アジアユースオーケストラ 群馬公演
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2012年8月24日(金) 19:00  ベイシア文化ホール(群馬県民会館) 大ホール
 
指揮:ジェームズ・ジャッド
 



マーラー:交響曲第9番ニ長調
 
 

 マーラーが大好きな私。特に交響曲第9番は最も好きな曲であり、ここ2ヶ月ほど、毎晩聴いています。若い頃は取り付きにくい曲に感じていましたが、最近は心に染み、疲れた精神を癒してくれます。
 たくさんのCDを買い込み、とっかえひっかえ聴いていますが、たまには生演奏も聴きたくなります。しかし、新潟では演奏される機会はなく、2005年7月の東響新潟定期以来演奏されておらず、聴くためには県外に出かけるしかありません。
 昨年11月には東京でラトル指揮ベルリン・フィルを聴き、今年1月には、ハーディング指揮新日本フィル井上道義指揮京大オケ、さらに6月にはジャパン・グスタフ・マーラー・オーケストラと、立て続けに聴くことができました。
 このところコンサートからご無沙汰であり、何か良いコンサートはないかとネットで調べていたら、この公演があることが分かり、急遽前橋まで遠征することにしました。

 アジアユースオーケストラといっても馴染みがないと思いますが、ユーディ・メニューインとリチャード・パンチャスによって設立され、毎年夏にアジアの若手音楽家をオーディションで選び、3週間のリハーサルと3週間の演奏旅行を行うというもので、1990年に第1回公演が行われています。私は2007年の公演を聴いたことがあり、感動した覚えがありましたので、この公演にも期待が持てそうに感じ、聴きに行こうと思った次第です。

 今日は金曜日。当然仕事です。職場の各部署に根回しして、3時に帰らせていただきました。ずっと休みを取っていないので、たまに早く帰っても許されるでしょう。

 職場から新潟駅に直行。新幹線で高崎へ。両毛線に乗り換えて前橋に到着しました。前橋は今年1月以来です。そのときは前橋市民文化会館でしたが、今度はベイシア文化ホール(群馬県民会館)です。
 JR前橋駅北口から徒歩で20分ほど。知らない町の知らない道を、地図なしで歩くのはスリルがあり、楽しくもあります。
 駅から程なくして、前橋駅前温泉「ゆーゆー」があり、温泉好きの私は、「源泉掛け流し」という看板に誘われ、足が向きかけましたが、ぐっとこらえて本来の目的地に向かいました。
 残暑厳しい日々。内陸の前橋の暑さもなかなかです。汗を拭き拭き歩き、ハンカチはぐっしょり。途中で、涼みながら夕食でもと店を探しましたが、県庁所在地の大通りながらもめぼしい店はなく、どこに寄ることもなく、ホールに到着しました。
 当日券を買うと、すぐに開場されましたが、腹ごしらえのため、ホールのレストランで食事しました。外国の方も多くおられ、職員の方は対応に苦慮されているようでした。

 大急ぎで食事して入場。1997席という大きな多目的ホールですが、昭和46年開館ということで、かなり古さを感じさせます。ステージ上のオケの椅子も折りたたみパイプ椅子で、昭和の香りを感じさせました。

 中ほどに席を取りましたが、いやな予感がしました。やたら子供が多いのです。小学生ならいざ知らず、幼児が多数。親に抱かれた乳児までいます。いくらユースオケといっても、純然たるクラシックコンサート。ファミリー向けの曲目ではありません。
 群響を有する文化県だけあって、群馬では幼児でもマーラーを聴き、それも9番を聴くんだなあ・・、と感嘆しました。新潟では就学前の子供の入場はできないのが常ですので、ちょっと、いや、かなり驚きました。
 マーラー好きの私ですが、9番を好むようになったのは最近の話。マーラーの最高傑作ではありますが、「別れ」や「死」をテーマとした難解なこの曲を、乳幼児が聴いて楽しめるとはとても思えないのですけれど。

 けたたましいブザーの音とともに開演です。最初に、音楽監督のリチャード・パンチャス氏による挨拶がありましたが、流暢な日本語はたいしたものです。
 その後、団員が入場。最後にコンミスが入場してチューニング。オケの配置は対向配置ではなく、通常の配置です。東アジアの若者ばかりで、皆さん日本人と区別が付きません。

 ジャッドさんが登場して演奏開始。少しはやめのテンポで演奏が進められました。弦の厚みは十分で、なかなか鍛えられていることが感じられました。ホルンを始め、管も良かったですが、ファゴットなど、一部聴き苦しい箇所もあり、もうちょっと頑張って欲しかったです。
 若者の演奏ということもあってか、「明るさ」を感じさせる演奏で、暗くなりすぎなかったのは、これはこれで良かったように感じました。ただし、同じ若者の演奏で言えば、1月に聴いた京大オケには一歩、二歩及ばずというところでしょうか。

 このように、演奏はそれなりに良かったのですが、ホールは良くなかったです。古い多目的ホールですから仕方ないのでしょうが、響きが全くなく、ステージからの直接音しか聴こえません。乾いた音で、潤いが全く感じられません。これはオケのせいではなく、明らかにホールに問題があります。響きの良いコンサートホールで聴いたら、もっと感動できたものと思います。
 そしてこのホールの最大の問題は無音にならないこと。絶えずブーンという空調音(?)が聴こえていて、ピアニシモ、ピアニッシシモを味わうことができないのです。この曲を聴くには大きな問題に思います。

 もうひとつ大きな問題。開演前に感じた胸騒ぎは、やはり現実となりました。文化県の群馬であっても、さすがに幼児に1時間半近い大曲を休憩なしで聴かせるのは無理があるようで、時折話し声や、泣き声が響き、演奏中に出たり入ったりなどあり、精神の集中をそがれることがありました。響かないホールが幸いして、被害は最小限に抑えられてはいましたが、最も大事な第4楽章の終末部の音が消え行く場面でも子供の声が響いていました。
 しかし、音が消え、指揮棒を下ろすまでの数十秒間の沈黙の間は、賑やかだった子供たちも雰囲気を察知してか静かになり、息を飲むような緊張の時間を共有できました。ホールのせいで、全くの無音にならなかったのは残念でしたけれど。

 やっぱりこの曲は良いですね。聴くたびに新たな感動を体験できます。実は近いうちにもう1回聴く予定があり、楽しみにしています。

 この原稿、一旦帰りの新幹線の車内で書き終えたのですが、操作ミスで保存せぬまま消えてしまいました。その落胆、虚無感、絶望感は、人生のはかなさを感じさせ、9番を聴いた後にはちょうど良かったのかもしれません。
  

(客席:1階21−37、全席自由:2000円)