東京交響楽団第143回新潟定期演奏会
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2025年10月19日(日)17:00 新潟市民芸術文化化会館 コンサートホール
指揮&ヴァイオリン:佐藤俊介
フルート:竹山 愛(東響首席)、濱崎麻里子(東響奏者)
オーボエ:荒木良太(東響首席)、最上峰行(東響奏者)、浦脇健太(東響奏者)
ファゴット:福井 蔵(東響首席)
ホルン:上間善之(東響首席)、加藤智浩(東響奏者)
チェンバロ:重岡麻衣
コンサートマスター:景山昌太郎
 
フックス:ロンド ハ長調
フレミング:完全なるドイツ猟師より“ファンファーレ”
J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲 第1番 ヘ長調 BWV1046
J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲 第5番 ニ長調 BWV1050

(休憩20分)

J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲 第3番 ト長調 BWV1048
テレマン:2つのオーボエとヴァイオリンのための協奏曲 TWV53:e2
J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲 第4番 ト長調 BWV1049
 

 今回の新潟定期演奏会は「入魂のバロック・セレクション」と題され、「これを待っていた! バロックの神髄ここにあり! 俊英・佐藤俊介と東響の名手たち」とチラシの文言が続きます。要するに、佐藤俊介氏と東響が誇る管楽器奏者にチェンバロを加えてのバロック音楽特集です。
 昨日の川崎定期演奏会第103回と同じプログラムで、そちらのキャッチコピーは「バロック・THEロック 佐藤俊介X東響の名手たち」となっています。

 これまでの東京交響楽団新潟定期演奏会の長い歴史の中で、バロック音楽特集のプログラムは今回が初めてです。
 メインはバッハのブランデンブルク協奏曲で、全6曲のうち4曲が演奏されます。このブランデンブルク協奏曲は、東京交響楽団の定期演奏会でも1978年以来とのことであり、新潟定期演奏会で聴けるというのは貴重な機会と言えましょう。

 なお、新潟定期演奏会で取り上げられたバッハの曲としては、チェンバロ協奏曲第3番が第32回(2005年7月、指揮:飯森範親、ピアノ:小山実稚恵)、チェンバロ協奏曲第1番が第61回(2010年9月、指揮:カラビッツ、ピアノ:ディナースタイン)、管弦楽組曲第3番が第70回(2012年3月、指揮:飯森範親)、シャコンヌとヴァイオリン協奏曲第1番が第75回(2012年11月、指揮・ヴァイオリン:ラドゥロヴィチ)で演奏されており、そのほかにウェーベルン編曲による6声のリチェルカーレが第51回(2008年12月、指揮:飯森範親)で演奏されています。
 なお、マタイ受難曲が2020年3月に予定されていた第118回で、鈴木優人地さんの指揮で演奏されるはずでしたがコロナ禍で中止され、幻の演奏会になったのは残念でした。

 ということで、東京交響楽団が誇る管楽器のトップ奏者によるブランデンブルク協奏曲をメインに、バロック音楽を大いに楽しませていただきましょう。
 そして、今日のコンサートマスターは、9月1日に第1コンサートマスターに就任された景山昌太郎さんで、新潟初お目見えとなります。ちなみに景山さんは、かつて東響のハープ奏者として新潟でお馴染みで、読響に移籍された景山梨乃さんのお兄様でいらっしゃいます。今後の活躍を期待したいと思います。

 と、ブランデンブルク協奏曲のCDを聴きながら好意的に書いてはみましたが、前半も後半も、すべてバロック音楽だけのプログラムで、小編成のアンサンブルでの演奏です。
 室内楽としての演奏会を、小さなホールで開催するには良いと思いますが、東京交響楽団という"交響楽団"の定期演奏会のプログラムとしてはどうなんでしょうね。
 出演メンバーは少なくて済み、地方公演の経費削減を図るにはもってこいのプログラムだと思いますが、前半も後半も同じような曲が並び、単調にならざるを得ず、オーケストラを聴いたという醍醐味は得られません。
 定期演奏会のプログラムとするならば、前半はバロック音楽特集として、東響メンバーの素晴らしさを披露するアンサンブル演奏にするにしても、後半は通常のオーケストラでの演奏曲目にするべきではないかなあ、というのが私の正直な気持ちです。
 まあ、いろんな考えもありましょう。バロック音楽好きには喜ばれると思いますし、これだけまとまって聴けるというのは貴重な機会であることは間違いありませんので、気分を入れ替えて楽しませていただきましょう。
 
 今週末は天候に恵まれず、昨日は強い雨が降り、今日も雲が広がって気分も晴れません。本来であれば、1時からのロビーコンサートを聴きに行くのですが、心身の疲労がたまり、夕方からの定期に備えて家で休養しました。
 3時半過ぎに家を出て、どんよりとした天候の中に車を進め、白山公園駐車場に車をとめました。チラシ集めに県民会館に行きますと、5時開演のさだまさしコンサートの開場が始まるところで、ロビーはごった返していました。
 熱気に圧倒されて外に出て、りゅーとぴあに入りますと、こちらは開場待ちの列もなく、閑散として静かな空気に満たされていました。

 自販機で喉を潤しているうちに開場となり、私も入場して席に着きました。ステージ中央にチェンバロが縦に置かれ、調律が行われていました。ステージにはチェロとコントラバスの椅子以外に椅子は並べられておらず、譜面台だけが並んでいました。

 調律師がステージから下がるとともに榎本さんが登場し、楽団長の廣岡さんを迎えて、いつものプレトークが始まりました。
 今日はサロンコンサート的な演奏会で、指揮台もなく、最大でも20人ちょっとの編成であること、ピッコロ・ヴァイオリンか使用され、調律が通常のヴァイオリンと違うことなどの話があり、興味深く拝聴しました。
 そして新潟初登場の新コンサートマスターの景山さんの紹介がありました。ドイツのオケでコンサートマスターをしていたそうで、東響とは20代の時にゲストコンマスとして共演したことがあるそうです。
 そして指揮・ヴァイオリン独奏の佐藤俊介さんの紹介があり、2004年大晦日のジルベスターコンサートで新潟に来演していることの紹介もありました。また、団員は日帰りで来ていることや、好きな作曲家のことなど、榎本さんの軽妙なトークで楽しませてくれました。

 プレトークが終わると再びチェンバロの調律が開演時間まで入念に行われていました。客の入りとしては、いつもより少なく、ちょっと寂しく感じました。私が今回のプログラムに抱いていた懸念を、多くの人が感じていたのかもしれません。

 開演時間となり、拍手の中に団員が入場しました。弦5部は 4-4-3-2-1 で、コンサートマスターは景山さん、その隣は田尻さんです。これにファゴットの福井さんとチェンバロの重岡さんが加わりました。指揮とヴァイオリン独奏の佐藤さんが登場しましたが、グレーのベスト姿でした。

 チェロ以外は立っての演奏で、佐藤さんの弾き振りでフックスの「ロンド」で開演しました。佐藤さんは黒っぽい小さめのヴァイオリンを使用し、渋い音で演奏していましたが、プレトークで話が出たピッコロ・ヴァイオリンでしょうか。いにしえの音を感じさせ、ファゴットとともに、明るく優雅な宮廷でのサロンコンサートの雰囲気を味わいました。

 続いてホルンの2人(上間さん、加藤さん)が右袖から登場してステージの右側に位置を取り、ホルンの二重奏でフレミングの「完全なるドイツ猟師より "ファンファーレ"」が短く演奏されました。
 狩猟時の信号をファンファーレとして演奏しましたが、これから続くブランデンブルク協奏曲の開演を告げる合図のようでした。

 この演奏の間にオーボエの3人(荒木さん、最上さん、浦脇さん)が静かに入場して右に位置を取り、切れ目なく3曲目のブランデンブルク協奏曲第1番の演奏が始まりました。
 編成は弦5部(4-4-3-2-1)と独奏ヴァイオリン、オーボエ3人、ファゴット、ホルン2人、チェンバロで、管楽器はステージ右側に並びました。総勢22人で、今回の演奏会ではこれが最大の編成でした。
 第1楽章は、軽快に、明るく、ウキウキするようであり、第2楽章は、佐藤さんの少しか細いヴァイオリンとともに、しんみりと、悲しげに歌いました。
 第3楽章は、再び明るく踊るようにステップを踏みました。佐藤さんの独奏は渋い音で、超絶技巧でガリガリと鳴らし、弦楽アンサンブルは美しく、管楽器は躍動的でした。
 第4楽章は、少し優雅にリズムを刻み、ゆったりと歌わせ、オーボエ二重奏とファゴットが美しく歌いました。弦はアクセントをつけて合奏し、全員でゆったりとメロディを奏で、管が軽快に歌って、ゆったりと弦が加わり、優雅な空気感の中に終わりました。

 大きな拍手に応えて全員で礼をして、後方にも礼をしました。佐藤さんが退場し、カーテンコールの後に全員が退場して、ステージ転換されました。チェンバロに蓋が取り付けられて横向きに設置されました。

 続いてはブランデンブルク協奏曲第5番です。奏者は減って、独奏ヴァイオリンの佐藤さんのほか、ヴァイオリンの景山さん、ヴィオラの西村さん、チェロの伊藤さん、コントラバスのローズブームさん、フルートの竹山さん、チェンバロの重岡さんの総勢7人です。
 第1楽章は軽快な弦楽合奏で始まり、竹山さんのフルートが加わりました。ソフトな響きのフルート、軽快に弾む弦楽、そしてチェンバロによって演奏が進みましたが、終盤のチェンバロの長大なソロが、躍動感とパワーに溢れていて圧倒されました。お見事というしかなく、唖然とするばかりでした。弦楽が加わって楽章が終わりました。
 第2楽章は、佐藤さんのヴァイオリン、フルート、チェンバロの三重奏で静かに始まり、もの悲しく歌いました。この三重奏が美しく、しっとりと、しんみりと、心に沁みました。
 第3楽章は、佐藤さんのヴァイオリン、フルート、チェンバロの三重奏が明るく歌って始まり、他の弦が加わって、明るく力強くリズムを刻みました。三重奏をはさんで全員合奏となり、軽快に演奏が終わりました。
 独奏の3人に大きな拍手が贈られ、そして全員に拍手が贈られ、3人が退場してカーテンコールを繰り返し、全員で礼をして休憩時間に入りました。

 後半の最初は、ブランデンブルク協奏曲第3番です。左に佐藤さんを含めてヴァイオリンが3人、中央にチェロが3人、右にヴィオラが3人、後方にコントラバスとチェンバロという11人編成で、全3楽章が切れ目なく演奏されました。
 美しい弦楽アンサンブルが、快活で明るく生き生きとした演奏で楽しませてくれました。各奏者が次々とメロディを受け継いでいく部分は、演奏効果も心地よく楽しめました。
 非常に短い緩徐部(つなぎ)をはさんで、ヴァイオリンソロから輪唱するようにスピーディに走り抜け、各パートが激しくせめぎ合い、熱を帯びていきました。熱い演奏にワクワクしながら聴き入り、弦楽アンサンブルの見事さに息を呑み、スピード感とエネルギー感に圧倒されました。素晴らしい演奏に大きな拍手が贈られました。

 ステージ転換され、チェンバロの蓋が外されました。弦5部(4-4-3-2-1)とファゴット、チェンバロがスタンバイし、ヴァイオリン独奏の佐藤さんとオーボエの2人(最上さん、荒木さん)が登場し、続いてはテレマンの2つのオーボエとヴァイオリンのための協奏曲です。
 第1楽章は、力強い弦楽にオーボエ二重奏と独奏ヴァイオリンが加わって情熱的に歌いました。ファゴットとチェンバロをバックにして、オーボエと弦楽がぶつかり合い、熱く演奏が進みました。
 第2楽章は、ゆったりと、しっとりと、穏やかにメロディを歌い、第3楽章は、力強くリズムを刻み、短く終わりました。
 全員で礼をして大きな拍手が贈られ、独奏者3人の素晴らしい演奏を讃えました。再び全員で礼をして、さらに大きな拍手が贈られました。

 ファゴットが退場し、代わりにフルートの2人(竹山さん、濱崎さん)が登場しました。弦5部(4-4-3-2-1)、独奏ヴァイオリン、フルート2人、チェンバロの18人編成となり、最後はブランデンブルク協奏曲第4番です。
 第1楽章は、明るく軽快なメロディが爽やかに奏でられ、独奏ヴァイオリンとフルート2人がせめぎ合ったり調和したりして、明るく躍動感のある演奏が心地良く、生き生きとした音楽を楽しみました。
 第2楽章は、暗く、ゆったりと、しんみりとした音楽が、忍び泣くように感じられました。一転して第3楽章は、明るく軽快に演奏が進み、フーガのようにメロディが受け渡されました。独奏ヴァイオリンとフルートが絡み合い、弦楽合奏とチェンバロが加わって、熱い演奏を作り上げ、次第にヒートアップして、スピーディにメロディを何度も繰り返し、抜群のアンサンブルで突き進んでフィナーレとなりました。

 熱い演奏によってホールに感動と興奮がもたらされ、大きな拍手が贈られてカーテンコールが繰り返されました。最後は今日の出演者全員がステージに出てきて拍手に応えていました。カーテンコール時は写真撮影可能でしたので、1枚撮影させていただきました。

 この記事の初めに書いた通り、当初は前半も後半も小編成のバロック音楽のプログラムで、交響楽団の定期演奏会のプログラムとしてはどうなんだろうと思っていましたが、終わってみれば素晴らしい演奏会で、何の不満もありません。
 独奏ヴァイオリンの佐藤さんもさることながら、新コンサートマスターの景山さんをはじめとする東響の弦楽陣のトップ奏者たちと、管楽器トップ奏者たちの見事なパフォーマンスに感嘆しました。
 そして、チェンバロの素晴らしさも特記すべきでしょう。長大なチェンバロ・ソロに圧倒され、チェンバロでこんなに興奮させられるなんて驚きでした。

 ブランデンブルク協奏曲と言っても、曲ごとに編成が大きく異なり、まとめて聴いても飽きることなど全くなく、曲ごとに新鮮さを感じて、ワクワク感が止まりませんでした。
 奏者間の熱いせめぎ合いや対話・調和の美しさに酔いしれ、CDでは感じられない生演奏ならではの感動と興奮を満喫しました。新潟に居ながらにして、このような演奏を聴けて幸いでした。
 立奏での演奏も新鮮でしたし、東京交響楽団が素晴らしい音楽性を持った独奏者の集団であることを再認識しました。

 終演後にはアフタートークがありましたが参加せず、大きな感動とともにホールを後にして、駐車場へと急ぎました。
 

(客席:2階C*-**、S席:定期会員:¥6100)