大谷康子 ヴァイオリンリサイタル
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2016年9月21日(水) 19:00  新潟市秋葉区文化会館
 
ヴァイオリン:大谷康子
ピアノ:金子三勇士
 
エルガー:愛の挨拶

クライスラー:愛の喜び

リスト:愛の夢 (ピアノソロ)

ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第5番 「春」より 第1楽章

グノー=バッハ:アヴェ マリア

中野 稔:ロンド

ブラームス:ハンガリー舞曲第1番、第5番

(休憩)

オリンピックにちなんでブラジル特集
  ブラジル〜ティコティコ〜イパネマの娘〜ラ・クンパルシータ

映画音楽のプレゼント
  慕情〜魅惑のワルツ

新実徳英:秋の紅

アラール:椿姫ファンタジーより 乾杯の歌

サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン

(アンコール)
モンティ:チャールダッシュ

 東京交響楽団のコンサートミストレスとして、ヴァイオリニストとして、度々新潟に来演されている大谷さんは、新潟では絶大な人気を誇っています。東響新潟定期でもコンチェルトのソロを何度かやられていますし、大谷さんがコンミスのときの東響は外れがなく、名演が約束されていました。
 ロビーコンサートにも出演され、ゴーストライター事件で記録・記憶から抹消されてしまった某氏のシャコンヌの名演が個人的には忘れられません。

 大谷さんの高校時代からの友人である新潟出身のヴァイオリニストの稲庭達さんが、2015年4月に、59歳の若さで急逝されました。稲庭さんは本年2月の新潟セントラルフィルの演奏会に出演予定でしたが、大谷さんが代わりに出演されることになりました。追悼公演となったこのコンサートは私も聴きに行く予定にしており、チケットを買っていたのですが、残念ながら仕事のため断せざるを得ませんでした。
 秋葉区文化会館で開催されたこのコンサートへの出演がきっかけで、開館3周年記念の今日の演奏会が決まったそうです。東響を退団され、新潟への来演が減るかと思ったのですが、このようなコンサートが開催されてありがたいです。

 また、今日の共演は何と金子三勇士さんです。私はわざわざ見附まで聴きに行ったこともあり、金子さんのピアノも楽しみでした。大ファンである大谷さんと金子さんが共演するとあって、今日のコンサートは何としても聴かねばと思っていました。

 仕事を早めに切り上げて、職場を6時に出て、予想外に早くホールに到着しました。自由席かと思って大急ぎで行ったのですが、着いて初めて指定席だったことに気づきました。まあ、どうでも良いことですけれど。

 ドラえもんブルーのドレスが麗しい大谷さんと金子さんが登場し、以後大谷さんのトークを交えながら演奏が進められました。

 最初の3曲は、大谷さんが好きな「愛」にちなんだ曲です。金子さんの伴奏で、「愛の挨拶」と「愛の喜び」の2曲を爽やかに弾いた後、金子さんのソロで、「愛の夢」をゆったりと、しっとりと、心に染み入るように聴かせてくれました。

 小品が続いたところで、スプリング・ソナタで、スパイスを効かせて引き締めました。ヴァイオリンとピアノがせめぎ合い、寄り添い、ヴァイオリンソナタの楽しみを知らしめてくれました。
 ここで稲庭さんを偲んで、「アヴェ・マリア」が切々と演奏され、聴衆の心にも大谷さんの思いが伝わってくるようでした。

 続いては、大谷さんが岐阜県の病院を訪問したときに、筋ジストロフィーの患者さんと出会い、その患者さんから献呈された曲が演奏されました。専門的な音楽教育を受けていない入院患者さんが、こんなにも素晴らしい曲を作曲するとは驚きでした。
 暗さは感じられず、明日への希望、音楽の喜びが感じられました。作者の思いが、大谷さんの卓越した演奏を通して、伝わってくるように思いました。

 前半最後は、ハンガリーの血を引く金子さんとの共演ということもあって、ハンガリー舞曲を2曲、力強くも軽快に演奏し、ブラボーの声もあがる盛り上がりを見せました。

 休憩時間にホワイエに出ていましたら、大谷さんが出てきて、サイン会を始めたのには驚きました。15分の休憩時間のはずでしたが、こんなことをしていて大丈夫かと思いましたが、案の定後半の開演は遅れてしまいました。でも、大谷さんのサービス精神には驚きです。

 後半最初は、リオ・オリンピックにちなんで、ブラジル関連の曲を4曲、踊るように、軽やかに演奏し、ラテンのリズムでホールを熱狂させ、芸達者振りを見せてくれました。

 続いては配布されたプログラムにはなかったですが、映画音楽をサービスするとのことで、2曲しっとりと、情感豊かに演奏し、ロマンチックな気分にさせていただきました。

 次は、ロシアのフィギュアスケート選手が、大谷さんのCDの演奏を演技に使用したという曲。ヴァイオリン初心者用に編曲したものだそうですが、優雅に滑るにはちょうど良い、流れるような美しい曲ですね。

 続いては、楽譜がなくて、大谷さんしか演奏していないという「椿姫ファンタジー」から「乾杯の歌」の部分を、超絶技巧を駆使した演奏で聴かせてくれました。大谷さんも話されていましたが、目が離せないような指使いで、見ても驚きの演奏でした。

 そして最後は、十八番の「ツィゴイネルワイゼン」です。本人は3000回くらいと話されていましたが、この曲を日本で一番数多く演奏しているのは大谷さんということを以前聞いたことがありました。何回弾いてもその都度違う演奏になるとのことですが、今日の演奏はガンガンと迫るようで、気合で圧倒されそうでした。

 アンコールは、まず金子さんだけ出てきて、リストの「ハンガリー狂詩曲」を演奏し、盛り上がったところで曲が「チャルダッシュ」にいつしか代わり、客席最後方から大谷さんが演奏しながら現れ、ホールを沸かせました。
 アンコールの定番はこれですから、絶対やるとは思っていましたが、なかなか考えられた演出でした。客席をくまなく回り、私のすぐ横でも演奏してくれました。未来を担う子供たちの前では膝まづいて演奏し、音楽を楽しんでもらおうというサービス精神には頭が下がりました。

 終始音楽の喜びを観客に伝えようという熱い思いが伝わってきました。卓越した演奏技術に支えられた演奏は、どの曲も、どの演奏も嫌味はなく、節度を持って品位があるものでした。

 チャーミングな大谷さんの魅力が全開の、素晴らしいひと時でした。金子さんは引き立て役に回っていましたが、熟練の大谷さんと渡り合うだけの力が感じられました。金子さんにもブラボーを贈りたいと思います。

 そして、もうひとつ。フメクリストのスリムな美女が、どこかで見たような気がして、終始気になっていたのですが、加藤礼子さんと判明。なるほどねえ・・。これも良かったデス。

 

(客席:4-11、\3000)