今シーズン2回目で、5月18日に開催された第141回以来、3か月ぶりの東京交響楽団新潟定期演奏会です。この間に、6月29日には「特別演奏会 X ブロードウェイ 」(指揮:原田慶太楼)、8月9日には「オーケストラはキミのともだち」(指揮:原田慶太楼)がありましたので、東京交響楽団としましては15日ぶりの新潟への来演となります。
今回は「新潟定期サマースペシャル!」と題されており、29歳の初来日の英国出身の新星指揮者:アダム・ヒコックスと日本音楽コンクール第1位の実力者・谷昂登という「欧州と日本で輝く2名のライジングスターの共演」(チラシのキャッチフレーズ)が注目されます。
指揮者のヒコックス氏のことは全く知りませんが、ピアノの谷昂登(たに あきと)さんは、2023年5月のりゅーとぴあでのリサイタルを聴いて感動し、「2023年コンサート・マイ・ベスト10」のベスト1に選ばせていただきました。
当時は弱冠20歳でしたが、あれから2年が経ち、今回は東京交響楽団との共演です。若き指揮者とともにどのような演奏を聴かせてくれるか非常に楽しみです。
今日のプログラムは、前半にリャードフの交響詩「魔法にかけられた湖」とラフマニノフのピアノ協奏曲第2番(ピアノ:谷昂登)、後半はショスタコーヴィチの交響曲第10番です。
これまでの東京交響楽団の新潟での演奏会の中で、リャードフの「魔法にかけられた湖」は、2004年7月の第27回新潟定期演奏会(指揮:ボレイコ)、2020年9月の新潟特別演奏会2020中秋(指揮:尾高忠明)以来3回目、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番は、2013年5月の第77回新潟定期演奏会(指揮:ヴェデルニコフ、ピアノ:ロマノフスキー)、2016年7月の第96回新潟定期演奏会(指揮:川瀬賢太郎、ピアノ:横山幸雄)以来3回目、ショスタコーヴィチの交響曲第10番は、2016年10月の第98回新潟定期演奏会(指揮:ノット)以来2回目になります。
今日の新潟定期演奏会は昨夕にサントリーホールで開催された第733回定期演奏会と同じプログラムです。東京で1度本番を終えており、新潟ではどのように演奏してくれるか楽しみにしましょう。
相変わらず厳しい残暑が続いています。今日も午前中は雲が見られたものの午後には晴れ渡り、快晴の空になって日射しが強く照り付けました。
本来であれば、13時からのロビーコンサートを聴いて、仕切り直しをして、この演奏会に臨むところなのですが、疲労が蓄積していたため、ゆっくり休養を取って15時半過ぎに家を出ました。
いつもの白山公園駐車場に車をとめて、りゅーとぴあに向かいました。合唱コンクールで賑わう県民会館を横目にりゅーとぴあの館内に入りますと、すでに混雑しており、開演前の熱気が感じられました。
ほどなくして開場が始まり、列が途切れたら入場しようと思いましたが、途切れることはなく、私も列に並んで入場して席に着きました。
ちょうどプレトークの開始時間になり、榎本さんが廣岡団長を招いて、ショスタコーヴィチの音楽についての解説があり、逆説的な表現や、自分の名前のDSCHの音型を埋め込んだりしていることなどのお話があり、廣岡団長の美声も聴けました。
団員紹介コーナーでは、2ndヴァイオリン首席の清水さん、服部さんの紹介と2ndヴァイオリンの重要性についての説明がありました。ちなみに服部さんは新潟市出身とのことでした。
さらに、29歳で今回がアジアデビューという指揮者のヒコックスさんとピアノの谷昂登さんの紹介がありました。榎本さんは私と同様に2年前のリサイタルを聴いて谷さんのファンになったそうです。
団長への質問コーナーでは、演奏会のプログラムはいつ頃決めるのかという質問に対して、現在は3年後のプログラムを決めているとのことで、来年度の新潟定期演奏会のプログラムはすでに決まっているとのことでした。廣岡さんが口を滑らそうとして榎本さんが止めたりがありましたが、どんな内容かが気になりますね。
プレトークが終わり、客席はどんどんと埋まっていき、ステージ周囲を含めてかなりの入りとなり、最近の新潟定期では最高の入りではないでしょうか。満席とはいきませんが、これくらい入れば盛り上がりも違いますね。私の近くに団長さんが着席して、開演時間となりました。
拍手の中に団員が入場。全員揃うまで起立して待ち、最後に今日のコンマスの小林さんが登場して大きな拍手が贈られ、チューニングとなりました。次席は今年定年になりましたが雇用延長になってコンマスとしての活動を続けてくれる田尻さんです。弦は通常配置の14型(14-12-10-8-7)です。
いかにも英国の好青年という感じのヒコックスさんが登場して、1曲目はリャードフの「魔法にかけられた湖」です。
息が詰まるような数秒の無音の後に、かすかなティンパニのトレモロとハープに弱音の弦が加わって、静かに演奏が始まりました。朝もやが立ち込める湖が眼前に広がるようでした。
ゆったりとした静かな世界に不安な空気が流れ、チェレスタが鳴り、深遠な雰囲気に変わりました。ゆっくりと大きなうねりが起こって、大太鼓が不穏な空気を掻き立てるも、フルートが爽やかに歌い、落ち着きが戻りました。
繊細で神秘的な静けさに包まれて音が消え入り、数秒間の無音の後に大きな拍手が沸き起こりました。美しい音楽と透明感のあるオーケストラ。今日の演奏会の成功が確信されるような見事な演奏でした。
ヴァイオリンが一旦退席してピアノが設置され、金管が増強されて、次はいよいよラフマニノフのピアノ協奏曲第2番です。若々しい谷さんとヒコックスさんが登場して演奏開始です。
しばしの沈黙の後に、谷さんのピアノによって静かに鐘が鳴らされ、次第に音量を増して壮大な音楽が始まりました。弦楽合奏が加わり、そのアンサンブルの艶のある美しさに驚きました。雑味のない透明感のあるサウンドに今日の東響の凄さを実感しました。
うねるような感情の起伏、切れの良いオーケストラ。そして、きらめきのあるピアノ。クリアな高音の美しさにはっとしました。ピアノとオケとが合わないように感じた箇所もありましたが、少し速めのオケとともに、ぐんぐんと熱量を上げました。ホルンやチェロが、ゆったりと朗々と歌う緩徐部も美しく、次第にスピードアップ、エネルギーアップして楽章を終えました。
第2楽章は、竹山さんのフルートからヌブーさんのクラリネットへメロディが繋がれて、切なさに溢れるロマンチックな世界に胸が締め付けられました。ホルンが泣き、切ない思いに胸が張り裂けそうになりました。
感情が盛り上がってのカデンツアの美しさと、その後の繊細な響きにうっとりしました。泣かせるヴァイオリにピアノが呼応して、感情を高ぶらせ、目には涙がこみ上げました。
切れの良い打楽器とともに第3楽章へ。ヴァイオリンが朗々と歌い、緩徐部を挟んで怒涛のクライマックスへと突き進みました。
メリハリと切れのあるオケ。パワフルなピアノ。ゆったりと、力強くピアノがメロディを奏で、感情をどんどんと高ぶらせました。
静けさの中から、各パートが呼応しながらどんどんと加速し、大きな感情のうねりを作って高らかにオケが鳴り、壮大にメロディを歌い上げてフィナーレとなりました。
大きな感動と興奮をホールを埋めた聴衆ににもたらし、ブラボーと拍手の嵐が沸き上がり、私も力の限りに拍手をして好演を讃えました。谷さんはステージ後方の席にも礼をして拍手に応え、ステージマナーも好印象でした。
谷さんのピアノは期待通りであり、クリスタルのような透明感と輝きを感じました。ヒコックスさん率いる東響の凄さも特筆大書すべきであり、クリアな音色の美しさに酔いました。
20代の若き俊英がぶつかり合い、ムード音楽的な過度の甘さは排除し、感傷に流されず、透明感のある美しい音楽をまとめ上げました。新時代のラフマニノフとでも言いましょうか、新鮮な感動を与えてくれました。
大きな拍手に応えてのソリストアンコールは、ストラヴィンスキーの「火の鳥」の終曲部分が演奏されました。繊細な弱音からどんどんとクレッシェンドしていき、壮大なフィナーレへと燃え上がりました。そのパワーと音楽性を見せつけて、さらに大きな感動をホールにもたらして、前半のプログラムが終わりました。
谷さんはまだ22歳という若さです。まだ大学で研鑽中ですが、見事な演奏でした。2023年のベスト1に私が推しただけはあると自己満足しました。これからどのように羽ばたいていくかこの目で確かめ、応援していきたいと思います。
休憩時間に入りましたが、今日は女性客が多かったようで、女子トイレの行列がいつもより長く延びていました。たくさんの観客が来てくれて良かったです。
休憩時間中に関係者席での話し声が漏れ聞こえてきましたが、昨日のサントリーホールより今日のりゅーとぴあの方が音響が良いと話されていました。たしかに大音量でも音が飽和することもなく、解像度も良くクリアな響きは素晴らしいと感じました。
オケが16型に拡大されて、後半はショスタコーヴィチの交響曲第10番です。ヒコックスさんが登場して演奏開始です。
地を這うような低弦の響きで始まり、暗い音楽に心も沈みます。次第に音量を上げるも再び静けさが訪れ、この静けさの中にヌブーさんのクラリネットが悲しく響きました。竹山さんのフルートが不安の中で美しく歌い、ヴァイオリンとヴィオラが掛け合い、福士さんのファゴット、そしてコントラファゴットの低音が不安感を掻き立てました。
うねりを作りながら音量を上げ、ホルンが泣き叫び、打楽器群が鳴り響いて銅鑼が鳴りました。大編成のオケの音量に圧倒されましたが、大音量でも透明感を感じさせ、音が飽和しないのは驚異的です。
クラリネット二重奏が静かにゆったりと歌い、重苦しくも美しい弦楽の素晴らしさに感涙し、低弦とヴァイオリンの掛け合いが胸を締め付けました。濱崎さんのピッコロが繊細に歌い、深遠なる静けさの中に楽章が終わりました。
第2楽章は、力強く切れの良い弦で始まり、小太鼓が鳴り、馬が駆け抜けるような軽快な音楽に身を委ねました。その迫力は生演奏ならではであり、疾走感が心地良く感じられました。スピードを落とすことなく、フルスピードで疾走し、迫力の中に、切れ良く楽章が終わりました。
第3楽章は、第1ヴァイオリンと低弦の掛け合いに始まり、第2ヴァイオリンが加わって、ゆったりと音楽が流れ出ました。クラリネットにフルート、ピッコロが加わり、管楽器のパフォーマンスはお見事でした。少しおどけたようにも感じる音楽は、ショスタコーヴィチお得意の逆説的な表現でしょうか。ホルンが奏でる音型が印象的であり、重苦しい響きの中に歌うホルンが素晴らしく、その音型を引き継いだ最上さんのイングリッシュホルンもきれいでした。
突然曲調が明るくなり、タンバリンが鳴り響いてスペイン風の音楽となり、そして荒々しくエネルギーを増して、激しさの中にホルンが叫びました。静けさが訪れ、再びホルンが歌い、コンマスのソロが入りました。暗さの中にホルンが叫び、ピッコロとともに静かに楽章が終わりました。
第4楽章は、低弦の重苦しい合奏で始まりました。悲しげに荒木さんのオーボエが歌い、泣き叫ぶかのようでした。ファゴットが切々と歌い、フルートが呼応してピッコロが加わりました。
静かで暗い重苦しさから、急に曲調が変わってスピードアップし、エネルギーを増してどんどんと加速しました。大音響の後に静けさが訪れ、おどけて見せた後、再びスピードアップして熱量を高め、大音響とともにフィナーレとなり、ブラボーとともに大きな拍手が贈られました。
カーテンコールが何度も繰り返され、見事なパフォーマンスを発揮してくれた団員を讃えるとともに、今シーズンからカーテンコールでの撮影が解禁になりましたので、私も撮らせていただきました。
今日の東響は、管も弦も打楽器も素晴らしく、新潟定期演奏会の142回の歴史の中でも屈指の名演ではなかったかと思います。
特に管楽器は各パートとも完璧であり、さらに大編成のオーケストラから生み出される大音響は、生演奏ならではの醍醐味を味わわせてくれました。
前半も後半も素晴らしく、オーケストラを聴く喜びを満喫しました。コンサートホールの音響の良さも再認識し、新潟の地にいながら、こんなにも素晴らしい音楽を聴けることは幸せなことであり、大きな喜びであることを実感しました。
時刻は19時20分を回り、質量ともに大満足な演奏会でした。このあとにはアフタートークが開催されましたが、遅くなりましたので失礼させていただきました。アフタートークに参加された団員の皆さんは、最終の新幹線に間に合いましたでしょうか。勝手に心配してしまいました。
東響の皆さんは、昨夜はサントリーホール、今日は新潟、明日はすみだトリフォニーホールでの演奏会があります。長距離移動を伴う連日のお仕事ご苦労様です。
それにしまして、若きヒコックスさんの才能には恐れ入りました。新潟でアジアデビューのプログラムを聴けた幸せをお土産にして、りゅーとぴあを後にしました。外は蒸し暑かったですが、良い音楽を聴いて心は爽やかでした。
(客席:2階C*-*、S席:定期会員¥6100) |