辻井伸行さんと三浦文彰さんをアーティスティック・リーダーとしてサントリーホールを会場に開催されている音楽祭「サントリーホールARKクラシックス」のメインとなる演奏家たちが「ARKソロイスツ」です。
今回はそのメンバーがサントリーホールを離れてツアーを行い、10月11日の甲府に始まり、19日の神戸まで、全7公演が開催され、長岡公演は2日目に当たります。
「究極の室内楽」と題されたコンサートで、Aプログラム(甲府、長岡、仙台、兵庫)、Bプログラム(札幌、愛知、大阪)がありますが、長岡はAプログラムで、ショパンのピアノ協奏曲第1番(室内楽版)をメインにして、多彩な曲を豪華メンバーで楽しむことができます。
種々雑多な曲目で、とりとめもなく感じますが、名手たちによるガラ・コンサートとして楽しめそうでしたので、チケットを買ってしまいました。とはいえ、S席11000円を買うのははばかられ、最安席のB席にしました。
ということで、先週の柏崎遠征に引き続いて、今日は長岡遠征です。毎日遠距離通勤をしている私としましては、大した距離ではありません。
長岡市でのコンサートに行くのは、5月24日以来ですが、長岡市立劇場に限れば1月18日の東京フィル以来になります。
昨日の雨は上がったものの、どんよりとした曇り空で、気分も晴れない日曜日になりました。雨が降らないだけありがたいと言うべきでしょうか。今日は新潟シティマラソンですが、文化部の私は、マラソンは走らず、長岡での文化活動です。
少し早めに家を出て、国道116号線を南下。大河津分水を渡って直ぐに左折し、信濃川沿いを進んで与板入りしました。
今日はそのまま長岡市街には進まず、三島の某所に立ち寄り、休息と昼食をとりました。つかの間のストレス解消をして、リラックスできました。
お腹を満たし、車を進めて長生橋を渡って長岡市立劇場に到着しました。新潟市を出るときは厚い雲が垂れ込んでいましたが、次第に雲が切れて、青空が見えるようになり、日も射して清々しい天気になりました。
駐車場に車をとめて、長岡市立劇場の館内に入り、ロビーでひと休みしていますと、ほどなくして開場となり、私も列に並んで入場しました。開演まで時間がありましたので席には着かず、奥のロビーでこの原稿を書きながら開演を待ちました。
開演時間となり、急いで客席に着きましたが、最安値の席ですので、ステージは遥か先です。ステージ上にはピアノと椅子が4脚と譜面台が並んでいました。
このホールば横幅が広く、室内楽にしては大き過ぎますし、残響の乏しいホールですので、音響的には難はありましょうが、これは仕方ないですね。席は正面の最後方ですので、満席のホールを見回すことができて、壮観な眺めです。
開演のアナウンスがあり、いよいよ開演です。場内が暗転してステージが明るくなりました。驚いたことに、なんとステージの左側ではなく、右側より女性4人が登場しました。
左から第1ヴァイオリン:松浦さん(緑のドレス)、第2ヴァイオリン:直江さん(白いドレス)、チェロ:清水さん(黒いパンツルック)、ヴィオラ:瀧本さん(黒いドレス)です。
1曲目は、ドヴォルザークの弦楽四重奏曲第12番「アメリカ」の第1楽章です。ヴィオラが奏でる主題で演奏が始まりました。後方の席のため、遙か遠くで音が鳴っている印象は否めませんが、慣れてしまえばそれなりの音量に感じました。残響はなく、音に潤いが感じられず、乾いた音でしたが、スルメのように味わい深く感じました。第1楽章だけだったのは残念でした。
椅子が片付けられて、ピアノの蓋が開けられました。薄ピンク色のドレス姿が麗しいフルートの高木綾子さんが、辻井さんを導いて右手より登場し、ピアノの椅子に着席させて、プーランクのフルート・ソナタです。
20世紀の曲らしい洒落た音楽が流れ出ました。互いに寄り添い、主張しながら、幽玄に響くフルートの枯れた音が、抑えたピアノとともに響きました。
第2楽章は、ゆったりと情感豊かに、美しいメロディを奏で、熱量を上げて高まるも、再び静かに、切々と音楽を歌い上げました。
第3楽章は、軽快に、生き生きと、跳ねるように音楽が湧き出て、緩急を繰り返して、静けさから力を増して、フィナーレを迎えました。
大きな拍手が贈られ、ピアノに手を掛けた辻井さんが何度も礼をして、木さんに導かれて、右袖へと退場しました。
辻井さんがトランペットのナカリャコフさんに導かれて登場し、アーバンの「ベッリーニのノルマの主題による変奏曲」です。
柔らかなピアノとともに、人の声のようなソフトなトランペットが奏でられました。聴き馴染みのあるアリアのメロディでしたが、人がアリアを歌うような柔らかな響きにうっとりと聴き入りました。軽快な曲調の変奏に変わってからは、ピアノとともにトランペットが超絶的な速吹きを披露してくれて圧倒されました。トランペットでこんな演奏ができるなんて、「お見事!」と叫びたくなるほどでした。
続けてディニークの「ホラ・スタカート」が演奏されました。よく聴くメロディですが、軽快でスピーディなピアノとともに、猛スピードで駆け回るトランペットの妙技に唖然として聴き入りました。辻井さんの影も薄くなるようなナカリャコフさんの超絶的な演奏にノックアウトされました。
大きな拍手が贈られて、辻井さんは何度も礼をして応え、ナカリャコフさんに導かれて辻井さんが右袖へと退場しました。
椅子が3脚と譜面台が並べられ、ヴァイオリンの三浦さんに導かれて辻井さんが登場し、チェロのヨナタン・ロゼマンさん、ヴィオラの鈴木さんが続いて登場して席に着きました。
前半最後は、ブラームスのピアノ四重奏曲第1番の第4楽章です。いきなりの第4楽章ですので、初めから激しく始まりました。猛スピードのピアノと弦楽三重奏がせめぎ合いました。力強いピアノに比して、弦は潤いに欠けた枯れた音に感じましたが、残響のないホールの最後方という席のためかと思います。
中間部は、ゆったりと哀愁を感じさせ、感傷的になりましたが、再び猛スピードで突進して力強くエネルギーを高めました。
そして、弦楽が甘く美しく合奏し、ピアノが呼応し、それにまた弦楽が呼応して、猛スピードのピアノとともに、エネルギーアップ、スピードアップして、大きな盛り上がりとともにフィナーレとなりました。
大きな拍手が沸き上がり、辻井さんと3人の弦楽奏者の素晴らしいパフォーマンスを讃えました。何度も礼をして拍手に応え、三浦さんに導かれて辻井さんが他のメンバーとともに退場し、休憩時間になりました。
休憩時間が終わり、ステージには椅子が1脚だけでした。フルートの木さんを先頭に、弦楽三重奏の女性3人(左からヴァイオリン:松浦、チェロ:清水、ヴィオラ:瀧本)が登場し、モーツァルトのフルート四重奏曲第1番です。チェロ以外は立っての演奏でした。
弦楽三重奏とフルートが美しく絡み合い、極上のモーツァルトの音楽世界が眼前に広がりました。残響がなく枯れたホールの音にも慣れて、明るく爽やかなメロディーを楽しみました。
第2楽章は、ピチカートに載せて、フルートがゆったりと歌い、第3楽章は、再び明るく軽やかに、のびのびと歌い、春を思わせる爽やかな空気感の中に終わりました。
ステージに、弦楽四重奏用の椅子が4脚と、コントラバス用の椅子が1脚並べられ、ピアノの蓋が開けられました。メインとなる本日最後の曲は、ショパンのピアノ協奏曲第1番(室内楽版)です。
左から第1ヴァイオリン:三浦さん、第2ヴァイオリン直江さん、チェロ:ユンソンさん、ヴィオラ:鈴木さん、右後方にコントラバス:大槻さんというメンバーです。第2ヴァイオリンの直江さんに導かれて辻井さんが登場し、他のメンバーも続いて席に着きました。
弦楽五重奏の長い序奏の後にピアノが加わって、第1楽章が始まりました。これまでの印象そのままに、ピアノは力強く聴こえますが、弦楽は響きが薄く、濃厚なロマンチックさが乏しいのが残念です。室内楽版ですので仕方ないことではありますが、少し平板に感じました。
第2楽章は、ゆったりと、しっとりと演奏が進みましたが、心に染み入るような感傷に浸るまでには行かず、平板で乾いた音により、私の心も乾いてしまいました。
続けての第3楽章は、軽やかに歌うピアノとともに盛り上がりを見せてくれましたが、大きな感動を感じるまでには至らず、ほどほどの感動で終演となりました。
辻井さんと5人の弦楽奏者に大きな拍手贈られて、カーテンコールが繰り返された後、アンコールに「チャールダッシュ」が演奏されました。
出だしでコントラバスが弓を落として喚声が上がりましたが、事故か演出かはわかりません。意表をついてコントラバス独奏で始まり、第2ヴァイオリンが続き、そして全員参加となって、三浦さんを中心に、辻井さんのピアノとともに猛スピードで飛ばし、フルスピードの興奮の中にフィナーレとなり、割れんばかりの拍手が沸き上がり、演奏会は終演となりました。
辻井さんの出番が一番多っかたですが、フルートの木さんやトランペットのナカリャコフさんの演奏も良かったです。三浦さんの演奏をもっと聴ければさらに良かったと思います。
ただし、ホールの響きと私の客席のせいだと思いますが、演奏が良くても、音響的に楽しめなかったのが残念でした。
いろいろと文句を垂れてしまいましたが、音としての不満であり、演奏そのものは素晴らしく、多彩な曲を楽しめて良かったです。「究極の室内楽」というコンサート名に恥じない内容だったことは付け加えておきたいと思います。
ホールから外に出ますと、小雨が降り出し、車へと駆け足して乗り込みました。長生橋を渡って対岸へ進み、道の駅の横を通って、いつもの抜け道で与板へと進み、信濃川沿いを北上して分水へ出て、小雨が降る中に快適なドライブで帰宅できました。
(客席:32-24、B席:¥7000) |