東京交響楽団川崎定期演奏会 第82回 Live from MUZA!
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2021年9月26日(日)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:ユベール・スダーン
メゾソプラノ:加納悦子
コンサートマスター:グレブ・ニキティン
 
フランク:交響詩「プシュケ」より 第4曲 “プシュケとエロス”

ショーソン:愛と海の詩
  第1部 水の花
  間奏曲
  第2部 愛の死

(休憩20分)

ベルリオーズ:幻想交響曲 op.14

 

 今回の川崎定期演奏会は、前日(9月25日)にサントリーホールで開催された第693回定期演奏会と同じ内容ですが、ニコニコ東京交響楽団(ニコ響)で無料ライブ配信されることになりました。
 せっかくですので、オンタイムでは視聴できませんでしたが、タイムシフト配信を利用して視聴させていただきました。東響のネット配信を視聴するのは7月17日の第692回定期演奏会以来になります。

 今回の指揮者は、かつて東京交響楽団の音楽監督を努め、現在は桂冠指揮者にあるユベール・スダーンさんです。新潟には何度も来演されており、すっかりおなじみですが、音楽監督を退任してからは来演しておらず、2015年5月の第89回新潟定期演奏会が最後です。今回はネット配信ではありますが、久しぶりにスダーンさんの指揮での演奏を聴ける貴重な機会です。来日後の隔離措置を終えての出演ですので、大変ご苦労様です。

 開演時間となり、拍手の中に団員が入場。全員揃うまで起立して待つ新潟方式が、ウイズ・コロナの時代になり、東京や川崎でも定着したようです。
 最後に、コンマスと次席が登場して大きな拍手が贈られ、チューニングとなりました。次席がコンマスとともに後から出てくるのは珍しいですが、その理由はすぐにわかりました。
 次席はなんとコンマスの小林さんなのでした。そして2列目には、アシスタントコンマスの廣岡さんと田尻さんが並び、これ以上ない強力な布陣です。久しぶりにマエストロ・スダーンを迎えるということで、力が入っているのでしょうか。オケの配置は通常の配置で14型(14-12-10-8-6)。指揮台には椅子が置かれています。

 緊急事態宣言下で、客席は半分までに制限されていますが、単に数を減らしただけで、隔席配置の市松模様にはなっていません。空席と密集のアンバランスさが気になりました。

 スダーンさんが登場して椅子に着席。指揮棒なしで演奏が始まりました。1曲目はフランクの「プシュケとエロス」です。何とも意味深な名前に思えますが、美しい弦楽アンサンブルにうっとりしました。寄せては返す波のように、感情のうねりが心に響き、官能的な音楽世界に胸を熱くしました。いい曲であり、いい演奏だったと思います。
 フランクといえば交響曲ニ短調とヴァイオリンソナタしか知らない浅学な私ですので、初めて聴く曲でしたが、このような美しい音楽を知ることできて良かったです。

 ステージ転換され、オケのサイズが小さくなって12型となり、2曲目はショーソンの「愛と海の詩」です。「詩曲」と並ぶショーソンの代表曲だそうですが、私は初めて聴きます。
 本来は、メゾソプラノ独唱はアリス・クートさんの予定だったのですが、家族の事情により出演困難になったとのことで、加納悦子さんに交代になりました。
 加納さんを聴くのは初めてですが、ヨーロッパ各地での歌劇場で活躍し、国内でもオペラやコンサートで活躍され、日本の第一人者として芸術選奨文部科学大臣賞も受賞されています。

 ブルーのドレスの加納さんとスダーンさんが登場。ゆったりと美しい序奏に導かれて、感情のうねりを官能的に表現するオケをバックに、加納さんが、切々と、朗々と愛の歌を歌い上げました。
 短かくも美しい間奏曲を挟んで、第2部もドラマチックに展開し、音楽劇が眼前で展開されているかのようでした。むせび泣くような伊藤さんのチェロの独奏も素晴らしく、切々とした愛と悲しみの歌声が心に響きました。
 実績と年齢を重ねられ、風格すら漂う加納さんならではの、重厚で存在感ある素晴らしい歌声。そして、美しい弦楽と管楽器のパフォーマンスで魅了するオーケストラ。スダーンさんが創り出した極上の音楽に身を委ね、いい音楽を聴かせていただいた幸福感に浸りました。

 休憩後の後半はベルリオーズの幻想交響曲です。オケの編成は再び14型に拡大されました。美しい弦楽アンサンブル。管楽器も素晴らしく、幻想の世界へと一気に誘われました。
 ゆったりと、思いっきりためを作って歌い上げる第1楽章。第2楽章のワルツで一息ついて、最上さんのイングリッシュホルンのソロで始まる第3楽章は、そよ風が吹きわたり、美しく、優しさを感じさせるのどかな野の風景が広がりましたが、これは嵐の前の静けさ。最上さんとティンパニが絡み合い、その後は怒涛の第4楽章へ。ラッパを吹きならしながら断頭台へと行進し、おどろおどろしい悪魔の音楽が鳴り響きました。首がはねられ、第5楽章へ。魔女たちが歌い踊る狂気の世界に舞台袖から鐘が鳴り響き、怒りの日が奏でられました。ティンパニが2組、大太鼓も2台での大爆発がこの曲の魅力。感動と興奮のフィナーレへと猛突進して駆け抜けました。
 各パートとも聴かせどころをバッチリと決めてくれましたが、カーテンコールで真っ先に起立を促されたのは最上さんでした。さすがでした。
 数度のコールの後。ニキティンさんが一礼してオケは退場しましたが、拍手は鳴りやまず、団員が去ったステージにスダーンさんが登場して拍手に応え、漸くコンサートはお開きとなりました。

 久しぶりに聴くスダーンさんと東響の熱い演奏に感動をいただきました。生で聴いたら最高だったでしょうね。無料で聴かせていただいて感謝申し上げます。
 


(客席:PC前、無料)