実力と人気を併せ持つピアニストにして指揮者、プロデューサーの反田恭平さんと、反田さんが創設したジャパン・ナショナル・オーケストラの演奏会です。
あっという間にチケット完売になった前回の新潟公演は2022年2月でしたので、3年ぶりになります。また反田さんの演奏としましては、2023年2月の務川慧悟さんとのコンサート以来2年ぶりです。
チケット完売必至の公演であり、チケット発売とともに購入しましたが、正面の席は取れず、サイドのDブロックに席を確保しました。
今週末は天候に恵まれ、気温が上がって春のような陽気になりました。今日も曇り空ながらも気温は高く、過ごしやすい日曜日になりました。
15時開場、16時開演でしたので、ゆっくりと昼食を摂り、駐車場の混雑を見越して、早目に家を出ました。空には次第に黒い雲が広がり、雨が降りそうな怪しげな天気に変わってきましたが、何とか雨にならずに踏みとどまっていました。
白山公園駐車場は既に満車になっていて、入場待ちの車が並んでいましたので、陸上競技場の駐車場に車をとめました。
県民会館に立ち寄り、某コンサートのチケットを買いましたが、ちょうど新潟商業高校吹奏楽部の定期演奏会が終演となって、退場する人たちでにぎわっていました。また、今日はコスプレのイベントをやっているようで、コスプレした若者たちが公園にたくさんおられました。
りゅーとぴあに入りますと、すでに開場されていて、ロビーはたくさんの人たちで混雑していました。チラシ集めをして入場しましたが、入場時に渡されたのは他公演のチラシだけで、プログラムは500円で有料でした。高い入場料を取っているのですから、プログラムは無料で配布し、少なくとも曲目を書いた紙の一枚くらいは配布するべきだと思います。主催のNSTには、一考していただきたいものです。
ホワイエでは、プログラムのほかCD、書籍などのグッズ販売がされていて、先着200人にサイン会の参加券が配布されるため、売り場は賑わっていました。
通常料金は8000円ですが、U-30(30歳以下)は3000円に割り引かれたせいもあってか、客の平均年齢は若く、ものすごい混雑と熱気に圧倒されました。若い人が多いというのはありがたいことです。
ロビーコンサートが開催されるとのことでしたので、客席には行かず、ホワイエの演奏場所前に陣取って開演を待ちました。
15時半を回ったところで5人のメンバーが登場して、モーツァルトのクラリネット五重奏曲の第1楽章が演奏されました。こんなに接近して良いのかと心配しましたが、私のすぐ眼前で演奏されるクラリネットと弦楽四重奏の美しい調べに、うっとりと聴き入りました。混雑したロビーのうるささの中ではありましたが、美しい演奏に感動しました。
ロビーコンサートが終わり、客席に着きました。前回は立見席を含めて完売でしたが、今回はそこまではいかなかったものの、ほぼ満席の大盛況でした。最近のオーケストラコンサートでこれほどの入りはめったになく、視覚的にも気分が盛り上がりました。
さて、今回の全国ツアーは、2月21日の倉敷市民会館に始まり、3月9日の奈良県橿原文化会館まで、12公演開催され、新潟は8公演目に当たります。
プログラムはA、Bの2種類あり、モーツァルトの交響曲第32番、ピアノ協奏曲第26番「戴冠式」、歌劇「フィガロの結婚」序曲を基本として、Aプロはピアノ協奏曲第9番「ジュノム」、Bプロはメンデルスゾーンの交響曲第4番「イタリア」が演奏されますが、新潟はBプロです。
演奏順が変わっていて、交響曲第32番で始まり、「フィガロの結婚」序曲で終わるという変わった演奏順に驚きました。
開演時間となり、拍手の中に団員が入場。弦は対向配置の9型で、9-7-6-4-3 でしょうか。最後にコンマスの岡本さんが登場してチューニングとなりました。
反田さんが登場し、1曲目はモーツァルトの交響曲第32番です。最初に交響曲を演奏するなんて変だなあと思いましたが、この曲は単一楽章からなる短い交響曲で、序曲代わりの演奏ということで、その趣旨が理解できました。
反田さんは指揮棒を持たずに指揮しました。切れのあるスピード感あふれる演奏で、オケの素晴らしさが一瞬で伝わりました。乱れのない抜群のアンサンブルで疾走し、中間の緩徐部ではゆったりと歌わせ、そして全力疾走して、有無を言わせぬ躍動感で聴く者の心を虜にしました。
コンサートの開幕を告げる挨拶代わりの演奏としてはこれ以上のものはありません。この躍動感とスピード感は、今日のコンサ―トの最後まで貫かれました。
指揮台が片付けられて、弾き振り用に客席に背を向けるように蓋を外されたピアノが設置されました。反田さんが登場して椅子に座り、しばらくの沈黙のうちに立ち上がり演奏を開始しました。
ゆったりとして美しい長い序奏の後、軽やかにピアノが加わりました。明るく淀みなく流れ出る音楽は心地よく、モーツァルトが降臨したかのようでした。カデンツァの美しさにうっとりし、オケが加わって楽章を閉じました。
第2楽章は、ゆったりと優しく、繊細で美しい極上の響きで魅了し、第3楽章は、軽やかに、生き生きと、大きくアクセントをつけて躍動感に満ちていました。明るく爽やかな演奏に、心も和みました。
ピアノ演奏しながらの指揮は大変だとは思いますが、その大変さは全く感じさせず、ピアノとオケとが一体となって融合し、美しい音楽を作り上げていました。
大きな拍手が贈られて、アンコールにトルコ行進曲が演奏されました。これも淀みなく流れるような演奏で、ピアニストとしての反田さんの魅力が全開になりました。
大きな胸の高鳴りをもたらして休憩に入りましたが、女性客が多いため、いつも以上にトイレ待ちの列が長く延びていました。
後半はメンデルスゾーンの交響曲第4番「イタリア」です。前半の演奏と同様に、明るく快活に演奏が始まり、疾走感が心地よく感じられました。
若き血潮が弾けるように、エネルギーが爆発し、緩急・強弱を大きく揺り動かして聴く者の心を揺さぶりました。弦のアンサンブルの流麗さにも感嘆しました。
第2楽章は、曲調もあって、ゆっくりと暗めに演奏が進みました。終始リズムを刻み続ける低弦の上に、ゆったりと愁いを秘めたメロディが絡み合い、美しいアンサンブルの流れに身を浮かべました。
第3楽章は、悠々と、大きなうねりを作りながら流れていきました。ホルンの二重奏も美しく、うっとりと聴き入りました。
第4楽章は、激しくリズムを刻んで駆け足し、熱っぽくスピードを上げて、乱れのないアンサンブルで突進しました。スピードを落とすことなくひたすら走り続け、そのエネルギー感に圧倒されました。
これだけの猛スピードにも関わらず、アンサンブルの乱れが一切ないのは驚異的であり、鍛え上げられた各奏者の実力が否応なく知らしめられました。大きな感動をもたらし、割れんばかりの拍手が贈られました。
通常なら、これで予定のプログラムが終わって、アンコールとなるのが流れですが、あらかじめ最後に「フィガロの結婚」序曲がプログラムされていました。
この意図はわかりませんが、これまでの演奏そのままに、猛スピードで疾走する演奏は爽快であり、否応なく心は揺り動かされ、高揚を誘いました。
アンコールとして聴くにふさわしい演奏であり、大きな拍手が贈られ、各パートを順に立たせて見事なパフォーマンスを讃えました。
そして、真のアンコールは、ファゴット奏者の2人がステージ前方に出てのパフォーマンスでした。公演ごとにアンコール担当が変わるようですが、新潟担当はファゴットということなのでしょう。
「フィガロの結婚」に引き続いてのアンコールということで、フィガロ続きで、ロッシーニの方のフィガロの「私は町の何でも屋」が演奏され、「フィガロ、フィガロ・・・」という部分では歌も交えての演奏で、大いに盛り上がりました。
客席を熱狂させて、興奮と感動の演奏会は終演となりました。全員で四方に礼をするというのも好印象でした。演奏もステージマナーも極上です。
胸を熱くして外に出ますと、どうにか雨は降らないで済んだようでした。興奮冷めやらず、うきうきした気分で駐車場へと向かいました。
ジャパン・ナショナル・オーケストラは、反田さんが、ソリストとしても活躍する同年代の奏者を集めて編成したオーケストラです。老練のメンバーにより渋く熟成されたオケとは全く異なり、フレッシュさと明るさを感じさせ、躍動感に満ち溢れています。
メンバー表を見ても、ミュンヘン国際コンクール優勝の岡本誠司さんを始め、大江馨さん、東亮汰さん、周防亮介さん、荒木奏美さんなど、ソリストや首席クラスの若き俊英たちがずらりと並んでいます。ティンパニは東響主席の山村雄大さんです。
この小型で、機動性に優れたオケを、反田さんが自由自在に操り、パワー溢れる音楽を創り出していました。反田さんは、やりすぎと思えるくらいに、グイグイとオケをドライブし、それに見事に反応して乱れることなく抜群のアンサンブルで躍動感溢れる音楽を具現化するオケの素晴らしさに圧倒されました。
21世紀を担う若い世代の音楽家たちが創り出した音楽は、老化が進んだ私の心身にパワーを注入し、生きる元気を与えてくれました。こんな演奏を聴かされて、何の不満がありましょう。世界を視野に、さらなる活躍をしていただきたいと思います。
(客席:2階:D3-27、¥8000) |