NDR北ドイツ放送フィルハーモニー交響楽団
  ←前  次→
2022年11月16日(水) 19:00 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
指揮:アンドリュー・マンゼ
ピアノ:ゲルハルト・オピッツ
 
オール・ベートーヴェン・プログラム

ベートーヴェン:劇音楽「エグモント」作品84より序曲

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 作品73「皇帝」

(休憩20分)

ベートーヴェン:交響曲 第3番 変ホ長調 作品55「英雄」

(アンコール)
ヒューゴ・アルヴェーン:組曲「山の王」Op.37 より 第4曲「羊飼いの娘の踊り」
 

 新型コロナ感染が拡大して以降、新潟では初めての外来オケの演奏会です。入国制限やイベントの開催制限が緩和され、通常通りに演奏会は開催されることになりましたが、感染の第8波が始まって、新潟県内の感染者数も急激に増加に転じています。そんな社会状況ですが、今回はNDR北ドイツ放送フィルハーモニ交響楽団の演奏会です。

 NDR北ドイツ放送フィルハーモニ交響楽団は、北ドイツ放送が運営するオーケストラで、ハノファーを本拠地として70年の歴史を持つそうですが、新潟には初めての来演となります。
 北ドイツ放送が運営するオーケストラは、ハンブルグにもNDRエルプフィルハーモニー管弦楽団がありますが、旧称は北ドイツ放送交響楽団として知られており、そちらの方が歴史があるようです。ギュンター・ヴァントのCDが私のCD棚にありますが、今日のオケはこれとは別です。

 指揮のアンドリュー・マンゼさんは、イギリス出身で、バロック・ヴァイオリン奏者として活躍した後、指揮者として活動を開始し、2014年よりこのオケの芸術監督に就任しています。私は今回が初めてとなりますが、オール・ベートーヴェン・プログラムをどのように演奏してくれるのか楽しみでした。

 また、ピアノのゲルハルト・オピッツさんは、ドイツ出身で奥様が日本人ということもあってか、度々来日されており、すっかりとおなじみです。ご本人からのメッセージによりますと、新潟には7〜8回来たことがあるとのことです。 私個人としましては、2003年7月の東京交響楽団第21回新潟定期演奏会でブラームスのピアノ協奏曲第2番(指揮:スダーン)、2009年11月の第56回新潟定期演奏会でブラームスのピアノ協奏曲第1番(指揮:スダーン)を聴き、2010年12月に開催されたりゅーとぴあでのリサイタルでは、ベートーヴェンの四大ピアノソナタを演奏し、重厚な演奏に感動したことを覚えています。今回はドイツのオケとのベートーヴェンの「皇帝」ということで、期待が高まりました。

 平日の夜ということで、行けるかどうかは最後まで定まりませんでしたが、何とか時間が取れましたので、大急ぎでりゅーとぴあへと向かいました。幸い開演15分前に到着することができ、ゆっくりと客席に座りました。
 私は東響定期会員枠でしたので、いつもの新潟定期と同じ席です。S席は11000円で販売されていましたが、特典で無料招待となりました。l
 客席の入りは、いつもの新潟定期演奏会より若干多めというところでしょうか。ほとんどが定期会員で、一般発売での集客はほどほどのようです。

 開演時間となり、拍手の中に団員が入場。全員揃うまで起立して待ち、最後にコンミスが登場して大きな拍手が贈られてチューニングとなりました。
 オケは小型で、弦5部は、11-9-7-6-4という編成です。オケの配置は、ヴァイオリンが左右に分かれる対向配置ですが、いつもの対向配置とは異なり、左にヴィオラ、右にチェロとコントラバスが配置されました。結果として、この並びがオケの響きに新鮮さを生んでいたようです。

 マンゼさんが登場して、「エグモント」序曲で開演しました。まず、演奏がどうのという前に、オケのサウンドがいつもと違うことに驚きました。小編成のオケながらも、低音が良く響いていて、音のクリアさに感銘を受けました。オケの並びも影響しているものと思います。
 ヴァイオリンはコンミスから最後列まで、音量豊かでまとまりが良く鳴っていて、マスとして迫ってきました。速めのスピードで曲は進み、私が勝手にイメージするドイツ的な重厚さはなく、明るく爽やかな印象を受けました。躍動感にあふれ、この曲の新たな魅力を感じ取ることができ、楽しませていただきました。

 ステージにピアノが設置され、2曲目はピアノ協奏曲第5番「皇帝」です。オピッツさんとマンゼさんが登場して演奏開始です。
 勇壮な出だしの後、次にピアノが入るまでの間、オケは軽快にリズムを刻み、颯爽とした音楽が流れ、これがその後の印象そのものでした。小編成のオケは機動性に溢れ、早めのテンポで淀みなく音楽が流れ出ました。
 ピアノもこれまでのオピッツさんのイメージとは違って、重厚ではなく、軽やかな音楽が生み出されました。オケとピアノは競合することなく絡み合い、ともに高め合いました。
 第2楽章はゆったりとロマンチックに歌わせるものと期待しましたが、意外にもあっさりと、早めに、少しあっけなく駆け抜けました。
 第3楽章も明るく軽快にエンジンをギアチェンジし、小型自動車にターボエンジンを搭載してアウトバーンを疾走するかのようなスピード感と躍動感の中に、フィナーレへと駆け抜けました。
 私が勝手に思い描くドイツ的で重厚で堂々としたこれぞ「皇帝」というような演奏を予想しましたが、真逆の爽やかな演奏に、新鮮な感動をいただき、力の限りの大きな拍手を贈りました。

 休憩後の後半は「英雄」です。これも前半と同様の印象でした。マンゼさんは全身を使ってぐいぐいとオケをドライブし、スピーディで躍動感に満ちた、メリハリのある音楽が快く響きました。
 第2楽章の葬送行進曲も、単に悲しみや絶望に涙し、重い足取りでゆっくりと歩むのではなく、その先にある希望の光を感じさせました。
 第3楽章は、悲しみを振り切ってスピードアップし、オケはエンジン全開で力の限りに走り抜け、ホルンのアンサンブルもお見事で、爽快な気分と高揚感を感じさせました。
 そして第4楽章は、緩急の幅を取りながら様々な変奏が何度も繰り返され、最後にギアチェンジした後はアクセルを踏み込んで、興奮と感動のフィナーレへと走り抜けました。
 総じて、小型のオケの利点と魅力が示されて、機動性の良さが感じられました。ヴァイオリンの対向配置の演奏効果も感じられ、ヴィオラが左でチェロとコントラバスが右というのも新鮮な響きを作り出していました。明るく爽やかなベートーヴェンというのが私の感想です。

 ホールは大きな感動に熱く燃え上がり、私も力の限り拍手しました。マンゼさんが日本語で曲目紹介し、アンコールにアルヴェーンの「羊飼いの娘の踊り」が演奏されました。感動の高鳴った心を鎮めるにふさわしい爽やかな音楽で心も和み、大きな満足感の中に終演となりました。時刻は9時15分を回っており、オケの皆さんもお疲れさまでした。

 と、大分・東京・新潟と3日連続の長距離移動で休む間もなく新潟に来られての演奏でしたが、疲れなど感じさせず、パワーあふれる演奏に、疲れ切った心身にエネルギーが注入されたかのようでした。今後は愛知・大阪・福岡・神奈川と、日本ツアーは続きます。無事に千秋楽を迎えられますよう応援したいと思います。

 新型コロナは急速に再拡大中ですが、海外からのオケを聴くことができて良かったです。一瞬だけでもコロナを忘れて、少しだけ以前に近づいたかなと感じることができました。

 

(客席:2階C*-**、S席定期会員招待)