東京バレエ団が創立60周年記念シリーズとして金森穣さんに委嘱して制作されたオリジナルの新作バレエが「かぐや姫」全3幕です。
2021年春から制作が開始され、同年11月に東京文化会館で第1幕が初演されました。東京に引き続いて11月20日(土)に新潟でも上演され、私も観させていただきました。
その後、2023年4月に第2幕が東京で初演され、そして10月に第3幕を加えて全3幕が完成し、10月20日(金)、21日(土)、22日(日)と東京文化会館大ホールで上演(世界初演)されました。
そして、12月2日(土)、3日(日)と新潟でも上演されることになりました。東京公演に引き続いての新潟公演という位置付けで、新潟公演も世界初演と謳っています。東京公演が既に終わっていますので、厳密には新潟が世界初演というわけではありませんが、そんなことはどうでもいいですね。
東京公演から約1ヵ月半と少し時間が経っていますが、この間東京バレエ団の皆さんは、11月28日まで、「眠れる森の美女」の全国ツアーをやっての新潟入りですので、大変お疲れのことと思います。
休む間もなく、早めに新潟入りして、金森さん、井関さんの指導により、入念なリハーサルが積まれていますので、東京公演時より洗練された上演が期待できるものと思います。
2021年に第1幕を観ましたが、そのときは民話的世界観でしたが、具象的な要素が取り払われて、近未来的な仕上がりになったとのことであり、どんな演出がなされているのか楽しみです。休憩を2回を入れて、2時間40分の大作です。大いに楽しませていただきたいと思います。
チケット発売早々に、土曜・日曜の2公演のうち、土曜日の公演のチケットを買ったのですが、後になって14時から「新潟シンフォニエッタTOKI」の第2回公演が開催されることが発表され、日曜日の公演にすれば良かったと悔やみましたが、後の祭りです。
「新潟シンフォニエッタTOKI」の終演予定時間が16時、「かぐや姫」の開演も16時。微妙な時間関係ではしごも可能に思えましたが、時間的余裕は全くなく、リスクもありますので、無理することなく「かぐや姫」1本に絞ることにしました。
今週の新潟は冬型の天候が続き、昨日は新潟市中央区でも初雪を観測しました。積雪にはなりませんでしたが、肌寒い日が続いています。
今日も天候が優れず、気分も曇ってしまいますが、芸術を楽しみ、世間のしがらみや降りかかるストレスを忘れ、束の間の夢の世界を楽しむことにしましょう。
雑務を済ませ、雨が降り出しそうな曇り空の中に、白山公園駐車場に車をとめて、りゅーとぴあ入りしました。ロビーでは、コンサートホールから弦楽合奏の美しい音が漏れ聴こえていました。東ロビーの椅子に座って聴き入っているうちに開場時間が過ぎていて、あわてて劇場に移動して入場しました。
席について開演を待ちましたが、受付で渡されたのは、チラシの他は、出演者一覧の簡素なA4の紙が1枚のみ。公演のプログラムは1800円で売られていました。もちろん買いませんでしたが、簡単なストーリー紹介のプログラム位は配布してほしかったですね。
ステージは前方に拡張されており、最前列は6列目になっていました。私の席は17列目ですが、ステージ全体が俯瞰できますので、このホールでは好きな場所です。
席はどんどんと埋まって、ほぼ満席の賑わいで、日本初演(新潟初演)への期待と熱気を感じました。県外からの客も多いようで、私の周辺には関西弁のグループがおられました。
時間となり、場内が暗転して開演です。ステージ左前にスポットライトが当てられ、翁が座っていました。前回は古民家風のセットだったように記憶していますが、今回は白い壁のみで、後は照明で情景を演出していました。以後ドビュッシーの曲にのせて物語が進みました。
緞帳が上り、鮮やかな青い照明の中で、「海」にのせて、場面は海から月明かりの竹林へと転換していきました。緑の精たちの群舞は圧倒的であり、ダンサーたちの鍛え上げられた身体の美しさに目を奪われ、日本を代表する一流バレエ団の実力と素晴らしさを実感しました。
かぐや姫が村里で美しく育ち、「月の光」にのせて、かぐや姫と道児が愛を交わす場面はやはり美しく、うっとりと2人の演技に見入りました。道児との別れが訪れ、かぐや姫が都へと旅立って第1幕は終わりました。
20分間の休憩があり、第2幕は宮廷の場面です。はっとするような鮮やかな赤い照明の中に、帝の正室の影姫の姿がありました。かぐや姫と影姫との絡み合いのほか、ここでもドビュッシーの曲と見事に同調する侍従たち、侍女たちの群舞の素晴らしさには息を呑みました。宮廷にかぐや姫を取り戻しに来た道児との再開と別れの場面も感動的でした。
15分間の休憩の後、第3幕は、白と光輝く銀色が基調です。宮廷から村へと場面は変わります。宮廷からかぐや姫が逃げ帰り、追いかけてきた男たちと村人が戦い、竹林は破壊されてしまう。時の流れは残酷であり、愛を交わしたはずの道児には妻と子が・・・。
緑の精が舞い踊る竹林から月へと帰るかぐや姫。光の精たちの群舞の美しさにうっとりと見入りました。霞の中の階段を上って、かぐや姫は月へと消えていき、緞帳が降りて終演となりました。
エンディングの神々しいまでの美しさに、感動で胸が高鳴りました。金森さんの振り付け・演出によって、ドビュッシーの音楽が竹取物語と見事に融合し、東京バレエ団の手によって、芸術作品として具現化されました。
こんなにも素晴らしい舞台を作り上げた金森さん。改めてその素晴らしさに感銘を受けました。こんな芸術家が新潟にいるなんて、最高であり、誇るべきことだと思います。
舞台装置は簡素であり、金森さんお得意の壁が駆使され、後は階段とその上の左右に延びる通路、その上に投影される月、あとは宮廷の場面で天井から下がる楕円形の照明くらいですが、照明効果の鮮烈さもあって、これがベストに思えました。
繰り返されるカーテンコールでは、金森さんと演出助手を務めた井関さんが登場して、一段と大きな拍手とブラボーが贈られました。最後は客席は総立ちとなり、その圧巻のパフォーマンスを讃えました。
金森芸術の素晴らしさは言うまでもありませんが、東京バレエ団の素晴らしさは圧巻でした。タイトな衣裳に包まれた女性ダンサーたちの絞り込まれた肉体美は、それだけでも垂涎ものですが、その美しい身体から繰り出される息もつかせぬパフォーマンス。まさに舞台芸術の華ですね。
もちろん男性陣も素晴らしく、素人の表現で申しわけありませんが、目を見張るようなジャンプや回転技に驚嘆し、男性による力強い群舞に圧倒され、女性にない魅力も感じました。
10月の初演の後は、全く別の演目を上演しており、11月28日の大阪の堺市での公演から休むことなく、新潟に駆けつけてくれました。
「眠れる森の美女」モードから「かぐや姫」モードに切り替えるのも大変だったことと思いますが、わずか数日で、何事もなかったかのように圧巻のパフォーマンスを見せてくれる東京バレエ団の皆さんには驚きであり、これがプロなんだなあと感嘆しました。
また、10月の東京公演は大きな東京文化会館大ホールが会場でしたが、新潟はコンパクトなりゅーとぴあ・劇場が会場であり、ステージが狭くなって、調整が大変だったらしいですが、見る方としましては、密接で濃密な空間で感動を手にすることができて、贅沢であり、ありがたかったです。
期待のはるか上を行く公演内容に、驚きと感謝の念で胸はいっぱいになりました。バレエの奥深さと芸術性の高さが否応なく感じ取られ、言い尽くせない感動とともに、家路に着きました。
明日(3日)の公演でも、観客に大きな感動を与えてくれるものと思います。なお、10月20日の東京公演初日の模様がNHKによって収録され、来年1月28日(日)23時20分からNHK
BSプレミアム4Kで、29(月)午前0時10分からNHK BSで放送されるそうです。これは絶対に見逃せません。
新潟公演の後、東京バレエ団は12月21日より、「くるみ割り人形」の公演が始まります。休む間もなく、全く別の演目を上演し続ける皆さんは、プロとはいえ凄いですね。
(客席:2階17-24、S席:¥8500) |