東京交響楽団第132回新潟定期演奏会
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2023年8月20日(日) 17:00 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
指揮:鈴木優人
ソプラノ:中江早希、澤江衣里 テノール:櫻田亮
合唱:にいがた東響コーラス 合唱指導:辻博之
コンサートマスター:小林壱成
 
メンデルスゾーン:交響曲第5番 ニ短調 op.107「宗教改革」

(休憩20分)

メンデルスゾーン:交響曲第2番 変ロ長調 op.52「讃歌」
 T.シンフォニア
 U.合唱、ソプラノ・ソロ「すべて息するものよ、主よ讃えよ!」
 V.テノール・ソロ「語れ、主によって救われた者たちよ」
 W.合唱「語れ、主によって救われた者たちよ」
 X.二重唱と合唱「私は主を待ち焦がれ」
 Y.テノール・ソロ、ソプラノ・ソロ「死の網目が私たちを絡めとっていた」
 Z.合唱「夜は去った」
 [.合唱「さあ、すべての者よ、神に感謝せよ」
 \.ソプラノ・ソロ、テノール・ソロ「それゆえ私は自分の歌で」
 ].終曲合唱「諸国の人々よ、主に栄光と権力をあずけなさい!」

 お盆休みということで、コンサートも夏休み状態でしたが、今週末からまた再開されました。長岡でアフィニス夏の音楽祭が開催されているほか、各地で魅力あるコンサートが開催されています。
 今日は長岡や柏崎で魅力あるコンサートがあり、そちらにも興味があったのですが、東響定期会員ですので、今シーズン2回目、6月以来2か月半ぶりの東響新潟定期演奏会に参加したいと思います。

 今回のプログラムは、昨夜サントリーホールで開催された第713回定期演奏会と同じプログラムです。メンデルスゾーンの交響曲が2曲という東響定期ならではのプログラムで、にいがた東響コーラスが共演する後半の交響曲第2番「讃歌」が注目されます。
 今回の指揮者は、原田慶太楼さんや山田和樹さんらと並んで活躍目覚ましい人気指揮者で、オルガン・チェンバロ奏者でもあり、BCJでの活動でも知られる鈴木優人さんです。東響新潟定期演奏会への出演は、2021年7月の第121回新潟定期演奏会以来2年振りです。

 さて、今回で132回(+特別演奏会が6回)にもなる東響新潟定期演奏会の長い歴史の中で、メンデルスゾーンの交響曲が取り上げられるのは、2014年9月の第85回新潟定期演奏会での第4番「イタリア」(指揮:準・メルクル)と2016年9月の第97回新潟定期演奏会での今日演奏される第2番「讃歌」(指揮:広上淳一)の2回だけです。
 従いまして、メンデルスゾーンの交響曲を2曲並べた今回のプログラムは大変貴重なのですが、渋い演目が一般受けするのかという心配を勝手にしていました。サントリーホールはチケット完売でしたが、新潟はどうなりますやら。

 さて、今日の演奏会の前半は、交響曲第5番「宗教改革」ですが、生演奏で聴くのは2022年6月の新潟交響楽団第108回定期演奏会以来2回目です。セルパンという蛇に似た形の楽器が使用されるとのことで、これにも興味がありました。
 また、後半で演奏されるメインの交響曲第2番「讃歌」は、合唱やオルガンも加わる大曲であり、前回も大いに楽しませていただきましたが、7年ぶりの再演を楽しみたいと思います。
 この2曲は宗教家マルティン・ルターに関連する曲であり、宗教関連作品のスペシャリストである鈴木さんにより、どんな演奏が生み出されるのか期待が高まりました。
 なお、メンデルスゾーンの交響曲は5曲知られていますが、番号は作曲順ではなく、作品番号と同様に出版順です。そのため、第5番よりも第2番の方が後年の作品であり、混乱してしまいます。

 猛暑続きの毎日ですが、今日も朝から晴れ渡り、青空は気持ちよいものの、太陽は容赦なく照り付けています。今日は東響新潟定期演奏会の日に恒例のロビーコンサートが12時からあり、今回は弦楽四重奏だったのですが、雑務があって出かけられず、夕方の本公演に絞ることにしました。

 15時半過ぎに家を出て、快晴の空の下、遠くの山の上に連なる入道雲を眺めながら、どうして平野に降りて来ないのかと、残念に思いながら、車を進めました。
 白山公園駐車場に車をとめて、県民会館を覗いてみますと、ちょうど新潟県合唱フェスティバル(全日本合唱コンクール新潟県大会)が終わり、成績発表があった後のようで、ロビーはたくさんの合唱団員で賑わい、学生たちの歓声がこだましていました。喜びに満ちて健闘を讃え合う女学生たちの間をすり抜けて、県民会館からりゅーとぴあへと移動しました。
 すでに開場されていましたので、チラシ集めをして入場し、席に着きました。ほどなくして16時半から、りゅーとぴあの榎本さんと東響団長の廣岡さんによるプレトークが始まり、今日のプログラムのメンデルスゾーンとその作品についての解説があり、興味深く拝聴しました。
 葉加瀬太郎似で知られるオーボエの最上さんの紹介や、楽団員の活動、プログラムの選曲の仕方などの紹介もあって、楽しませてくれました。

 開場時間が迫るにつれて客席は埋まってきましたが、客の入りはいつも程度でしょうか。ステージ周りのブロックは合唱団席になるため使用されませんでしたが、それでも空席が目に付きました。定期会員外の集客は芳しくないようでしたが、最安のD席エリアはびっしりと埋まっていました。

 開演時間となり、拍手の中に団員が入場。全員揃うまで起立して待ち、最後にコンマスの小林さんが登場して大きな拍手が贈られました。オケの配置は12型の対向配置ですが、実際は第1ヴァイオリンは11人で、弦5部は 11-10-8-6-4 でした。
 オーボエはプレトークで紹介されたように最上さんです。最上さんはオーボエとイングリッシュホルンの兼任で、トップを吹かれることは珍しいと思いますが、今日はオーボエの主席はお休みのようですので、その代役ということになりましょうか。

 鈴木さんが登場して、前半の交響曲第5番の演奏開始です。第1楽章は、弦・管のアンサンブルの美しさに支えられた重厚な音楽に感銘しました。管楽器と弦の、動と静、剛と柔という対比が鮮やかで、メンデルスゾーンが20歳のときの作品とは思えないこの曲の魅力を鮮やかに描き出してくれました。
 第2楽章〜第4楽章は切れ目なく続けて演奏されました。第2楽章は、軽やかに、爽やかに。第3楽章は、しんみりと、しっとりと。そして、第4楽章は、相澤さんの長大な見事なフルートソロに始まり、その演奏に息を呑みました。その後は次第に熱量を帯びて力を増し、堂々としたフィナーレを迎えました。
 大きな拍手に応えて、鈴木さんは真っ先に相澤さんを立たせて、その見事なパフォーマンスを讃えました。そして、珍しいセルバンを演奏した奏者も立たせました。演奏中はどんな音だったか気がつかず、単独の音を聴いてみたいと思いました。通常はチューバで代用されるとうセルパンを使用したのは鈴木さんのこの曲へのこだわりなんでしょうね。

 休憩後の後半は、いよいよメインの交響曲第2番「讃歌」です。この曲は、グーテンベルクによる活版印刷技術誕生の400周年を記念して作曲を依頼されたのだそうです。序奏と3楽章からなる長大な第1曲のシンフォニアに始まり、第2曲以降はソプラノ2人・テノール1人の独唱と合唱によるカンタータとなり、演奏予定時間65分という壮大な曲です。
 休憩時間終了とともに合唱団が、ステージ左のEブロックにソプラノ、後方のPブロックにバスとテノール、右のAブロックにアルトが、1席ずつ間隔を空けて着席しました。
 オケが入場し、最後に小林さんが入場して大きな拍手が贈られました。オルガン席にも奏者が着席しました。チューニングを終えて、独唱者の3人、そして鈴木さんが登場し、独唱者の3人は指揮台前の椅子に着席して出番を待ちました。

 第1曲のシンフォニアで演奏開始です。冒頭でこの曲の根幹をなすテーマがトロンボーンで奏でられ、一気に演奏に引き込まれました。
 第2楽章は吉野さんによるクラリネットの美しいソロに始まって、甘いワルツに酔いしれました。第3楽章も心に滲みる美しい音楽であり、この第1曲だけでも魅力たっぷりな交響曲に感じられました。

 そして、いよいよ第2曲以降が声楽とオルガンが加わるカンタータです。合唱団席に照明が当てられて合唱団が立ち上がりますと、否が応でも胸は高鳴ります。
 合唱団は暗譜での演奏で、声量も豊かです。ソプラノの2人は透き通るように美しく、物語を語るように歌うテノールも秀逸です。
 各曲とも魅力にあふれ、オルガンも加わっての壮大な音楽がホールいっぱいに響き渡り、荘厳さの中に祝祭気分を感じさせて高揚させられました。最後に、冒頭で奏でられたテーマが力強く歌われて、興奮と感動の中にフィナーレを迎えました。

 独唱者の3人は、BCJで鈴木さんと共演を重ねておられ、意思疎通は万全であり、鈴木さんの作り出そうとする音楽世界を見事に具現化していました。
 合唱団は、前回はステージ後方に合唱団席が仮設されて密集した状態でしたが、今回はステージ周囲のEブロック、Pブロック、Aブロックに間隔を空けて配置されましたので、マスとしての力強さは薄められましたが、音が広がって、教会に響く音楽のような清廉さと荘厳さ、そして心地良さを感じさせました。
 心が揺り動かされるような圧倒的な音楽に、ホールは興奮と感動の嵐となりましたが、惜しむらくは、拍手はもう3秒、いやもう2秒で良いので待ってほしかったです。まあ、それほど興奮をもたらした演奏だったということなのですが。

 鈴木さんとメンデルスゾーン、鈴木さんと東京交響楽団の相性の良さを感じさせ、東響の実力とパワーをまざまざと見せつけられました。そして、暗譜で音量豊かに力強く歌い切ったにいがた東響コーラスの皆さんも素晴らしく、ブラボーを贈りたいと思います。

 素晴らしい音楽を聴いた満足感を胸に外に出ますと暑さ厳しく、熱帯夜が始まっていました。この外界の暑さも、ホール内で感じた興奮と熱さにはかないません。素晴らしい時間を過ごせて良かったです。もう一度叫びましょう。ブラボー!
  

(客席:2階C*-*、S席:定期会員: \6100)