平林弓奈ピアノリサイタル
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2023年9月9日(土) 14:00 新潟市民芸術文化会館 スタジオA
ピアノ:平林弓奈
 
ショパン:前奏曲第15番「雨だれ」op.28-15
ドビュッシー:前奏曲集より「亜麻色の髪の乙女」
             「西風の見たもの」
             「沈める寺」
ラフマニノフ:前奏曲「鐘」Op.3-2
メシアン:鳥のカタログより 第3番「イソヒヨドリ」

(休憩15分)

ドビュッシー:ベルガマスク組曲より「月の光」
リゲティ:ピアノのための練習曲第10番「魔法使いの弟子」
ショパン:スケルツォ第1番 Op.20
リスト:ダンテを読んで(巡礼の年 第2年 イタリアより)

(アンコール)
プッチーニ:誰も寝てはならぬ
モーツァルト/ファジル・サイ編:トルコ行進曲

 新潟で活躍する女性ピアニストの中で、個人的に最も注目しているピアニストを挙げろと言われれば、平林弓奈さんを挙げないわけにはいきません。
 長岡と東京を拠点に活躍されている平林さんのリサイタルが、久しぶりに新潟市で開催されることになり、是非とも聴かねばと思い、早々にチケットを買って楽しみに待ちました。平林さんのリサイタルを聴くのは、2021年7月以来ですので、2年振りになります。
 平林さんの素晴らしい経歴と活躍については前回の記事に詳しく書かせていただいていますので割愛しますが、武蔵野音楽大学付属高校を卒業後フランスに渡り、12年間に渡って研鑽を積み、活躍されてきました。
 そんな平林さんが長岡市に嫁いで来られ、早くからその存在を耳にし、2017年2月に初めて演奏を聴く機会得て、その驚異的な素晴らしさに感嘆し、以後ファンとなりました。
 今回は、2022年にリリースしてレコード芸術の特選盤に選定されたアルバム「オマージュ メシアン」の発売記念と題されたリサイタルです。
 先回のリサイタルでは、よく聴く曲のほかに、オアナ、メシアンというマニアックな聴き応えある曲をメインプログラムに据えて楽しませてくれましたので、今回も平林さんならではのプログラムを聴かせていただけるものと期待が高まりました。

 台風13号は関東方面に大きな被害をもたらしましたが、新潟は被害がなくて何よりでした。今日も朝から晴れ渡り、残暑が厳しい土曜日になりました。
 いつものルーチンワークをこなし、りゅーとぴあへと向かいました。いつもの上古町の某所に立ち寄りましたが、珍しくも満席で断念しました。
 汗を拭きながら白山公園を抜けてりゅーとぴあ入り。インフォメーションで某コンサートのチケットを買い、開場とともに入場しました。会場には平林さんのご家族や長岡市からの遠征組もおられるようで、長岡のコンサート会場でしばしばお見かけする方のお姿もありました。

 客席は間隔が開けられて、余裕を持った配置でした。私は前回同様に最前列中央に席を取りました。座席の上には、曲名が書かれただけのごく簡単なプログラムが置かれていました。
 アルバム「オマージュ メシアン」発売記念とありましたので、プログラムにはメシアンが並ぶものと勝手に思っていたのですが、予想は外れ、メシアンは1曲のみで、多彩な曲が並んでいました。
 前半は、ショパン、ドビュッシー、ラフマニノフの前奏曲がプログラムされていますが、その他の曲の選曲の趣旨はどうなのか気になりました。

 開演時間となり、ショパンの「雨だれ」で開演しました。しっとりと美しいピアノ。暗い陰りが湧き上がる強奏部との対比も美しく、その柔らかな調べにうっとりと聴き入りました。

 ここで平林さんの挨拶があり、以後曲目紹介を挟みながら演奏が進められました。続いては、ドビュッシーの前奏曲集からの3曲が続けて演奏されました。
 甘く美しい「亜麻色の髪の乙女」、フランスでは不吉とされる西風が吹き荒れてグロテスクでおどろおどろしい「西風の見たもの」、朝霧の中にたたずむような幽玄な光景を思い浮かばせる「沈める寺」と、各曲の対比も鮮やかに、ドビュッシーの音楽世界に身を委ねました。

 次は、ラフマニノフの「鐘」です。力強い打鍵から繰り出されるパワフルな音。音圧を真正面からもろに体に受けて、完璧なテクニックとともに奏でられる劇的な音楽に圧倒されるのみでした。

 そして前半最後はメシアンの「イソヒヨドリ」です。鳥オタクのメシアンならではの曲とのことです。平林さんの曲目解説を聞いた後でしたので、鳥の鳴き声を模した音楽を楽しみ、バックに広がる断崖絶壁や海など、雄大な情景を思い浮かべながら曲を楽しみました。本日のプログラムで唯一のメシアンであり、一番聴き応えある曲であり、演奏だったと思います。

 休憩後の後半は、ドビュッシーの「月の光」で開演しました。ソフトで柔らかな音楽が、傷ついた心を癒してくれるようでした。青白い月ではなく、どこか温かさのある黄色い月が思い浮かびました。

 続いてはリゲティの「魔法使いの弟子」です。弾くのが大変な曲だと話されていましたが、短い曲ながらも神業のような超高速の鍵盤の連打によって繰り出される音楽は、噴水が吹き上がるかのようでした。

 次はショパンの「スケルツオ第1番」です。難解なリゲティの演奏の後に、ピアノの直前で大音量で聴いていますと、ショパンではなく、現代曲を聴くかのような音の洪水に溺れそうでした。繊細さとダイナミックさを併せ持つ平林さんの魅力に溢れていました。

 そして、プログラム最後は、リストの「ダンテを読んで」です。演奏会の最後を飾るに相応しい、いかにもというような演奏映えして聴き応えある曲ですが、ダイナミックでパワーに溢れる演奏に圧倒されました。私はダンテは読んだことがありませんが、「地獄篇」の情景が平林さんの超絶技巧を通して感じることができたかのように思われました。

 大きな拍手に応えてのアンコールに、意表をついて「誰も寝てはならぬ」を情感豊かに演奏しました。先週笛田さんの歌を聴いたばかりでしたので、思わず口ずさみたくなりました。
 そして、最後にファジル・サイ編曲による「トルコ行進曲」を演奏して、洒落た遊びとジャジーな雰囲気の中に大きく盛り上げて、明るい気分の中に終演となりました。

 期待したメシアンは1曲のみであり、プログラムの選曲の趣旨はよく分かりませんでしたが、硬軟取り混ぜてのプログラムは聴き応え十分であり、メリハリがあって楽しめました。
 私の席は、最前列中央のピアノの直前であり、おそらくスタジオAの中では、私が一番音を真正面から受けていたと思います。私の眼前で繰り広げられるピアノ演奏。私だけのプライベートコンサートのようにさえ思えてしまいました。

 平林さんの音量豊かでダイナミックな演奏をダイレクトに楽しむことができ、完全にノックアウトされました。色彩感とパワー溢れる音楽は圧倒的であり、平林さんの魅力が存分に感じられ、贅沢な時間を過ごすことができました。
 音量豊かに響かせながらも、音に濁りは全くありません。弱奏時での透明感のある音も格別であり、突き抜けるような高音のクリアさも特記したいと思います。
 前回も感じたことですが、スタジオAのヤマハのCFIIISをこれほどまでに美しく鳴らせるピアニストはほかにはいないのではないでしょうか。
 
 平林さんの魅力を知らしめてくれるような、内容の濃い演奏であり、期待を裏切ることなく、再び素晴らしい演奏に出会えた喜びを噛み締めました。上辺だけのきれいな演奏とは一線を画した魂を揺さぶる音楽がそこにありました。
 新潟県にこのようなピアニストがいることは喜ぶべきことであり、平林さんの素晴らしさを、全県民に知ってほしいですね。次の演奏会を楽しみにしたいと思います。
 

(客席:最前列中央 \2000)