ジャパン・ナショナル・オーケストラ 2022ツアー
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2022年2月23日(水) 14:00 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
指揮・ピアノ:反田恭平
ヴァイオリン:岡本誠司
管弦楽:Japan National Orchestra
 
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 op.64

(アンコール)
モーツァルト:「魔笛」より 「私は鳥刺し」(Vn:岡本誠司、Fl:八木瑛子)

(休憩20分)

ショパン:ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 Op.11

(アンコール)
ショパン:ワルツ第4番(猫のワルツ)
ショパン:マズルカ第34番
 
 
 今日は、昨年秋のショパンコンクールで第2位に入賞して話題になったピアニストの反田恭平さんが、自ら創設したジャパン・ナショナル・オーケストラとともにショパンのピアノ協奏曲を演奏するという魅力たっぷりなコンサートです。さらに、昨年9月のミュンヘン国際音楽コンクールのヴァイオリン部門第1位に入賞したこのオケのコンサートマスターを務める岡本誠司さんが、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を演奏するというのも注目されます。

 さて、反田さんのピアニストの枠を超えた活発な音楽活動は、今さらここに書くまでもなく、皆さんご存じのことと思います。自前のオーケストラを作って指揮もするというのは大したものであり、若手音楽家の中では、日本のトップランナーと言えるでしょう。
 昨秋のショパンコンクールでは実力を遺憾なく発揮され、私はネット配信を視聴して応援し、大きな感動をいただきました。
 反田さんは、もともと人気のあるピアニストであり、すでに十分な実績を積んでおられましたが、高い志を持って参加したショパンコンクールでの活躍もあって、反田人気は高まるばかりです。
 このコンサートのチケットは発売早々に完売となり、立ち見席まで販売されました。私はチケット発売日に、たまたま立ち寄ったりゅーとぴあのインフォメーションで、声をかけていただいて購入できましたが、今思えば幸運だったと思います。
 チケット発売当初は演奏曲目がメンデルスゾーンのピアノ協奏曲となっていて、なぜこの曲と疑問に思っていましたが、いつの間にかショパンのピアノ協奏曲第1番に変更になっていました。

 さて、私が反田さんの演奏を聴くのは、2018年9月に長岡で開催されたリサイタル以来であり、3年半ぶりになります。前回はオール・ベートーヴェン・プログラムでしたが、圧倒的なパワーと生命感に溢れる音楽にノックアウトされました。今回は自前のオーケストラとともに、ショパンコンクールのファイナルで演奏したショパンのピアノ協奏曲第1番を演奏するとのことで、期待は高まるばかりでした。

 なお、ジャパン・ナショナル・オーケストラは、反田さんが8人の弦楽奏者を集めて2018年2月に結成したMLMダブル・カルテットが前身であり、2019年に管楽器奏者を加えて16人編成のMLMナショナル管弦楽団へと発展し、2021年1月にジャパン・ナショナル・オーケストラに改称しました。さらに、2021年5月には株式会社化され、奈良市を拠点として活動し、団員は社員として給与を得ながら、安心して音楽に専念できるようにしているそうです。
 メンバーはプロオケの首席クラスやソリストとして実力のある有能な若手演奏家からなり、新潟でおなじみの東響主席の荒木奏美さんのお顔もあります。このオケが反田さんとともに、どんな演奏を聴かせてくれるかも楽しみです。


 今日は天皇誕生日です。寒波が襲来して、上中越は大雪に見舞われていますが、新潟市は気温は低いものの、それほどの降雪もなく助かりました。寒風が身に染みますが、ときどき日も差して、冬としてはまあまあの休日となりました。
 13時の開場でしたので、早めにりゅーとぴあ入りしましたが、ロビーは開場待ちの客で賑わってしました。チラシ集めをした後に入場しましたが、客層は東響定期とは明らかに異なり、平均年齢はかなり若く、私などは高齢者の部類でしょう。女性が圧倒的に多く、客席はお喋りの花が咲いていました。お喋りはロビーでお願いしたいものです。
 客席でこの原稿を書き始めましたが、ご婦人方のお喋りに耐え難くなり、ロビーに避難しました。まあ、私のように一人静かに音楽を楽しもうというのは少数派であり、お喋りも楽しみのうちなんでしょうね。

 開演時間が近付き席に着きましたが、チケット完売だけあって、立ち見席も含めてほぼ満席のホールは久し振りです。とても新型コロナ禍の渦中とは思えない光景です。ただし、虫食いの如く若干の空席もあり、私の隣も空席で、ゆったりと、安心・安全に音楽に集中できました。

 開演時間を5分以上過ぎて、拍手の中に団員が入場。全員揃ったところで全員で礼をしてチューニングとなりました。オケのサイズは小さく、弦5部は5-4-3-2-1です。ヴァイオリンが左右に分かれる対向配置で、コントラバスとチェロが左、ヴィオラが右です。

 反田さんと岡本さんが登場して、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲です。反田さんは指揮棒なしでの指揮です。
 オケは弦が少ないためか厚みに欠けて、名手揃いの管楽器は良かったですが、全体としてドライな印象を感じさせ、ロマンティックなこの曲のイメージには合わない感じがしました。
 岡本さんの演奏も若干線が細く、音量が乏しく、艶やかさに欠けた印象がありました。ちょっと癖のあるメロディの歌わせ方に違和感も感じました。好みの問題でしょうけれど、ミュンヘン国際コンクール第1位の実力を感じるまでには至りませんでした。

 アンコールはフルートの八木さんとともに「魔笛」のおなじみのアリアをヴァイオリンとフルートの二重奏で楽しませてくれました。反田さんは八木さんの席で聴いておられましたが、なかなか珍しい趣向ですね。爽やかな演奏で良かったです。

 休憩時間はロビーに避難してこの原稿を書いていましたが、新潟の音楽界の重鎮のSさんから声をかけていただき、先ほどの演奏についてお話をすることができました。

 客席に戻りますと、ステージ中央にピアノがセットされていました。ピアノは通常の向きで、弾き振りのためか、蓋が外されていました。
 拍手の中に団員が入場しましたが、弦の配列は対向配置でなく、通常の並びになっていました。前半独奏をした岡本さんがコンマス席に着きましたので、第1ヴァイオリンは6人に増強されました。

 反田さんが登場して演奏開始です。ピアノが入るまでの長い序奏を反田さんが指揮をし、椅子に座ってピアノが入りますと、反田さんの世界へと引き込まれ、夢の時間へと誘われました。配置が変わったためもあってか、オケのサウンドが前半と異なって厚みを増し、柔らかな音に変貌しました。
 演奏は何も言うことはありません。これまで生でこの曲を聴いた中でも最良の演奏でしょう。指揮をしながらのピアノ演奏は大変でしょうが、見事な演奏でした。
 心にしみる第2楽章に涙し、終盤の煌めくピアノで夢幻の世界から我に返り、怒濤の第3楽章へ。ネットで聴いたショパンコンクールでの演奏そのままに、大きな感動をいただきました。
 この曲の弾き振りといえばツィメルマンのCDが有名ですが、反田さんも負けていませんね。自分の思うがままに音楽世界を創り上げ、一期一会の素晴らしい演奏を聴かせてくれました。

 大きな拍手に応えて反田さんの挨拶があり、アンコールとしてショパンの小品を2曲演奏し、メンバー全員で礼をしてコンサートは終演となりました。

 前半はイマイチに感じましたが、後半は圧倒的演奏であり、感動と興奮で胸が高鳴りました。反田さんの実力を再認識するとともに、指揮者としての魅力も感じました。
 若手の実力者を集めた会社組織のオケは、コロナ禍で運営も大変だと思いますが、今後増員していくとのことであり、これからの発展を見守っていきたいと思います。世界を視野に活動されており、次に新潟に来演されるときにはどのようになっているのか期待が高まります。

 外に出ますと雪雲が去って、青空が出ていて、日差しが温かく感じられました。良い演奏を聴いた後に青空に出会って、心も晴れ晴れです。
 
 
 
(客席:2階C5-4、¥6000)