今年もこの日を迎えることができました。私が1年で最も楽しみにしている演奏会です。この演奏会を聴くために、1年間頑張って生きていると言っても過言ではありません。
この1年間にも私の人生で最大の悲しみがあったり、苦難の渦中にあったりしていますが、今日の日のために歯を食いしばって生きてきました。
毎年同じことを書いていますが、ベルリン・フィルが来ようがウィーン・フィルが来ようが、私は新潟市ジュニアオーケストラ教室の演奏会を選びます。そういう気概で臨んでおります。
実際かなり無理して出張先から駆けつけたことも多々ありましたが、終わってみれば、それもまた楽しい思い出になっています。
演奏技術で考えれば、プロオケにかなうはずなどありませんが、青春の1ページをジュニアオーケストラに捧げ、真摯に音楽に向き合う子供たちの演奏には、プロの演奏では味わえない何かが潜んでいます。それが魅力であり、大きな感動と喜びに繋がります。プロ野球にない感動が高校野球にあるのと同じだと思います。
さて、全国には数多くのジュニアオーケストラがありますが、ほとんどはオーディションで団員を選抜しています。それに対して新潟市ジュニアオーケストラ教室は、未経験者や初心者を楽器ごとの単科教室で受け入れ、初級者のA合奏、さらに中上級者によるB合奏へと、進級試験を受けて昇級するという全国的にも類を見ないシステムを取っているのが特徴であり、誇るべきところです。現在は小学校4年生から高校3年生まで約80人で活動し、メンバーの約8割がこの教室で初めて楽器に触れたそうです。
演奏会では、初級者のA合奏と中上級者のB合奏の2つのオーケストラの演奏を聴くことができます。もちろん演奏技術でいえばB合奏の演奏が素晴らしいのですが、小中学生によるA合奏もほのぼのとした魅力があり、その両方を聴くのが楽しみです。
さらに、高校3年生はこの演奏会を最後に卒団しますが、最後の演奏となるアンコールの「威風堂々」は涙なしでは聴けず、毎年大きな感動をいただいています。
演奏会は2017年から有料になりましたが、当初は無料で整理券が配布されていました。2010年には整理券番号「0001」をゲットすることができて自慢だったのですが誰も褒めてくれません。2013年は、りゅーとぴあ開館15周年記念で、B合奏の指揮者に飯森範親さんを迎えたこともありました。
毎年団員が入れ替わるのが宿命のジュニアオーケストラですが、数々の名演奏を残してくれています。2011年の「チャイ5」、2018年の「火の鳥」、2019年の「タコ5」、2023年の「ドボ8」など、末永く語り継がれるような名演奏にも出会っています。コロナ禍中の暗くて厳しい社会情勢下の2020年の「シェエラザード」の神懸り的な演奏も忘れられません。
A合奏の指揮者の藤井裕子さんは不動ですが、B合奏の指揮者は、上野正博さん、松村秀明さん、永峰大輔さんと代わり、2023年からは碇山隆一郎さんになりました。
永峰時代が団員との絆が特に強かったようで、「TEAM DAISUKE」として結束し、お揃いのTシャツを作ったりしていました。OB/OGとなっても関係が続いていて、白山祝祭管弦楽団としての活動に繋がっているのは特記すべきことでしょう。
この新潟市ジュニアオーケストラ教室の演奏は、毎年3月末のスプリングコンサートと、夏の演奏会の2回聴くことができますので、この2つの演奏会は毎年楽しみにしています。
今年は3月30日の「新潟市ジュニア音楽教室第21回スプリングコンサート」のほか、8月17日の「ジュニアオーケストラ・フェスティバル2025 in NIIGATA」でも聴くことができましたので、3回目の演奏会ということになります。
今回のプログラムは、メインのベートーヴェンの交響曲第1番以外は、ジュニアオーケストラ・フェスティバルで演奏されており、完成度の高い演奏で驚かされました。あれから2週間が経ち、さらに練習が積まれ、どのような演奏を聴かせてくれるのか楽しみでした。
8月最後の日曜日。明日から9月というのに残暑厳しく、今日も朝から青空が見えて、日差しが強く感じられました。ゆっくりと休日の朝を過ごして家を出ました。
遠くには入道雲がモクモクしていましたが、新潟市上空には青空が広がり、ギラギラと太陽が照りつけていました。
白山公園駐車場に車をとめて、暑さ厳しい中にりゅーとぴあへと歩き、館内に入りますと、まだ開場待ちの列ができ始めたところでした。チラシ集めをしたりしている間に列が伸びてきましたので、私もその列に並んで開場とともに入場し、2階正面に席を取りました。
最近は集客に弱気のようで、今年も3階席は使用されず、1階席とステージ周りを除いた2階席だけが使用されていました。
入場のときにプログラムとともに、演奏順の訂正のチラシが配られました。当初は前半にサン=サーンスの「バッカナール」に引き続いてハチャトゥリアンの「ガイーヌ」からの4曲を演奏することになっていましたが、「バッカナール」は後半に演奏するとのことでした。
席を確保して、ロビーコンサートを聴くためロビーに出て、正面最前列のカメラマンのすぐ後ろに場所と取って開演を待ちました。
時間となり、最初は金管ファンファーレでデュカスの「ラ・ペリ」のファンファーレです。トランペット4人、ホルン2人、トロンボーン2人という編成で、華やかなサウンドがロビーに響き渡り、祝祭気分を盛り上げて、演奏会の開演を告げるに相応しい演奏でした。
続いてはフルート四重奏で、ペルトミューの「アルカディ」です。明るい曲で、休日の午後に聴くに相応しい美しい曲を、爽やかに演奏して楽しませてくれました。
次は木管五重奏で、福田洋介の「さくらのうた」です。左からフルート、オーボエ、ホルン、ファゴット、クラリネットと並んで、美しいアンサンブルで魅了しました。この曲は先日のジュニアオーケストラ・フェスティバルのロビーコンサートで、ティアラこうとうジュニアオーケストラのメンバーが演奏しましたが、今日の演奏の方がずっと良かったです。
最後は弦楽アンサンブルで、「ホルベルグ組曲」の前奏曲です。第1ヴァイオリン6人、第2ヴァイオリン5人、ヴィオラ4人、チェロ5人、コントラバス1人という編成でした。弦楽アンサンブルの定番曲のため度々聴く機会があって、先日のジュニアオーケストラ・フェスティバルのロビーコンサートで、トリフォニーホール・ジュニア・オーケストラが演奏していますが、これもまた今日の演奏の方が素晴らしく、新潟のレベルの高さを再確認することができました。
ロビーコンサートが終わり、客席に戻ってこの原稿を書いているうちに開演時間となりました。正面はそれなりに埋まっていましたが、1階前方やサイド席にはかなり余裕がありました。以前はもっと混雑していていたんですけれど、どうしたことでしょうね。
開演時間となり、最初は初級のA合奏です。団員が入場し、最後にコンマスが入場して大きな拍手が贈られました。弦の編成は、4-3-3-2-1
で、ジュニアオーケストラ・フェスティバルのときよりコントラバスが1人減っていました。ジュニアオーケストラ・フェスティバルのときと同様に第1ヴァイオリンの最後尾の1人は指導の先生のようでした。弦の少なさはやはり気になりますね。
今日の演奏曲は、ジュニアオーケストラ・フェスティバルでの演奏曲に、モーランのトレパック「ロシアの踊り」が追加されていました。
いつもと違って、白っぽいパンツルック姿が若々しい藤井さんが登場して、1曲目は定番曲のウッドハウスの「いなかの踊り」です。弦は少ないですが、それでもちゃんとしたオーケストラサウンドになっているのが凄いところです。ジュニアオーケストラ・フェスティバルでの演奏も良かったのですが、さらにふくよかなサウンドに仕上がっていて良かったです。
団員4人による挨拶と曲目紹介、団員募集の話しがあって、続いて、ウッドハウスの「2つの小品」が続けて演奏されました。
「おだやかなガヴォット」は、ゆったりとして、いかにも“ジュニア”という空気感でしたが、ほのぼのとした雰囲気が魅力に感じられました。
「行進曲」は、軽快に楽しく演奏し、躍動感を感じさせ、ジュニアオーケストラ・フェスティバルのときと同様の聴き映えのする演奏でした。
最後は、モーランのトレパック「ロシアの踊り」です。打楽器が演奏を引き締めて、躍動感を感じさせるいい演奏で、十分に楽しめる演奏でした。
大きな拍手が贈られて、藤井さんに花束が贈られ、最後に全員で礼をして、A合奏のステージは終了しました。ジュニアオーケストラ・フェスティバルのときより引き締まった良い演奏だったと思います。
B合奏用にステージ転換されている間に代表者2人による挨拶と曲目紹介があり、その後に団員が入場しました。最後にコンマスが入場して大きな拍手が贈られてチューニングとなりました。
弦は私の目視で 8-7-6-10-5 であり、弦の少なさの中にあって、チェロの多さが目立ちました。指導者も加わっておられ、第1ヴァイオリンの第4プルトは庄司愛さんと廣川抄子さんという強力な布陣で、打楽器には指導者の本間美恵子さんも加わっておられました。
碇山さんが颯爽と登場して、ジュニアオーケストラ・フェスティバルで演奏されたハチャトゥリアンのバレエ組曲「ガイーヌ」からの4曲が続けて演奏されました。
「剣の舞い」は、圧倒的なスピード感と躍動感に驚嘆し、とてもジュニアの演奏には思えないほどでした。聴衆の心を魅了し、参ったかとばかりに、ジュニアオケの凄さを見せ付けました。
「バラの乙女たちの踊り」は、少しおどけた曲調ですが、緩徐部での美しさも格別であり、引き締まった切れの良い演奏で楽しませました。
「子守歌」は、オーボエのソロに始まり、ハープが加わって、しっとりと、しんみりと美しく歌わせました。弦楽アンサンブルの美しさにもうっとりとして、ゆったりとした弦楽の流れに身を委ねました。穏やかさをかき消すような暗さが訪れましたが、再び静けさが戻ってしっとりと終わりました。
「レズギンカ」は、打楽器のフォーメーションが変わって、激しい打楽器群の爆発とともに始まりました。止まることなくどんどんとスピードアップし、激しさを増して、ホールを興奮のるつぼへと変容させ、最後は全員が起立して演奏し、ホールに興奮と感動をもたらして、割れんばかりの拍手とブラボーが贈られました。
気分も爽快になるようなパワー溢れる演奏であり、ジュニアオケの力量がまざまざと示されました。この演奏を聴いて感動しない人がいるなら、その人の感性が疑われます。このような熱い演奏を引き出した碇山さんへも大きな拍手を贈りたいと思います。「伝説のガイーヌ」として語り継ぎたいと思います
休憩後の後半最初は、サン=サーンスの歌劇「サムソンとデリラ」から「バッカナール」です。アマオケの定番曲であり、ジュニアオケも2015年に演奏していますし、7月の新潟大学管弦楽団のサマーコンサートでも演奏されています。オーボエの中東風のエスニックなサウンドで始まり、ジュニアオーケストラ・フェスティバルのときと同様の切れの良い迫力あるオーケストラサウンドで魅了しました。
管の編成が小さくなり、ティンパニ以外の打楽器が退場して、最後はベートーヴェンの交響曲第1番です。碇山さんが登場して演奏開始です。
第1楽章は、管の和音と弦の弾く音で始まり、ゆったりと曲が進みました。徐々にスピードとパワーを増して、爽やかに歯切れ良く演奏が進みました。途中の管のソロも美しく、躍動感に溢れて気分爽快になりました。引き締まった演奏で楽章を終わりました。
第2楽章は、第2ヴァイオリンに始まり、ヴィオラとチェロが加わり、さらに全体合奏となって、美しい流れの中に演奏が進みました。美しい弦楽の聴かせどころもうまくこなし、若干のほころびはありましたが、ティンパニによる味付けも良くて、ゆったりした気分で楽しみました。
第3楽章は、軽快な弦楽アンサンブルで始まり、歯切れ良くリズムを刻みました。ティンパニが重厚さを加えて引き締めてくれて、歯切れ良く楽章を終えました。
第4楽章は、ティンパニの一撃とともに始まり、第1ヴァイオリンが静かに歌い、軽快にスピードアップしてエネルギーを増しました。スピード感が気持ちよく、気分も高まりました。切れの良さがいいアクセントとなり、疾走感が心地良く、心はウキウキ。躍動感に高揚し、興奮の中にフィナーレとなりました。
この第4楽章が一番良く、最後をスピーディにまとめてくれました。終わり良ければすべて良しで、期待通りの演奏で盛り上げてくれました。
大きな感動と興奮をもたらして、大きな拍手が贈られましたが、碇山さんが身振りも大きく団員たちのパフォーマンスを讃えて、より大きな拍手を促していました。
碇山さんに花束が贈られ、ハープも含めて団員が増員され、フルメンバーとなりました。碇山さんの挨拶があり、アンコールの曲目紹介とオルガン席に着いたの濱野さんの紹介があり、いよいよ「威風堂々」の演奏開始です。
毎年のことですが、長い序奏の後にお馴染みのメロディが出てきますと、条件反射的に感動が込み上げてきます。繰り返しの後、オルガンとともに再度メロディが高らかに奏でられますと、もはや涙を抑えることができません。感動で胸が高鳴り、頬には涙がこぼれ落ち、嗚咽をこらえるのに必死でした。
今月は、8月9日に東京交響楽団、8月17日にフェスティバル・オーケストラ、そして今日は新潟市ジュニアオーケストラと、3週間で3回この曲を聴いていますが、今回の演奏が最高であることは言うまでもありません。
プロの演奏では味わえない感動がここにあります。どうしてなんでしょうね。音楽は演奏技術が全てではありません。たとえ子供たちの演奏であっても、心に響く力を持っています。
今年も素晴らしい演奏を聴くことができました。この感動を味わうために、毎年ここに駆けつけていますが、また来年のこの日まで、頑張って生きていけそうです。
子供たちに感謝し、大きな感動とともにりゅーとぴあを後にしました。外に出ますと猛暑でしたが、ホールでの子供たちの熱い演奏にはかないません。
(客席:2階C7-12、¥1000) |