SanDo コンサート vol.101 大瀧拓哉 ピアノリサイタル
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2019年5月18日(土) 15:00 朝日酒造 エントランスホール
 
ピアノ:大瀧拓哉
 


バルトーク:エレジー 作品8b より 第2番

ベートーヴェン:ピアノソナタ第32番 作品111

(休憩15分)

トーマス・アデス:トレースド・オーバーヘッド(1996)

シルヴェストロフ:ノスタルジア、モーツァルトのとき 第2番

ストラヴィンスキー:ペトルーシュカからの三楽章

(アンコール)
曲名失念
ドビュッシー:月の光

 朝日酒造は、アンサンブルオビリーでお馴染みの片野大輔さんのプロデュースにより、毎月コンサートを開催しており、第3土曜の開催ということで、「3土=SanDo」コンサートと呼ばれています。回数を重ねて、今回が101回目となります。
 私も何度か聴かせていただいていますが、今回は大瀧拓哉さんのピアノリサイタルということで、楽しみにしていました。

 私が大瀧さんの演奏を聴くのは2018年3月以来で、久しぶりになります。実は5月29日に、新潟市のスタジオスガマタでリサイタルがあるのですが、平日の開催のため、行けるかどうか定かでなく、その代わりとしてこのコンサートを聴くことにしました。

 いつものように分水、与板経由で車を進めました。与板からは長岡市街には入らず、そのまま西側を直進し、長岡JCT横を通って越路に入りました。この道は交通量も少なく、信号も少ないので、大して時間もかからず到着できます。

 開場15分前に着きましたが、すでに開場待ちの列ができていました。私もその列に並び、当日券を買って入場しました。
 客席は縦長に設置され、椅子はいつもより多く並べられていましたが、直ぐに埋まり、椅子が追加されました。さすがに地元のスターですね。

 このホールは朝日酒造の本社のロビーなのですが、奥行きが長く、天井が高い直方体になっていて、正面奥にはステンドグラスがあって、落ち着いた雰囲気が魅力です。
 残響は豊かで、定期的にコンサートが行われている会場としては、県内最高ではないでしょうか。この豊潤な残響の中で、大瀧さんのピアノがどう響くのかも楽しみでした。

 時間となり、大瀧さんが客席後方から登場。挨拶があり、途中で話をするとプログラムの流れが途切れるとのことで、今日のプログラムのコンセプトと曲についての解説がまとめてあり、演奏が開始されました。

 ピアノに電子楽譜をセットして、バルトークの「エレジー」で開演しました。豊かな残響の中で、深遠な音楽が響きました。フルコンサートではない小型グランドピアノですが、不満を感じることはありません。青白い炎のように静かに燃え上がる感情のうねり。胸に染み渡る音楽に1曲目から虜にされました。

 続いては、楽譜が片付けられて、本日のメインといっても良いベートーヴェンのピアノソナタ第32番です。いかにもベートーヴェンというイメージの重厚な第1楽章。それに続く第2楽章は、自由奔放に形を変えながら変幻自在な音楽が鳴り響きます。その先進性が本日の他の曲につながっていることが如実に示されました。
 日頃ベートーヴェンのピアノソナタといえば、表題付きの曲ばかりで、32番などめったに聴く機会がないのですが、この曲の魅力を知らしめてくれる素晴らしい演奏でした。

 休憩後は、電子楽譜がセットされ、トーマス・アデスの曲で演奏が再開されました。イギリスの作曲家だそうですが、不勉強な私は、初めて聞く名前です。静寂の中に感情が表現されていて、聴く者にも精神集中が要求されますが、幻想世界にトリップするような感覚に包まれました。

 続いては、私がペルトと並んで好きな現代作曲家のシルヴェストロフです。CDはいろいろ持っていますが、実演を聴く機会がなく、今回聴くことができて幸いでした。
 透き通る音の響き。一音一音の音の響きをじっくりと味わいながら聴く深遠な音楽。心に染みる音楽に心が洗われ、緊張感の中にも癒しを感じました。
 これらの後半の2曲は、この残響豊かなホールによってその魅力が倍増されたものと思います。まさにホールも楽器となっており、貴重な音楽体験ができました。

 楽譜が片付けられて、プログラム最後はストラヴィンスキーです。これはもうパワー全開。これまでのような秘めた感情ではなく、ダイレクトな感情の爆発です。
 この曲は、つい最近、及川浩治さんの演奏を聴く機会があり、ダイナミックな演奏に感激した記憶が新しいのですが、それを凌駕するものであり、残響豊かな濃密な空間で聴く音楽に圧倒され、怒涛の如く流れ出る総天然色の音の激流に、溺れそうになりながら身を委ねるのみでした。

 アンコールにストラヴィンスキーでの興奮を鎮めるような2曲がデザート代わりに演奏され、感動のリサイタルは終演となりました。
 演奏とホールとが一体となって、一期一会の芸術が創り出されたと思います。圧倒的なテクニックと音楽性に感嘆し、今後の活躍を祈念しながら会場を後にしました。今年のベストコンサート候補に入れたいと思います。

 今回と同じプログラムは、5月12日に愛知で演奏されており、今後は24日に山形、29日に新潟(スタジオスガマタ)、6月1日に東京で演奏されます。素晴らしい演奏が期待できますので、是非お聴きください。

 オルレアン国際ピアノコンクールで優勝し、日本のみならず世界で活躍する大瀧さん。新潟からこのようなピアニストが輩出されたというのは素晴らしいですね。また聴く機会があることを楽しみにしたいと思います。
 
 

(客席:4列目中央、当日券:¥1200)