今日は高崎まで遠征し、群馬交響楽団の定期演奏会を聴くことにしました。当初は行く予定はなく、りゅーとぴあで開催された「濱野芳純オルガン・リサイタル」に行く予定にして、チケットを買っていたのですが、最近になってこの演奏会があることを知り、急遽高崎遠征を実行しました。
私が一番好きな作曲家はだれかと問われれば、マーラーと答え、マーラーの交響曲の中で一番好きな曲は何かと問われれば、躊躇なく第9番と答えます。
毎晩のようにCDを聴きながら眠っていますので、数ある交響曲の中で、一番聴いている曲であることは間違いありません。手元にあるCDも多種多彩です。
しかし、新潟で生演奏を聴く機会はほとんどなく、2005年7月の東京交響楽団第32回新潟定期演奏会と2013年11月の新潟交響楽団第93回定期演奏会の2回だけです。
従いまして、この曲の生演奏を聴くには県外遠征することになりますが、コロナ禍以降県外に出ることがなくなり、最近は聴きに行く機会もありませんでした。
こんなおり、何気なく音楽関係のサイトを覗いていましたら、高崎での群馬交響楽団の定期演奏会でこの曲を演奏することを知り、無性に行きたくなりました。
とはいうものの、チケット代は手ごろですが、高崎まで遠征するのは、時間的にも経済的にも負担になりますので、やめておこうと思いました。
しかし、3月15日が近付くにつれて、聴きたいという思いが強くなり、群響のチケット販売サイトを何度も眺め、残席が減っていくのを見ていました。
私の残された人生を考えたときに、私が一番好きなこの曲を、生で聴く機会は何度もあるはずはなく、もしかしたらこれが最後かも知れず、聴けるチャンスを逃すと後悔するぞという思いが大きく沸き上がりました。14日の昼になって残席を見ますと、残り数席かしかなく、エイ!とばかりにチケットを買ってしまいました。
さて、私が大好きなマーラーの交響曲第9番ではありますが、この曲を生演奏で初めて聴いたのは、2005年7月の東京交響楽団第32回新潟定期演奏会でした。そのときの指揮者がなんと今日指揮する飯森範親さんでした。これも因縁というものでしょうか。
その後ラトル/ベルリンフィルを始め、連続して何度も生演奏通いした時期もありましたが、最後に生演奏を聴いたのは、2014年4月の東京交響楽団川崎定期演奏会第45回(指揮:ノット)でしたので、今回は11年ぶりになります。残り少ない人生に悔いを残さないためにも、思い切って楽しませていただこうと思います。
ということで、昨日になってチケットを買ったのですが、その後いろいろと無理難題が降りかかり、遠征できるかどうか難しくなりました。何とか問題を処理、といいますか、先送りして今日の朝を迎えました。
しかし、今朝になって我が家の大切な家族の体調が思わしくなく、動物病院に連れて行ったりと、世の中うまく行きません。入院して経過観察することになり、行こうか行くまいか思案しましたが、高崎遠征を実行することで最終決断しました。
急いで車で新潟駅へと向かい、駅南のコインパーキングに車をとめて、チケットを買って新幹線で高崎に無事到着しました。
曇り空の新潟と違って、関東は晴れて青空が広がっているものとばかり思っていましたが、新潟同様の曇り空で、気温も大差ありませんでした。
高崎駅東口から伸びるベデストリアンデッキを通って、5分ほどで高崎芸術劇場に到着しました。ガラス張りの大きな建物で、真新しくてたいそう立派です。
2階から館内に入りますと、玄関先から何人ものレセさんたちが迎えてくれました。過剰にも思いましたが、ここのやり方なんでしょう。
程なくして開場となり、ガラス張りで明るく広々としたロビーでひと休みしました。ビュッフェでは、りゅーとぴあでは紙コップですが、ちゃんとしたコーヒーカップやグラスで飲料が提供されていました。
ロビーには、ガラス壁にテーブルと背の高い椅子が並んでいます。外の景色がよく見えるのですが、道路や雑然とした市街が見えるだけなのが残念です。
15時20分から飯森さんによるプレトークがあり、ホールに入って拝聴しました。「トリスタンとイゾルデ」の物語の解説や、マーラーの9番についての解説が長々と20分に渡ってありました。プレトークというより音楽講座というべき内容の濃さでした。さすが飯森さんですね。新潟での長い付き合いがありますので、親近感が沸いてしまいます。
さて、群馬交響楽団は、これまで何度か聴かせていただいていますが、2014年4月のLFJ新潟での演奏(指揮:大友直人)以来ですので、11年ぶりです。
また、今日の指揮者の飯森さんは、長らく東京交響楽団の正指揮者をされていて、新潟には何度も来演されていますので、お馴染みなのですが、東響を離れられてからは聴く機会がなく、コロナ渦中の2020年11月の東京交響楽団新潟特別演奏会以来、4年半ぶりです。
さて、ホールは真新しい劇場仕様の大きなホールです。音響反射板も含めて、全体が赤茶色の色調で統一され、高級感と落ち着きを感じさせます。私の席は1階後方右端のA席ですが、1階席でも傾斜が付けられていて、予想外に眺めは良く、視覚的には不満はありません。満席のホールは、開演を待つ期待と熱気に満ちていました。
ステージいっぱいにオケは配置され、後方にティンパニが2組、左端にパープが2台あります。弦は通常の配置で14型でしょうか。私の目視では、14-12-10-8-8
かなと思いました。
今日は配信用の収録を行うとのことで、吊りマイクの他に、ステージ上に何本かのマイクが設置され、無人のカメラもありました。私の前の席にはカメラマンがいて、時々ハンディカメラで客席を撮影していましたので、配信では私も写っているかもしれません。
開演時間となり、教会の鐘のようなチャイムが鳴り響き、拍手の中に団員が入場。全員揃うまで起立して待ち、最後にコンミスの伊藤文乃さんが登場し、大きな拍手が贈られてチューニングとなりました。
飯森さんが登場して「トリスタンとイゾルデ」の前奏曲が始まりました。美しいチェロの合奏に管楽器が加わり、ふくよかで、柔らか、香りたつような重厚なアンサンブルがホールを満たし、濃厚なワーグナーの世界が眼前に広がりました。弦も管も美しく、うっとりと聴き入るのみでした。
「前奏曲」部分の終わりに、静かに小林さんが登場し、そのまま「愛の死」へと移行しました。ドラマチックなソプラノが、朗々と響き渡りました。
オケが盛り上がり音量を増すに連れ、ソプラノがオケに埋もれてしまいましたが、大きなホールでのフル編成のオケの強奏にかなうはずはありません。
この曲は、通常はソプラノなしでの演奏がほとんどだと思いますが、本来の楽劇上演のようにソプラノが入りますと、より劇的に盛り上がりますね。
美しい小林さんの歌声と、濃厚なオケとが絡み合い、大きな感動をもたらしました。客席からはブラボーが沸き起こり、小林さんとオケの好演を讃えました。
休憩時間となり、ホールを一回りしましたが、開館して何年も経たないピカピカのホールは気持ちいいですね。大きなホールで、2階席からはステージがはるか下に見えました。
休憩時間が終わり、いよいよマーラーです。拍手の中に団員が登場してチューニングとなりました。飯森さんが登場し、静寂の時間の後に演奏が始まりました。
ハープにミュートしたホルンが鳴って、感動の時間の始まりです。うねるように歌う弦楽に、管が泣き叫びました。緩急のアクセントを大きくとって、とらえどころのない混沌とした音楽をまとめあげる飯森さんとオケのパフォーマンスに感嘆し、群響の素晴らしさを実感しました。
鐘が鳴ったり、管がベルアッブして演奏したりなど、生のコンサートならではの味わいを感じました。フルートとホルンの掛け合いも美しく、最後のコンミスのソロと管・ハープとの掛け合いの美しさにもうっとりし、静かに長大な第1楽章を閉じました。
ファゴットとクラリネットの掛け合いで第2楽章が始まりました。第2ヴァイオリンが力強くメロディーを奏で、低弦が加わってさらに力強く歌いました。この弦楽アンサンブルの見事さに感嘆しました。
少し速めに突き進み、緩急のアクセントを付けて、緩徐部ではゆったりと歌わせました。狂気のようなワルツを踊り、ゆったりと休んで、再び忙しなく踊り、激しさを増しました。そして、ゆったりとリズムを刻み、穏やかさの中に終わりました。
第3楽章は、切れの良い金管と弦楽で始まり、速めに進みました。力強い金管と乱れのない弦楽。どのパートも素晴らしいパフォーマンスでした。テューバの上行音が私の好きな箇所ですが、力強く響き、これも生ならではの味わいです。
スピード感溢れる狂気の音楽に、大きくゆったりと歌わせる束の間の安らぎの音楽。聴かせか所のトランペットが切なげだったりはありましたが、些細なこと。再び狂気の音楽が鳴り響き、激しく感情を高ぶらせ、鼓動は激しくなりました。スピードアップ、ヒートアッブして、猛スピードで突進し、楽章を終えました。
アタッカで行って欲しかったですが、休憩を置いて第4楽章へ。第1・第2ヴァイオリンの合奏に始まり、低弦が加わり、ゆったりとした弦楽合奏のうねりに身をまかせ、癒しの世界へと誘われました。
うねる弦の素晴らしさに涙し、バスクラリネットが地を這うように鳴り、弦が呼応して泣き叫び、心は天上の世界へと旅立ちました。
コンミスのソロが胸に切なく響き、心にしみました。ホルンが歌い、人生の良き時代振り返り、そんな時代もあったよな、と涙しました。人生の終盤の最後の輝きも光を失い、正に現在の私の心境です。
束の間の休息の木管のアンサンブルが、この上なく美しく響きました。悶え、泣き叫ぶも、時の流れには抗することはできず、人生のクライマックスを迎えて、感情を爆発させ、力の限り、最後の山を登りました。
この山の上から見る景色は何でしょう。これまでの人生でしょうか。もう苦しむ必要はなく、流れに身をまかせましょう。振り返る必要はなく、頑張ることも不要です。過去は消え行き、そして意識は遠のき、消えて行き、静寂の中へと昇華しました。
音が消えてからの40秒間、客席は無音の静寂に包まれました。咳をする人もなく、ホールで時間を共にした2千人の観客の心がひとつとなり、無音の時間を共有しました。この無音の静寂を味わわせてくれた今日の観客に感謝したいと思います。
飯森さんが手を降ろすとともに、盛大な拍手が沸き起こり、ブラボーの声がこだましました。飯森さんと群響の素晴らしさに感嘆し、力の限りに拍手しました。こんな音楽にはめったに出会うことはできず、無理をして高崎に遠征した甲斐がありました。
それにしましても、群響の素晴らしさには息を呑みました。東京公演を行った後でしたので、ブラッシュアップされた演奏だったものと思います。これからも機会があれば、高崎遠征を考えたいと思います。
と、この原稿を書いているうちに、あっという間に新幹線は新潟に到着しました。今晩は、いいビールを飲めそうです。
(客席:1階27-52、¥5000) |