日本の若手指揮者ではピカイチの活躍の山田和樹。そして、サイモン・ラトルに鍛えられて有名になったバーミンガム市交響楽団。この組み合わせでは快演間違いなしであり、チケットの売れ行きも良いに違いないと踏んでいましたが、そうでもないらしく、主催の新聞社は連日の巨大新聞広告のほか、特集記事を何度も載せていました。
力の入れようは半端じゃなかったですが、期待に反して満席に至らず、6〜7割り程度の集客でしょうか。地方都市新潟にあって、春から夏にかけて大型公演が多数あり、少ないクラシック愛好家人口が分散し、集客が難しくなっているものと思います。火曜日にはオペラがありましたし、今度の日曜日は東響定期ですから、聴きに行く方も大変です。
この公演はSS席の設定がありましたが完売だったようです。安いC席、D席も埋まっていましたが、S席、A席、B席に余裕があったようです。私の席は3階のS席のすぐ後ろのA席です。りゅーとぴあで販売された私の列だけ客がびっしりですが、前後は空席で、ちょっと寂しかったです。チケットの売り方、配分の工夫も必要かと思います。
開演時間となり、拍手の中団員が入場。コンマスがいない中、チューニングが行われ、終わったところでコンマスが登場という珍しいパターンでした。
小柄な山田さんが登場して、「エグモント」で開演です。山田さんの演奏を聴くのは、2012年11月の日本フィルの定期演奏会以来ですが、そのときのすばらしい演奏は今なお記憶に残っています。
実は2010年8月に新潟でオーケストラを指揮しているのをご存知でしょうか。りゅーとぴあで開催されたジュニアオーケストフェスティバルで指揮していたのでした。岡山のジュニアオケを指揮したのですが、そのときの爆演も忘れられません。その演奏の翌日に松本でサイトウキネン・デビューを果たし、以後の世界的活躍はご存知のとおりです。
ということで、今日の演奏も期待が高まりました。ゆっくりと、堂々とした出だし。ホールの残響を確認するかのように、十分なためをつくり、オケを切れよく鳴らします。最初の一音で只ならぬものを予感させ、観衆の心を魅了しました。
その後はダイナミックレンジ、緩急の幅を大きく取り、フィナーレへ向かってスピードアップしました。生命感にあふれ、生き生きとしたベートーヴェン。まさに21世紀の、新時代のベートーヴェンです。最初からブラボーの声。この1曲で山田さんの実力が知らしめられました。
2曲目はラフマニノフの協奏曲です。ピアノは河村尚子さんです。河村さんを聴くのは2010年2月の東響新潟定期で、飯森さんとの共演、そして2012年6月のロシア・ナショナル管弦楽団との共演を聴いて以来3回目となります。
真っ赤なドレスの河村さんが登場して演奏開始です。難曲をものともせず、生き生きと、ピチピチと、明るく躍動する音楽が奏でられ、生命の息吹きが感じられました。
ロシアの匂いは感じさせず、都会的な洗練された演奏でした。各所にちりばめられたカデンツァは河村さんの情熱がほとばしり、感性があふれるものでした。山田さんはオケを細かくドライブし、鳴りの良さに感銘しました。スカッと爽やかな快演でした。
万雷の拍手に応えて、ソリストアンコールはショパンのノクターン「遺作」。コンチェルトのときとは正反対に、ゆっくりと、ゆったりと、情感豊かに歌わせ、爆演との対比がお見事でした。演奏が終わり、手が下ろされ、拍手が沸くまでの数秒の静寂が、聴衆の感動を物語っていました。
休憩後の後半は「ベト7」です。ティンパニは小型のバッロクティンパニに変えられていました。前半同様に、山田さんは強靭なパワーを持つオケのアスリートたちをまとめ上げ、完全に手中に収めていました。F1マシンを繰るドライバーのように、アクションも激しくオケを統率していました。
間をおかずアタッカで第2楽章へ。暗くも感じるアレグレットを、しんみりとした気持ちになる間もなく、流れるように駆け抜けていきました。
ここでで短い間をおき、第3楽章へ。次第にエンジンのパワーを上げ、アタッカで第4楽章へ突入。これ以降はブレーキを踏むことなくアクセル全開。ジェットエンジンで突き進むがごとく、興奮と熱狂のフィナーレを迎えました。ホールは興奮のるつぼと化し、ブラボーの声があちこちから湧き上がりました。
数回のカーテンコールの後、山田さんの挨拶があり、今日の公演で退任するチェロ奏者を讃えました。アンコールは、シェークスピア生誕400年にちなんだ曲ということで、ウォルトンの小品が弦楽のみで演奏されました。ビロードのようなサウンドが天に昇るかのように美しく、興奮の後には最上のデザートでした。演奏が終わり、山田さんの手が下ろされるまで、無音の静寂がホールを満たし、聴衆全員が感動を共有しました。
山田さんとバーミンガム市交響楽団の日本ツアー7公演の、今日が千秋楽だったそうです。この間に培われた両者の密接な信頼関係が頂点に達し、一期一会の奇跡の演奏が成し遂げられたものと思います。
また、オケの機動力のすばらしさも特筆できます。「ベト7」終楽章の、驚異的なスピードに、アンサンブルの乱れもなく付いていったオケの技量に息を呑みました。最終公演ということで、全身全霊の演奏だったのではないでしょうか。
終演時間は9時20分を回り、時間的にも内容的にも贅沢な時間を過ごすことが出来ました。この後サイン会まで行われましたから、ご苦労様でした。
精神性がどうの、芸術性がどうのと議論するのは意味のないこと。暑さを吹き飛ばすような、熱い演奏に気分爽快になりました。音楽っていいですね。
とまあ、感動したわけですが、へそ曲がりの私は、第2楽章はもっとしっとりと、踏みしめるように演奏してくれたら、後半の怒涛の演奏がさらに引き立ったように感じました。この第2楽章に関してはオケも一瞬の怪しさを感じさせましたが、そんな感想は私だけかな・・。
でも、今年のベストコンサートに上げるべきのすばらしいコンサートでした。
(客席:3階 I 4-27、A席:\12000) |