松田華音 ピアノ・リサイタル
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2020年7月9日(木) 19:00  新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
ピアノ: 松田華音
 


ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第23番 「熱情」ヘ短調 作品57

ショパン:バラード第1番 ト短調 作品23
      バラード第2番 ヘ長調 作品38
      バラード第3番 変イ長調 作品47

(休憩20分)

チャイコフスキー:18の小品 作品72より
  1.即興曲 8.対話 11.きらめくワルツ 16. 5拍子のワルツ

ラフマニノフ:楽興の時 作品16?

(アンコール)

チャイコフスキー:18の小品 作品72より 
           18 踊りの情景(トレパークへの招待)
リャードフ:オルゴール

 毎年恒例の「りゅーとぴあ ピアノ・リサイタルシリーズ」ですが、今年は牛田智大(5月3日)、松田華音(7月9日)、藤田真央(8月26日)という期待の若手3人による3公演が組まれ、お得なセット券も発売されました。
 しかし、新型コロナウイルス感染の蔓延により、開催が危ぶまれ、私は公演中止を予想して、チケットは買っていませんでした。
 予想通り牛田さんのリサイタルは中止となり、松田さんのリサイタルもどうなるのかと心配しましたが、無事開催の運びとなりました。

 松田さんについては、今回のリサイタルまで、不勉強な私はお名前すら知りませんでしたが、プロフィールを拝見し、華々しい経歴に驚かされました。4歳でピアノを始め、6歳でロシアに渡り、名門音楽学校でピアノを学び、モスクワ音楽院に日本人初となるロシア政府特別奨学生として入学。2019年6月に首席で卒業し、現在モスクワ音楽院大学院に在学中とのことです。
 2014年11月にはドイツ・グラモフォンよりCDデビューし、「大国ロシアが育んだ名華」「ロシアを拠点に活躍する世界的ピアニスト」と紹介されています。"彼女の音楽には、聴衆を引き込む「熱」がある"というキャッチコピーが、否が応でも期待を高めました。

 このようなピアニストがいたとはつゆ知らず、これは聴かねばなるまいと考えていました。正直言えば、美しい写真に魅かれたということもあります。
 しかし、前記しましたように、新型コロナウイルス感染の拡大により、チケットが発売された当初は見通しが立たず、新潟での開催は無理と自己判断し、チケット購入はしていませんでした。

 全国での移動制限が解除され、コンサート開催の目途がつきましたので、あわててチケットを手配しましたが、その後に販売された席は限定されており、1階席、2階席の販売はなく、必然的に3階席となりました。
 感染リスクを避けるため、座席の間隔を空けた状態で発売され、密接は回避されていましたが、その中でも一番安全そうな端っこのA席を選んで購入してコンサートに臨みました。

 梅雨空で気分もふさぐ中、 仕事を早めに切り上げて、大急ぎでりゅーとぴあに到着しました。すでに開場されており、体温チェックを受け、チケットを提示し、半券は自分でちぎって入場しました。

 私の席は3階のJブロックの端で、2席だけのボックス席みたいになった場所で、私のオルガンコンサートでの定席です。1階席、2階席を見下ろし、高所恐怖症の人には怖い場所かもしれません。ステージから遠く、手摺が視界を遮りますが、その分ゆったりと気兼ねなく聴けて良い場所です。

 このコンサートのチケットは、 新型コロナ蔓延前に通常通りの密接した座席配置のまま発売されました。そのため、客席を見回しますと、1階席、2階席中央の人気のある良い席はかなり混み合っていて、密集・密接状態に見えました。その周辺は空席が広がっており、かなりアンバランスな、異様な光景に感じました。
 客同士の密接が気になる人に対しては、チケットを販売していなかった2階、3階のステージサイドの座席エリアを開放し、移動しても良いとの案内がされましたが、実際に移動した人は少数のようでした。やはり正面の良い場所で聴きたいのでしょうね。
 先日の「Stay at Niigata Cncert」は、十分すぎるほどに密集を避けた客席配置だっただけに、その差が目立ちました。発売済みの客席の再配分は困難だったものと思いますが、同じブロック内に客を分散するとか、もう一工夫ほしかったように思います。
 
 開演時間となり、松田さんが登場。スリムな体に赤いドレスとロングヘアーが麗しく感じられました。天井桟敷からステージは遠く、お顔が良く見えなかったのは残念でしたが、音響的には問題ありませんでした。

 1曲目は、ベートーヴェンの「熱情」です。キャッチコピー通りの熱い演奏でした。穏やかに始まったかと思ったのは束の間で、機関銃の如き音の連射、ダイナミックレンジの大きい攻撃的演奏に打ちのめされました。一見華奢に見えるお姿からは想像できないパワーに圧倒されました。この第1楽章の印象が、今日のコンサートの印象そのままでした。
 第2楽章はゆったりと歌わせ、第3楽章はジェットコースターか急流下りか、一発免停のスピード違反で、有無を言わせず駆け抜けました。

 続いてはショパンのバラードが3曲続けて演奏されました。第1番は、最初はゆったりと歌わせ、荒々しさはなく、女性らしさ、エレガントさを感じましたが、その後はスピードアップし、パワー溢れる打鍵で圧倒しました。
 第2番は、緩急のレンジの広さに唖然とし、第3番は、穏やかに、ゆったりと歌わせましたが、それで終わるはずはなく、火山の如く爆発して終わりました。

 休憩時間に、久しぶりに音楽仲間と遭遇。音楽談義に花が咲きましたが、私が前半に受けた印象と同じ感想を述べておられました。

 前半と同じドレスで松田さんが登場。後半最初は、チャイコフスキーの「18の小品」からの4曲が演奏されました。前半同様に緩急・強弱を大きく揺り動かし、叙情的な音楽に感傷に浸る間も与えられませんでした。2つのワルツは猛スピードで、これでもかという攻撃に参ったというしかありませんでした。

 最後はラフマニノフの「楽興の時」です。第1番は、ゆったりと歌い、いかにもラフマニノフというような甘い感傷にひたりました。第2番は、流れ出る感情のほとばしりが大きく揺れ動きました。第3番は、重くゆっくりと歩み、嘆きの音楽を奏で、しみじみと、切々と訴えてきました。第4番は、再び激しく揺れ動く感情の流れが突進し、一直線に坂道を駆け上がるように、ストレートに攻めてきました。第5番は、穏やかな音楽が流れ、束の間の癒しを感じました。第6番は、スピードアップ、パワーアップしてフィナーレを飾りました。感情を大きく揺り動かし、うねるように情熱が燃え上がる泣きのラフマニノフ節に胸を熱くしました。

 大きな拍手に応えて、アンコールにチャイコフスキーの「踊りの情景」を演奏し、猛スピードで、パワフルなスターマインを打ち上げました。
 そして、デザートとして、リャードフの「オルゴール」を、かわいらしく、軽やかに、弾けるように演奏して終演となりました。

 総じて、ベートーヴェンもショパンも、チャイコフスキーも、ラフマニノフも、みんな同じような印象でした。作曲家の個性を松田さんの色に染め、自分の音楽として創り上げていました。
 若さとパワーに圧倒され、スピード感溢れる色鮮やかな音の洪水に身を委ねました。深刻ぶらず、頭がスカッとするような演奏は爽快であり、気分良くホールを後にしました。
 
 

(客席:3階J2-14、A席:¥2500)