明日はスポーツの日で、昨日から3連休の週末となりました。スポーツの秋ということで、新潟市内では新潟シティマラソンで盛り上がっていますが、文化部の私は、音楽を楽しもうと思います。
今週もたくさんの公演が開催されていますが、私は北区文化会館で開催された石井琢磨さんのリサイタルを聴かせていただくことにしました。
石井琢磨さんについては、ウィーン在住のピアニストで、「たくおん」名義でクラシック系YouTuberとして活動しているくらいの知識しかありませんでした。
しかし、プロフィールを拝見しますと、「1989年、徳島県鳴門市生まれ。 東京藝術大学音楽学部器楽科ピアノ専攻を経てウィーン国立音楽大学ピアノ科に入学、同大学ピアノ科修士課程を満場一致の最優秀で卒業。ポストグラデュアーレコース修了。オーソドックスな古き良きクラシック音楽に主軸を置きながら、「クラシックをより身近に」をコンセプトにした
動画配信も行う新しいタイプのピアニストとして活動している。」とのことで、2016年ジョルジュ・エネスク国際コンクール(ルーマニア・ブカレスト)ピアノ部門第2位受賞という実力者です。
「たくわん村」というオフィシャルファンクラブサイトがあり、全国にたくさんのファンがおられる超人気のピアニストでいらっしゃいます。
現在「47都道府県ツアー
〜ウィーンからあなたの街へ〜」で全国を巡っていて、現在30箇所を制覇しています。新潟県としては、昨年2月19日に新潟市北区文化会館で公演を開催していますが、この日は他の演奏会と重なって参加できませんでした。
今回は3枚目のアルバム「Diversity」の発売記念のリサイタルツアーで、9月7日から11月17日まで、11公演が開催されます。新潟公演は今回も新潟市北区文化会館での開催となりました。中央区ではなく、北区というのが注目されますが、館長さんのお力でしょうか。
ただし、公式サイトは若い女性をターゲットにしたようなデザインですし、チラシもアイドルチックな、ちょっと際物的なクラシックコンサートらしからぬデザインです。実際クラシックの枠を超えた活動をしておられるわけですが、このリサイタルも若い女性を中心とした集客が予想されました。
私のようなジジイを拒否しているようにも感じられ、チケットを買うのを何度もためらったのですが、せっかくの連休ながらも他に予定がありませんでしたので、思い切ってチケットを買ってしまいました。
今週末は天候に恵まれ、今日も朝から青空が広がりました。すがすがしい秋晴れで、気分も高揚してきます。朝早く起きて、他の記事を一旦更新し、所用を済ませて、簡素な昼食を摂って家を出ました。
今週の水曜日には「福間洸太朗ピアノ・リサイタル」に行く予定だったのですが、残念ながら行けませんでしたので、今日は予定通りに出かけられて幸いでした。
快晴の空の下、日差しに照らされながら、バイパスを走りました。海老ケ瀬ICから下道を走り、渋滞もなく、快適なドライブで北区文化会館に到着しました。
予定より早く着きすぎましたので、駐車場で時間をつぶし、文化会館の周囲を散歩して、頃合いをみて館内に入りました。
指定席ですので、急ぐこともないのですが、ロビーは開場を待つ人たちで賑わっていて、CDやグッズの販売コーナーにも女性たちの長い列ができていました。
予想通りに、圧倒的に女性が多かったですが、それなりのご年齢の方々が主体で、アウェイ感を感じずに済みました。
ロビーで館長さんにお会いして挨拶し、開場の列に並んで入場しましたが、館長さん自ら受付に立たれておられました。主催公演とはいえ、ご苦労様です。
開演時間が近付くに連れて客席は埋まりましたが、男性は数えるほどで、明らかに9割以上は女性でした。さすがの人気に恐れ入りました。ステージには、ピカピカに磨き上げられたヤマハのフルコンサートグランドピアノ(CFIIIS)がスタンバイしていました。
開演時間となって場内が暗転し、石井さんが登場しました。チラシの派手な衣装ではなく、普通のスーツで安心しました。当たり前ですね。挨拶代わりに、2曲が続けて演奏されました。
1曲目は、モーツァルト(リスト編曲)の「アヴェ・ヴェルム・コルプス」です。ゆったりと、しっとりと、ピアノを豊かに響かせて、輝きのあるピアノにうっとりとしました。
続けての2曲目は、グリュンフェルトの「ウィーンの夜会」です。一転して、スピーディーに、華やかにウインナワルツを奏でました。「こうもり」や「美しき青きドナウ」などのメロディが散りばめられていて、楽しく聴かせていただきました。
ここで石井さんの挨拶と自己紹介がありました。「クラシックをより身近に」をコンセプトに活動していること、北区文化会館は2回目であること、今日のプログラムの趣旨は多様性であり、伝統、革新、対比の3つをコンセプトとしていることなどを話してくれました。
3曲目は、ござさんの編曲による「ウィーン・パラフレーズ」で、ウィーンのニューイヤーコンサートの雰囲気を楽しんでもらおうということで編曲をお願いしたそうです。「美しき青きドナウ」「トリッチ・トラッチ・ポルカ」「ラデツキー行進曲」などのおなじみのメロディが形を変えながら出てきて、華やかで豪華な演奏で楽しませてくれました。
一旦退場した後、4曲目は、ドビュッシーの「ゴリウォークのケークウォーク」です。ドビュッシーは、ベートーヴェンやリストと並んで革新的であり、この曲は黒人文化とクラシック音楽を融合させた曲だそうです。緩急のアクセントを大きく取って、当時では革新的であった音楽を、リズミカルに演奏してくれました。
5曲目は、シューマン(リスト編曲)の「献呈」です。ゆったりと情感を込めて演奏し、熱い思いを音楽に込めて感情を吐露しました。張り裂けるような熱い思いが伝わってきました。
再び退場した後、前半最後の6曲目は、石井琢磨さん自身の編曲によるチャイコフスキーの「花のワルツ」です。今日の演奏会のメインディッシュのひとつで、1年をかけて編曲した自信作だそうです。
オーケストラを聴くかのように、曲の良さを見事にピアノで表現し、ゴージャスなサウンドで楽しませてくれました。華やかに調律されたピアノから美しく輝くような音が紡ぎ出されました。後半は、石井さんの言う革新的な空気感も感じさせ、ピアノ曲としても魅力ある編曲であり、演奏だったと思います。
休憩時間となり、ロビーの販売コーナーは大混雑でした。終演後に商品のお渡し会があるそうで、多くの人がCDやグッズを買い求めておられました。
館長さんとお会いして、前半の感想などをお話させていただきました。まだ公表されていないので名前は書きませんが、来年8月10日にピアノのリサイタルを開催するそうです。楽しみにしたいと思います。
後半は、石井さんの「ただいま〜」の声で始まりました。昨年2月19日のここでの演奏会に来た人という問いかけで、多くの人が手を挙げて驚きました。ファンが多いんですね。
後半1曲目は、グリーグの「朝」です。朝もやが漂うような場面を想像する曲ですが、静かに夜明けを迎えたものの、すぐに日が昇って昼になるような華やかさを感じました。
ここで、2曲目と3曲目を続けて演奏するとのお話があり、各曲の説明がありました。坂本龍一さんはブラームスの「インテルメッツォ」が好きで、旅行先ではいつもこの曲を聴いていたということ、坂本さんの「インテルメッツォ」はブラームスをリスペクトして作曲したこと、ブラームスとシューマンとの関係、クララ・シューマンとの出会い、未婚のブラームスは終生クララを支え続けたこと、そして、「インテルメッツォ」は、ブラームスの最後から2番目の曲で、クララに献呈された曲であることなど、興味深い話をしてくれました。
そして、坂本さんの「インテルメッツォ」は、しっとりとした穏やかさの中に、熱い思いが感じられ、切々と胸に沁みてくるようでした。
続くブラームスの「インテルメッツォ」は、静かに演奏が始まりましたが、優しさの中に情熱も感じさせ、ラブソングと言いますか、切ない恋の歌のように感じられました。
ここで退場した後、4曲目は「チム・チム・チェリー」です。菊池亮太さんに「ラ・カンパネラ」風に編曲を依頼したそうです。菊池さんとのツアーの最中にも話し合ったそうですが、ダイナミックで聴き応えある曲に仕上がっていました。確かに「ラ・カンパネラ」を髣髴させ、大きな盛り上がりと興奮をもたらしました。素晴らしい演奏に、石井さんが退場した後も興奮は収まらず、ホール内にはどよめきが残っていました。
石井さんが登場し、最後の曲は、本日のメインディッシュというホルストの「ジュピター」です。この曲を弾くときは、精神を集中して「ゾーンに達する」気分で臨むそうです。宇宙旅行するような気分で聴いてほしいと話されて、精神集中した数秒の沈黙の後に演奏が始まりました。
かなり速めに演奏が始まり、ダイナミックで豊潤なサウンドがホールを満たしました。中間部でのおなじみの主題は、ゆったりと、しっとりと、そして重厚に歌い上げました。そして最初のテーマに回帰して、スピーディに華やかに、壮大に歌い上げ、大きな感動の中にフィナーレとなりました。
ホールは熱狂に包まれ、ほとんどの客が総立ちとなるスタンディングオベーションとなりました。鳴り止まない拍手の中、石井さんがなんとホールの右側の出入り口から客席に登場し、更なる興奮と熱狂をもたらして、左側の出入り口に消えました。
石井さんがステージに登場して挨拶があり、アンコールに自作の曲である「懐かしさ」が演奏されました。自分の曲なのに曲名を言い間違えたりしたのもご愛嬌で、しっとりとした美しい曲を、情感豊かに演奏しました。
何を懐かしむのか、青春のあの頃でしょうか。秋のあの日の夕暮れでしょうか。聴く人それぞれに懐かしさを感じたものと思います。
そして再びマイクを取り、明日も頑張ろうというエネルギーを聴く人に与えたいという思いで演奏していること、ウィーンのホールを1日借りて収録したミュージックビデオのYouTubeでの再生回数が100万回を超えたことなどを熱く語り、最後に「ラ・カンパネラ」を変幻自在に演奏し、聴衆に更なる熱狂をもたらしました。
そして、最後に石井さんの要請により、全員で大きな声で「ブラボー」を叫んで、興奮と感動のリサイタルは終演となりました。
多くのファンが集まったとはいえ、これほどホールに熱狂をもたらしたクラシックの演奏会はめったになく、大きな感動をいただきました。
親しみやすい曲を、素晴らしい編曲と演奏で聴かせてくれて、気兼ねすることなく音楽を楽しむことができました。石井さんによるわかりやすい曲目解説と、穏やかな話し振りも魅力たっぷりでした。多くのファンの心をつかんでいるのもよく理解できました。
石井さんが最初に話しておられたように、クラシックをより身近に感じさせてくれたことは間違いありません。このようなコンサートを通じて、クラシック音楽を知り、楽しんでくれると良いですね。
これが芸術だという自己満足とともに、精神を集中して、息を凝らして、神経をすり減らして音楽を聴くのも良いのですが、やっぱり音楽は楽しく聴くのが一番です。
このようなコンサートを招聘した北区文化会館の館長さんをはじめ、関係者の皆さんの慧眼と企画力を賞賛したいと思います。
終演後のロビーは、受け渡し会のために並ぶ人たちでごった返していました。盛り上がって何よりでした。気分も晴れやかに外に出ますと、日は傾いていましたが、空は晴れ渡っていました。素晴らしい休日の午後を過ごせて良かったです。
→ 石井琢磨さんの
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(客席:13-3、\5000) |