今日は、2023年度最初の東京交響楽団新潟定期演奏会です。1999年の第1回新潟定期演奏会から定期会員を続けており、今年度も定期会員を更新しました。
大げさに言いますと、私の人生は東響とともに歩んできたともいえ、ストレスだらけの私の人生を豊かにし、潤いを与えてくれたことに感謝しています。今シーズンから、年間6公演から5公演に減ってしまったのは残念ですが、これからも大いに楽しませていただきたいと思います。
さて、2023年度のシーズン最初の新潟定期演奏会は、2024年で引退を表明している井上道義さんの登場です。井上さんは、新潟に何度も来演されており、昨年9月にも新日本フィルとともに来演されたばかりですが、新潟定期演奏会としては、2003年10月の第23回新潟定期演奏会、2021年6月の第120回新潟定期演奏会以来、3回目となります。
共演するチェロの上野通明さんは、パラグアイで生まれ、幼少期をバルセロナで過ごしたとのことで、2021年のジュネーブ国際音楽コンクールのチェロ部門で、日本人初の優勝のほか、数々の国際コンクールの優勝歴を誇ります。私が実際の演奏を聴くのは今回が初めてであり、期待が高まりました。
引退を前にして、おそらく新潟での最後の演奏となる熟練のマエストロによる演奏と、これからさらに活躍していくであろう若き俊英の演奏を、楽しませていただきたいと思います。
さて、昨日の夕方から、突然の仕事が舞い込み、今日の午後まで仕事に励んでおりました。そのため、東響定期の日に恒例のロビーコンサートは聴くことはできず、その後の某コンサートも参加できませんでした。
仕事を終えて、りゅーとぴあに急いで駆けつけますと、既に開場されており、入場の列はなくなっていましたので、私も入場しました。
客席に着きますと、お馴染みの榎本さんと東響団長の廣岡さんによるプレトークが行われており、楽しく聞かせていただきました。
後半の「南国にて」では、ヴィオラの青木さんに注目してほしいという話や、その青木さんの紹介、そして今日の指揮者の井上さんの話、ソリストの上野さんのことなど、興味深く拝聴しました。
プレトークが終わるとともに、コントラバス、打楽器、ハープなど、一部の団員がステージに出てきて、音出しをしておられました。ステージ裏からも管楽器の音が聴こえてきました。
開演時間が迫り、音出ししていた団員がステージから下がり、開演時間となって団員が入場しました。これまでと異なって、ステージに出てきた団員はすぐに着席し、最後に今日のコンマスのニキティンさんが礼をして、大きな拍手が贈られました。
最初は弦楽だけで、武満徹の「3つの映画音楽」からの2曲が演奏されました。弦は小型の10型(10-8-6-6-4)です。
1曲目は、映画『ホゼー・トレス』から「訓練と休息の音楽」で、サンドバックを叩くボクサーを表現する低弦のピチカートが心地よく響き、ジャジーな雰囲気の中で、東響の弦楽の美しさを楽しみました。
2曲目は、映画『他人の顔』から「ワルツ」で、ゆったりと情感豊かな流麗なワルツに、うっとりと聴き入りました。映画のことは何も知りませんが、武満の音楽の素晴らしさと、東響の弦楽アンサンブルの美しさに酔いしれました。
弦が増員されて14型(14-12-10-8-6)となり、続いては井上さん自作の交響詩「鏡の眼」です。井上さんがマイクを持って出てきて、武満徹は独学で作曲をしたので、自分も独学で作曲したとのことでした。曲の中にハッピーバースデーのメロディがあることなど、ニキティンさんの演奏も交えて説明してくれました。
井上さんが一旦下がり、再登場して演奏開始です。孤独感・寂寥感と、ヒステリックに襲ってくる躁状態の酔っ払いの父親の幻影、鏡の中から見つめる左右逆の指揮者の自分、そんな様々な葛藤が音楽に込められているのでしょうが、曲は混沌として、無学な私には混乱するばかりでした。
しかし、多彩な楽器と打楽器の多彩な演奏法を駆使した曲は、音楽として、音響として楽しめるものでした。ステージ左のピアノ奏者は、チェレスタも演奏し、ステージの階段を音を立てずに何度も移動してご苦労様でした。ホールが飽和するようなオーケストラの大音響は気分爽快で心地よく、それに対比しての弱音も美しく、曲の良し悪しは別にして、オーケストラを聴く醍醐味を実感しました。
休憩後の後半最初は、エルガーのチェロ協奏曲です。この曲が東響新潟定期で演奏されるのは、2009年3月の第52回新潟定期演奏会、2015年8月の第91回新潟定期演奏会以来3回目になります。
弦の編成は小型に戻って10型(10-8-6-6-4)となりました。ボサボサ頭で野武士のようは上野さんと井上さんが登場。いきなりのチェロ独奏で演奏開始です。
悲しみを感じさせるメロディが胸に迫りましたが、上野さんの演奏は暗くはなく、奇をてらわない実直な演奏という印象でした。朗々と音量豊かに艶やかに響き渡るという印象ではなったですが、全4楽章がゆったりと流麗に演奏され、陰鬱さを排除して、どこかさっぱりとした音楽が奏でられました。
大きな拍手に応えてのアンコールは、バッハの無伴奏チェロ組曲第1番から「メヌエット」が演奏されましたが、どこか軽くて明るいバッハで、新鮮な印象を受けました。
チェロの演奏台が片付けられ、弦と管が増員され14型になりました。ハープは2台です。井上さんが登場して、振り返るや否や序曲「南国にて」の演奏開始です。
この曲を聴くのは、2009年3月の第52回新潟定期演奏会以来ですが、、エルガーがイタリアの地中海に面する港町・アラッシオ滞在中に作曲したという曲だそうで、南欧の風景が眼前に広がるような明るく美しい曲です。演奏会用の序曲だそうですが、序曲というよりは華やかさにあふれた壮大な交響詩です。プレトークで触れられていた後半の青木さんのヴィオラソロも美しかったです。ちなみに、第52回新潟定期のときも青木さんのソロでした。
井上さんが創り出す音楽を東響の渾身の演奏が具現化し、絢爛豪華に曲を締めくくって、聴衆に感動と興奮をもたらしてくれました。
ホールにはブラボーの声が何か所からも上がり、その演奏を讃えました。私も力の限り大きな拍手を贈りました。井上さんは来年で引退するそうですが、年齢を感じさせない身のこなしであり、引退はもったいなく感じます。
開演直前まで体調に問題を抱えたままコンサートに臨まれ、新潟市内の医療機関で応急処置を受け、ゲネプロなしで本番をこなし、帰京後すぐに病院に入院されたと伝え聞きましたが、そんなことは微塵も感じさせなかったのは、まさに熟練のマエストロのなせる業でしょう。新潟での最後の指揮姿を私の脳裏に焼き付け、思い出に残しました。
最初は変なプログラムだなあというのが正直な思いでしたが、終わってみれば、まぎれもなく井上さんならではのプログラムであり、貴重な演奏会になりました。
前半の曲はこれまで聴いたことがなく、今後も聴く機会はないと思われ、東響新潟定期ならではの貴重なプログラムであり、ありがたいプレゼントでした。後半も素晴らしく、特に「南国にて」が良かったです。
私も人生の終盤に向かおうとしていますが、このような曲や演奏に接することができて感謝したいと思います。これからも1曲1曲を大切に聴いていきたいという感慨を新たにしました。
(客席: 2階C*-**、定期会員:S席:¥6100) |