品田真彦 ピアノリサイタル | |
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2025年3月8日(土)14:00 だいしほくえつホール | |
ピアノ:品田真彦 | |
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第19番 ト短調 作品49-1 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第7番 ニ長調 作品10-3 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第8番 ハ短調 作品13「悲愴」 (休憩15分) ベルク:ピアノ・ソナタ 作品1 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第9番 ホ長調 作品14-1 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第10番 ト長調 作品14-2 |
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新潟県内で活躍するピアニストはたくさんおられますが、男性ピアニストに限りますと、多いとは言えません。その中で、もっとも活発な演奏活動をされているピアニストとして、品田真彦さんの名前を挙げることに異論はないでしょう。 私は、2012年12月に初めて演奏を聴かせていただいて以来、2019年10月のリサイタルのほか、2016年9月の新潟セントラルフィルとの共演(指揮:磯部省吾、モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番)や他の奏者との共演や伴奏など、様々な機会で演奏を聴かせていただいており、とてもここでは紹介しきれません。柔和で穏やかな人柄は魅力的であり、毎回真摯な演奏に大きな感動をいただいてきました。 今回のリサイタルは、2023年1月に始まったベートーヴェン・ツィクルスの3回目になります。ベートーヴェンのほかに、新ウィーン楽派の作品を取り上げているのが意欲的であり、第1回ではシェーンベルク=ウェーベルンの室内交響曲第1番(共演:廣川抄子、市橋靖子、広瀬寿美、渋谷陽子)が、第2回ではベルクの「七つの初期の歌」(共演:ソプラノ・平野佳恵)が演奏され、今回はベルクのピアノソナタが演奏されます。 このシリーズの第1回、第2回とも、他公演と重なって参加できませんでしたので、今回こそはと思い立ち、参加させていただくことにしました。 天候は回復したものの、寒さを感じる土曜日の昼下がり、いつものルーチンワークを終えて、ゆっくりと昼食を摂り、だいしほくえつホールに向かいました。 開場時間前にホールに着き、開場とともに入場して、このホールでの定席である中段左に席を取りました。席に着いて、この原稿を書きながら開演を待ちましたが、ホールには、新潟のクラシック音楽界の重鎮のSさんをはじめ音楽愛好者が勢揃いしており、品田さんへの注目と期待の高さが感じられました。 開演時間となり、アズキ色のシャツの品田さんが登場し、ピアノ・ソナタ第19番で開演しました。2楽章からなる穏やかで重苦しくない短い曲です。 第1楽章は、少し悲しげなメロディーに始まり、その後は軽やかに進みました。中間部では、多少の激しさもみせ、暗さの中に楽章を閉じました。 第2楽章は、明るく跳ねるようにメロディーを歌い、感情の高ぶりを見せるも、穏やかさを取り戻し、力強さの中にフィナーレとなりました。 退場することなく、続いては、ピアノ・ソナタ第7番です。先ほどの第19番とは一転して、力強さ、激しさを感じさせながら、急流を下るように、スピーディーに曲が進みました。緩急・強弱のアクセントが心地良く、ジェットコースターのようなスリルを味わいました。熱き血潮の高まりと疾走感が感じられ、気分爽快でした。 第2楽章は、暗く、ゆったりと曲が進み、悲しく絶望的で、切ない嘆きが胸を打ちました。第3楽章は、明るさ、穏やかさを取り戻し、ほっとさせました。 第4楽章は、緩急を繰り返しながら、ちょっとつかみどころのない曲調にたじろぎ、最後は唐突に曲が終わりました。 一旦退場して再登場し、前半の最後はビアノ・ソナタ第8番「悲愴」です。第1楽章は、激しい和音に始まり、緩急・強弱を大きくつけて、ギアチェンジして猛スピードで走り出しました。淀みなく流れ出る音楽の泉の如く、力強くも流麗な音楽に、激しく心は揺り動かされ、圧倒されました。 第2楽章は、優しく、穏やかに、お馴染みのメロディーが奏でられました。甘さ、切なさはほどほどに抑制されていました。 第3楽章は、スピードアップして歩みを進め、悲しみを振り払って、感情を高ぶらせて曲を終え、大きな拍手が贈られて、前半が終了しました。 休憩後の後半は、ベルクのピアノ・ソナタです。品田さんは、タブレットを持って登場し、譜面台に設置して、演奏が始まりました。 ちょっとミステリアスな音楽が流れ出て演奏が始まりました。現代曲らしい不安定な、とらえどころのないメロディーですが、私のような素人でも聴きにくい音楽ではありません。 不安定に揺れ動く音楽の波が寄せては返し、平穏な生活になまった頭を揺さぶるようでした。不安感が掻き立てられ、心は落ち着きませんでしたが、いつしかその音楽に心は染まり、不安が快感へと変異していきました。これは、品田さんが紡ぎ出すピアノの響きの美しさがなせる業でしょう。初めて聴く曲でしたが、良い音楽を聴かせていただいて感謝です。 タブレットを片付けて退場して、マイクを持って登場し、挨拶と曲目の説明がありました。今日のソナタは、ベートーヴェンが20歳代の作品であること、ベルクは、その100年後の作品であることなど解説してくれました。この間に、ピアノの譜面台が片付けられました。 再び下がって再登場し、続いては、ピアノ・ソナタ第9番です。第1楽章は、明るく軽やかに進み、ベルクを聴いた後では、春が来たかのような感じでした。中間部は陰りも感じましたが、明るく爽やかに終わりました。 第2楽章は、穏やかに、ゆったりと、少し悲しげに歌いました。第3楽章は、快活に走り、躍動感に溢れる音楽に心は踊り、緩急の波を越えて、力強く曲を終えました。 続いては、ピアノ・ソナタ第10番です。第1楽章は、軽やかに流れ、弾むようで、心もウキウキしました。緩急を大きく取って、疾走感が快く感じられました。激しく高ぶって、穏やかさの中に楽章を閉じました。 第2楽章は、ゆっくりと力強くリズムを刻み、そのリズムの上に優しい音楽が踊りました。第3楽章は、緩急・強弱自在で、軽やかに踊るような音楽が、心地良く響き、ちょっとあっけなく曲が終わりました。 客席からは大きな拍手が贈られて、品田さんの素晴らしい演奏を讃えました。アンコールを期待しましたが、そのまま終演となりました。内容の濃さを考えれば、アンコールなしも当然でしょう。 品田さんのピアノは、抜群の安定感があり、超高速のパッセージでも乱れることなく、噴水の如く、流れるように音楽が湧き出ました。力強く響く低音に濁りはなく、クリスタルのように輝く高音に魅了されました。 このホールが誇るベーゼンドルファー275を自在に操り、煌くような美しい音を引き出して、ダイナミックで繊細な音楽世界を作り出していました。 品田さんの素晴らしさを再認識させる演奏であり、プログラムの内容も豊富であり、お腹いっぱいに楽しむことができました。 (客席:F-6、¥2000) |