Dr.OK流インターネットの楽しみ方
下記の文章は、社会保険中央総合病院の院内報「つつじ」に掲載された記事を一部修正したものです。

 毎朝5時半に起きるのがDr.OKの日課。 真っ先にメビウス様の電源を入れます。なんせ、150MHzのご老体。お目覚めまでにはたっぷり2分はかかります・・・・・  
 インターネットを始めたのは、1996年。WIN95の動作性も安定し、3.0マシンから乗り換えたのがきっかけでした。その頃は、今よりずーっと情報に乏しく、プロバイダー契約をしたものの、インターネットに接続するのに一週間もかかってしまったのは、今となってはご愛敬。  
 さて、接続に成功すると、しばらくの間ホームページ巡りが続きます。その当時ネットサーファーなる言葉が紹介され、クリック一つで日本のページから、アメリカ、イタリア、etc.世界中の情報を手に入れたかのようなコーフン期がすぎると、むなしくなります。オモシロクナイ。暇つぶしに1時間も眺めていたら、当時ではあっという間に500円くらいの接続料。これだったらテレビを見たり雑誌を買って眺めた方がずーっと面白い。  
 ここで発想の転換。
「情報の発信者になってしまおう。」  
 今までは、情報の発信者はプロの独壇場でした。いくら有益な情報を持っていたところで、それを多くの人に伝える手段は一般人には無かったのです。それがインターネットという媒体が登場することによって、世界中の人に情報を伝えることができるかもしれないと言う点で、一般人が最強のメディアを手に入れることができたわけです。
「情報の身分制度が崩壊する可能性もある」  
 この発想が、現在200ページを越え一日平均アクセス350ヒットを誇る巨大ページを運営することとなった第一歩でした。

第一章 「まじめなおしりのはなし」黎明期  
 さて、ホームページを作ろうと思ったけど、どのような情報を伝えるか。企業が解説しているページなら、サービスや品物を売ってお金をもうけたいというコンセプトがはっきりしているのですが、個人のページでは明確なコンセプトを持つこと自体なかなかの難問です。 その当時、雑誌などで参考例として多かった(今でも多いが)のが個人の紹介ページ。 たとえば「おっくんのホームページ」なんてのを開くと・・・ 「おっくんの生い立ち」「おっくんの趣味」「おっくんの家族」etc. と続き、「メールお待ちしてます」なんてメールアドレスが載っているもの。  
 確かに名刺代わりとはなるでしょうが、「おっくんって、俺と趣味が同じで面白そうな奴だな。メールでも送って友達になってみよう」なんて誰が思うでしょう。この手の自己満足ページを運営したところで、身内以外のアクセスはほとんどないでしょうし、それ以上にホームページ運営にかかる時間と費用を冷静に考えたらその後何年もやっていられるものではありません。  
 多くの人に興味があり入手しにくい情報はないか。私はヲタクと呼ばれるほどのめり込んでいる趣味はないし、「そういう点では『肛門科』という特殊な診療科としての知識なら、条件にぴったりだ」と気づくまで、時間はかかりませんでした。さっそく病院で患者講義として行っている内容を、一般の人に解りやすい文章でまとめたページを作ってみました。「おしりの悩み相談室」というページでは、外来で患者さんによく聞かれる質問を一覧にし、さらに「E-mailを使って、個人的な質問にも24時間以内に回答する。」と宣言してしまいました。  
 ここでふと不安になったのは、その当時(今もそうだけど)大いにアクセス数を稼いでいたのはHページ。国内では「ヘアヌード解禁」が評判になっていた頃に、無修正の画像が飛び交っていたんですから。のぞき趣味の人たちが『肛門』というキーワードに誘われて、冷やかしのメールが殺到したら無視するしかないか。そこでひらめいたのが「まじめなおしりのはなし」というタイトル。さらに、痔の相談メールを送る場合、ヴァーチャル感を高め、より羞恥心を感じなくてすむように、自分をDr.OKと名乗り「Dr.OKのまじめなおしりのはなし」と最終タイトルが決まり、インターネットデビューしました。

第二章 強力な助っ人SASAKIKUN  
 その当時いくつかの肛門科病院がホームページを持っていて、病気の解説や診療案内を掲載していました。肛門科の守備範囲は狭いので、どのホームページを見たところで「金太郎飴」のようにほとんど同じ。これでは将来的に1000のホームページができたら、ヒット率は1/1000になってしまい、相当のラッキーが重ならなければ、誰にも気づかれない『野ざらし看板』のようになってしまいます。それに更新もしなければ(ほとんど更新されていないホームページが多いのも事実)アクセス料を払って見に来た人々に「実はあんまりやる気がないんだけど、流行りだからホームページ載せているけんね。」と言っているようなもの。  
 そこで限られた内容をプレゼンテーションに変化を持たせて、楽しく読んでもらおうとする企画を考えました。「肛門科というところはどのような診察を行うところなのか。」という点に焦点を絞って考えたタイトルが『肛門科へ行こう』。肛門科受診の際の注意や、診察手順、診察体位などを写真を交えて解説していくことにしました。ここで困ったのが診察体位。その当時肛門科の診察体位は、隅越先生(元副院長兼肛門科部長)が自らモデルとなった写真が肛門科の中待合いに掲示されていましたが、まさかその写真を全世界に公表するわけにも行きません。そこでその当時同僚医師(現在大阪肛門病院院長)だった佐々木巌先生に相談したところ、大阪人特有のユーモア精神のある方で、二つ返事でOK。今でも患者さんに「先生のシムス体位、色っぽいでんな」と患者さんに言われるそうです。
 その後、一般に信じられている「痔の手術は死ぬほど痛い」という誤解を解くために、何とか手術後の状態を表現できないかと考えていたところ、癌患者さんの疼痛管理に使われているフェイススケール(痛みの程度をイラストの顔の表現で表したもの)なるものを見つけ、さっそく応用。佐々木先生に5段階の表情を作ってもらって『ライヴフェイススケールSASAKIKUN』 なるページが完成しました。  
 このようにして、一風変わった医療関係のホームページを作って楽しんでいましたが、その当時、Yahooには「痔」という検索項目がありませんでした。さっそくYahooにE-mailを送って「日本人の国民病とも言える痔を検索項目に加えてほしい」と要望したところ、すんなりOK。ついでに「『Dr.OKのまじめなおしりのはなし』をYahoo推薦のcool pageとする。」とのお返事をいただき、その後Yahooでメガネマークがついたため、アクセス数が急速にのびました。いったい、何が幸いするかは解らないものです。

第三章 ホームページはDr.OKの生活を変えたか。  
 まず第一に早起きになったことです。月に200通程送られてくる痔の相談メールに24時間以内に回答すべく、冒頭の如く毎朝5時半起きでメールチェック。これだけ努力してどのくらいの患者さんが集まるかというと、インターネットを見て奥田外来を受診される患者さんは週に3〜4人程度。中には知ってか知らないでか、私の外来日以外に受診される方もいるようです。この前は、「一時帰国を2週間するので、その間に脱肛の手術を受けたい」とのメールがクアラルンプールから舞い込みました。さっそく入退院事務に事情を説明しベッド確保。成田から直接来院した初診患者さんは即入院で翌々日手術という、超特急スケジュールをこなし、その後の経過も順調で任地にお帰りになりました。  
 次にマスコミへの登場が頻繁になったこと。今までは新聞や雑誌に登場する先生はいわゆる『権威』と呼ばれる方々が中心でしたが、最近のジャーナリストの方々はインターネットを使うのは常識。そのような人々にアピールできたのか、新聞や雑誌から取材が舞い込むようになりました。昨年はついに「だいじょうぶ(小学館)」や「アエラ(朝日新聞社)」というメジャーな雑誌におじゃまして、「次はテレビ取材がくるかも」と密かな楽しみとしてます。  
 最後に、これが一番の収穫だと思うのですが、患者さんの気持ちや医療環境がより理解できるようになったこと。私のページが更新を繰り返し、膨大なものに成長できた理由には、患者さんからのメール相談が大きく影響しています。まず気づいたのは、医療側から提供したいと思っている情報と、患者さんが知りたいと思っている情報には微妙なずれがあるということ。たとえば医療費や入院期間の問題。「よその病院で、痔の手術で3週間入院で50万円かかると言われたが、、」というようなメールが案外舞い込みます。さっそく医事科に相談し作ったページが『いぼぢなおしてHOW MUCH』。  
 また、インフォームドコンセントという言葉が紹介され、マスコミでも盛んに登場しているにもかかわらず、「初診で、即手術といわれたが、十分な説明を受けられない」とか「治療内容について質問したら嫌な顔をされた」などという、お寒い現実を目の当たりにすると、医療情報の公開はまだまだ進んでいない事を実感します。

第四章 ウェブマスターへの道  
 最近、「ホームページを作りたいんだけど、、」という相談を受けることがしばしばあります。大手のプロバイダーのほとんどは、インターネット接続サービスにホームページ掲載もセット組み込まれていますから、あとはワープロが使える知識があればホームページ作成ソフトを入手することで、手軽に『ホームページ』なるものを作ることはできます。問題はそのホームページに掲載されている情報が、読み手に必要とされているかどうかと言うこと。ホームページを見るためには、インターネット接続料や通信費がかかるわけで、要するにホームページを見てくれる人はお金を払って見ているわけです。  
 幸い病院という職場には、「世のため人のために役立つ情報」というものが、様々な部署に蓄積されています。あとは強力なボランティア精神さえあれば、多くの人が訪れるホームページを運営することはさほど難しいことではありません。このように、草の根的に発生した多くのホームページを統合すれば、立派な病院のホームページができあがること請け合いです。  
 最後に私がウェブマスターをやっている、その他のホームページを紹介いたしますので、興味がある方は、ご覧下さい。
   「AKA KENSHINKAN」 (www.karate.gr.jp)
  40歳から始めた、フルコンタクト空手道場のホームページ。
  「社会保険中央総合病院大腸肛門病センター」 (www.coloproctologycenter.com)
  来るべく.com(ドット コム)の時代を先取りし、coloproctologycenter.comのドメインを取得しました。