マリインスキー歌劇場管弦楽団
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2007年11月11日(日)15:00 所沢市民文化センター ミューズ アークホール
 
指揮:ワレリー・ゲルギエフ
 
ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」

(休憩:20分)

チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 Op.64

(アンコール)
チャイコフスキー:「くるみ割り人形」より 「花のワルツ」、「トレパック」

 
 

 行こうか行くまいか、2日前まで悩みに悩んでいましたが、後で後悔するのもいやなので、思い切って行ってきました。
 今回の日本公演で物理的に行けるのは今日の所沢公演と18日のNHKホールでの公演しかありません。残念ながらNHKホールの公演はNHK音楽祭の一環でもあり、早々にチケット完売となってしまいました。したがいまして、残るは所沢公演ということになります。市の主催で料金も安く設定されていますので魅力的でした。
 しかし、仕事やら雑用やら、あわただしい日々が続き、時間だけが過ぎていきました。予定だけは入れないようにしていましたが、ネットでチケット購入しようとアクセスしては中止する繰り返しでした。ネットで割り当てられた席が壁側ばかりということも決心を鈍らせました。
 ところが2日前にアクセスしてみたら、どういう訳か12列目の中央が割り当てられました。これは前すぎることもなくいい席です。思わず購入ボタンを押してしまいました。もう後には引けません。急な用事ができないことを祈りながら今日を迎えました。

 さて、私とゲルギエフとの出会いは、1995年に遡ります。ゲルギエフは今ほどにはブレイクしていなかったはずです。オケもまだキーロフ歌劇場管弦楽団と呼ばれていましたが、どこの3流オケかな、というくらいの認識しかありませんでした。
 東京出張の夜に、たまたま東京芸術劇場で、このゲルギエフ指揮キーロフ歌劇場管弦楽団のコンサートを聴いてショックを受けたのでした。そのときの曲目は「春の祭典」と「火の鳥」全曲版でした。以来ゲルギエフ・ファンとなり、音楽仲間に盛んに宣伝しまくっていました。
 その後1998年に新潟市民芸術文化会館(りゅーとぴあ)開館記念の連続公演が記憶に新しく、2002年にも新潟に来演しています。そのほかにロッテルダム・フィルと2000年に来演しています。
 というように、私はゲルギエフの演奏は全部でこれまで6回聴いたことになります。特に1998年の新潟公演はNHK-BS2で放送され、ビデオは私の貴重なコレクションとなっています。ゲルギエフに心酔するあまり、頭までゲルギエフ・ヘアーになってしまったのが大きな悩みです。

 前置きが長くなってしまいましたが、雨の中無事に新潟を出発することができました。所沢のホールは昨年11月にヤンソンス指揮コンセルトヘボウ管弦楽団を聴いて以来1年ぶりです。航空公園駅からYS-11を眺め、大きな街路樹の下の落ち葉の歩道をホールへと向かいました。
 所沢市民文化センター・ミューズは、パイプオルガンを備えたクラシック専用の大ホール(アークホール)、馬蹄形の演劇ホール(マーキーホール)、室内楽向きの小ホール(キューブホール)、さらに展示室(ザ・スクエア)等が広場を中央にして配置され、回廊で結ばれた巨大な文化施設です。このうちアークホールは2002人収容の大型のシューボックス型ホールですが、1階にもサイドバルコニーがあるのが特徴です。正面のパイプオルガンの両脇にミューズ像があって、客席を見下ろしています。壁や天井が白いので、重厚さはなく、明るい印象です。ホールの大きさの割にステージは若干狭いように感じられます。客席はほぼ満席です。

 拍手の中楽員が入場しました。コンマスはこれまで聴いたときとは別の人です。ステージいっぱいのフルオーケストラは壮観です。ヴァイオリンは対向配置ではないのにコントラバスが左、チェロが右に分かれた変な配置になっています。通常指揮者やソリストは左手から登場するのが一般的と思いますが、ゲルギエフは右手から登場しました。指揮台はなく、指揮棒を持っての演奏です。

 前半は「春の祭典」。いきなり「ハルサイ」というのも面食らいますが、緩急・強弱のコントラストが心地よく、ダイナミックな演奏に圧倒されました。ホールの容積が大きくて、響きが少なく感じ、最初はオケの厚みが乏しく感じられましたが、耳が慣れたのか、オケの調子が上がってきたのか定かでありませんが、次第に豊潤なオーケストラサウンドがホールを満たしました。最後の終わり方がいかにもゲルギエフらしく、長めの間を開けて最後の和音の一撃を加え、聴衆を打ちのめしました。私とゲルギエフの出会いもこの「春の祭典」。前回同様の、いや、それ以上の感激を与えてくれました。指揮棒は持っていましたが、震えるような指先の動きはゲルギエフならではでしょう。

 休憩の後、チャイコフスキーの5番です。第1楽章と第2楽章、第3楽章と第4楽章は続けて演奏されました。メロディを歌わせるところは思い切って歌わせ、メランコリックな感傷を誘い、盛り上げるところはこれでもかと言うくらいにダイナミックに。まさに緩急自在のゲルギエフ・サウンドです。オケの演奏もすばらしく、第2楽章のホルンのソロの美しさに息をのみました。柔らかな木管の響き、炸裂する金管の咆哮、一糸乱れぬ弦のアンサンブル。ライブならではの緊張感があふれ、文句の付けようがありません。好き嫌いは分かれましょうが、私としましてはこれまで聴いたどの演奏よりも感動的な5番でした。圧倒的な拍手、ホールにこだまするブラボーの嵐。いい演奏を聴いた充実感に胸が高鳴ります。アンコールは「花のワルツ」のあと「トレパック」で締めました。
 実は隣の席のオバサンが落ち着きがなく、しゃべったり、体をすり寄せてきたりと迷惑甚だしく、後ろの席のオバサンは飴の包み紙をガサガサさせたりして、イライラ感を禁じ得なかったのですが、そんな気分を一掃してくれるような見事な演奏でした。

 今回の日本公演は2週間で11公演、しかも7種類のプログラムというのは驚きです。過密なスケジュールでお疲れなゲルギエフであったようで、先日のサントリーホールでの公演は本調子じゃなかったようだとの情報も伝え聞きましたが、今日の演奏は疲れなど感じさせませんでした。今日の前は2日間公演がなくて休息できたのでしょうか。明日は川崎で東響を指揮する予定ですが、リハなしのぶっつけ本番かもしれませんね。18日のNHKホールでの最終公演までまた過密なスケジュールが始まります。ご苦労なことです。
 来年は1月から2月にかけてマリインスキー・オペラの公演がありますが、スケジュールを見てびっくり。何と2月2日は、昼に東京文化会館でロッシーニの「ランスへの旅」を公演し、夜はNHKホールでボロディンの「イーゴリ公」をやるんです。こりゃやりすぎですよね。

 ホールを出ると木々に付けられた青いイルミネーションがきれいでした。小雨の中、航空公園駅まで早足で急ぎました。所沢は随分遠いように感じますが、航空公園駅を17時32分に出発し、所沢、秋津、新秋津、南浦和、大宮と乗り継いで、新潟には20時18分に着きましたから時間的にはそれほどじゃないですね。駅から家への帰り道、道路には霰が積もっていました。もう冬到来なんですね。冬は嫌いだなあ・・・。
 

(客席:1階12-20、S席:12000円)