松田華音ピアノ・リサイタル
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2022年5月21日(土) 14:00 長岡リリックホール コンサートホール
ピアノ:松田華音
 
スクリャービン:2つのマズルカ Op.40
スクリャービン:2つの詩曲 Op.32
スクリャービン:ワルツ 変イ長調 Op.38
ラフマニノフ:練習曲「音の絵」Op.33 より
            第2番、第 6番、第7番、第8番
            Op.39 より 第1番
ラフマニノフ:楽興の時 Op.16 より 第4番、第5番、第6番

(休憩15分)

プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第8番「戦争ソナタ」変ロ長調 Op.84
プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第9番 ハ長調 Op.103

(アンコール)
シチェドリン:バッソ・オスティナート

 今日は2年前の2020年7月に、りゅーとぴあで素晴らしい演奏を聴かせてくれた松田華音さんのリサイタルです。前回のリサイタルでは、パワーとスビード感に圧倒され、色彩感溢れる演奏に感動したことが記憶に残っており、チケット発売早々に、後先考えないままネット購入してしまいました。
 今回のプログラムは、スクリャービン、ラフマニノフ、プロコフィエフというオール・ロシア・プログラムです。松田さんは、6歳でモスクワに渡って研鑽を積み、モスクワ音楽院にロシア政府特別奨学生として入学して首席で卒業。さらにモスクワ音楽院大学院を2021年6月に終了したとのことです。前回のりゅーとぴあでのリサイタルは大学院生のときでした。
 幼少期より一貫してロシアで学ばれた松田さんですので、ロシアの音楽は得意と思われ、今回のリサイタルも期待が高まりました。

 洗濯、掃除、ネコのトイレ掃除、カメの水替えなどのルーチン業務を終え、ネコと戯れてゴミ出しをし、11時半に家を出ました。途中で昼食を摂り、いつものように吉田・分水・与板経由で長岡入りしました。交通量も信号もないこの道は、高速を使うよりも便利です。
 快適なドライブで、思いのほか早く到着し、まだガラガラの駐車場に車をとめ、リリックホールのラウンジで音楽雑誌を読んで時間調整しました。
 ほどなくして開場となり、この原稿を書きながら開演を待ちました。昨年12月以来、しばらくぶりのリリックホールですが、コンサートホールの椅子はきれいに張り替えられており、赤い椅子が色鮮やかになり、座り心地も若干良くなっていました。

 受付で配布されたプログラムを見ますと、演奏者の希望により、当初の発表から曲目、曲順を変更したとのことでした。確認しますと、当初予定されていた、スクリャービンの「幻想曲 ロ短調」が、ラフマニノフの「楽興の時」に変更されていました。

 開演時間が近付くに連れ客席は埋まり、なかなかの盛況でしたが、後方は席に余裕があり、私の隣は空席で、気兼ねなく楽しめて良かったです。なお、場内アナウンスが珍しくも男性で、新鮮な感じでした。

 開演時間となり、濃いピンクのドレスでロングヘアが麗しい松田さんが登場し、スクリャービンの「2つのマズルカ」で開演しました。
 「2つの詩曲」「ワルツ」と、休みなく続けて演奏され、途中でどの曲かわからなくなってしまいましたが、柔らかく、ふくよかなピアノの響きが、残響豊かなホールに響き渡りました。
 甘美でロマンチックなメロディにうっとりとし、激しい感情の爆発に我に返ったりと、寄せては返す波の如く、揺れ動く感情のうねりに身を任せました。
 おそらくは初めて聴く曲のように思いましたが、美しいメロディが心に響き、光り輝き透き通るようなピアノの美しさ、強奏でも濁りのない音に感動しました。

 続いてはラフマニノフの「練習曲」からの5曲が続けて演奏されました。これも途中で、今どの曲が演奏されているのかわからなくなってしまいました。
 松田さんの曲作り、演奏によるのかもしれませんが、スクリャービンで受けた感想そのままに、繊細でありながらパワーを併せ持ち、色彩感あふれる演奏で、静かな曲、激しい曲と、曲ごとの違いを楽しませていただきました。

 前半最後は、同じくラフマニノフの「楽興の時」からの3曲です。これも曲調の違う3曲が、松田さんの美しいピアノで奏でられました。強靭な打鍵での激しい場面でも、決して音は濁らず、美しい響きで魅了しました。

 前半のスクリャービン、ラフマニノフは、違う作曲家のはずなのですが、松田さんの色に染められてか、全ての曲が違和感なく繋がり、一連の作品のように感じられました。

 休憩後の後半はプロコフィエフです。まずは「ピアノ・ソナタ第8番」です。前半同様に、松田さんのパワー溢れる演奏に圧倒されました。静かな場面では、ゆったりと柔らかく歌わせ、激しい場面では、音量豊かに攻め込みました。強奏部でも決して音の濁りは感じられず、その圧倒的な迫力にひれ伏しました。

 最後は「ピアノ・ソナタ第9番」です。プロコフィエフが完成した最後のソナタですが、プログラムの解説にありましたように、第8番に比べるとシンプルさを感じる曲で、全4楽章からなります。
 これも、これまで同様に、透明感のあるピアノの音の美しさに感銘を受けました。輝くような音の洪水に身を委ね、うっとりと聴き入りました。

 大きな拍手に応えて、アンコールはシチェドリンの「バッソ・オスティナート」です。今日のリサイタルを総括するような演奏でした。
 機関銃の連射の如くパワーに溢れ、華奢にも見える松田さんの姿からは想像できないような力強さに満ちていました。私のハートは打ち抜かれて穴だらけになりました。

 内容たっぷりな重量級プログラムに圧倒され、心地良い疲労感とともにリリックホールを後にしました。なかなか聴くことのできないロシア物のプログラムも素晴らしく、大きな満足感でいっぱいでした。
 特記したいのは、リリックホールのスタインウェイから、力強くも美しい音を引き出した松田さんの素晴らしさです。まだお若いはずですが、とんでもない実力を持っておられます。これからさらに羽ばたくことは間違いなく、その活躍を期待したいと思います。

 曲目も演奏も素晴らしく、長岡遠征した甲斐のある演奏会でした。昨年からピアノのコンサートといえばオール・ショパンばかりのりゅーとぴあも、こういうプログラムを企画してくれれば良いのになあ、と思いながら家路に着きました。
 
 

(客席:14-10、¥3000)