楽家を中心に2011年に結成され、メンバー表の名前を見るだけで演奏水準の高さが想像できます。
第1回演奏会では佐々木友子さん、第2回は大谷康子さん、第3回は品田真彦さん、第4回は加藤礼子さんと、新潟の音楽家と共演し、魅力あるコンサートを開催してきました。(第2回は稲庭達さんの予定でしたが急逝されたため、親友の大谷さんが代演されました。)
今回は定期演奏会ではなく、大瀧拓哉さんを前面に出した特別演奏会という位置付けであり、新潟セントラルフィルとしても力を入れていることがわかります。
厳寒・大雪の冬が嘘だったかのように、このところ暖かい日が続き、春の喜びを感じています。今日は薄曇りながらも気温が上がり、清々しい春の陽気となりました。コンサート日和といえましょうか。
西区某所でラーチャンをいただき、白根の某所でひと休みし、降り注ぐ太陽の光の中快適にドライブして秋葉区文化会館に到着しました。
開場待ちの列ができはじめたところで私も列に並び、開場とともに入場しました。中ほどに席を取りましたが、客の入りとしましては長岡のように満席とはいかず、予想よりも少なめに感じました。新潟市中心部から遠い秋葉区ということで行きにくいことと、入場料が高額なためもありましょうか。
開演までの間は静かに待ちたかったのですが、後で私の席の隣に来られたご婦人方のおしゃべりが、開演まで延々と続きました。空席がたくさんあるのに、何で私の隣の席に座っておしゃべりしなければならないのかと、修行が足りない私はイライラがつのりました。限界に達し、席替えしようと思ったところで、開演となりました。
前半はショスタコーヴィチで、最初は弦楽合奏です。弦5部は、6-5-4-4-2の対向配置です。弦楽合奏曲は、弦楽四重奏曲第1番を弦楽合奏用に編曲したものだそうです。曲そのものは馴染みにくい面もありますが、さすがに新潟のトップ奏者たちだけあって、素晴らしいアンサンブルに魅了されました。
続いてピアノがセットされ、管楽器・打楽器が加わって通常のオケの編成になり、ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第2番です。
この曲はコンパクトながら良い曲なのですが、なかなか演奏される機会はなく、生演奏を聴くのは今回が初めてです。曲調からいって、大瀧さんにぴったりに思われ、オケがどう合わせてくれるかがポイントに思われ、楽しみにしていました。
長身でスリムな大瀧さんが登場。ステージ映えするイケメンですね。演奏は期待にたがわぬもの。切れのあるピアノといいますか、一音一音に輝きがあり、乱れのないオケとせめぎ合って、パワー溢れる音楽を創り出していました。
第2楽章は清廉にロマンチックに美しく歌わせ、第3楽章はエンジン全開に駆け抜けて、草原を疾走すかのようなスピード感と爽やかさを感じました。
と、この文章をマツーエフ/ゲルギエフ/マリインスキー劇場管のCDを聴きながら書いていますが、これに負けず劣らずの快演だったと思います。
休憩時間中、隣のご婦人方は再び賑やかにおしゃべりされていました。あまりのうるささに頭を一発叩いてやろうという衝動に襲われましたが、じっと我慢しました。チューニングが始まっても話は止まらず、指揮者が出てきてようやく静かになりました。
後半はチャイコフスキーで、最初は「ポロネーズ」です。オケは良い音を出していました。明るい音色で跳ねるようであり、心も躍り出しそうでした。
ピアノがセットされ(この間も隣はおしゃべり)、続いてはピアノ協奏曲第1番です。数あるピアノ協奏曲の中でもラフマニノフの2番と並んで定番の人気曲であり、演奏を聴く機会もおのずと多いのですが、新潟の演奏家による演奏としては、2015年7月の長岡交響楽団第56回定期演奏会での小杉真二さんの熱演が忘れられません。
今日の演奏は小杉さんをはるかにしのぐもの。新潟の総力を結集したオケに真っ向から対峙し、堂々たる演奏はプロの風格が漂い、音楽の神が乗り移ったかのごとく、熱い演奏をみせてくれました。
燃え上がる終楽章は筆舌に尽くしがたく、ほとばしる熱気に火傷しそうであり、怒涛の音楽の洪水に身をゆだねるばかりでした。これほどの演奏はめったに聴けるものではなく、一期一会の神がかり的名演に立ち会えた幸せをかみしめました。
アンコールはピアノ独奏でバルトークを演奏した後、オケを加えてのベートーヴェンの「悲愴」第2楽章をしっとりと演奏して終演となりました。
大瀧さんの素晴らしさには脱帽するしかなく、これからの発展はゆるぎないものと確信しました。新潟県からこのようなピアニストが生まれたことは喜ぶべきことであり、これからも応援していきたいと思います。
そして、新潟セントラルフィルの実力も再認識しました。メンバーを見れば当然かもしれませんが、アマオケとは一線を画し、プロオケの音を出していました。実際音楽のプロとして活動している人たちですのでプロオケという表現も嘘ではないですものね。弦も管も打楽器も、何も言うことはありません。アンサンブルの乱れは全くなく、プロの業を聴かせてくれました。
隣の客に心を乱されてしまい、ついてなかったという気持ちもありましたが、今年のベストコンサート候補に上げるべき演奏に出会い、感動を胸に家路に着きました。
(客席:8-14、¥3500) |