ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 来日公演
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2011年11月22日(火) 19:00  サントリーホール
 
指揮: サイモン・ラトル
 



マーラー:交響曲第9番
 
 

 ウィーン・フィルは新潟で2度聴いていますが、ベルリン・フィルは聴いたことがありません。新潟に来ないのは仕方ないにしても、東京のチケットも即完売となり、聴こうと思っても聴けなかったのが実情です。

 今年は私の大好きなマーラーの9番をやるので、今年こそ是非とも聴きたいと思いました。しかし、どうせチケットを買うのは無理だろうとあきらめていました。
 でも、だめもとでピアの先行抽選販売に申込みだけはしておこうと思いました。抽選に外れれば諦めがつくと思ってのことでしたが、予想に反して、見事に当選してしまいました。
 今年の来日公演は東京での3公演のみです。4万円は懐に堪えましたが、チケットをゲットできた幸運に感謝しました。
 残すはスケジュール調整。たまたま出張の日でしたので、午後の予定を入れないようにしておき、開演に間に合うべく上京することができました。

 さて、今夜の演目のマーラーの9番。私にとってマーラーの交響曲の中で一番好きな曲です。とは言っても、最初から好きだたわけではなく、マーラーを聴き始めてから9番が好きになるまで30年かかりました。年を取って初めてその素晴らしさに気付いた次第です。人生も後半となり、終焉への道が近付いてきたためでしょうか。

 こんな好きな曲でありながら、生演奏を聴いたのは、2005年7月の東響新潟定期で飯森さんの指揮で聴いた1回きりです。この演奏を聴いてさらにこの曲が好きになり、以来、生演奏を聴きたいと思い続けましたが、世間一般ではポピュラーな曲とは言い難いためか、新潟で演奏されることはありませんでした。
 その代りCDをたくさん買い込みました。20種くらい取り揃えて何度も聴き込み、聴くたびに曲の良さを再認識しました。第4楽章を聴きながら眠りにつくことがしばしばです。
 今回念願かなって、6年ぶりに生演奏を聴く機会を得ました。それもベルリン・フィルで聴けるということはこの上ない幸せです。

 新橋から銀座線で溜池山王へ。某所で夕食を急いで食べ、開場を待ちました。カラヤン広場には既にたくさんの人が集まっていましたが、チケット求むというプラカードを持った人がたくさんおられ、チケットを買えた幸運を実感しました。

 開場時間となり、カラヤン広場に響き渡るパイプオルゴールの音を聴きながら入場しました。抽選で与えられた席は2階席の後方です。もう少し前が良かったですが、ぜいたくは言えません。
 ステージには、高いひな壇が作られており、後方は1mくらいまで上げられ、すり鉢状となっていました。ここまで高くせり上げたステージをみるのは初めてです。
 ステージを眺めていたら、私の前を井上道義さんが通り過ぎました。さすがに東京は違うなあと田舎者は感激するのでした。

 ステージにはコントラバスの皆さんが先に音出ししていましたが、その後拍手の中に他の団員が入場しました。最後に樫本さんが入場して、チューニング。ラトルが登場していよいよ開演です。

 ラトルが手を上げて音が出るまでの無音の数秒間。これほどの無音と緊張感はこれまでに経験がないほどに思います。客席はみな息をのんでいるのがわかりました。

 出だしから、ベルリン・フィルの実力を実感しました。音の厚みと言いますか、密度が違います。ウィーン・フィルを初めて聴いた時も音に感激しましたが、やはり、世界の一流と言われるオケの音は違います。分厚い音がマスとなって客席に押し寄せてきます。
 弦の各パートの音の濃密さに驚き、管楽器の狂いのない音に感激しました。さすがに各楽器とも名手ぞろいのスーパーオーケストラと驚嘆しました。長い第1楽章も、音の洪水のうねりに浸るうちに、あっという間に終わりました。
 コンマスの樫本さんは、体を大きく揺らしながらの熱演で、オケをリードしていました。熱演のあまり弦が切れるというハプニングもありましたが。

 第1楽章後に入念なチューニングがされ、第2楽章へ。最初のちょっと滑稽な管のアンサンブルから、管の見事さに感激しましたが、分厚い弦のパワーも負けていません。
 第3楽章は各パートのきらびやかな音が満ち溢れ、絢爛豪華な圧倒的音量でホールを満たしました。荒れ狂うような音の爆発にもアンサンブルが崩れることなく、音が濁ることもありません。

 休みを置かずに第4楽章へ。弦の分厚い音の流れに身を任せ、至福の時を過ごしました。弱音での美しさも格別です。緊張感保ちながらの演奏でしたが、咳き込むオバサンがいたのはちょっと残念。
 最後の生命の光が消えていくような最弱奏の美しさは格別であり、言葉では言い表せません。こんなきれいな弱音を聴いたのは初めてです。

 音が消え、ラトルが手を下ろすまでの数十秒間の沈黙。この無音の時間をステージと客席とで共有できたことは幸せでした。緊張感の限界で咳をしだす人が出始め、ようやくラトルが手を下ろし、万雷の拍手が湧き上がりました。
 9番なので当然アンコールはなし。不要でもあり、むしろアンコールしたらひんしゅくものでもあります。

 団員が退席した後、ラトルが呼び出され、スタンディングオベーション。ラトルが樫本さんを呼び出して抱き合い、お開きとなりました。

 すばらしい演奏体験でしたが、冷静に考えて、9番1曲だけで4万円は?ともいえます。こんなに感動しておきながら文句を言うのもなんなのですが、チケット4万円、交通費2万円、合計6万円分かといえば?でもあります。すぐに金の話になるのは貧乏人の証拠ですね。
 でも、新潟から上京した甲斐はありました。初めてのベルリン・フィル・デビューができて良かったです。聴いたからこそこんな話ができるわけですから。
  

(客席:2階C8-37、S席40000円)