2024年4月から、石丸由佳さんの後任として りゅーとぴあ第5代専属オルガニストに就任した濱野芳純さんの演奏会です。
　就任記念の第1回リサイタルが2024年7月に開催され、私も聴かせていただき、聴き慣れたはずのりゅーとぴあのオルガンから、これまでに聴いたことがないような音を紡ぎ出してくれて、新鮮な感動をいただきました。
　その後もファミリーコンサート、１コインコンサート、クリスマスコンサート等を重ねて、2025年3月に第2回リサイタルを開催されました。行く予定にしてチケットを買っていたのですが、急遽高崎での群馬交響楽団の定期演奏会に行くことになり、チケットを無駄にしてしまいました。そのため今回の演奏会は是非とも聴きに行きたいと思い、早々にチケットを買って楽しみにしていました。

　今回の演奏会はリサイタルという名前ではなく「TALK ＆ PLAY I」と銘打っており、来年2月末には「TALK ＆ PLAY II」が予定されています。楽曲解説と演奏とを組み合わせた演奏会をシリーズ化するようですね。
　今回の演奏会のテーマは「ヴィルトゥオーゾ」で、「オルガン音楽で魅せる超絶技巧！」というキャッチコピーが付けられています。濱野さんのトークと、超絶技巧を楽しませていただきたいと思います。

　今日も朝から気温が上がり、暑さが厳しい土曜日になりました。いつものルーチンワークを終えて、入念に化粧して出掛けた家内の車を見送り、某所で簡素な昼食を摂り、りゅーとぴあへと車を進めました。
　空いていた駐車場に車をとめて、りゅーとぴあに入りますと、すでに開場が始まっており、チラシ集めをして入場し、この原稿を書きながら開演を待ちました。ステージ後方にはスクリーンが設置されていました。
　客の入りとしましては、これまでのオルガンリサイタル並みでしょうか。正面はそれなりに埋まっていて、なかなかの入りだと思います。

　開演時間となり、濱野さんが登場して挨拶があり、今日のテーマは「超絶技巧」とのことで、前半に演奏する曲目についての解説がありました。
　リストの「バッハの名による前奏曲とフーガ」は、バッハの名前のB（シ♭）、A（ラ）、C（ド）、H（シ）の4つの音を主題として用いられていることを音を鳴らして説明し、続いてバッハの曲を3曲演奏するとのことでした。
　まず「オルガン協奏曲」は、ヴィヴァルディの2つのヴァイオリンのための協奏曲をバッハがオルガン独奏用に編曲したもので、通奏低音やヴァイオリンをオルガンだけで演奏するのは大変だそうです。
　「いと高きにいます神にのみ栄光あれ」は、トリオ形式の曲で、コンクールの課題曲にもなる難しい曲とのことでした。
　そして「幻想曲とフーガ ト短調」は、フーガの部分がバッハの作品の中でもトップクラスに難しい曲で、足鍵盤での演奏が忙しいとのことでした。

　解説の後、いよいよ演奏開始です。オルガンに照明が当てられ、スクリーンには演奏の様子が映し出されました。
　まず最初はリストの「バッハの名による前奏曲とフーガ」です。重厚なサウンドで始まりましたが、これまでに聴いたことのないような斬新な音であり、奏者の違いにより、オルガンの音は大きく違うことを再確認しました。
　解説にあった通り、B、A、C、Hの音をテーマとして、これを繰り返しながら、ホラー映画でも観るような、ミステリアスな音楽が流れ出て、華やかに盛り上がり、静けさが訪れた後に、壮大にフィナーレを迎えました。
　これまでの歴代の女性専属オルガニストでは感じられなかった野性的ともいえるサウンドは新鮮であり、濱野さんの魅力が感じられました。

　2曲目はバッハの「オルガン協奏曲」です。先ほどとは一転して、明るく華やかな音色で、何種類もの楽器の音をオルガンで作り出し、軽やかな弦楽アンサンブルを見事に表現していました。
　第2楽章は、しっとりと、ゆったりと、しんみりと歌い上げました。第3楽章は、もの悲しさを残しながらも、快活に演奏が進みました。早いパッセージが快く響き、こんなにも軽やかで、スピーディーなオルガン演奏をこれまでに聴いたことがあっただろうかと思うほどでした。
　バロックアンサンブルの快活で華やかな音楽を、オルガンでこんなに表現できるとは驚きであり、新鮮な感動と喜びを感じました。

　続いてはバッハの「いと高きにいます神にのみ栄光あれ」です。明るい響きが心地よく、音楽は爽やかでしたが、映像で映し出される演奏風景はせわしなく、四肢を激しく縦横に動かし、まさに超絶技巧を駆使していることが示されていました。

　前半最後はバッハの「幻想曲とフーガ ト短調」です。激しく音楽が始まり、重低音が鳴り響き、その上に華やかな音楽がこだましました。
　華やかに賑やかに響くオルガン。まさに「これぞパイプオルガン！」という響きを感じました。そしてフーガは、華やかに軽快に音楽が奏でられ、足鍵盤も加わって、何重にも音が重なり合い、壮大な音楽となりました。これもまさに超絶技巧と感嘆しました。

　休憩後の後半は、再び濱野さんの解説で始まりました。後半はフランスの19世紀・20世紀の作品とのことでした。エスケシュの曲は、グレゴリオ聖歌を元にした5つの変奏曲からなる曲とのことで、メロディを弾いて説明してくれました。
　フランクの曲は祈りの曲で、盛り上る場所がないので、一緒に祈って欲しいとのことでした。デュプレの曲は、テンポ指定が速くて演奏が大変とのことでした。難解な曲なので、頑張って聴いて欲しいとの話があって、1曲目の演奏が始まりました。

　エスケシュの「《復活のいけにえに》による5つのヴェルセ」は、いかにも現代曲という曲で、確かに難解な曲でした。グレゴリオ聖歌のメロディが怪しげな響きで流れ出ました。形を変えながら、ちょっととらえどころのない音楽が流れ、様々な響きが楽しくもあり、摩訶不思議な世界をさまよいました。
　オルガンに当てられる照明を変えながら5つの変奏が演奏されましたが、宇宙的なサウンドとでもいいましょうか、SF映画の音楽にも使えそうに思いました。

　続くフランクの「祈り」は、教会のステンドグラス様の照明とともに、一転してゆったりとした音楽が流れ出ました。重厚なサウンド、地を這うような重低音か響き渡り、嘆きの気持ち、祈りの気持ちが伝わるようでした。
　熱く興奮するような音楽ではありませんが、低温やけどのように、ヒリヒリ・ジワジワと感情が高まりました。悲しみや嘆きの気持ちが爆発しそうになりますが、じっと耐えて押し殺し、祈りの音楽となりました。心にしみじみと沁みてきて、しっとりと曲は終わりました。

　プログラムの最後はデュプレの「前奏曲とフーガ ト短調」です。白い照明に変わって、曲調も変わりました。急速に軽快に踊り続け、音の噴水が湧き出るようでした。様々な音が加わって重なり合っていきました。
　曲調が変わってフーガは、重厚さも見せましたが、急速な音の噴水は湧き上がり続けました。反復しながらエネルギーを増して、壮大にフィナーレへと駆け上がりました。スピード感に溢れる演奏は躍動感・爽快感も感じました。

　大きな拍手に応えて濱野さんの挨拶があり、助手としてサポートしてくれたオルガン奏者の石川さんの紹介がありました。音色を変えるストップ操作が100回以上もあって、プロのオルガン奏者に頼むしかなかったそうです。ストップ操作も超絶技巧といえましょうか。
　この石川さんは、9月4日(木)に開催される りゅーとぴあ・１コインコンサートに出演されるとのことであり、挨拶がありました。

　そしてアンコールにバッハの「われを憐れみたまえ、おお主なる神よ」が演奏され、ゆったりと、しっとりと、穏やかな音楽が流れ、刻み続けるリズムが心地良く感じられ、極上のデザートをいただいたかのようでした。

　コンサートのテーマどおりに、超絶技巧が駆使された演奏でしたが、生み出された音楽は演奏の難しさを感じさせることなく、淀みなく心に響いてきました。
　前任の石丸さんと同様に、解説も分かりやすく、超絶技巧以外の濱野さんの魅力が溢れていました。今後も素晴らしいプログラムと斬新な演奏で楽しませてくれることでしょう。

　大きな満足感とともにコンサートホールを出て、次の公演に備えて、東ロビーに移動して休憩しながら、この原稿を書きました。
　

（客席：2階C7-11、￥2000）