金子三勇士 ピアノ・リサイタル
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2012年2月26日(日) 14:00  見附市文化ホール アルカディア 大ホール
 
ピアノ:金子三勇士
 


リスト:ハンガリー狂詩曲第2番 嬰ハ短調

バルトーク:トランシルヴァニアの夕べ
バルトーク:6つのルーマニア民族舞曲

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第8番 ハ短調 op.13 「悲愴」

ショパン:夜想曲第2番 変ホ長調 op.9-2
ショパン:ポロネーズ第6番 変イ長調 op.53 「英雄」

(休憩15分)

リスト:ラ・カンパネラ

リスト:愛の夢

リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調

(アンコール)
J.S.バッハ:フランス組曲第5番 より サラバンド
バルトーク:オスティナート
 
 

 日本人の父とハンガリー人の母のもとに生まれた金子三勇士は、11歳でリスト音楽院大学に入学し、16歳で卒業したというすごい経歴の持ち主です。その後日本に帰国し、東京音大付属高校から東京音大に入学し、今年卒業とのことです。
 その素晴らしさは噂では聞いていましたが、実際の演奏は聴いたことがありません。昨年長岡市で東京フィルとの共演がありましたが、残念ながら聴くことができませんでした。
 今回見附市でのコンサートがあると知り、是非聴きたいと思ってはいたのですが、大雪が続いたり、疲れがたまったりしていましたので、見附遠征をすべきかどうか、最後まで悩んでいました。しかし、家にいると邪魔だという家内の声に後押しされ、正確に言うなら追い出され、結局予定通り出かけることになりました。

 新潟市内は曇り空でしたが、車を進めるにつれ雪模様となり、見附に着くと本格的な雪になってしまいました。ホール近くで昼食をとり、開場を待ちました。

 開場時間となりホールに入場。838席のホールですが、客の入りは4〜5割り程度でしょうか。全席自由でしたので、中ほどに席を取りました。ステージにはホール自慢のベーゼンドルファー・インペリアルが鎮座していました。開演前にロビーをうろついていたら、当ホームページの掲示板でお馴染みの方に声を掛けてもらってうれしかったです。

 興ざめのけたたましいブザーが鳴って開演しました。最初はハンガリー狂詩曲です。何となく重苦しく、乗り切らない印象があり、音楽が途切れ途切れに感じました。ホールの響きは意外にも良かったですが、ピアノの鳴りが悪く、調教されていない馬に乗るように、ベーゼンドルファーを鳴らすのに苦労しているような感じを受けました。

 続くバルトークは穏やかに演奏して、体制を整えているように感じました。「ため」を作るように演奏するのが味わい深かったです。だんだんと金子さんの持ち味を出した演奏が聴けるようになってきました。
 ベートーヴェンではエンジンがかかりだし、のりのりの心地よい演奏を楽しめました。そして、ショパンのノクターンをしっとりと演奏した後、英雄ポロネーズでエンジン全開。迫力満点の音量豊かな力強い演奏に圧倒されました。さすがと、思わずうなるような、期待以上の演奏に早くも大満足でした。

 休憩後に、金子さんとこのコンサートをプロデュースした船橋先生との対談がありました。この話の中で、最初に感じていた疑問の理由が分かりました。
 金子さんは昨日見附入りして初めてピアノを弾いたとき、アップライトピアノのような音に感じたそうです。見附のような地方ホールではコンサートはたまにしかなく、ピアノが使用される機会が少なく、鳴りが悪かったようです。弾きこむうちに、漸く思うような音が出るようになったそうです。
 ピアノは生き物であり、それなりの調教が必要なのだと思います。名器のベーゼンといっても、良い音を出すためには苦労があるということが分かりました。
 最初のハンガリー狂詩曲で感じた違和感は、こんなところに問題があったのかもりれません。演奏が進むうちに、ピアノの鳴りが良くなり、本来の実力が発揮されたのだと思います。

 後半はリストの名曲が並びました。前半よりさらにピアノの鳴りが良くなり、低音が豊かなベーゼンの豊潤な響きの上に、輝くような高音の響きが加わって、贅沢なサウンドに酔いしれました。
 ラ・カンパネラでの高音の打鍵の素晴らしさには息を呑みました。この曲を好んで演奏する某高齢女性ピアニストの何倍も音があったのではなかったでしょうか。
 愛の夢は、しっとりと心に染み渡り、最後に演奏されたメインのロ短調ソナタには圧倒されました。私の大好きな曲のひとつですが、これほど胸に迫る演奏は初めてのように思います。32〜33分の長大な曲ですが、ただただ聴き惚れるばかりでした。
 豪快さと繊細さを併せ持ち、ホールいっぱいに響き渡るフォルテシモでも音の濁りがありません。緩徐部での透明感ある音には心が洗われます。さすがに噂どおりのピアニスト。期待を裏切らず、想像以上の演奏を聴かせてくれました。

 アンコールは静かなバッハの後、バルトークで盛り上げて終演となりました。尻上がりに調子が上がり、特に後半のリストは圧巻でした。前半は後半への序章でしかなかったようにすら感じました。

 この春に東京音大を卒業するという若手ピアニストで、昨年東京オペラシティでリサイタルを開いて、プロとしての本格的デビューを飾ったばかりです。今日の演目は、その初リサイタルの演目と同じだそうです。
 
 船橋さんとのトークの中で、会場からの何曲弾けるかという質問に、暗譜で500〜600曲は弾けて、楽譜があればその倍はすぐに弾けると答えていました。プロなら当然と話していましたが、すごいなあと感じます。

 見附まで遠征した甲斐があるすばらしいコンサートでした。新潟市にも是非来ていただきたいものです。これからもこのピアニストには注目していきたいと思います。
 

(客席:13-12、全席自由:当日券3000円)