トリオ・ベルガルモは、ヴァイオリンの庄司 愛さん、チェロの渋谷陽子さん、ピアノの石井朋子さんという実力と美貌とを兼ね備えた3人の音楽家からからなるユニットです。
3人とも個人で活発な音楽活動をされておられ、新潟の地で、演奏者として、指導者として、その活躍は目覚しく、いろいろな機会で何度も演奏を聴かせていただいていますが、この3人が集まってのトリオ・ベルガルモとしての演奏も魅力たっぷりです。ファンも多く、もちろん私もその一人です。
トリオ・ベルガルモとしては、2004年8月5日にスタジオスガマタ室内楽シリーズを開始され、その歴史を積み上げて来られました。私もこの室内楽シリーズに限らず、様々な場面で聴かせていただく機会があり、ここでは紹介しきれませんが、2014年7月の結成10周年記念コンサートを聴かせていただいていますので、今回の結成20周年記念コンサートも聴かないわけにはいきません。
今回は、スペシャルゲストとして、新潟の音楽界の重鎮である奥村和雄さんがヴィオラで共演し、ピアノ四重奏曲を演奏するというのも注目されます。
正直言えば、いい年をして煩悩が多い私は、同時刻で県民会館で開催されたチャーミングな廣津留すみれさんのコンサートも気になりましたが、ベルガルモファンを自認する私は、邪念を排して早々にチケットを買い、楽しみにしていました。
実は、先週の土曜日にも巻文化会館でベルガルモの演奏会があったのですが、仕事で行けず、残念に思っていましたので、このコンサートはなんとしても聴きに行かねばと思いました。
しかし、金曜日とはいえ、平日の夜の開催であり、それも開演時間が18時30分と早く、開演時間までに行けるかどうか、難しいところでした。
ずいぶん前からスケジュール調整をして根回しをし、17時に退勤する予定を立てました。急用が生じないことを願いながら仕事に励み、幸いにも17時に仕事を終えることができて、予定通りに無事に職場を出ることができました。
かなり強い雨が降るなか、通常は使わない高速道路を、安全運転の範囲で急いで進み、ホール前のコインパーキングに空きを見つけて駐車することができました。
ホールに入りますと、開場待ちの列が階段の上まで伸びていて、私もその列に並んで入場しました。このホールでの定席である左中段に席を取り、この原稿を書きながら開演を待ちました。客席は徐々に埋まり、前方に若干の空席はありましたが、なかなかの盛況となり、ベルガルモの人気のほどが伺えました。
開演時間となり、ベルガルモの3人と奥村さんが登場しました。渋谷さんは黒いドレス、庄司さんは上が白で、下が黒いパンツ、石井さんは、青いドレス、奥村さんは黒シャツです。
左からヴァイオリンの庄司さん、ヴィオラの奥村さん、チェロの渋谷さん、後方にピアノの石井さんという配置で、ピアノには譜めくりが付きました。
1曲目は、シューマンのピアノ四重奏曲です。第1楽章は、ゆったりと静かに始まり、一転して明るく音楽が流れ出ました。中間部では、再びゆっくりと静かに、どこか怪しげに響き、暗さと激しさを感じさせる音楽が迫って来ました。緩急を反復して熱量を上げ、楽章を終えました。ホールは残響が少なく、私の席ではヴァイオリンの直接音が、少し刺激的に響いてきました。
第2楽章は、ピアノとチェロで始まり、ヴァイオリンとヴィオラが加わって、足早に駆け足しました。ピチカートを交えながら、高速で飛ばして緊迫感を生み、猛スピードで走り抜けて、最後はピチカートで静かに終わりました。
第3楽章は、一転してゆったりと美しくメロディを歌わせました。うっとりと聴き入り、癒されました。バックのピアノとともに、弦の3人のそれぞれのソロも美しかったです。
チューニングをして、第4楽章は、明るく軽快に始まり、大きく歌わせながら、小気味よくリズムを刻むピアノとともに、蒸気機関車の如く駆け抜けて行きました。緩徐部をはさんで再び熱を帯びて、フーガの如く3人が競い合い、スピードアップし、高揚感を誘って演奏を終えました。
大きな拍手が贈られて、4人が退場し、ステージが整えられました。奥村さんの席が片付けられて、続いては、ベルガルモの3人により、ベッツイー・ジョラスのピアノ、ヴァイオリンとチェロのための三重奏曲「あぁ!ハイドン」です。2007年に作曲された曲で、ハイドンの交響曲第104番「ロンドン」の第3楽章のモチーフが引用されているそうです。曲名に聞きなじみがあるように感じましたが、2017年5月の演奏会でも演奏されていました。
3人が登場し、チューニングの後に、静かに演奏が始まりました。不協和音の怪しげな響きは、いかにもというような現代音楽であり、緊張感が漂いました。石井さんはピアノの奥に手を突っ込んで弦を弾いたりしていました。
聴いているうちに、何とも言い難い不気味な響きがいつしか耳に馴染んできました。ハイドンの主題がどこにあるのか、不勉強な私にはよく理解できませんでしたが、複雑に絡み合う音楽を、いや、音響を楽しみました。緊張感たっぷりな深遠な響きに、心地良い疲労感を感じました。石井さんがピアノを叩いたりして、どんどんと緊迫感が高まりましたが、最後は静かな中に曲は終わりました。
曲の理解は十分でないと思いますが、3人による緊張感たっぷりな渾身の演奏に、心は揺り動かされました。こういう現代曲をプログラムに入れる3人の心意気といいますか、矜持に感服しました。
休憩後の後半は、再び奥村さんも加わって、4人により、ブラームスのピアノ四重奏曲第3番です。4人がステージに登場しましたが、渋谷さんが楽譜を忘れて、あわてて取りに戻ったのもご愛嬌でした。チューニングの後、演奏開始です。
第1楽章は、ピアノの一撃とともに始まりました。暗く、ゆったりした出だしから、一転して激しく曲が進みました。大きなうねりを作りながら、緩急・強弱・静と動を繰り返しました。重苦しさ、緊迫感を感じさせながら激しく感情を高ぶらせました。ゆったりと歌わせるも、再び激しく熱量を上げ、最後は静かに終わりました。
第2楽章は、激しいピアノとともに始まり、力強くリズムを刻みました。緩急を交えながらもスピードを落とさずリズムを刻み続けました。緊迫感を保ちながら激しく曲が進み、大きな盛り上がりの中に終わりました。
第3楽章は、ピアノとチェロで始まりました。チェロの長大なソロは聴き応えがあり、そこにヴァイオリンが加わって二重奏で楽しませ、さらにヴィオラが加わって、極上の響きが創り出されました。ゆったりとした、しみじみと心に響く音楽が流れ出ました。感情を大きく高ぶらせて、心に秘められた憂いとともに、切ない音楽が胸を打ちました。再び朗々とチェロが歌い、美しい弦楽三重奏とピアノにうっとりする中に、甘く切なく曲が終わりました。
第4楽章は、ピアノとヴァイオリンで始まり、ヴィオラとチェロが加わって、激しさを感じさせました。せわしなくリズムを刻み続けるピアノとともに、緩急を繰り返しながら弦が歌いました。大きくうねりながら熱く燃え、ゆったりと歌わせた後、ピアノが壮大に鳴り響き、力強く弦が奏でられました。そして、静けさが訪れて演奏が終わりました。
4人による素晴らしい演奏に心打たれ、大きな拍手が贈られて、好演を讃えました。拍手に応えてのアンコールは、エルガーの「愛の挨拶」を爽やかに演奏し、心和やかにさせてくれて、記念すべき20周年の演奏会は終演となりました。
新潟の音楽界のレジェンド・奥村さんを迎えての演奏会は、聴き応えあるものでした。日頃なかなか聴けない曲であり、大きな満足感をいただきました。
20周年ということで、ベルガルモの皆さんは、20年の歴史を積み上げられたわけで、年齢は・・。まあ、それはそれとして、円熟味が加わって魅力は倍増し、味わい深い音楽が創り出されました。
新潟の宝ともいえるベルガルモの皆さんの今後のさらなる活動を祈念し、これからも心の中で応援していきたいと思います。
次の30周年記念コンサートのときは、私はどうなっているのか希望は持てませんが、元気で聴きに行ければうれしいな、などと夢想しています。
外に出ますと、相変わらずの天候でしたが、いい音楽を聴いた満足感に心は晴れ晴れで、気分よく自宅へと車を進めました。
(客席:F-6、\2500) |