インバル=都響 新マーラー・ツィクルス 第U期 ツィクルスIX
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2014年3月16日(日) 15:00  横浜みなとみらいホール 大ホール
 
指揮:エリアフ・インバル
コンサート・マスター:山本友重
 



マーラー:交響曲第9番 ニ長調
 
 

 インバルと都響の2度目のマーラー・ツィクルスも、終盤を迎え、ついに9番です。おそらくは、この組み合わせでの最後のマーラー・ツィクルスであり、インバルとのラストコンサートを、マラ9好きの私としては、是非聴かねばと思っていました。

 土曜日が東京芸術劇場、日曜日が横浜、月曜日がサントリーで公演が行われますが、日程的に行けるとすれば横浜公演しかなく、後先を考えずに、このチケットを衝動買いしていました。

 ところが公演が近づくにつれ、本業は多忙になるばかり。疲労は蓄積し、出かける元気もうせてしまい、実は昨夜まではやめようかと思っていたのですが、後悔するのが目に見えていますので、元気をふしぼって出かけた次第です。

 インバル/都響を聴くのは、2009年4月の新潟公演以来5年ぶりです。さらには、インバルの指揮するマーラーを聴くのは、2000年11月のフランクフルト放送響とのマラ5以来となります。

 職場に寄って所用を済ませ、その足で新潟駅に向かい、新幹線に飛び乗りました。東京から東海道線で横浜へ。みなとみらい線に乗り換えて、みなとみらい下車。あっという間に到着です。
 ホール前のレストランで遅めの昼食をとって入場。若干の空席はありましたが、客入りは良かったです。名物のどらの音とともに開演ですが、開演は10分近く遅れました。

 拍手のない中団員が入場。コンマスが入場して漸く拍手が贈られました。コンマスは矢部さんのはずでしたが、急病とのことで、急遽山本さんに変更になりました。矢部さんはどうされたのか心配です。

 ちょっと不安定そうな足元でインバルさんが登場して開演です。出だしから、オケの澄んだ音色に感激しました。ホールのクリアな響きもあるのでしょうが、解像度の良い、鮮明な音楽がホールを満たしました。少し早目のテンポで、演奏が進められました。管も弦も全く不安定な所はなく、安心して音楽に没頭できました。オケの素晴らしさに感嘆しているうちに第1楽章が終わりました。

 第2楽章も管楽器の素晴らしさに支えられて、淡々と演奏が進められました。第2楽章の後に、インバルさんは一旦ステージから下がり、数分の間をおいて演奏が再開されました。

 第3楽章も同様の抑制が効いた演奏でした。この楽章を特徴付ける狂気的な爆発もほどほどでした。中間部での甘美なメロディはもっと甘く切なくうたって欲しかったですし、最後は大音響でバシッと決めて欲しかったですが、ほどほどでした。

 第4楽章は弦のアンサンブルがお見事でした。最初の弦の歌わせ方はきれいであり、後半の盛り上がる部分での、弦のうなり、咆哮は驚異的にすら感じました。弦が切れてしまうのではないかというくらいに、各奏者が弓使いもばらばらに力の限りに弾くさまは、これまで聴いたどの実演よりも凄まじかったです。都響の素晴らしさをまざまざと見せ付けられたように感じました。

 消え入る弦の音。この最後の静寂がこの曲の真骨頂。演奏が終わり、しばしの無音の時間を共有し、指揮棒を下ろすとブラボーの嵐となりました。

 実に美しい演奏だったと思います。何の文句もないはずですが、正直な感想としては、全体にクリアすぎて、薄味に感じました。上品な京料理、あるいは上等なコンソメスープとでも言いましょうか、透明感あるクリアなサウンドが、逆に、あっさりとした印象を与えたように思います。

 感情に押し流されることなく、冷静さを失わず、隅々まで注意を払いながらオケをドライブしたインバルさんの指揮は見事であり、それに応えた都響の実力は大したものと思います。
 ただし、この美しい天上の音楽とでも言うべき演奏は、混沌とした泥沼に身を置く現在の私には、受け入れがたかったのかもしれません。いまひとつ感情移入しきれない自分が寂しかったです。オケに身を委ねるというより、距離感を感じてしまいました。

 と、いい音楽を聴いて良かったはずなのに、今ひとつ感動できぬまま帰路に着きました。この公演はライブ録音されていましたので、いつかCDなどで発売になるのかもしれません。違った精神状態でこの録音を聴いたときに、どんな感想を持つか楽しみでもあります。

*ライブ録音しているとアナウンスがあり、通常のコンサートより演奏中の咳が少なかったように思いますが、最後の静寂部で咳をする人がいて残念に思いました。
   
   
(客席:1階C20−33、S席:\7500)