今日は、石丸由佳さんがりゅーとぴあで録音した最新CDの発売を記念してのリサイタルです。「死の舞踏〜悪魔のパイプオルガン〜」と題され、これまでの石丸さんのイメージとは対極的な暗い色調のチラシが存在感たっぷりで魅力的です。
教会や大聖堂で聴く神聖・荘厳な音楽をイメージするパイプオルガンですが、その歴史は古く、古代から人の心を揺り動かし、鼓舞してきました。ローマ帝国の円形闘技場(コロッセオ)では、けたたましい音で剣闘士たちの戦いを盛り上げたり、ダンスの伴奏をしたりなど、オルガンの原点には、活き活きとして、人の心を踊らせる魔性的な姿があります。
今回のリサイタルは、「魔性のオルガン」をテーマとして、教会で演奏されるパイプオルガンのイメージを覆す音色や奏法を駆使して、魔力に満ちたオルガンの新たな魅力を知らしめるというものです。
昨年のリサイタルは「夢見る宇宙とオルガンと」というテーマで、プラネタリウムの投影と物理学者の佐治晴夫先生のお話を交えての演奏でした。毎回大きなテーマを掲げてのプログラムであり、石丸さんの凄さが垣間見えます。
ということで、今年7月の「たいようオルガン」以来、3ヶ月ぶりの石丸さんのコンサートです。りゅーとぴあ専属オルガニストという枠を外れて、今や日本で最も活躍しているオルガニストといえる石丸さんのリサイタルですので、楽しみにしていました。
小雨がぱらつく中に、りゅーとぴあ入りしました。すでに開場されていましたので、私もすぐに入場しました。私はCD付きチケットを買っていましたので、CDを受け取りましたが、石丸さんのサイン色紙付きでした。
ホールに入場しますと、ちょうどプレトークが始まるところでした。ステージにはスクリーンが設置されており、新CDの発売記念ということで、キングレコードのプロデューサーと榎本さんとの対談が行われました。りゅーとぴあでのレコーディングのことやCDジャケットのことなど、榎本さんの話術も快調で、映像を交えながら楽しく聞かせていただきました。
開演時間となり、場内が真っ暗になり、暗黒の中に石丸さんがオルガン席に着き、グノーの「操り人形の葬送行進曲」で開演しました。
ヒッチコック劇場のオープニング・テーマ音楽として使われたそうですが、葬送行進曲というにしては、ちょっとコミカルな音楽で、楽しく聴かせていただきました。
ここで石丸さんの挨拶あり、映像を投影しながらオルガンの歴史や、魔性的な魅力についてわかりやすく解説してくれました。
曲目紹介の後、2曲目は「トルコの軍楽隊”メフテル"による「祖先も祖父も」」です。お馴染みのトルコ軍楽隊のメロディを元にした曲で、オルガン奏者でもある坂本日菜さんの作曲です。オルガンを知り尽くした坂本さんならではの作品であり、多彩な音色で賑やかにホールを満たす音の洪水に圧倒されましたが、これは本日のリサイタルの序奏に過ぎませんでした。
続いては、グレゴリオ聖歌の「怒りの日」をモチーフに、坂本日菜さんが作曲した曲です。演奏に先立っての「怒りの日」に関連した解説も興味深く、この曲に用いる特殊奏法についても実演を交えて解説してくれました。鍵盤に錘を載せて音を出し続ける奏法、腕全体を使ってのクラスター奏法、オルガンの電源を切ってしまう奏法など、興味深く拝聴しました。
演奏はすさまじいもの。石丸さんが言わんとする、これまでのパイプオルガンのイメージを覆す音楽がホール中に溢れ、強制的に聴衆の心がリセットされるかの様でした。皮膚感覚も含めて、ホールでしか味わえない醍醐味といえましょう。石丸さんの演奏の素晴らしさ、そして作曲した坂本さんを賞賛したいと思います。
前半最後は、ジャン・アランの「フリギア旋法によるバラード」と、今日のリサイタルのテーマにもなったサン=サーンスの「死の舞踏」が2曲続けて演奏されました。
ジャン・アランは有名なオルガン奏者であるマリ=クレール・アランのお兄さんだそうですが、「フリギア旋法によるバラード」は、一息つくような、穏やかな小品でした。
「死の舞踏」は、14世紀のヨーロッパでペストが大流行し、多数の死者を出した時代に、死への恐怖から、お払いのお祭りで踊り狂ったことを題材にしています。真夜中の墓地で、骸骨たちが踊り狂う情景が音楽で描かれており、石丸さんの解説の後で演奏を聴きますと、おどろおどろしい光景が眼前に浮かぶかのようでした。
今日のコンサートのテーマにもなっているだけあって、管弦楽版以上に聴き応えある演奏であり、オルガンの魅力を再認識させてくれました。
休憩時間中にアルビレックス新潟の勝利とJ1復帰確定のニュースをスマホで確認し、明るい気分で後半に臨みました。
前半同様に、ホールの照明が落とされて真っ暗な中に石丸さんが登場してオルガン席に着き、「アルビノーニのアダージョ」で静かに開演しました。超有名な曲ですが、美しい音楽で癒されました。
演奏終了後に石丸さんからアルビ勝利の報告と、曲の解説がありましたが、この曲はアルビノーニの曲ではなく、ジャゾットがアルビノーニの名前を借りて創作した曲なんだそうですね。作曲者は誰であれ、美しい曲には違いありません。
続いては、後半の目玉とも言える伊福部昭の「SF交響ファンタジー第1番」です。ゴジラの音楽で有名な伊福部昭の怪獣映画の音楽をコンサート用にまとめた作品ですが、伊福部昭の弟子である和田薫がオルガン用に編曲したものです。
実は今日の朝、BSテレ東で放送されたエンター・ザ・ミュージックで、偶然にも伊福部昭が特集されており、興味深く伊福部の音楽を楽しみました。
SFファンタジーの世界が迫力いっぱいに表現され、コンサートホールにゴジラが襲来したような迫力に圧倒されましたが、その中にある美しい祈りの音楽にも心奪われました。
続いては再び坂本日菜さんの作品で、「死に向かって急げ」です。なにやら怪しげな題名ですが、14世紀の巡礼者たちが、スペインの巡礼地であるモンセラートで歌い踊った音楽を集めた歌集「モンセラートの朱い本」からの音楽を元に作曲されたそうです。
この曲も前半同様に錘を載せたりの特殊奏法が使用され、石丸さんがその錘を画面に映し出して演奏が始まりました。
錘による音が鳴って音楽が始まりましたが、始めから終わりまで、石丸さんは足ペダルでリズムを刻み続けました。最後は鍵盤に載せた錘を取って音が消えて、演奏が終わりましたが、四肢を駆使して演奏する様子が画面に映し出され、その超絶的な演奏風景にオルガニストの凄さを実感しました。
演奏後には、客席にいた作曲者の坂本日菜さんにも大きな拍手が贈られましたが、私の近くの席でしたが、作曲者がおられるとは知りませんでした。
プログラムの最後は、ジャン・アランの「魔術幻影」とJ.S.バッハの「幻想曲とフーガ ト短調」が2曲続けて演奏されました。
「魔術幻影」は曲名の如く幻の世界を彷徨し、最後を飾るに相応しい正統的オルガン曲の「幻想曲とフーガ ト短調」を格調高く壮大に演奏して〆てくれました。
拍手に応えてアンコールは、J.S.バッハの「おお人よ 汝の大いなる罪を嘆け」です。死をテーマした、ちょっとおどろどろしい面もあったコンサートの最後に、甘く上質なデザートの如く、しっとりと、優しい音楽で慰めと癒しを与えてくれました。
総じて、テーマに沿った選曲の多彩さ、演奏の素晴らしさはいうまでもありませんが、石丸さんのトークの素晴らしさも特筆大書すべきでしょう。
映像を使いながらの解説は詳細で分かりやすく、古代に始まるオルガンの歴史を紐解き、死にまつわる音楽の歴史を知ることができて、有意義なコンサートでした。石丸さんの魅力が全開となり、その魅力は確固たるものとして聴衆の胸に刻まれたものと思います。
次のリサイタルがどういうテーマで行われるのか楽しみですが、その前に12月10日、「りゅーとぴあ オルガン・クリスマスコンサート2022」が開催されます。
女優の木村多江さんとの共演で注目なのですが、すでに仕事で聴きに行けないのが確定しており、誠に残念です。きっと素晴らしいコンサートになることでしょう。
終演時間は17時を大きく回っており、20分過ぎだったでしょうか。日が落ちて薄暗い公園を歩き、紅葉の木々を見ながら駐車場へと足を進めました。秋ですねえ・・・。
(客席:2階C7-11、CD付き:¥5000) |