天然温泉に潜む危険


 私は、入って気持ちよければ、天然・非天然にこだわらない、といつも言っていますが、本当は天然温泉にこしたことはありません。でも、大きな問題が潜んでいます。
 天然温泉と言っても、実際は循環湯の所がほとんどです。脱衣場に掲げられた成分表と実際の湯の性状があまりに違いすぎて驚嘆することが度々あります。強塩泉のように成分が濃い場合は、多少循環させても成分変化に気付きませんが、硫黄泉など成分の薄い温泉の場合は、循環するとすぐに成分が飛んで、ただのお湯になってしまいます。結構な成分があるはずなのに、無味無臭という温泉は、循環されたなれの果てと言えます。また、循環湯の場合、殺菌のため塩素などの殺菌剤の混入が行われますから、成分変化は避けられません。このように劣化し、死んだ温泉を天然温泉だとありがたがるのはばからしい話です。
 さらに、循環湯は単に温泉成分が失われるだけでなく、レジオネラ感染症の危険をはらんでいます。レジオネラ菌は土壌菌として常在していますが、循環浴槽の濾過槽も繁殖場所として知られています。レジオネラ菌で汚染された湯の飛沫を口や鼻から吸入することにより、重篤な肺炎を引き起こします。実際に集団感染を起こして死者まで出した温泉施設が他県にはあります。循環湯は濾過しているので、一見きれいに見えますが、浴槽にたまったお湯を何度も使い回ししているのです。入浴した人数分の汗が浴槽の湯に溶け込みます。掛け湯しないまま浴槽に入る人もいれば、サウナで汗だくになったまま浴槽に入る人もいます。子供は密かに排泄したりもします。それらがすべて溶け込んだお湯を循環させているのです。人気施設になると1日に何百人も利用しますから、お湯がどうなっているのか考えただけでもぞっとします。
 もっと重要なのは、そのお湯は毎日取り換えているとは限らないということです。いくら濾過・殺菌しているからと言っても気持ちいいものではありません。「この温泉は飲めません」という掲示をよく見ると思いますが、とても飲めるような泉質ではないということです。
 そして、循環湯をジャグジーや打たせ湯に使用した場合は、飛沫がたくさん生じますから汚染されたお湯を肺に吸入する危険が高くなります。レジオネラ感染を回避するため、ジャグジーや打たせ湯には循環湯は使用しないようにという行政指導がなされているはずですが、努力目標であり、罰則規定がないため、循環湯をそのまま使用しているところがほとんどです。
 このように、温泉にはいろんな問題が隠れています。循環湯の場合、しっかりと濾過・殺菌されているかどうかは、施設の管理者を信じるしかありません。塩素臭たっぷりな温泉がむしろ、しっかり殺菌されているという意味で安心かもしれません。こんな現状を知った上で、温泉を考える必要があります。
 それならいっそ非天然の方がましということもあるとは思いませんか。

 ということで、新鮮な温泉を味わえる施設が一番ということになります。つまり、浴槽に源泉をそのまま注ぎ、循環させることなくあふれさせる「掛け流し」というやり方です。浴槽からお湯がオーバーフローしているかどうかまず確かめましょう。飲泉ができるということもひとつの目安です。お湯の注ぎ口に飲泉用のコップや柄杓が用意されていれば間違いありません。ただし、飲泉所が別の場所に設けてある場合は、飲泉所のお湯のみ新鮮で、浴槽は循環という場合もありますから、注意しましょう。
 しかし、実際は完全掛け流しの施設はまれです。循環浴槽に、源泉を別に注いでいる場合もあります。これは次善の策としては評価できます。


→ レジオネラ感染について