地方でのオペラ公演は開催が難しく、観る機会が非常に少なく、東欧系のオペラ公演が時々ある程度で、演目もワンパターンというのが現実です。
そこで、全国のホールやオーケストラが手を組み、共同で世界レベルのオペラを制作しようというプロジェクトでこの公演が企画されました。新潟のほか、東京、金沢、魚津、沖縄でこの演目が公演されますが、新潟が幹事的立場という話を伝え聞きました。チケットの売れ行きも良く、見切り席も発売というのは良かったですね。
さて、全国のホールが協力してのオペラ公演は、新潟では2011年1月に「椿姫」の公演を観た記憶があります。そのときは県民会館でしたが、今回はコンサートホールでの公演です。
コンサートホールでの公演といってもコンサート形式ではなく、通常の演出での公演だそうです。小鉄和弘さんプロデュースによるオペラコンサートは毎年春先に行われていますが、このホールでの本格的なオペラ公演を観るのは、2013年10月のプラハ国立歌劇場の「魔笛」以来となります。
そして今日の演目は「トスカ」。映画監督の河P直美さんの演出により、原作の舞台であるナポレオン時代のローマを古代日本の「牢魔」という集落に置き換えて、スリルに満ちた陰謀、壮絶な愛と死を、「祝祭の1日に起きた悲劇」として描くとのことで、どんなオペラになるか興味深かったです。
今日は連れと一緒に観る予定だったのですが、諸般の事情により、私一人となってしまいました。S券を無駄にしてしまいましたが、仕方ありません。気分を取り直して、隣が空席になった分ゆったりと観賞しましょう。
ホールに入りますと、1階席の前方の数列が取り払われてオーケストラが配置されていました。ステージの上にさらに高く黒い舞台が設置され、白い神社風のセットが組まれていました。私の席は2階Cブロックで、見張らし良好です。
指揮者が客席側から入場して開演しました。舞台後方の白幕に富士山らしき山が投影され、愛の場面では薔薇の花が投影されて甘い雰囲気を演出していました。字幕は左右の白い柱に投影され、見やすかったです。コンサートホールですので、音響は抜群であり、オペラハウスで聴く以上に良いものと思います。
登場人物は日本風の名前に変えられて違和感を感じ、正直言えば、遊びすぎじゃないかと思うほどでした。「トスカ香」はまだしも、「カバラ導師・万里生」とか「須賀ルピオ」には笑ってしまいそうです。でも、海外組の二人のほか日本の各歌手とも好演して素晴らしい歌声でした。
第2幕は、河瀬さんの面目躍如たる映像美なのかもしれませんが、水底から沸き上がる泡の意味は凡人の私には理解し難かったです。花火が上がったり、無数の蝋燭の炎が揺れたりと、美しい映像効果が場面を盛り上げました。一番の見所・聴きどころであるトスカ(トス香)のアリア「歌に生き、恋に生き」では赤いスポットライトが当てられて素晴らしい効果を生んでいました。
第3幕では落ち着いた映像に戻りました。カヴァラドッシ(カバラ導師)の名アリア「星は光りぬ」を切々と歌って感動を誘いました。トスカが絶望の中に身を投げる劇的なフィナーレの演出は、さすが映画監督と唸らせました。
地元から出演の合唱団やボーイソプラノも頑張りました。そして、OEKの素晴らしい演奏も賞賛すべきでしょう。演奏の良さ、音響の良さが相乗効果を上げ、ホールオペラの醍醐味を満喫できました。
ローマの代わりに古代日本の「牢魔」という設定にした意味は、結局私には最後まで理解できませんでしたが、素晴らしい公演だったと思います。
「絶望の中に希望の光を当てたい」というのが河瀬さんの演出の趣旨とのことですが、光の使い方が秀逸だったと思います。出演者が出入りするときの影の演出が効果的であり、最後の場面も、トスカが飛び降りるのでなく、不死鳥のように舞い上がるようにシルエットで表現していたところに河瀬さんの思いが込められていたのではないでしょうか。
この演出の公演は、新潟が初演の地となりました。これから各地で上演されるうちに、さらに素晴らしい内容になっていくことでしょう。
私の隣が空席になってしまったのは残念でしたが、そんな気分を吹き飛ばす好演に接し、大きな満足感を胸に家路につきました。
(客席:2階C6-1、S席:会員割引¥10800) |