Noism1+Noism0 森優貴/金森穣 Double Bill
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2019年12月15日(日) 15:00 新潟市民芸術文化会館 劇場
Noism Company Niigata
 

シネマトダンスー3つの小品

 演出振付:金森穣
 衣装:堂本教子
 映像:金森穣、遠藤龍

 1. クロノスカイロス1
    音楽 J.S.バッハ:チェンバロ協奏曲第1番 第1楽章
 2. 夏の名残のバラ
    音楽 フロトー:歌劇「マルタ」より「夏の名残のバラ」
 3. Fratres II
    音楽 ペルト:フラトレス ヴァイオリンとピアノのための

(休憩20分)

Farben(ファルベン)

 演出振付:森優貴
 衣装:堂本教子

 

 県民会館での新潟中央高等学校音楽科定期演奏会の第1部だけ聴かせていただき、りゅーとぴあに移動しました。今度は Noism です。

 今さら言うまでもないですが、Noismは2004年に新潟市民芸術文化会館(りゅーとぴあ)専属の舞踊団として創設されました。日本初の公立劇場専属舞踊団として活発な活動を行い、国内外での公演を重ね、高い評価を得てきました。
 しかし、昨年 Noism創設に関わった篠田前市長が退任し、中原市長に交代しますと、年間4〜5000万円の税金投入が問題視され、存在意義が問われる事態となりました。有識者による評価会議を経て、積極的な地域貢献等の条件が付された上で、何とか2022年8月末までの活動延長が決まりましたが、その後は不透明です。

 新潟市では財政危機のため文化政策が縮小されています。「ラ・フォル・ジュルネ新潟」や「水と土の芸術祭」が中止され、小学校5年生全員にコンサートホールでプロのオーケストラ演奏を聴かせる「わくわくキッズ・コンサート」も無くなりました。新潟の未来を担う子どもたちへの情操教育をも切り捨てるとは・・・。嘆かわしく思っていたところに、今度は Noism問題です。

 政令市とはいえ、人口減少が進み、衰退感がぬぐえない新潟市。全国に自慢できるものは数少ないですが、りゅーとぴあは全国に誇りうる新潟の宝であり、そこで活動するジュニア音楽教室、アプリコット、そして Noismは新潟の至宝です。

 ただし、今でこそ私も Noismは新潟市の宝などと主張していますが、人並み以上のコンサート通いをしている私でも、Noismの素晴らしさを実感したのは最近であり、一般市民の間でどれだけ知られているのかは疑問です。
 現代舞踊そのものの分かりにくさもありますが、Noismの存在そのものが分かりにくいということもありましょう。スタジオBにこもって何かをしているらしい、でも、何をしているんだろう・・。
 公演といえば、違いが分かる「通」ばかりが集まって、一般人を拒むような空気感を感じざるを得ません。今後はスタジオBから外に出て行き、もっと市民との距離を縮めることが重要だと思います。


 と余計なことを長々と書いてしまいましたが、活動延長が決まった後の最初の公演であり、早速その内容が問われることになりました。

 今回の公演は、7月の15周年記念公演以来5ヶ月ぶりになります。前回は、新潟市の財政難から、Noismの活動が延長されるかどうかの判断が迫られていたときであり、特別な空気感を感じました。市長も観覧し、活動延長の判断材料となりました。
 その後活動延長が決まったわけですが、活動拠点である新潟を全国にアピールし、新潟に根ざした活動をするため、名前を「Noism Company Niigata」と改めて、新たなスタートを切ることになりました。
 今回は、その最初の公演ということで注目されましたが、演目は金森作品のほかに、ドイツで活躍して帰国した森優貴氏の作品との2本立て(ダブルビル)です。
 新潟で3公演、埼玉で3公演予定されていますが、13日の金曜日が初日で、今日は3日目、新潟での最終公演となります。

 開場開始とともに入場。ステージ全体を見渡したく、今回も後方に席を取りました。若い人たちが多く、私の周りは団体で来た見慣れない制服の女子高生がずらり。嬉しくもありましたが、何となくいずらさも感じてしまいました。皆さん、メモを取ったりしながら熱心に鑑賞しておられました。客の入りは良く、ほぼ満席といってもよいでしょう。

 場内が暗転して開演です。前半は金森さんの作品で、3つの作品が連続して上演されました。最初は「クロノスカイロス1」という作品。バックのスクリーンにストップウォッチの数字が刻み、ピンクの衣裳の団員たちがステージを疾走するという演出に始まり、その後はバッハのチェンバロ協奏曲第1番に合わせての舞踊とバックの映像とがシームレスにつながって、映像が現実か虚像かわからなくなりました。

 場内が暗転し、2つめは井関さんと山田さんの二人により「夏の名残のバラ」です。「夏の名残のバラ(庭の千草)」の歌に載せてスクリーンに井関さんがステージに向かうまでの様子が映し出され、映像上のステージと現実のステージとが渾然一体となり、幻想的な世界が作り出されました。
 プログラムには、この歌の歌詞の日本語訳が挟みこまれており、そこにメッセージがあるものと思います。15年間の井関さんの Noismとの歩みと年輪の積み重ね、衰えゆく現実の中でステージに立つ思いが表現されているかに思われました。井関さんは決して「名残のバラ」ではなく、今なお咲き誇るバラですが・・。
 ステージに敷き詰められた枯葉の上で、赤い衣装の井関さんが舞う姿はあまりにも美しく、正に夢幻の世界。最後にスクリーンに映し出される無人客席の映像が、やはり夢だったのかと現実に引き戻してくれました。
 
 3つ目は、金森さん単独での「Fratres II」です。前回公演で演じられた「Fratres I」に続く作品で、次回(6月)に演じられる「Fratres III」と三部作をなします。前作は全員での一糸乱れぬ舞踊と衝撃のラストに度肝を抜かれましたが、今回も前作と同様の演出がなされました。芸術を追い求め挑戦し続ける金森さんの姿がスクリーンに影となって投影され、その影と戦い、融合し、さらなる高みへと昇っていく渾身の舞踊に見入るのみでした。

 静まり返った劇場。一瞬も見逃すまいという観客の息を呑むような緊張感の中に演技が進みました。舞踊と映像と音楽とが見事に融合し、まさに芸術と呼ぶべき至高の作品に昇華しました。


 後半は森さんの振付による「Farben」です。前半の金森作品とは趣を全く異にし、躍動感あるプログラムでした。その変化の大きさに驚きを感じましたが、新たな Noismの魅力を引き出していたのではないでしょうか。

 真っ暗な中に緞帳が上がるとともに、一瞬の閃光が客席を照らし、以後40分間息つく暇も与えられず、ステージに見入りました。題名の「Farben」はドイツ語で「色、色彩」という意味だそうですが、12人のダンサー一人一人の色を引き出しており、全員がシンクロする群舞とは違い、それぞれがいろんな動きを見せ、一瞬たりとも見逃せませんでした。
 劇場を埋めた観客全員が息を呑みながら見入り、演技が終わっても劇場には静寂が流れ、沈黙の時間が流れました。あまりの感動に拍手することも忘れたということでしょう。

 ステージに明かりがつき、整列した12人のメンバーの姿が浮かび上がるとともに、大きな拍手とブラボーの声が溢れ、スタンディングオベーションとなりました。カーテンコールでは、左右から一人ずつ順に前に出て礼があり、その一人一人に拍手が贈られました。

 Noismの素晴らしさ、Noismが新潟にある意味、その喜びが実感された公演でした。衰退著しい新潟に、ひとつくらい全国に、世界に誇れるものがあってもいいじゃないでしょうか。

 次回の公演は、2020年6月12日(金)、13日(土)、14日(日)で、「春の祭典」と「Fratres III」の2本立てです。また、翌週の6月19日(金)、20日(土)、21日(日)には東京公演(東京芸術劇場)が予定されています。今から楽しみですね。

  

(客席:2階:18-24、A席:¥3000)