仲道郁代ピアノリサイタル ブラームスの想念
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2023年9月17日(日) 14:00 長岡リリックホール コンサートホール
ピアノ:仲道郁代
 
ブラームス:7つの幻想曲 Op.116
ブラームス:3つの間奏曲 Op.117

(休憩15分)

ブラームス:6つの小品 Op.118
ブラームス:4つの小品 Op.119

(アンコール)
ブラームス:子守り歌

 毎年秋に長岡市リリックホールでリサイタルを続けておられる仲道郁代さんですが、今年も開催されることになりました。仲道さんファンの端くれとして、予定を考えないまま早々にチケットを買ってしまいました。
 仲道さんの今回の秋のリサイタルシリーズのテーマは「ブラームスの想念」と題され、ブラームス晩年の、人生を振り返る4つの曲集が取り上げられます。
 今回のテーマでのリサイタルは、全国で4公演開催され、今日の長岡でのリサイタルは、昨日の上田市でのリサイタルに引き続いて2公演目になります。10月には浜松と東京で開催されます。
 仲道さんは、このほかにも活発な演奏活動をされておられ、明日は水戸市でベートーヴェンの「皇帝」を演奏する予定になっており、さすがにトップピアニストはお忙しいなあと感嘆するとともに、移動も大変だろうと勝手に心配しています。

 さて、仲道さんの演奏は、リサイタルやオーケストラとの共演など、これまでに何度も聴かせていただいていますが、私としましては、2019年10月の新潟市のりゅーとぴあでのリサイタル以来4年振りになります。毎年のように参加せていただいてきた長岡リリックホールでのリサイタルは、しばらくご無沙汰していまい、2018年10月以来ですので、5年振りになります。

 例によって、分水・与板経由で長岡入りし、某所で休憩と昼食を摂り、長岡リリックホールに到着しました。チラシ集めをして長岡の音楽情報を仕入れ、ホワイエで休息し、開場を待ちました。
 開場とともに入場し、この原稿を書きながら開演を待ちました。ステージのピアノの右横に、今回の重いテーマに沿ってか、ちょっと地味な花が飾られていました。

 開演時間となり、場内が暗転して、シックなドレス姿が麗しい仲道さんが登場。仲道さんの挨拶とブラームス晩年の、作品116、117、118、119の4つの小品を演奏する旨の説明があり、「死」を意識していたブラームスの作曲の背景などにつき興味深く拝聴しました。曲目紹介の後、作品116の「7つの幻想曲」で開演しました。
 穏やかでエレガントな語り口の仲道さんのトークから一転して、第1曲が激しい心の動揺を示すかのごとく演奏されて、心の準備もできないままパンチを食わされたような感じでした。第2曲は、柔らかく心を癒し、第3曲は、再び激しく、第4曲は、ゆったりと歌い、第5曲は、ためらいの中に始まって落ち着きを取り戻し、第6曲を柔らかに歌い、第7曲は、再び激しく心に秘めた激情を吐露して演奏を締めくくりました。
 演奏終了とともに、軽く後方へのけぞるようにされるのが仲道さんのスタイルであり、拍手のタイミングを計りやすくてたすかります。

 一旦ステージから下がって再登場し、曲目紹介があり、続いては作品117の「3つの間奏曲」です。この曲集は、心の傷、悲しみ、後悔、懺悔の気持ちが込められているそうです。第1曲に添えられている詩を紹介し、第3曲に添えられていたといわれる詩を語り、そのまま唐突に演奏に入りました。
 ブラームスの悲しみ、苦しみの心が、仲道さんを介して伝わってくるような、優しく心に響く音楽が、日々のストレスで枯れ切った私の心に染み渡り、癒してくれるようでした。
 少し明るさを取り戻しながらも悲しみのふちを揺れ動く第2曲。そして彷徨いながら、嘆き高鳴る心とともに悲しく閉じる第3曲と、仲道さんの美しいピアノと、リリックホールのソフトで豊潤な響きとともに、私の心を青白い炎で包みました。

 休憩後の後半は、作品118の「6つの小品」についての紹介があり、第5曲は「ロマンス」で愛が描かれ、ブラームスとクララ・シューマンの関係、成就しなかった愛などの話がありました。第6曲は悲しさに満ちた曲だと話され、まだ話が続くような語り口なのに、直ぐに演奏が始まりました。
 第1曲は、激しい思いが高まり、第2曲は、ゆったりとした中に熱い想いを持ち、第3曲は、舞曲のように激しく踊り狂い、第4曲は、落ち着きを取り戻しながらも急ぎ足で駆け回りました。
 そして第5曲「ロマンス」はまさにロマンチックであり、かつての甘い日々を思い起こすかのようですが、第6曲は仲道さんの言葉にあったように、悲しみと切なさに溢れ、どうしようもなく抑え切れない想いが心に迫りました。

 一旦下がって、作品119「4つの小品」についての曲目解説がありました。人生は讃えるべきものであり、つらいものでもあると語り、まだ話が続くかと思わせながら、直ぐに演奏を開始しました。
 第1曲は、煌く音が優しく語り、第2曲は、足早に山を越えて安らかな地にたどり着くも、せわしない不安がよぎり、第3曲は、明るい野原を駆け回り、この幸せがいつまでも続くことを願い、第4曲は、人生はいろいろあったけど、足を踏み鳴らして踊って、賑やかに終わろうぜと語りかけてくるようでした。

 ブラームスの晩年の作品の背景と、そこに込められた意味などを、仲道さんの柔らかな語り口によって説明してくれて、曲の理解ができて良かったです。
 当初は、ホールは響きすぎるようにも感じましたが、仲道さんが奏でる美しいいピアノに酔い、豊潤なピアノの響きに全身が包まれて、至福の時間を過ごすことができました。
 ブラームスがこれらの曲を作曲したときと同年代の仲道さんならではの音楽がそこにあり、円熟した音楽に癒されました。

 数回のカーテンコールの後、大きな拍手に応えて、楽譜を持った仲道さんが登場して、アンコールとしてブラームスの子守唄をしっとりと演奏してくれました。もう1曲を期待しましたが、仲道さんからの感謝の言葉があって、感動のステージは終演となりました。

 しっかりとしたテーマに沿って組まれたリサイタルで、演奏活動40周年に向けてのリサイタルシリーズである「The Road to 2027」に賭ける仲道さんの想いが感じられ、長岡市まで遠征する甲斐がありました。来年の秋のリサイタルはシューベルトの即興曲を全曲演奏するそうで、長岡への来演を約束してくれました。来年秋にも期待したいと思います。

 と、素晴らしい日曜日の午後だったのですが、帰り道にタイヤがパンクしてしまって残念な日曜日になってしまいました。いいことは続きませんね。天罰でしょうか。
 

(客席:11-6 \3000)