細川千尋さんは、世界三大ジャズ・フェスティバルの一つである「モントルー・ジャズ・フェスティバル」で日本初のファイナリストになって以来、世界が注目するジャズ界の新星だそうですが、不勉強な私は存じ上げませんでした。昭和音楽大学大学院修了とのことであり、音大在学中にジャズと出会うまでは徹底的にクラシックを学んでいたとのことです。
今回のコンサートは、前半はピアノソロでクラシック、後半はベースとドラムスを加えた「トリオ」によるジャズという、興味深いプログラムであり、手ごろな料金もあって、チケット発売早々にネット購入していました。
しかし、年末の慌しさもあって体調はイマイチで疲労蓄積。直前までどうしようかと思いながら車を進め、左に曲がれば家、直進すればりゅーとぴあといところで、思い切って直進を選びました。
ところが今夜は隣の新潟県民会館では久保田利伸の公演が18時半から始まっていて、既に駐車場は満車の表示。巡り巡って陸上競技場に駐車して、小雨が降る中に駆け足でりゅーとぴあ入りしました。開演に間に合ってよかったです。
客席は3階席とステージ周りは使用されませんでしたが、なかなかの入りです。クラシックファンとジャズファンが集まったようですね。
ステージ左手にクリスマスツリーが飾られ、クリスマスライブの雰囲気を高めていました。ステージ中央にはいつものスタインウェイではなく、ベーゼンドルファーが鎮座。左右にPA用スピーカーが邪魔にならないように配されていました。1階席最後方には、後半のジャズセッション用のPA調整卓が置かれていて、スタンバイしていました。
開演時間となり、前半はピアノソロです。可愛いらしい小豆色のドレスの細川さんが登場して演奏開始。腰まで伸びていそうな長い髪を後ろに束ね、礼をすると前に垂れて床につきそうでした。プログラムは当初の予定曲と若干の変更がありました。
「アヴェ・マリア」で演奏開始。前半はクラシックのはずですが、細川さん流にアレンジされて、緩急自在、ダイナミックレンジも大きくとって、美しい演奏でした。ベーゼンならではの芳醇な響き、特に低音のふくよかさが、この曲の優しさを引き立てて、包み込まれるような柔らかさを感じました。
ここで遅刻者がゾロゾロと入場。駐車場は満車でしたから、遅れた人も通常以上に多かったようです。しばし静まるのを待って2曲目の「月の光」の演奏開始。これも思いっきり揺り動かし、情感豊かな演奏でした。
続くカプースチンは現代曲だけあって、まさに“ジャズ”という演奏。軽やかに滑らかに、スウィイングするように聴く者の心をウキウキさせました。
いつしかクラシックからジャズの世界へと移ろい、「白鳥の湖の主題による幻想曲」は、おなじみの誰もが知る「白鳥の湖」のテーマが形を変え、新たな魅力を身にまとって、コンサートホールの中を羽ばたきました。
前半最後は細川さん作曲の「パガニーニの主題による“ジャズ”変奏曲」。おなじみのパガニーニのメロディが力強く奏でられたかと思うと、時に優しくしっとりと、時に激しく情熱的に、変幻自在に形を変えて駆け回り、足を踏み鳴らし、最後は再び最初のメロディを強奏で高鳴らせ、怒涛のごとき興奮の中に曲を〆めました。ホールは興奮に沸き、ライブハウスの如き熱狂に満たされました。
休憩時間にステージ上のピアノが左手に少し移動され、中央にベース、右手にドラムスがセッティングされました。黒地にキラキラのミニドレスに衣裳替えした細川さんとベースの澤田さん、ドラムスの石川さんが登場して、後半はPAを使用してトリオでの演奏です。各曲ごとに照明を変えながら、ムーディな雰囲気の中に演奏が進められました。
最初は、細川さん作による「アヴェ・ヴェルム・コルプス」。モーツァルトの名曲を見事なジャズに変身させ、ウキウキする音楽を作り出しました。
続く「モーツァルトの主題によるきらきら星“ジャズ”変奏曲」も同様に、モーツァルトのメロディを借りながらも、正にジャズ。ノリノリの音楽に気分も明るくなりました。
続いてはクリスマスライブということで、クリスマスにちなんだ曲として、「そりすべり」と「ホワイトクリスマス」を2曲続けて演奏。3人はサンタの帽子をかぶったり、髪飾りをつけたりと、お決まりの演出をして楽しませてくれました。
さらに「サンタが街にやってくる」でクリスマス気分も最高潮。そしてマイルス・デイヴィスの「ナーディス」で浮かれた気分から引き戻されました。
当初は私が好きなビル・エヴァンスの「ワルツ・フォー・デビイ」が演奏予定だったのですが、「ナーディス」に変更になりました。こっちも良かったですけれど。
ここでプログラムにない曲が演奏されました。細川さんがかわいい甥のために作曲した曲とのことです。その甥は新潟在住で今夜聴きに来てるとのことで、演奏することにしたそうです。「エスポワール(希望)」という曲名で、大切にしている曲と話されていましたが、優しさに満ちた穏やかな曲に、うっとりと聴き入りました。
そして、プログラム最後は細川さん作曲の「“Jazz” Variations on a Theme of A Child
is born」。ジャズの楽しみを存分に知らしめてくれる演奏に、興奮と感動をいただきました。
アンコールに細川さん作曲の「パッション」を演奏して、ノリノリの演奏会は終演となりました。クラシックで培われたしっかりとしたピアノテクニックと音楽性に支えられ、変幻自在に繰り出される音楽は、クラシックだのジャズだのとジャンル分けするのが馬鹿らしく感じられました。
細川さんをサポートし、渡り合った澤田さん、石川さんも賞賛すべきでしょう。ジャズは日頃聴く機会が少ないですが、ジャズの楽しみ、素晴らしさを示してくれました。
楽しいコンサートに気分も明るくホールの外に出ますと、雨に雪が混じっていました。県民会館のコンサートも終わったところで、帰りの客で混雑しており、急ぎ足で駐車場に向かいました。
(客席:2階:C2-9、¥2000) |