私は、温泉の楽しみは泉質だけにあらず、まわりの環境、景色、浴槽の構造、設備、雰囲気といろんな要素が関わるんだ、と常々述べていますが、温泉を楽しむ上で、その温泉がどういう泉質か知ることは重要です。その泉質を知る上で、温泉の分析表は欠かせません。別項でも述べたように、分析表の数値は、温泉の湧出口で採取した検体の値であって、浴槽のお湯がどうなのかは知ることはできないのですが、重要な参考資料には違いありませんので、温泉に行ったら必ず確認しましょう。
温泉法第十四条 [温泉の成分等の掲示]
温泉を公共の浴用又は飲用に供する者は、施設内の見易い場所に、総理府令の定めるところにより、温泉の成分、禁忌症及び入浴又は飲用上の注意を掲示しなければならない。
このように、法律で分析表の掲示が規定されており、当然掲示されているかと思いきや、掲示されていない施設もときにあります。温泉法第二十四条には、違反すると五千円以下の罰金に処すると規定されていますので、掲示しないと犯罪になります。また掲示されていると言っても、決して見やすい場所でなかったり、掲示内容も様々です。成分まで細かに記載してもらいたいのですが、単に泉質名、効能しか記載されていないものも多くみられます。
では、分析表の項目で、注目すべき点を述べましょう。
1.基本項目
源泉名、湧出場所、泉質、泉温、湧出量、色・臭い・味、PH、検査日、検査者などがまとめて最初に書かれている場合が多いようです。
源泉名は、温泉名と一緒のこともありますが、違うことも多いです。大きな温泉地では、源泉井戸が何本もあって、施設によって井戸が異なることもあります。同様の泉質ならいいのですが、泉質が異なることだってあります。たとえば、岩室温泉や六日町温泉などがそうです。さらに、湯田上温泉のように、井戸を掘りなおして、別の泉質になったりしたところもあります。
湧出場所は、遠くからパイプで引いてきたか、その場で湧いているのか知る上で参考になります。遠くの泉源から何キロも湯を引いていたり、別の温泉地から引き湯しているところもあります。観音温泉・めぐみの湯のように、遠くからタンク車で運んでいるところもあります。
泉質については別に述べます。食塩泉とか重曹泉とか、旧泉名で記載している場合も多くあります。別項で記したように、温度や浸透圧、皮膚への刺激性、PHによる泉質名を記載している場合もあります。たとえば、弱アルカリ性低張性冷鉱泉とか緊張性高温泉などです。
泉温は、湧かしているかどうかを知る上で重要です。通常、使用位置も合わせて記載されます。たとえば、源泉温度28.℃、使用位置42℃とあれば、42℃まで沸かしているということです。
湧出量は、記載されていないことが多く残念ですが、循環式か掛け流しかで重要になります。自然湧出か動力揚水かも問題です。別にポンプで汲み上げているのが悪いということでもないのですが、私のような素人は自然に湧き出ていた方がありがたいような気になります。また、毎分数L程度の湧出量では掛け流しできません。数百Lあったとしても、多数の温泉旅館で共用していたり、巨大な大浴場を設置していたりすると、水でうめているか、循環式かということになります。
色・臭い・味といった項目は、最も実感できる分かりやすい項目ですが、記載されていないことが多くて残念です。また、PHなどは泉質に関連して重要な項目です。
2.効能・禁忌症
これは、温泉になにがしかの薬効を期待する人には重要な項目ですので、まず確認しましょう。効能はどれも似たようなものであり、注意すべきは禁忌症です。これは健康にも関わるので、病気持ちの人は必ず確認しましょう。入浴の効能だけ記載した所が多いのですが、温泉によっては、飲泉や吸入の効能をうたっているところもありますのでよく見てみましょう。
私の場合は、薬効というより入って気持ちいいかだけにこだわってるので、気にして見ることはありません。泉質が決まれば自ずと効能・禁忌は決定されてしまいますから、いちいち確認するまでもないといったところです。むしろ、飲泉の効能が記載されているかということが気になります。飲泉は源泉でしか許可されませんから、飲泉可能な湯は源泉だということで重要なのです。ただし、浴槽は循環式の場合が多いので、飲泉所あるいは源泉の注ぎ口で飲みましょう。
また、効能書きに記載されない効能というのもあります。美人の湯とか子宝の湯とかいうのがこれにあたります。確かに肌がすべすべになってきれいになったように錯覚することがありますもんね。月岡温泉なんかは美人の湯として盛んに宣伝してますし、栃尾又温泉のように子宝の湯として全国的にも有名な温泉もあります。
3.泉質
ナトリウム-塩化物・硫酸塩泉とか、単純泉とか書いてあります。泉質の基準については雑学コーナーで記載したとおりです。泉質は11種類に分類されますが、温泉法の温泉の基準は満たすものの、泉質の基準に当てはまらないものも出てきます。つまり、温泉であっても泉質名が付かない場合だってあるのです。また、溶存物質が1000mg/kg未満のものは単純泉とくくられますが、特定の成分が基準を満たすとき、たとえば、単純硫黄泉とか単純放射能泉とかいう名前が付けられます。
次に、名前の見方ですが、「−」で区切られた前が陽イオン、後ろが陰イオンを示します。そして、陽イオン・陰イオンのそれぞれで、成分の多い順に、ナトリウム・カルシウム−塩化物・硫酸塩泉とかいうように命名します。この場合は、陽イオンとしては、Naイオン・Caイオンの順に多く、陰イオンは塩素イオン・硫酸イオンの順だという意味です。
4.成分表
通常は、陽イオン、陰イオン、非解離成分、溶存ガス成分の各項目について詳しい数値が記載されています。またこれらの成分総計も記載されています。各イオンの濃度の表示はmg/kgでなされ、これは泉水1kg中に何mgの成分が含まれるかということで、直感的にわかりやすいのですが、それに併記して、mval、mval%という項目があります。これは何でしょうか。
温泉成分の効能は溶け込んでいるイオンの働きによりますので、成分の量を評価するときは、単に質量ではなく、その物質が何個のイオンを放出あるいは獲得するかという点も重要です。そこで、成分の質量を原子量で割り、イオン価をかけて、当量として評価します。重さでなく、どれだけの活力を持っているかということです。人間でも、体重はあっても力のない人もいますし、逆にやせていても力持ちという人もいますからね。温泉の場合単位はmval(ミリバル)として記載されています。成分のmg/kgがわかれば計算ですぐに算出されます。またそのmvalの値を全体の%で表したのがmval%で表した数字です。このうち泉質名に記載するのは、20mval%以上のものです。例えば、ナトリウム・カルシウム-塩化物・炭酸水素塩泉とあれば、陽イオンでは、NaイオンとCaイオンが20mval%以上で、陰イオンは塩素イオンと炭酸水素イオンが20mval%以上ということです。ほかに成分をいろいろ含んでいても、20mval以下なら表記されません。ただし規定の成分が規定量以上含まれている場合は、併記されます。例えば、同じナトリウム-塩化物泉でも、鉄イオンが20mg/kg以上だと、含鉄−ナトリウム-塩化物泉となりますし、総硫黄が2mg/kgだと、含硫黄−ナトリウム-塩化物泉となります。
また、成分総計(溶存物質総計)のうち、ガス性除く成分総計が1000mg/kgを越えるかどうかで単純泉か他の泉質名が付くかどうかの基準になるのでここもチェックしましょう。蒸発残留物合計というものもありますが、これは文字通り加熱して水分をとばして残った成分の重さで、これらは当然若干異なります。
さあ、これで成分表の見方が分かりましたね。成分表を見ただけで、味・臭い・肌触りが想像できることでしょう。あれ? 成分表から予想される湯の性状と実際の感じが随分違うなあ・・。そういうことって多いんですよ。こういうことはガイドブックには書かれてませんから、自分で確かめるしかないんです。
実際は、詳しい成分表を掲示してないところも多く困りものです。自信があったらちゃんと掲示しますよね。また、何十年も前の分析表を有り難げに掲げているところもありますが、現在どうなのかという点も気になりますね。