東京交響楽団第688回定期演奏会 Live from Suntory Hall !
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2021年3月28日(土)18:00 サントリーホール
指揮:井上道義
ピアノ:北村朋幹
コンサートマスター:グレブ・ニキティン
 

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 op.58

(ソリストアンコール)
シューマン:子どものためのアルバムから 第15番 春の歌 op.15

(休憩20分)

ショスタコーヴィチ:交響曲 第6番 ロ短調 op.54



  

 東京交響楽団は、昨年来の新型コロナ禍のなかで、ミューザ川崎や東京オペラシティでの演奏会のライブ配信を行っています。私も何度か聴かせていただき、その素晴らしい演奏に感動するとともに、画像・音質など配信のクオリティの高さにも感銘を受けました。
 今回はサントリーホールでの定期演奏会が「Live from Suntory Hall !」として配信されることになりましたので、せっかくですので今回も聴かせていただくことにしました。

 前回の生配信は1月17日の「川崎定期演奏会第79回」の予定だったのですが、リハーサル参加者に新型コロナ感染者が出たため中止されましたので、12月16日の「川崎定期演奏会第75回」以来、3ヶ月ぶりになります

 今回の定期演奏会は、当初ピアノはネルソン・ゲルナーが出演する予定でしたが、新型コロナウイルス感染症による入国制限により来日できなくなり、北村朋幹さんに変更になりました。指揮は井上道義さんで変わりなく、プログラムの変更もありません。

 私が井上さんの指揮を聴くのは、2018年10月の「NHK交響楽団新潟特別演奏会」以来であり、東京交響楽団の指揮で聴くのは、2003年10月の「第23回新潟定期演奏会」以来になります。
 一方、北村さんの演奏を聴くは、2018年7月の「東京オペラシティシリーズ第104回」でベートーヴェンのトリプルコンチェルトを聴いて以来になります。

 今日のプログラムは、前半はベートーヴェンのピアノ協奏曲の中では私が一番好きな第4番ですし、後半は井上さんが得意とするショスタコーヴィチということで楽しみでした。

 リアルコンサートにならい、開演30分前にパソコン前の席に着き、配信サイトにアクセスしますと、サントリーホールのステージが映し出されていました。中央にはピアノが設置され、オーケストラのひな壇が高めに作られていました。オケの編成は大きくないようです。

 開演時間が近づくにつれて客席は次第に埋まってきました。客席は密集したり空席が目立ったりと不規則です。市松模様ではありませんので、通常通りに販売したのでしょうか。別に私が気にすることもないのですが、ちょっと違和感を感じなくもありません。

 開演のチャイムが鳴り、アナウンスが流れますと、ホールにいるかのようなライブ感を感じました。東京での定期演奏会としては珍しく、盛大な拍手の中に団員が入場しました。ただし新潟方式のように全員揃うまで起立して待つことはありません。
 最後にニキティンさんが小走りで入場してチューニングとなりました。今日の次席は廣岡さんです。オケは小編成の8型で、私の目視で8-6-4-4-2。ヴァイオリンが左右に分かれる対向配置ですが、ヴィオラが左、チェロとコントラバスが右です。

 黒シャツ・黒ジャケットで長髪ボサボサ頭の北村さんと、詰め襟風黒ジャケットでスキンヘッドの井上さんが登場して開演です。なんとピアノの椅子は、オケの団員が座るパイプ椅子の3段重ねです。こんなのは初めて見ました。北村さんやりますねえ・・。

 柔らかなピアノで演奏開始、そこに美しいオケがゆったりと重なり、ベートーヴェンの世界へと誘われました。美しく、さらさらと淀みなく流れるピアノ。オケは管楽器のソロの美しさが際立っていました。

 第1楽章終盤のカデンツァの美しさには息をのみました。これでもかというくらいにゆったりと歌わせます。一瞬、東響定期ではなく北村さんのリサイタルに来たかのような錯覚を覚えました。いいですねえ・・。繊細でクリアなピアノにうっとりとしました。
 第2楽章も、これでもかというくらいに、ゆっくりと、ゆったりと歌わせ、メロディを大きく揺り動かし、もはや北村さんの独壇場です。弦楽との絡み合いも美しく、夢幻の世界へと誘われました。これって、本当にベートーヴェン?
 一転して第3楽章はスピードアップして軽やかに生き生きと駆け抜けました。しかし、ピアノはあくまでもクリアであり、力強くも流麗なオケとうまく絡み合い、極上のサウンドを作り上げていました。演奏は緩急自在。次第に熱を帯び、興奮のフィナーレを迎えました。

 自己陶酔するかのようにトリップし、自由奔放に曲を作り上げ、あちらの世界へ行ってしまったかのような個性あふれる北村さんのピアノを、熟練の井上さんが優しくサポートし、東響のビロードのような極上のサウンドで包み込み、北村さんの魅力をさらに輝かせてくれました。この曲の魅力を再認識させていただき感謝です。

 拍手に応えてソリストアンコールはシューマンの「春の歌」。優しく美しく歌わせ、協奏曲での興奮を鎮めてくれました。これもいい演奏でした。

 休憩時間にステージが整えられ、後半はショスタコーヴィチの交響曲第6番です。この曲はCDでは聴いていますが、実演は初めてです。まあ、ネット視聴ですので、実演とはいえませんけれど。

 前半同様に拍手の中に団員が入場しました。新潟では当たり前ですが東京らしくないですね。最後にニキティンさんが登場して大きな拍手が贈られました。
 オケの編成は大きくなって14型となり、私の目視で14-12-10-8-6。ステージいっぱいになりました。ヴァイオリンは対向配置でなくなり、ヴィオラが右に移動しました。前半・後半で数だけでなく配置を変えるというのは珍しいですね。

 もがき苦しむような、重々しくて暗くて切ない第1楽章。管楽器のソロが美しかったです。特にフルートが最高。いつしか暗さの中に癒やしを感じました。
 第2楽章は一転して明るく伸びやか。春が来たかのように跳ね回ります。どこか滑稽さも垣間見え、いかにもショスタコーヴィチというような金管の炸裂。激しくせわしなくリズムを刻み、ボルテージがどんどんと上がり、打楽器の連打が爆発します。
 そして最終第3楽章。ウィリアムテル序曲のようにサラブレッドが疾走するような軽快な音楽に始まり、スペイン音楽のようなリズムの炸裂。途中一休みして、再び駆け出しました。どんどんとヒートアップし、興奮のフィナーレへと駆け上がりました。

 素晴らしいといいますか、私の陳腐な語彙では表現しようのないすごい演奏でした。これを生で聴いたなら最高でしたでしょう。さすがに井上さんですね。こんなにもエネルギッシュな音楽を聴けるなんて、最高です。

 曲の良さを再認識しましたが、それ以上に東響の演奏の素晴らしさに感激しました。弦も管も打楽器も、最高の演奏じゃなかったでしょうか。燃え上がるような熱い演奏を導き出してくれた井上さんにもブラボーを贈りましょう。

 前半のベートーヴェンは静かに、穏やかに、青白い炎のような感動を誘い、後半のショスタコーヴィチは火山のように激しく燃え上がり、その対比も面白く、聴きごたえあるコンサートでした。時間としては短かったですが、その内容は濃密でした。ネット中継でもこれだけの感動を感じましたから、サントリーホールで生で聴いた皆さんの感動はひとしおだったと思います。

 数回のカーテンコールの後、オケは退場しましたが、拍手は鳴りやまず、井上さんとニキティンさんが登場して拍手に応えて退場し、漸く拍手が鳴り止みました。

 興奮と感動に感謝し、ニコニコ動画のサイトからログアウトしました。定期演奏会を無料配信してくれた東響に感謝したいと思います。

 

(客席:自宅PC前、無料)