中丸三千繪と朝岡聡の気軽にクラシック 〜中丸三千繪ソプラノ・リサイタル〜
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2023年11月25日(土) 13:00 新潟市秋葉区文化会館
ソプラノ:中丸三千繪
ピアノ:安達朋彦
ナビゲーター:朝岡 聡
 
シューベルト:アヴェ・マリア
ヘンデル:歌劇「リナルド」より 私を泣かせて下さい
ヘンデル:歌劇「セルセ」より オンブラ・マイフ
ドヴォルザーク:わが母の教え給えし歌
ドヴォルザーク:歌劇「ルサルカ」より 月に寄せる歌
ヴェルディ:歌劇「シチリア島の夕べの祈り」より ありがとう愛する友よ
プッチーニ:歌劇「ジャンニ・スキッキ」より 私のお父さん

(休憩15分)

越谷達之助:初恋
窪田聡:かあさんの歌
モリコーネ:ニュー・シネマ・パラダイス
ヴェルディ:歌劇「椿姫」より 去らばぎ去りし日よ
チレア:歌劇「アドリアーナクルヴルール」より 私は芸術家の下僕です
プッチーニ:歌劇「トスカ」より 歌に生き、恋に生き

(アンコール)
ラフマニノフ:12の歌 Op.14 第11曲 春の洪水

 

 今日のコンサートは、正式には「中丸三千繪ソプラノ・リサイタル」なのですが、TVでお馴染みの朝岡聡さんの楽しいトークとともに、オペラの名曲を気軽に楽しもうという趣旨で、「中丸三千繪と朝岡聡の気軽にクラシック」と題されました。
 たまには気兼ねなく、かしこまらないで、気軽に音楽を楽しむのも良いと思い立ち、このコンサートに参加させていただくことにして、チケットをネット購入して楽しみに待ちました。

 中丸さんは、もう25年も前になりますが、1998年12月の東京でのコンサートで、その美しい容姿と見事な歌声で魅了されたことを覚えています。
 中丸さんは、ミラノ・スカラ座などイタリアを中心に活躍され、1990年にはマリア・カラス国際声楽コンクールでイタリア人以外で始めて優勝し、以後オペラ歌手として不動の地位を築かれて、日本を代表するソプラノとして活躍を続けておられます。そんな中丸さんのリサイタルを、秋葉区で聴けるというのは貴重な機会です。
 
 一方ナビゲーターを務める朝岡さんは、かつてはTV朝日のアナウンサーとして活躍されていましたので、お茶の間でお馴染みですが、クラシック音楽への造詣が深く、コンサートの企画・構成、司会など、クラシック・ソムリエとしての活躍もされています。新潟では、2007年3月の「新潟祝祭コンサート」の司会をされていました。

 また、ピアノで共演する安達朋彦さんは、クロアチアでピアノを学ばれて、国際的に活躍され、クロアチア人作曲家の作品の紹介・普及活動もされておられるとのことですが、私は今回が初めてです。

 今週末は今シーズン最強の寒波が襲来中で、強風が吹き、山間部は積雪になりましたが、海岸・平野部は大した降雪もなくて助かりました。
 今日は強風は収まって、曇り空ながらも比較的穏やかな天候に落ち着きました。与えられたルーチンワークをこなし、ゆっくりと昼食をとり、秋葉区文化会館へと車を進めました。
 となるはずでしたが、なぜか開演時間が13時と早いですので、大急ぎで昼食をとり、早めに家を出ました。バイパスは使わずに、ショートカットの近道で順調に秋葉区文化会館に到着。家から21km、車で行くには便利なホールです。
 開場時間は12時半でしたので、12時過ぎに行ったのですが、駐車場はがらがらでした。毎度のことながら、ここの駐車場はとめにくいですね。駐車場は円弧状になっているので、駐車するときの方向感覚が乱れてしまいます。

 しばし車の中で待ち、開場5分前に館内に入りました。開場待ちの列ができているものと思ったのですが、館内は静かな空気が漂い、ロビーのテーブル・椅子では、学生さん方が静かに勉強に励んでおられました。

 開場を告げる係員の声が狭いロビーに響き渡り、それほどの混雑もなく入場し、席に座ってこの原稿を書きながら開演を待ちました。今回はビジュアル重視で前方の席を選びました。ステージにはスタインウェイがスタンバイしていました。

 このホールでのコンサートを聴くのは昨年5月以来ですので、随分と久しぶりです。このホールは江南区文化会館と並んで斬新なデザインのホールで、コンパクトで使い勝手よりデザイン重視という印象は否めませんが、洞窟の中にいるかのようで、なかなか雰囲気が良いホールです。
 開演時間が近付きましても空席が目立ち、せいぜい4割程度の入りでしょうか。中丸さんを迎えてのせっかくのコンサートなのに、ちょっともったいなく感じ、出演者にも申し訳なく思えてしまいました。

 開演時間となり、水色のドレスが麗しい中丸さんと、黒服に赤シャツ・キラキラ入りの黒ネクタイで、ホスト風の安達さんが登場しました。
 挨拶代わりに「アヴェ・マリア」を、切々と、しっとりと歌って開演しました。中丸さんは前回聴いてから25年も経ちましたので、私と同様に年を積み重ねた訳ですが、還暦を過ぎてもその美貌は失われず、歌声は円熟味を増し、教会で祈りを捧げるような清廉な歌声がホールいっぱいに美しく響き渡り、汚れきった私の心を浄化させてくれました。

 二人がステージから降りて、朝岡さんが登場して、軽妙な語り口で、ヘンデルのオペラ「リナルド」と「セルセ」の紹介と曲目解説がありました。さすがに話のプロのお話は分かりやすいですね。
 中丸さんと安達さんが登場して、「私を泣かせてください」と「オンブラ・マイ・フ」の2曲が続けて歌われて、朗々と響き渡る中丸さんの歌声にうっとりと聴き入りました。

 続いて、朝岡さんによるドヴォルザークの「わが母の教え給えし歌」の解説とオペラ「ルサルカ」の物語の解説と「月に寄せる歌」の歌詞の説明があり、2曲が続けて歌われました。
 情感を込めた歌声に心奪われましたが、最初は若干硬さも感じた声も次第にこなれてきて、歌ごとに柔らかさ、美しさが増していきました。

 次に、朝岡さんによりヴェルディのオペラ「シチリア島の夕べの祈り」の解説と歌詞の説明があり、「ありがとう愛する友よ」を、ステージ上を左右に移動して、演技しながらドラマチックに歌い上げ、オペラの世界が眼前に広がりました。

 そして、前半最後は、プッチーニのオペラ「ジャンニ・スキッキ」の解説と歌詞の説明があり、「私のお父さん」をしっとりと、情感豊かに歌い、静かに心に染み入るような感動をいただきました。

 朝岡さんの話があって休憩に入りましたが、休憩時間中に、ステージには譜面台が設置されました。ロビーでは中丸さんのCD販売も行われていて賑わっていました。

 休憩後の後半は、中丸さんはクリーム色(朱鷺色)の落ち着きの中にも豪華さを感じさせるドレスに衣裳換えして登場し、日本の歌曲が2曲続けて歌われました。
 「初恋」を、オペラのアリアの如く情感豊かに、ドラマチックに歌い上げ、「かあさんの歌」をしっとりと、感情を込めて歌い、誰もが知る童謡が、切々と胸に染み渡り、感動の涙を誘いました。

 ここで朝岡さんと中丸さんによるトークがあり、コロナ禍でなかなか帰れなかったものの、中丸さんはイタリアに家があり、毎年5ヶ月過ごしていること、アメリカでも暮らしていることなどを話してくれて、さすが世界の中丸さんだなあと興味深く拝聴しました。

 そして、朝岡さんの解説の後に、モリコーネの名曲「ニュー・シネマ・パラダイス」を情感豊かに歌い、映画の世界を思い起こさせてくれました。

 そして朝岡さんによりヴェルディの名作「椿姫」の解説があり、最後の悲しい場面で歌われる「さらば過ぎ去りし日よ」を、台詞から始めて、オペラの絶望の場面を劇的に歌い上げて再現し、ホールを感動で満たしました。

 続いて、朝岡さんのチレアのオペラ「アドリアーナクヴルール」の解説があり、「私は芸術家の下僕です」を朗々と歌い、その美しい歌声に酔いしれました。

 プログラム最後は、ソプラノ歌手の定番である、プッチーニの「歌に生き、愛に生き」で、朝岡さんによる「トスカ」の解説の後に、劇的に歌い、その切々とした鬼気迫る歌の迫力に、ただただ圧倒されました。中丸さんの歌唱力の凄さをまざまざと見せ付けられ、感動で胸が満たされました。

 数回のカーテンコールの後、大きな拍手に応えて、2019年のG20大阪サミットで、各国の首脳たちの前で歌ったというラフマニノフの「春の洪水」が歌われました。この曲は、サミットに参加していたプーチンさんに配慮して選曲したんだそうです。
 今回アンコールにこの曲を選んだのは、ウクライナ問題で世界を震撼させているプーチンさんに、せめてG20の頃に戻ってほしいという願いが込められているものと勝手に思いながら聴きましたが、最後を飾るに相応しい歌声に、大きな満足感をいただきました。

 最後に朝岡さんの挨拶があって、感動のリサイタルは終演となりました。中丸さんのドラマチックなソプラノに圧倒されて、世界を舞台にして活躍する中丸さんの実力と素晴らしさを実感しました。
 こんな中丸さんの歌声を、眼前数メートルの距離で聴くことができて、至福の時間を過ごすことができました。朝岡さんの楽しくも分かりやすい解説があり、各オペラの世界を知り、歌詞を知ることができて、曲への感情移入もしやすく、楽しめたコンサートでした。

 たまにはこういう肩の凝らない企画も良いですね。大きな感動を胸にホールを後にして、所用で次に行く目的地へと車を進めました。
 

(客席:4-11、¥4000)