3月のような2月が終わって、2月のような3月になり、肌寒い日が続いています。今日も気温は低いですが、雨や雪は降らずに済んで良かったです。
こんな今日は、りゅーとぴあでは人気ピアニストの牛田智大さんのリサイタルがあり、新潟の音楽ファンはそちらに行くでしょうから、私は五泉市で開催されたこのコンサートへ参加することにしました。
このコンサートは五泉市の村松地区にあるさくらんど会館が所有するベーゼンドルファーのピアノを使用してのコンサートで、毎年魅力あるピアニストを招聘してくれますので、意外な穴場になっています。昨年の實川 風さんのコンサートに引き続いて、今年も参加させていただくことにしました。
今年の出演は山中惇史さんです。昼の部・夜の部各250席限定で2回の公演が開催されましたが、夜の部に参加させていただきました。
不勉強な私は、今回のコンサートまで山中さんのお名前は存じ上げませんでした。東京藝大の作曲科で学ばれた後にピアノ科で学ばれたそうで、ピアニストとしての活動のほか、作曲家・編曲家として活発な活動をされています。私にとりましては、今回初めて聴くピアニストであり、楽しみにしていました。
仕事を早めに片付けて、五泉市村松へと向かいました。職場から近く、ほどなくして村松市街に隠れている五泉市さくらんど会館に到着しました。
駐車場に車をとめて館内に入りますと、ちょうど開場となり、イベントホールの客席に座ってこの原稿を書きながら開演を待ちました。
会場のイベントホールは、体育館風の多目的ホールですが、音響反射板を備えたステージがあり、パイプ椅子を並べて、最大1000人を収容できる大きなホールです。
ホールの床に緑色の絨毯が敷かれ、広いホール空間の中で、ステージ前に250席の折り畳みパイプ椅子がこじんまりと並べられていて、ガランとした空間が若干の寂しさを感じさせました。
いかにもというようなローカルな雰囲気が漂い、音楽ホールでのクラシックコンサートの空気感は感じられません。このアットホームな雰囲気が魅力とも言えましょうか。
ステージには自慢のベーゼンドルファーが設置され、入念な調律が行われていて、その音を聴くうちに気分が高まりました。
ちなみに、ここにあるベーゼンドルファーの最上位機種である Model290インペリアルは、通常の88鍵の鍵盤に加えて低音側に9鍵拡張されて、全部で97鍵あります。
コンサート用ピアノの定番であるスタインウェイD274より一回り大きいピアノで、名前の如くピアノ界の皇帝というべきモデルです。現在の販売価格をネットで調べますと、何と2860万円〜4191万円!であり、驚きです。
県内の音楽ホールのピアノについては、随分昔に記事にしましたが、この超高級ピアノがなぜか新潟には多いんですよね。この五泉市さくらんど会館のほかに、りゅーとぴあ、新潟市音楽文化会館、新潟テルサにあるほか、見附市文化ホール、聖籠町文化会館、村上市民ふれあいセンター、ハートピア中郷、アミューズメント佐渡などにあります。せっかくの高価なピアノですので、是非とも有効活用していただきたいですね。
開演時間となり、山中さんがステージに登場して、自作曲の「憧れ」で開演しました。優しく穏やかな小品で、挨拶代わりにふさわしい美しい曲であり、演奏でした。コンポーザーピアニストとしての山中さんの魅力が、この1曲で伝わってきました。
音楽ホールではありませんので、空調の音がうるさかったりしましたが、音の響きそのものは良かったです。平土間のホールですが、シューボックス型のホールと言えなくもなく、音響的には悪くはありません。考えてみますと、かのウィーン楽友協会の大ホールも平土間で、客席を取り払って舞踏会を開催したりしてますものね。
ここで山中さんの挨拶と、ベーゼンドルファーの解説、そして曲目紹介があり、2曲目はモーツァルトのピアノ・ソナタ第11番「トルコ行進曲付」です。
第1楽章の変奏曲を柔らかに、軽やかに演奏し、第2楽章のメヌエットを軽快に、流麗に演奏しました。そして第3楽章のトルコ行進曲を、リズムのメリハリも鮮やかに、スピーディに演奏しました。
続けて、ショパンのノクターン第2番をロマンチックに、情感豊かに歌い上げ、トルコ行進曲での興奮を鎮めてくれました。
ここで山中さんのMCがあり、「トルコ行進曲付」は、今日のコンサートで初めて取り上げることにして練習してきたこと、ノクターンは、ショパンがプラス・アルファを書き足したバージョンで演奏したことなどを話してくれました。
次にショパンのピアノ協奏曲第1番の第2楽章をバックハウスがピアノ1台用に編曲した「ロマンス」を、ロマンチックに切なく演奏し、胸を熱くしました。
続けてショパンの「子犬のワルツ」を元に編曲された「子犬のワルツによるパラフレーズ」が面白く演奏されましたが、子犬が何匹も駆け回るような楽しい曲でした。
ここで山中さんのMCがあり、CDの宣伝と最後の曲目紹介がユーモアを交えてあり、ラフマニノフの「鐘」が、荘厳に、重厚に演奏されました。低音部が増強されたインペリアルにぴったりな曲であり、低音の迫力に感動しました。
続けて「鐘」つながりで、リストの「ラ・カンパネラ」が軽やかに演奏され、高音部の高速連打の超絶技巧に息を呑みました。オリジナルより音符が多いのではないかと思うほどの演奏に感嘆しました。
大きな拍手が贈られて、タブレットを持った山中さんが登場し、タブレットを譜面台に設置して、アンコールにラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」の第18変奏が演奏されました。好きな曲ですが、ロマンチックなメロディにうっとりと聴き入りました。
美しい演奏にホールは感動に包まれて拍手は止まず、ドヴォルザークの「ユーモレスク」をしっとりと演奏し、感動の演奏会を締めくくりました。
終演は20時15分。休憩なしで1時間15分の演奏会は、内容も濃くて、十分に楽しめました。これで1000円とは、大変お徳であり、ありがたいことです。
山中さんの演奏の素晴らしさは書いた通りですが、山中さんの人柄が伺えるMCでの柔らかな語り口は高感度満点でした。
このように素晴らしいコンサートだったのですが、空調の音を抑えるためか、途中から暖房が効かず、底冷えの寒さを感じました。そして、近くのご婦人からの強烈なコロンの臭いに閉口しました。
そんなことはありましたが、良い音楽を聴くことができて良かったです。山中さんという素晴らしいピアニストを知ることができたことが何よりの収穫でした。今度は音楽ホールで聴いてみたいですね。新潟市への来演を期待したいと思います。
(客席:I-4、¥1000) |