新潟の音楽家による、この日だけのスペシャル・メンバーによる演奏会です。ヴィヴァルディの「四季」を演奏するということで、このアンサンブル名になったものと思われますが、新潟の音楽好きなら、このメンバーを見るとワクワクするのではないでしょうか。
実は、昨年6月に阿賀野市で開催された「頼勝寺第11回演奏会」で、コントラバスを除いたの6人のメンバーで「四季」を演奏しており、その高水準の演奏に驚愕したことが鮮烈に思い起こされます。そのときは寺院の本堂でしたので、今度は音楽ホールで是非聴いてみたいと思っていました。
こんなときに、北区文化会館でこのコンサートがあることが発表され、これは行くしかないということで、楽しみにしていました。チケットを手数料なしでセブンイレブンで買えるというのは良いですね。
寒波が去って天候は落ち着き、穏やかな週末を迎えました。ゆっくり昼食を摂り、北区文化会館へと車を進めました。
新潟バイパスを海老ケ瀬ICで降りて阿賀野川を渡り、新崎からショートカットで豊栄市街に入り、家から30分ほどで北区文化会館に到着できました。
このホールは交通の便も良く、広い無料の駐車場があって大変便利です。13時過ぎに館内に入りますと、ロビーに館長さんがおられましたので挨拶させていただきました。
私の記事を読んで、このアンサンブルの招聘を決められたとのとこで、恐縮するとともに、拙文がお役に立てたことをうれしく思いました。これからもよろしくお願いします。
開場待ちの列に並んで、この原稿を書きながら開場を待ちました。ほどなくして開場となり、前方左手に席を取りました。
ステージ上では、笠原さんが開演間近までチェンバロのチューニングに励んでおられました。毎度のことながら、ご苦労なことです。
開演時間が近づくに連れて次第に席は埋まり、地元の方々でかなりの盛況となりました。賑わって何よりと思います。
開演時間となり、あずき色のドレスの庄司さんと笠原さんが登場して、最初はバッハの「ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ第2番」です。
ゆったりとしたヴァイオリンとそれに寄り添うチェンバロ。ホールの響きの良さに感嘆するとともに、優しく優雅に響くヴァイオリンにうっとりと聴き入りました。
第2楽章は、軽快に、明るく駆け抜け、第3楽章は、憂いを秘めて悲しげに切なく歌い、第4楽章は、明るさを取り戻して、軽快に奏でられるチェンバロにのせて、ヴァイオリンがゆったりと舞い踊りました。
ここで庄司さんによる挨拶と曲目紹介があり、この間にチェンバロが後方に移動されて、ステージが整えられました。
裾だけが赤い黒のドレスの廣川さんと、コントラバスの上田さんが登場して、続いてはピアソラの「ヴァイオリンとコントラバスのための5つのタンゴ」から3曲が演奏されました。
「J'attends」は、ヴァイオリンとコントラバスという、日頃聴く機会の無い組み合わせで、いかにもピアソラという音楽が流れ出て、いきなりブエノスアイレスの夜に誘われました。甘く切ないタンゴにうっとりと聴き入りました。
「Saint Louis en L'ile」は、リズムを速めて、コントラバスの胴を叩いたりしながら、情熱的に感情を高ぶらせて、熱く歌い上げました。
「Adios Nonino」は、聴く機会が多い曲ですが、激しい出だしから、甘く切ないメロディが奏でられ、激しいタンゴのリズムを刻むコントラバスとヴァイオリンが絡み合って、緩急を繰り返しました。しっとりと心に染み入るような切ないメロディが胸を熱くし、メラメラと青白く燃える炎とともに感動を誘いました。
黒とグリーンのドレスの平山さん、白いドレスの佐々木さん、ブルーのドレスの渋谷さんが登場して、前半最後はドホナーニの「弦楽三重奏曲
セレナード」より、第1、第2、第5楽章が演奏されました。
初めて聴く曲でしたが、第1楽章は、シンプルなリズムとともに演奏が始まり、3人それぞれが主役となり、激しくぶつかり合い、絡み合って、聴く者を圧倒しました。
第2楽章は、ヴァイオリンとチェロのピチカートに載せて、ヴィオラがゆったりと歌い、その後は激しさを増して3人が絡み合い、そして美しくメロディを歌い上げ、うっとりと聴き入りました。
第5楽章は、軽快にスピードアップし、3人の絶妙なアンサンブルに聴きほれるうちに、熱を帯びていき、音量豊かにホールに響き渡る三重奏に圧倒されました。
前半は、時代も国も違う3曲を、それぞれ違ったメンバーで演奏し、多彩な曲で楽しませてくれたほかに、今日の出演者の自己紹介にもなりました。
7人の出演者の力量が如実に示され、演奏技術と音楽性の豊かさを知らしめてくれて、新潟にこのように素晴らしい音楽家が活躍している喜びを感じさせました。
休憩時間に入りましたが、この間ステージ上では笠原さんがチェンバロのチューニングに励んでおられました。本当に大変ですね。
後半の開演時間となり、いよいよ本日のメインディッシュであるヴィヴァルディの「四季」です。まず、笠原さんによる挨拶と、出版されてからちょうど300年になるという「四季」についての解説がありました。
笠原さんが一旦下がって、7人が入場しました。左から、第1ヴァイオリンの庄司さん、第2ヴァイオリンの平山さん、チェロの渋谷さん、コントラバスの上田さん、ヴィオラの佐々木さんと並び、後方にチェンバロの笠原さんが位置し、ソリストとして廣川さんが中央にスタンバイしました。チェロとチェンバロ以外は立っての演奏です。
「春」の第1楽章で演奏開始です。廣川さんの独奏は、昨年聴いたときからさらに安定感を増し、さすがと唸りました。バックを固める6人のアンサンブルも素晴らしく、前回と違ってコントラバスが加わりましたので、重心が低くなって、アンサンブルの安定感が増してパワーアップしました。
第2楽章は、ヴァイオリンの二重奏とヴィオラによる犬の鳴き声とともに、廣川さんがゆったりと、切なくメロディを奏でました。
第3楽章は、第2楽章で休んでいたチェロとコントラバスが戻り、晴れ渡った空の下、春の日差しを全身に浴び、暖かな春を満喫しました。
続いて「夏」です。第1楽章は、うだるような暑さにぐったりし、熱中症の危険に瀕して息も絶え絶えとなり、嵐の予感を感じて不安が心をよぎりました。
第2楽章は、悲しく切ない気分の中、遠くで雷が光り、雷鳴が聴こえ、接近してくるにつれて不安感が増してきました。
第3楽章になり、ついに雷雲がやってきて、稲妻が光り、雷鳴が激しく轟いて、激しい雷雨に襲われました。このような情景が、激しい演奏とともに表現されて、緊迫感に富んだ迫真の演奏に圧倒され、その熱量の高さに息を呑みました。
次は「秋」です。第1楽章は、実りの秋、収穫の秋を祝い、その喜びで満たされました。第2楽章は、収穫の祭りは終わり、日は暮れて暗くなり、夜の帳が静かに訪れました。
第3楽章は、狩りの様子が表現されているそうですが、私は獲物を追い回すというより、酒を飲み、ステップを踏んでダンスを踊るというような光景を思い浮かべていました。
最後は「冬」です。第1楽章は、寒波が襲来して北風が吹き荒れ、猛吹雪で視界不良。暴風雪警報の中に耐え忍びました。
第2楽章は、外の寒さとは裏腹に、暖房が効いた家の中で、ゆったりと家族と過ごし、そのうちに冬型がゆるんで、束の間の晴れ間が広がり、雪原に太陽の光がまぶしく光り、犬は喜んで庭を駆け回る。早く春が来ないかなあ・・。そんな光景を思い浮かべました。
第3楽章は、好天は長続きせずに再び鉛色の冬空となりましたが、三寒四温で、冬の厳しい寒さの中にも、春の訪れの予感も感じるようになる中に曲を閉じました。
廣川さんの渾身のソロと、バックのアンサンブルの素晴らしさ。興奮と感動の中に「四季」を演奏し終え、ブラボーの声も上がるほどの熱い演奏に、ホールを埋めた聴衆から大きな拍手が贈られました。
おそらくは「四季」を演奏するには最少の編成だったと思いますが、個々の奏者の力量が遺憾なく発揮され、繊細さとともに、ホールを熱気で満たすパワーに溢れていました。これ以上ないくらいの大きな満足感をいただきました。
拍手に応えて、アンコールに「ソードダンス」を、颯爽とかっこよく演奏し、冬の日の熱い演奏会は終演となりました。
新潟の演奏家による最良の演奏が繰り広げられたことは間違いなく、この様な演奏を聴くことができた幸せと喜びを噛み締めました。
熱い胸の鼓動とともにホールを後にし、気温が下がって冷たい雨が降る中に、車を進めました。外は寒いですが、いい演奏を聴いた喜びで、心は温かでした。
阿賀野川を渡って、東区から中央区に入る頃には雨がやみ、西区に入りますと道路は乾いていました。新潟市も広いですね。
(客席:8-8、¥2000) |