第19回澤クヮルテットコンサート
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2021年10月2日(土)14:00 長岡リリックホール コンサートホール
澤クヮルテット:澤 和樹、大関博昭、市坪俊彦、林 俊昭
ピアノ:大瀧拓哉
 

ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第7番 ヘ長調 Op.59-1
              「ラズモフスキー第1番」

(休憩15分)

シューベルト=リスト:ウィーンの夜会第6番 (ピアノソロ)

シューマン:ピアノ五重奏曲 変ホ長調 Op.44

(アンコール)
シューマン:ピアノ五重奏曲 第3楽章 スケルツォ より
 



 
 
 

 1990年11月に結成され、不動のメンバーで、30年の長きに渡って演奏活動してきた澤クヮルテットのコンサートです。第2ヴァイオリンの大関さんが長岡出身ということで、長岡リリックホール開館以来つながりがあり、今回で19回目のコンサートになります。
 私もこれまで何回か聴かせていただいていますが、2018年11月の第16回コンサート以来になりますので、3年ぶりになります。
 今回のコンサートは、長岡市出身のピアニストの大瀧拓哉さんとの共演が注目され、長岡遠征して聴かせていただくことにしました。

 台風の影響で、昨夜まで雨模様でしたが、台風が去り、今日は朝から爽やかな晴天となりました。まさに秋晴れというべき晴れ渡った空。気持ち良いですね。

 いつものように、高速は使わず、分水・与板経由で長岡入りしました。快適なドライブで予定より早くリリックホールに到着し、ロビーに展示されたこれまでの澤クヮルテットのコンサートのポスターをながめ、椅子に座って、この原稿を書きながら開場を待ちました。

 ほどなくして開場となり、席に着いて開演を待ちました。ステージには、前方ギリギリに椅子がセットされていましたが、音響を考慮してのことでしょうか。次第に席が埋まってきましたが、満席にはならず、空席も目立ちました。

 開演時間となり、4人が入場し、前半はベートーヴェンのラズモフスキー1番です。チェロの主題提示に始まり、第1ヴァイオリンに引き継がれ、濃密な音楽が始まりました。
 さすがに日本の重鎮であり、重厚感のある音楽を聴かせてくれました。リズムやメロディを大きく揺らすことはなく、実直に演奏を続け、自分たちの音楽を突き通しました。
 ホールの響きもあるのかもしれませんが、私の席では音色はドライに感じ、豊潤さを排除した枯れた印象を受けました。
 しかし、作り出される音には芯があり、燻し銀とでもいいましょうか、年齢を重ねた4人ならではの確固たる音楽にひれ伏すのみでした。
 軟弱な私は、もっと明るく、楽しく演奏してもいいんじゃないかと思ったりもしながら聴いていて、長大な第1楽章だけでもお腹いっぱいに感じるほどでした。
 第2楽章は、遊んだり崩したりすることはなく、ひたすら同じにリズムを刻み続け、貫かれる信念とパワーに息を呑み、圧倒されました。
 第3楽章は、ゆったりと、しっとりと歌わせて、心を打ちましたが、過度に感傷的にはならず、起伏は抑えられて、ここでも熟年の音楽を聴かせてくれました。
 切れ目なく続く第4楽章は、加速度的に熱を帯びていき、これまで温存していたパワーを開放するかのように、スピードアップ、ヒートアップして、興奮のフィナーレを迎えました。

 30年の歴史に裏打ちされた音楽には有無を言わせない力が満ちており、阿吽の呼吸とでもいいましょうか、息もぴったりで、寸分のずれもありません。
 東京藝大学長である澤さんをリーダーに、熟年の4人が作り出す音楽には、上辺の華やかさこそありませんが、水墨画の如く味わい深いものがありました。
 平均年齢は65歳を超え、体力的、技術的衰えはあるのかもしれませんが、最終楽章での高揚感は年齢を超越した力に満ちており、上質な音楽を聴いたという満足感を与えてくれました。
 
 休憩時間に椅子と譜面台が片付けられ、ピアノが設置されました。リリックホール開館25周年とのことで、澤さんによる挨拶があり、リリックホールとの関わりを、ユーモアを交えて話してくれました。

 澤さんに紹介されて大瀧さんが登場。後半の最初は、ピアノ独奏でウィーンの夜会第6番です。光り輝くピアノの音色。緩急・強弱のメリハリをつけた生命感あふれる音楽。ときに足を踏み鳴らしながら、パワー溢れる音楽は大瀧さんならではでしょう。
 力で押し切るのではなく、音色の豊かさ、輝きで魅了し、長岡が生み出した大瀧さんの音楽性の豊かさ、素晴らしさが、ダイレクトに伝わってきました。ますます素晴らしいピアニストに成長しましたね。
 
 カーテンコールの後、椅子や譜面台を並べてステージが整えられる間、再び澤さんが登場し、ピアノ五重奏曲の歴史やシューマンのピアノ五重奏曲についての解説がありました。

 4人と共に、大瀧さんが登場し、いよいよシューマンのピアノ五重奏曲の開演です。大瀧さんはいつものタブレットによる電子楽譜を使しました。
 チェロが奏でる美しいメロディが耳から離れない第1楽章。弦楽四重奏とピアノが美しく絡み合い、融合し、ベートーヴェンのときとは違った、色彩感にあふれる音楽が生み出されました。
 心に染みるメロディが、しっとりと胸を打つ第2楽章。躍動感に溢れ、爆発するような第3楽章。そして、第3楽章での戦いに勝利し、表彰式で高らかに凱歌を揚げるような第4楽章。躍動感に溢れ、生き生きとした音楽に、否が応でも興奮させられました。

 若き大瀧さんと、大きく年齢の離れた熟年の4人が、素晴らしい音楽を創り上げてくれました。ピアノと弦楽四重奏が単に交じり合うのではなく、化学反応を起こし、パワーは2倍にも3倍にもなりました。
 大瀧さんが加わることで、4人の楽器の音色までが変化し、潤いを増し、明らかに若返り、白黒写真がフルカラーの4K、8K映像になったかのような、劇的な変化を生みました。
 大瀧さんは4人に敬意を持って対峙し、自己主張しすぎることなく優しく絡み合いましたが、この一期一会の感動の演奏は大瀧さんの力があってのことであり、化学反応でいえば触媒の役割を果たし、4人を鼓舞し、躍動させた陰の主役といえましょう。

 大きな拍手に応えて、アンコールはパワーとスピードで圧倒した第3楽章スケルツォのフィナーレ部分をもう一度演奏し、感動を新たにして終演となりました。

 いい演奏会でした。帰り際、新潟の音楽界の重鎮のSさんと立ち話することができましたが、ピアノがいい音を出していましたね。このリリックホールのスタインウェイは、三善晃さんが選定したものなんだそうですね。その歴史あるピアノから豊潤な響きを引き出した長岡の俊英。将来のさらなる活躍が確約されたように思いました。

 リリックホール開館25周年を記念するに相応しい、素晴らしい演奏会でした。日本最高峰と称させる歴史ある弦楽四重奏団の重みのある演奏。そして次代を担う若者のピアノ。新潟から遠征した甲斐がありました。

 澤クヮルテットは、「カルテット」でなく、あくまで「クヮルテット」と表記しているところに、こだわりと気概、強い信念を感じます。
 これまで30年間同じメンバーでやってきて、もうすぐ31年になろうとしています。アマデウス弦楽四重奏団は40年間同じメンバーだったそうで、それに挑戦したいと澤さんが話されていました。40年といわず、50年に向けて頑張っていただきたいと思います。
 また来年も、素晴らしい音楽を届けてくれるものと思います。今度はどんなプログラムを聴かせてくれるか楽しみに待ちたいと思います。

 外に出ますと、青空が消え、雲が広がり、帰り道には雨が降り出しましたが、いい音楽を聴いて、心は晴れやかでした。

 
(客席:12-10、¥3000)