私の温泉観とこだわり


1.私の温泉観

 温泉の楽しみ、それは人様々だと思います。別項に記していますが、温泉の効能には、基本となる温熱作用のほかに、水圧・浮力といった物理作用、皮膚の清浄作用、温泉成分による薬理作用などがあり、温泉成分によっていろいろな効能があるのはご存じの通りです。
 しかし、実際は、仕事や家庭のしがらみから一瞬でも逃れ、自然の中の風光明媚な土地で、きれいな空気、木々の緑、雄大な景色、渓流の音、これらの環境の中で気分転換をはかるという、
転地効果が一番ではないでしょうか。泉質云々よりも温泉地に行ったという事実がまず重要だと思います。今日は温泉に行くぞ、と車を走らせたときから温泉の楽しみの始まりです。

 風光明媚な露天風呂にドボーンと浸かったとき、だれでもいい気分になるでしょう。こんな「アー気持ちいいなあ」と思った瞬間には、泉質よりも温泉に入ったという事実、それだけで9割方いい気分で、この場合は泉質は副次的です。入って気持ちよければそれでいいんで、「この泉質は、ナトリウム塩化物泉だけど、苦味もあるから硫酸塩も含むんだろうなあ。成分表より薄味だから、水でうすめてるな。」などといちいちチェックを入れるのは、ある程度温まってからの話です。
 また、景色の見えない内風呂のような場合は、脱衣場の雰囲気、浴室に入ったときの臭い、明かり、浴槽などいろんな要素が関わります。特に臭いというのも重要で、浴室に入ったときの第一印象を形成する重要な要素です。私なんかは、プーンと硫黄臭がしたり、臭素臭・ヨード臭がしたら、それだけでいい気分になってしまいます。

 気持ちよかったかどうかという評価をする上で、泉質が重要には違いありませんが、泉質のみが重要ではなく、いろんな要素が関わるというのが私が強調したい重要なポイントです。いくら泉質が良くても、浴槽・浴室、温泉のおかれた環境がとんでもないものだったら魅力半減です。泉質を論ずるとき、浴槽・浴室を含めて実際は評価する必要があります。いくらいいお湯でも、手入れ・清掃されていないヌルヌルの浴槽、足も伸ばせないような家庭風呂程度の浴槽ではゆったりできません。お湯に浸かることが目的ではありません。お湯に浸かって身も心もリフレッシュされる事が目的です。実際は、成分豊富なほど温泉の成分(湯花)により浴槽は汚れやすく、きれいに維持するのは大変だといいます。大変だからこそ、きれいだとその温泉、その施設の心意気が感じられます。

 また、いくらいい泉質、いい設備であったとしても混みすぎて休憩できる場所もないようじゃ温泉に来た甲斐がありません。入館制限するほど混み合う日帰り温泉施設もありますが、決してゆったり気分にはなれないでしょう。さらに、従業員のサービス、接客も重要な要素です。横柄な態度をされていい気分が台無しにされることもあります。旅館の立ち寄り湯を頼むのにこちらが頭を下げたりなんてことも多いですが、よく考えれば変な話ですね。

 私は泉質に異常にこだわり、1日に10湯も20湯も入るような、単に温泉に浸かるのが目的の温泉マニアではありません。いかに気持ちいいかにこだわります。泉質・設備が良くても、客の扱いが悪くて気まずい思いをしたんじゃ何にもなりません。小さなひなびた温泉でも、主人の温かい気持ちに触れて、感動することもあります。人工温泉でも、あ〜気持ちいいなあ・・とうなることもあります。温泉は泉質だけが全てではありません。温泉をもり立てる、浴室や周囲の環境、サービス、などを総合して考えなければなりません。満足できれば、天然・非天然にこだわらないとしているのはここにあります。

 天然といいながらも、加熱循環して、天然温泉の趣が失われている温泉も多数ありますし、濾過するだけで、お湯の入れ替えを時々にしか行っていない施設もあるのが実情です。レジオネラ感染症を起こして死者まで出した温泉が他県にはあります。循環・濾過の過程で塩素消毒され、塩素臭い温泉もあります。源泉100%掛け流しの温泉は数えるほどしかなく、多くは循環式の温泉です。1日に何百人もの客が来る日帰り温泉施設は、ほとんどが循環式です。いくら濾過したとはいっても、人数分の汗や場合によっては排泄物が溶け込んでいるかと思うとぞっとします。単に天然温泉だからといってありがたがるのは危険なのです。成分が飛んでしまったような循環式の温泉より、人工温泉の方がまだましだったりもします。もちろん、天然温泉にこしたことはありませんが。

 

2.泉質について

 温泉には泉質・効能書きの表示が義務付けられています。良心的な温泉は成分表を掲示しています。(掲示していないところも多く残念です。)そこに書かれている泉質と、実際に入浴したときの印象が随分違うところがあります。泉質はあくまで湧出井戸の温泉の湧き口で採取した検体のものであって、浴槽にたまったお湯がどんな泉質なのかという情報は知ることはできないというところに大きな問題があります。
 また、大正時代や昭和初期の成分表を有り難げに掲示しているところがありますが、現在の泉質がどうなのかという点も重要です。ご立派な成分表を掲げていながら、浴槽のお湯は無味無臭というところがかなりあります。成分表は疑って見ることも大切です。ガイドブックの記載も全く当てになりません。

 このホーム・ページでは、成分についても記載するようにしていますが、大本営発表みたいなもので、実際の浴槽のお湯がどうかは自分で確かめる必要があります。しかし、その場では温度やPH程度はチェックできても、成分分析することはできませんから、このホームページでは、色・透明度・味・臭気・肌触り等、五感を総動員した実際の感想を重視して記載しています。人体そのものが立派な分析機ということです。

 さて、以上のような問題の原因を考えてみると、第1に、浴槽のお湯が源泉100%かどうかという問題です。地下水や湧水で加水しているところが多数あります。湧出量が少なかったり、温泉利用権が少なかったりしたらそうするしかないのでしょうが。また、巨大温泉旅館の巨大な浴槽をすべて源泉で満たすことは大変だということは想像に難くありません。

 第2に、循環式か掛け流しかという問題です。これも利用できる温泉の量に関わる問題ですが、多くの施設は循環式です。浴槽にためたお湯を、濾過したり温めなおしたりして循環させているのです。当然成分は変化・劣化します。温泉を限られた資源と考えれば、有効利用する上で、循環式は仕方ないものであり、この現実はよく理解しておく必要があります。
さらに注意しなければならない問題があります。循環式の場合は、お湯を毎日取り替えているとは限らないということです。一見きれいでも、何日も同じお湯を使用している施設もあることを忘れてはなりません。さらに、殺菌のために塩素消毒して、温泉成分が変化している場合もあります。また、単に掛け流しならば良いということでもありません。浴槽の大きさ、利用者数に見合った注湯量、掛け流し量かということにも注意を要します。

 第3に、井戸からの距離です。遠くから引いたものでは、源泉100%であったとしても、その間に成分が変化します。遠くからタンク車で温泉を運んできて営業してるところもありますが、本来の泉質は期待できません。温泉スタンドで温泉を仕入れ、家の浴槽で使用するというのも同様です。それなりの効能はあるには違いありませんが、成分よりも温泉に入ったという満足感が大事なのでしょう。

 第4に、加熱の問題があります。冷鉱泉は当然沸かします。25℃以上の温泉であっても、通常使用位置は40〜42℃ですから沸かす必要があります。このため、源泉100%の掛け流しであったとしても成分が失われてしまいます。炭酸ガスや硫化水素ガス、放射能成分はかなり失われてしまうことは仕方ありません。わざわざ非加熱の浴槽を用意している温泉もあり、これは良心的といえます。
単純硫黄冷鉱泉という温泉が数多くありますが、非加熱の源泉は硫黄臭(硫化水素臭)・硫黄味がするものの、浴槽のお湯は無味無臭というのがほとんどです。掛け流しならいいのですが、多くは循環式にしています。これでは温泉としての魅力は半減です。山間の鉱泉の中には、天然ガスで24時間沸かしっぱなしで、温めた源泉をそのまま掛け流ししているところがあります。これなら鉱泉の魅力を十分楽しめますが、実際にはこういう温泉は少ないのが現実です。

 さらに、高温泉はさまさないといけないし、場合によっては入浴できる温度に調整するために水でうめる必要もでてきます。40℃位の程良い温度の源泉が浴槽の底から湧き出て、浴槽からあふれているというのが理想ですが、こんな所はめったにないでしょうね。成分表そのままの温泉を味わうことは難しいということを念頭に置く必要があります。

 でも、こうは書きましたが、源泉100%・非加熱・非濾過・非循環・掛け流しの施設がそれだけでいいということでもありません。もともとの泉質がそれなりに優れているということが重要です。いくら掛け流しでも、何の特徴もない地下水同様の泉質では有り難みがありません。また、前項で書いたように、浴室の雰囲気、設備、サービスなどハード面、ソフト面を含めて総合的に考える必要があります。

 以上、いろいろ書きましたが、天然温泉をうたっていても、源泉100%とは限らないし、新鮮なお湯とも限りません。温泉は劣化(老化)することにも注意がいります。単に劣化するだけならいいのですが、循環を繰り返し、非衛生的な場合もありえます。源泉を浴槽にそのまま流し込んで、循環させずにあふれさす、という掛け流しが本来の姿です。それも源泉井戸はすぐ裏にあるというのが最高ですね。新鮮な温泉を是非味わいたいものです。

 この温泉は飲めませんという掲示をしている施設が何と多いことか。飲泉許可を得るためには適した泉質であるほかに、厳格な衛生管理が求められます。飲泉できない温泉のほとんどは循環式で、とても飲めるような水質じゃないのです。飲泉できるのは源泉に限りますので、飲泉所があったり、飲泉用コップが置いてあるような施設がいいですね。

 こう考えると、独自の源泉を持つ1軒宿が狙い目と思います。最低足を伸ばせるだけの浴槽があって、古いながらもきれいに掃除され、お湯の注ぎ口にはコップが置いてあり、洗い場にはケロリンの洗い桶がピラミッド状に積まれている。窓から見える山々がすがすがしい。こんな温泉が私好みです。


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