亀やの二階から
十月二十八日。午後四時。亀屋の二階から木下君と二人で往来を見下す。道の中央に小い流れがある。葱や大根の葉がういて流れる。處々に板の柵がかゝつて居る。薄く曇つた夕方の空が映る。向うから赤んぼを負ぶつた娘が来る。橋を渡る時二階を見上げた。立止つた。一心に見て居る。長髪の木下君を変に思つたらしい。栄養不良といふやうな顔だ。そしらぬ風してブツクに寫す。――それと知つた娘は赤い顔をして横町にそれて行った。
渡辺与平