東京交響楽団新潟特別演奏会 「2021弥生」
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2021年3月21日(日) 17:00 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
指揮:沼尻竜典
ソプラノ:砂川涼子、メゾソプラノ:中島郁子、テノール:宮里直樹、バリトン:大西宇宙
合唱:にいがた東響コーラス(合唱指揮:辻 博之)
コンサートマスター:水谷 晃
 


モーツァルト:交響曲 第40番

(休憩20分)

モーツァルト:レクイエム

 今日の演奏会は、本来であれば「東京交響楽団第124回新潟定期演奏会」として開催されるはずでしたが、新型コロナウイルス感染症の拡大により、2020年度の新潟定期演奏会はすべてキャンセルされ、会員券は払い戻しされました。
 今年度の各公演は「新潟特別演奏会」として開催され、チケットは単回の発売となりました。今回は「新潟特別演奏会 2021弥生」と名称変更して、当初と同じプログラムで開催されることになりました。

 1月の「新潟特別演奏会 睦月」は、2020年5月31日に開催されるはずだった「第119回新潟定期演奏会」の延期公演でしたが、平日の昼ということもあって集客は厳しく、寂しい演奏会となりました。しかし、演奏は素晴らしいものでした。
 今回はいつもの日曜日の開催であり、プログラムも人気曲です。さらに「にいがた東響コーラス」も出演ということもあって、集客が期待されました。
 昨日りゅーとぴあのオンライン・チケットを覗いてみましたら、S席以外は完売となっていて、S席もサイド席に残がある程度で、チケットの売れ行きは良いようでした。

 さて、今回のプログラムはモーツァルトの名曲中の名曲です。しかし、前半の交響曲第40番は、これまでの東響新潟定期演奏会の長い歴史の中で意外にも演奏されておらず、今回が初めてです。
 東響以外でも私個人としましては、2010年11月の「茂木大輔のオーケストラコンサート」、2013年4月のLFJ新潟2013で聴いて以来で、8年振りになります。

 後半のレクイエムは、1999年の第3回新潟定期(指揮:スダーン)、2007年の第44回新潟定期(指揮:秋山和慶)以来、14年振り3回目となります。

 また、レクイエムは、先月開催された「合唱団にいがた」と「りゅーと新潟フィルハーモニー管弦楽団」による「モーツァルト レクイエム 特別演奏会」で演奏されています。新潟のオーケストラと合唱団で、素晴らしい演奏を聴かせてくれて、感動をいただきました。
 今回は日本を代表するプロオケと新潟の合唱団の共演です。プロとアマのハイブリッドで、どんな演奏を聴かせてくれるのか期待は否が応でも高まりました。

 なお、新潟での演奏会の前に東京や川崎で同じ内容の公演を終えて新潟入りするのが常なのですが、今回は新潟独自のプログラムです。
 東響は3月11日から23日まで、新国立劇場での「ワルキューレ」の公演に参加中であり、その合間を縫っての新潟公演となります。
 メンバー配分がどうなっているのかは分かりませんが、昨日全3幕で5時間20分にも及ぶ公演を終えての新潟入りですので、大変お疲れのことと思います。


 今日は低気圧が通過中で、全国的に天候は崩れました。新潟市もどんよりとした雲が立ち込め、小雨がぱらついたりして、生憎の日曜日となりました。

 今日は恒例の「東響ロビーコンサート」が12時から開催されました。今回の出演は、ヴァイオリンの中村楓子さんとコントラバスの渡邉淳子さんという珍しい組み合わせです。
 ヴァイオリンとコントラバスの二重奏なんてめったに聴くことはできず、「東響ロビーコンサート」ならではのプログラムと楽しみにしていました。
 しかし、残念ながら今日は町内会の総会と重なってしまい、聴きに行けませんでした。町内会で意見を言うのは私くらいで、公園の草刈の外注化など町内会活動のスリム化を訴えましたが、みんなで集まることに意義があるとの意見に押されて却下されました。まあ、いいか。

 町内会を終えて、13時半からの友の会会員向けの公開リハーサルに参加しようかと迷いましたが、これまでの経験から、リハ−サルを見てしまいますと本番での感動が薄れてしまうような印象があり、止めにしました。

 午後になって天候は崩れ、雨降るなかに、りゅーとぴあへと車を進め、白山公園駐車場に車をとめました。某所でコンサートのチケットを買い、雨降る白山公園を散策し、きれいに咲いた紅梅、白梅に春の訪れを感じました。

 その後風雨が強くなって傘が役立たず、雨に濡れながらりゅーとぴあに入りました。インフォで某公演のチケットを買い、ロビーでこの原稿を書きながら開場を待ちました。
 しばらくして開場となり、私も早めに入場しました。ステージ上では、コントラバス奏者が40番のメロディーを練習しておられましたが、間もなく退場されました。

 オケは小編成で、弦5部は 10-10-8-6-4 で、ヴァイオリンが左右に分かれる対向配置です。コントラバスとチェロが左、ヴィオラが右で、コントラバスとチェロの間にポジティブオルガンが設置されていました。

 客席は2階のステージ周りのブロックは合唱団席のため発売されず、他は隔席で発売されましたが、開演時間が近付くにつれ客席は埋まり、きれいな市松模様となりました。
 バリトンの大西さんはアレルギーで万全の体調ではないそうですが、本人の希望により出演するとのアナウンスがありました。ご苦労様です。

 時間となり、団員が入場。全員が揃うまで起立して待つ新潟方式です。最後にコンマスの水谷さんが登場してチューニングとなりました。今日の次席は廣岡さんです。
 各セクションの主席クラスは、新潟組と新国立劇場組とにうまく分散されているように推察されます。お馴染みの東響マスクでなく、通常のマスクを着けておられる方が多数おられましたので、小編成のオケながらもエキストラが動員されているものと思われます。

 沼尻さんが登場して、前半はモーツァルトの交響曲第40番です。ふくよかで柔らかな弦楽アンサンブル。美しい調べに酔いしれました。先週秋葉区文化会館で新潟セントラルフィルの演奏を聴き、アマオケとの違いを実感しましたが、りゅーとぴあで聴く東響のサウンドは、さらに次元が違いますね。
 美しいメロディに身を委ね、至福のひと時を過ごしました。終楽章はテンポアップして駆け抜け、感動と高揚をもたらしました。乱れることのないアンサンブル。さすがですね。

 後半はレクイエムです。合唱団は先に席についていました。ステージ左のEブロックにソプラノ、右のAブロックにアルト、後方のPブロックにテノールとバスが、前後左右とも1席おきに着席し、十分すぎるくらいに密を避けていました。マスクを着用していますが、合唱用マスクではなく、通常のマスクのように見えました。

 拍手の中にオケが入場。ポジティブオルガンは石丸由佳さんです。チューニングを終えて、独唱者4人と沼尻さんが登場して開演です。独唱者は指揮者のすぐ前に着席しましたが、さすがにマスクは着けておられません。

 序奏に導かれて、合唱が「入祭唱」を歌い、そこにソプラノ独唱が加わりますと、一気にレクイエムの世界に引き込まれました。
 「キリエ」〜「怒りの日」と、白いマスク姿で暗譜で歌う合唱団は次第に熱を帯び、その歌声は聴く者の魂を揺り動かしました。
 4人の独唱者も声量十分で、透明感のある声質もレクイエムにふさわしく、4重唱の美しさには息を呑みました。体調不調とアナウンスされたバリトンも問題を感じさせませんでした。「不思議なラッパ」でのトロンボーンソロもお見事でした。

 通常ならステージ上でオケの後方に密集して並ぶはずの合唱団が、ステージ周囲の各ブロックに十分な間隔を持って並んでいるため、密度としては薄くなっていました。
 そのため、合唱団のマスとしてのパワーには欠けることになりましたが、逆にクリスタルのように透き通った透明感を生み出し、レクイエムの音世界にはふさわしい音質となりました。左のソプラノと右のアルトとのステレオ効果も美しく、汚れ切った私の心も清められるような清廉な音楽に身を委ねました。

 切々と歌う「ラクリモサ」で涙し、「サンクトゥス」での合唱団の輪唱の音響的美しさに酔いしれました。「ベネディクトゥス」では金管のコラールと4重唱が美しくホールに響き渡り、「アニュス・デイ」から最後の「コンムニオ」を合唱団が静かに歌い上げて終演となりました。

 ホールは大きな拍手に包まれ、マスクをしながらという悪条件の中で、暗譜で美しく歌い上げた合唱団の健闘を讃えました。

 小編成ながらも、豊かな低音で厚みを感じさせたオーケストラの美しさ、美しい歌声で魅了したソリストたち。そして、心打つ音楽に仕上げたマエストロのすばらしさ。それぞれが見事なパフォーマンスでホールを埋めた聴衆を魅了しました。
 曲はレクイエムではありましたが、新型コロナ禍で落ち込んだ心に、一条の光のような明るさとパワーとをいただいたように感じました。

 鳴り止まない拍手に応えて、アンコールは“アヴェ・ヴェルム・コルプス”かなと期待していましたが、そのまま終演となりました。
 
 前半も含めて、さすが東響とうならせるような満足度の高い演奏会でした。早いですが、今年のベストコンサート候補に挙げておきましょう。

 ホールを出ますと雨が降り続いていました。しかし、美しい音楽に心は癒され、明るく晴れやかな気分で家路につきました。音楽ってすばらしいですね。

 

(客席:2階C2-9、¥6000)