2002年12月に結成された TOKI弦楽四重奏団を母体として、新潟出身・縁・在住の音楽家により編成された弦楽アンサンブルが、新潟シンフォニエッタTOKIです。
2023年8月5日にデビューコンサートを開催し、私も聴かせていただきましたが、12月2日に開催された第2回定期公演は、他の公演と重なってしまって聴きに行けませんでしたので、今回の第3回定期公演は是非とも聴きたいと思い、早々にチケットを買っていました。
メンバーは、これまでと若干入れ替わりがありますが、鍵冨弦太郎、平山真紀子、鈴木康治、上森祥平のTOKI弦楽四重奏団の4人を中心に、活発な演奏活動をされている音楽家たちが結集しています。その中には音大で学ぶ新進気鋭の若手演奏家の吊前もあり、メンバーのプロフィールを見るだけで期待が高まりました。
プログラムは、マニアックな曲を演奏してきたTOKI弦楽四重奏団の流れを汲んで、意欲的な曲目が並んでいます。イギリスの作曲家の作品を中心にプログラムされていますが、これまで聴いたことがないような曲ばかりです。
集客的にはどうかなとは思いましたが、新潟のような地方都市では、この機会を逃せば今後も聴けそうもありません。そんな曲を演奏する心意気に応えて、こちらも心して臨みたいと思います。
いつものように、与えられたルーチンワークを終えて、某所で簡単な昼食を摂って、暑さ厳しい中に白山公園駐車場へとに車を進めました。ガラガラの駐車場に車をとめて、県民会館を覗いた後にりゅーとぴあ入りしました。
開場時間間際ではありましたが、ロビーは静かな空気が流れており、チラシ集めをして、開場とともに入場し、この原稿を書きながら開演を待ちました。
客席は、3階は使用されず、1階と2階のB/C/Dブロックのみ使用されましたが、1階席の左右、2階席の各ブロックの後方は空いていました。超マニアックなプログラムということを考えれば、集客はまずまずと言えましょうか。
開演時間となり、拍手の中に団員が入場。最後にコンマスの鍵冨さんが登場して、全員で礼をして、チューニングなしで演奏が始まりました。左から第1ヴァイオリン5人、第2ヴァイオリン4人、チェロ3人、ヴィオラ4人、右後方にコントラバス2人で、総勢18人です。チェロ以外は立っての演奏です。
1曲目は、バリーの「レイドノー嬢の組曲《です。バリーという作曲家は始めて聞きましたが、近代イギリス音楽界の礎を築いた音楽家で、ブラームスを敬愛し、ヴォーン=ウィリアムズ、ホルスト、エルガーらに大きな影響を与えているそうです。
レイドノー嬢というのは誰なんだという疑問を持ちながら演奏を聴きましたが、いきなりの豊潤な弦楽アンサンブルの美しさに感動しました。「うあ~!プロの音だあ~!《と感激しましたが、実際プロの演奏ですので当然ですね。
6曲からなる組曲でしたが、部分的に弦楽四重奏で演奏される場面もあり、その美しいアンサンブルに感嘆し、各曲ともうっとりと聴き入りました。
第1曲の後に拍手が入り、第2曲の後にも小さな拍手が入りましたが、初めての曲で戸惑った方がおられたのでしょうね。
第3曲をうっとりと聴き、第4曲の切れの良いリズムを楽しみ、第5曲は静かにゆったりと聴き入り、第6曲は快活に明るく、切れの良いリズムでフィナーレとなりました。
当然はじめて聴く曲でしたが、各曲の対比も鮮やかに、素晴らしい演奏によって、爽やかさと気品が漂う音楽を存分に楽しみました。
いきなりの美しい音楽に、会場から大きな拍手が贈られ。拍手に応えて全員で礼をして、ステージから退場しました。
ここで代表者である平山さんによる挨拶あり、曲目紹介がありました。1曲目については、誰も聴いたことがないはずの曲だと話しておられましたが、演奏する方もこれまで聴いたことがなかったとのことでした。こういう秘曲を紹介してくれるのはありがたいですね。
2曲目は、ブルッフの「ヴィオラと管弦楽のためのロマンス ヘ長調《です。平山さんが鈴木さんの演奏を前提に、ヴィオラソロと弦楽合奏版として編曲したものです。
ドイツの作曲家・ブルッフは有吊ですが、ヴァイオリン協奏曲やスコットランド幻想曲などは聴く機会がありますが、この曲は知りませんでした。
しっとりと艶やかなヴィオラの美しさ、バックの弦楽の美しさに息を呑みました。叙情的で心にしみる音楽は、まさにロマンスです。表現する言葉が見い出せませんが、美しい音楽と美しい演奏にうっとりしました。あまりの美しさに胸が熱くなり、ヴィオラの素晴らしさを堪能しました。これを聴けただけでも来た甲斐があったと思うほどでした。
一旦ステージから下がって再登場し、チューニングの後にホルストの「セントポール組曲《が演奏されました。イギリスの作曲家・ホルストは説明するまでもないでしょう。今日のプログラムの中で、この曲が一番知られている曲かと思います。
1曲目は、軽快にリズムを刻みましたが、その中に重厚さも感じられ、2曲目は、さざ波のように繊細に輝き、3曲目は、コンマスの鍵冨さんのソロやヴィオラとの掛け合いも美しく、アラビア風の香りも交えながら、緩急のアクセントも心地良く感じました。そして4曲目は、軽快に明るくステップを踏み、スキップしながら駆け足し、激しく踊りました。グリーンスリーヴスのメロディも交えて、聴き入るうちにフィナーレとなりました。
休憩後の後半最初は、ビーバーの「バッタリア《です。ビーバーはオーストリアの作曲家で、ロザリオのソナタの「パッサカリア《が好きで、CDを持っていますが、「バッタリア《は聴く機会がありません。
「バッタリア《は、「戦い《「戦争《という意味ですが、実はこの曲を1回だけ実演で聴いたことがありました。もう26年も前の話しになりますが、イル・ジャルディーノ・アルモニコの演奏を新潟テルサで聴いていて、17世紀のバロック時代の曲とは思えない新鮮な感動を感じたことを思い出します。
ステージ上の配置は変更されて、コントラバスの2人が左右に分かれていました。メンバーが登場して、チューニングの後に演奏が始まりました。
第1楽章は、軽快に激しくリズムを刻む中に優雅さもありますが、足を踏み鳴らしての演奏は迫力がありました。第2楽章は、上安定なメロディでしたが、前列の老婦人が席を動き回っていて気をとられるうちに終わり、第3楽章は、軽快に駆け足し、第4楽章は、コントラバスの打楽器のように叩くようなリズムとともにコンマスが歌い、チェロが紙を挟めて演奏したりと斬新な演奏に驚き、第5楽章は、一転して柔らかなリズムで優雅に踊り、第6楽章は、弦楽四重奏で、しっとりと、染み入るように美しく演奏し、第7楽章は、再びコントラバスが激しく弦を叩き、激烈な戦いとなり、第8楽章は、戦いの後の悲惨な静けさが訪れ、照明がゆっくりと落とされて、静けさの中に、死者への追悼の念とともに曲を終えました。
350年前(1673年作曲)の曲とは思えない斬新な曲であり、バロックというよりロックを聴くかのような、新鮮な感動をもたらしました。多彩な演奏技法や足踏みを駆使した音楽は聴き応えがあり、生演奏ならではの感動をいただきました。
照明効果もあって、激しい戦いと、その後の悲しい現実が表現され、現在世界の各地で行われている戦争の悲惨さを感じさせました。
ここで平山さんの話があり、次に演奏するティペットの曲についての説明がありました。この曲を演奏するために新潟シンフォニエッタTOKIを結成したとのことで、曲への思い入れの強さを感じました。演奏するにしても、レンタル楽譜が高額であり、大変だという裏話もありました。
ステージが大きく配置転換され、入念な位置決めがされて、ティペットの「コレッリの主題による協奏的幻想曲《です。
ティペットについては何も知りませんでしたが、20世紀に活躍したイギリスの作曲家で、この曲は、コレッリの生誕300周年を記念して作曲されたそうです。
ステージ正面にヴァイオリン2人とチェロ。正面後方にチェロ2人、さらにヴァイオリンとヴィオラが左右に2人ずつ配置され、コントラバスも左右に分かれるという複雑な配置です。要するに、ソリストとしてのヴァイオリン2人とチェロ1人と、左右に分かれた弦楽アンサンブルということで、いかにも現代音楽らしいですね。
曲は現代音楽らしからない聴きやすい音楽に感じましたが、複雑極まりない深遠な音楽であり、混沌とした音のスパイラルに溺れそうになりました。音は渦を作って天へと昇っていき、そして、いつしかトランス状態へと昇華し、穏やかさを取り戻して、ゆったりとした音楽の大きな流れに身を委ねました。18人の奏者全員がソリストみたいな複雑さが心地良さにも感じられました。そして、熱を帯びていきますが、激しい感情のゆらぎに取り乱すことなく、ゆったりと曲を閉じました。
平山さんが「昇天するような興奮《「天国に昇っていくような感動的な感覚《と表現されていましたが、じわじわとボディブローのように心を揺さぶる音楽に、大きな感銘を受けました。
ステージが再び大きく転換され、今日の演目について鍵冨さんの話がありましたが、聴く方は知らない曲ばかりだったと思いますが、演奏する方も知らない曲ばかりだったとのことでした。そんな曲に挑戦した意気込みを賞賛したいと思います。
そして、最後の曲は、エルガーの「序奏とアレグロ《です。エルガーはイギリスを代表する作曲家ですので、いろいろな曲を聴いていますが、この曲は初めてです。
弦楽合奏と弦楽四重奏のための曲で、ステージ前方に弦楽四重奏(鍵冨・平山・上森・鈴木)が並び、後方に弦楽アンサンブルが左から、第1ヴァイオリン4人、第2ヴァイオリン3人、チェロ2人、ヴィオラ2人、右後方コントラバス2人が並びました。
ゆったりと美しい序奏から、スピードを上げて、そして、大きく揺れながらエネルギーを増しました。静けさを取り戻した後に徐々にスピードアップし、エネルギーを増しました。緩急を繰り返して大きなうねりとなり、大きな流れは大海原へと流れ出てフィナーレとなりました。
大きな拍手に応えて、アンコールにビーバーの「バッタリア《の一部をもう一度を演奏し、感動の演奏会は終演となりました。多彩な演目で飽きさせずに楽しませ、美しい弦楽アンサンブルで聴衆を魅了しました。
新潟で聴きうる最良の弦楽アンサンブルであり、新潟の地に結集した新潟縁の音楽家たちの素晴らしさを実感しました。
次の第4回演奏会は、12月7日(土)に、りゅーとぴあ・コンサートホールで開催され、バッハのブランデンブルグ協奏曲第3番やレスピーギの「リュートのための古風な舞曲とアリア《というオーソドックスな演目が予定されています。楽しみにしたいと思います。
終演が16時前でしたら県民会館小ホールに急いで、16時開演の演奏サークルぽんぽこの室内楽サマーコンサートにはしごする予定だったのですが、16時をかなり過ぎていましたので断念しました。いい音楽を堪能した後ですので、心残りはありません。
期待以上の素晴らしい演奏に、大きな感動と満足感をいただき、いい音楽を聴いた喜びを胸にホールを後にし、暑さが厳しい中、駐車場へと歩みを進めました。
(客席:2階C5-12、S席:¥5000) |