温泉雑学メモ


1.温泉とは

 温泉とは何か、これは昭和23年に制定された温泉法第2条で規定されています。

 この法律で「温泉」とは、地中からゆう出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く。)で、別表に掲げる温泉又は物質を有するものをいう。

 その別表によると、

1.温度(温泉源から採取されるときの温度)が摂氏25度以上のものは温泉
  とする。
2.溶存物質(ガス性のものを除く。)総量が1000mg/kg以上のものは温度に関
  わらず温泉とする。
3.指定された物質が、ひとつでも基準以上を満たすとき温泉とする。


 とされています。
 つまり、泉温25度以上は成分に関わらず温泉であり、規定量以上の成分があれば温度に関わらず温泉ということになります。水蒸気やガスでもいいというのはおもしろいですね。
 広義の温泉から水蒸気やガスを除いたものがいわゆる「鉱泉」であり、そのうち25℃以上の温かい鉱泉が狭義の温泉であり、それ以下の冷たい鉱泉が「冷鉱泉」と考えれば分かりやすいと思います。

 指定された成分は、

    物質名            

含有量(1kg中)
溶存物質(ガス性のものを除く)

総量1,000mg以上

遊離炭酸(CO2)  

250mg以上

リチウムイオン(Li+)   

1mg以上

ストロンチウムイオン(Sr2+)   

10mg以上

バリウムイオン(Ba2+)   

5mg以上

総鉄イオン(Fe2+,Fe3+)  

10mg以上

マンガンイオン(Mn2+)   

10mg以上

水素イオン(H+)

1mg以上

臭素イオン(Br+)

5mg以上

ヨウ素イオン(I+)

1mg以上

フッ素イオン(F-)

2mg以上

ヒ酸水素イオン(HAsO42-)

1.3mg以上

メタ亜ヒ酸(HAsO2

1mg以上

総硫黄(S):硫化水素イオン(HS-)+チオ硫酸イオン(S2O32-)+硫化水素(H2S)に対応するもの

1mg以上

メタホウ酸(HBO2

5mg以上

メタケイ酸(H2SiO3

50mg以上

炭酸水素ナトリウム(NaHCO3

340mg以上

ラドン(Rn)

100億分の20キュリー単位以上

ラジウム塩(Raとして)

1億分の1mg以上

となっています。これらのうちひとつでも基準を満たせば、温度に関わらず温泉と認定されます。また、温度が摂氏25度以上あれば全く有効成分がなくても温泉になるというのはくせ者です。地中深く掘り、単に地熱で温まっただけの地下水を温泉としてありがたがるのは虚しい気もします。
 
 さて、この基準値はどういう根拠で決めたのでしょうか。いろいろ調べてみましたが、わかりませんでした。ドイツの基準(Nauheim決議、1911年)のほとんど丸写しのように思えます。温度が25℃以上というのも根拠が不明です。ドイツの基準では20℃以上となっており、年平均気温以上の温度の水を温泉とするというのが世界的な基準のようですが、そうすると25℃というのは高温すぎます。どうも日本が台湾を植民地化していた頃の日本の年平均気温が25℃だったので、それを基準としたらしいとの意見がもっともらしく思えます。

 

2.療養泉

 温泉のうち、泉温、成分量、質、組成から、薬理学的に医療的な治療効果が期待できるものが療養泉として区別され、その基準は、衛生検査指針鉱泉分析法・療養泉の規定(昭和32年)で定められました。その後、再検討・改訂がなされ、昭和53年5月に出された、環境庁自然保護局監修・鉱泉分析法指針(改訂)が泉質を決める基準として用いられています。その後も改訂がなされ、平成14年3月に出された、環境省自然環境局・鉱泉分析法指針(改訂)が最新の基準となっています。
 この療養泉の基準を満たす温泉に限って泉質名が付与されます。昭和53年の鉱泉分析法指針(改訂)で規定された泉質名が新泉質名として現在用いられていますが、それ以前の旧泉質名も広く浸透しなじみ深いので、併用されています。また、古い温泉では旧泉質名しか掲示していないことも多いようです。

 療養泉の規定は、

    物質名            

温泉の規定(1kg中)

療養泉の規定(1kg中)

H26年7月改定
溶存物質(ガス性のものを除く)

総量1,000mg以上

総量1,000mg以上

総量1,000mg以上

遊離炭酸(CO2)  

250mg以上

1000mg以上

1000mg以上

リチウムイオン(Li+)   

1mg以上

−    

−    

ストロンチウムイオン(Sr2+)   

10mg以上

−    

−    

バリウムイオン(Ba2+)   

5mg以上

−    

−    

総鉄イオン(Fe2+,Fe3+)  

10mg以上

20mg以上

20mg以上

銅イオン(Cu2+)   

−    

1mg以上

−    

マンガンイオン(Mn2+)   

10mg以上

−    

−    

アルミニウムイオン(Al3+)   

−    

100mg以上

−    

水素イオン(H+)

1mg以上

1mg以上

1mg以上

臭素イオン(Br+)

5mg以上

−    

−    

ヨウ素イオン(I+)

1mg以上

−    

10mg以上

フッ素イオン(F-)

2mg以上

−    

−    

ヒ酸水素イオン(HAsO42-)

1.3mg以上

−    

−    

メタ亜ヒ酸(HAsO2

1mg以上

−    

−    

総硫黄(S):硫化水素イオン(HS-)+チオ硫酸イオン(S2O32-)+硫化水素(H2S)に対応するもの

1mg以上

2mg以上

2mg以上

メタホウ酸(HBO2

5mg以上

−    

−    

メタケイ酸(H2SiO3

50mg以上

−    

−    

炭酸水素ナトリウム(NaHCO3

340mg以上

−    

−    

ラドン(Rn)

100億分の20キュリー単位以上
79Bq以上
5.5マッヘ以上

100億分の30キュリー単位以上
111Bq以上
8.25マッヘ以上

100億分の30キュリー単位以上
111Bq以上
8.25マッヘ以上

ラジウム塩(Raとして)

1億分の1mg以上

−    

−    

温度

25℃以上

25℃以上

25℃以上

 ここで注意したいのは、温泉の基準になる成分量と、泉質を規定する成分量、種類が異なるということです。つまり、温泉の基準を満たしても、療養泉としての基準を満たさず、泉質を付けられないこともあるということです。


注:総硫黄は、硫化水素イオン(HS-)+チオ硫酸イオン(S2O32-)+硫化水素(H2S)に対応するものとありますが、厳密には単純な合計ではなく、3種の中に含まれる硫黄の量を計算しなければなりません。総硫黄=0.941 x H2S + 0.970 x HS- + 0.267 x S2O32- で概算されます。

 
2.温泉の分類

 温泉の分類の仕方には様々なものがあります。

(1)温度(泉温)による分類

    冷鉱泉:25度未満
    低温泉:25〜34度
    温泉:34〜42度
    高温泉:42度以上

(2)水素イオン濃度(PH)による分類

    酸性泉:PH3未満
    弱酸性泉:PH3〜6
    中性泉:PH6〜7.5
    弱アルカリ性泉:PH7.5〜8.5
    アルカリ性泉:PH8.5以上

(3)濃度による分類(人体の浸透圧を基準。溶存物質合計)

    低張泉:8g/kg未満
    等張泉:8〜10g/kg
    高張泉:10g/kg以上

(4)刺激の強さによる分類

    緊張性:刺激の強いもの
    緩和性:刺激の弱いもの

(5)成分による分類(療養泉)

  以下の内容は、記載が古くなったのでお許しください。今後改訂予定です。(H26.9.15付記)

  
療養泉の基準、禁忌症・効能の改定について



 一般的な旧泉質名での分類を紹介します。( )内は新泉質名です。   

1.単純温泉(単純温泉)
 泉温25度以上で、ガス性除く溶存物質量が1000mg/kg未満のもの。無色透明無味無臭が多い。PH8.5以上の単純温泉をアルカリ性単純温泉という。
 成分が薄いと言っても、個性的な温泉も多く、決して「単純」ではない。
2.単純炭酸泉(単純二酸化炭素泉)
 遊離二酸化炭素を1000mg/kg以上含む。ガス性除く溶存物質量は1000mg/kg未満。炭酸ガスの小水泡が肌に付く。末梢血管の拡張作用が強い。低温であるが温まりが良い。
3.重炭酸土類泉(カルシウム(マグネシウム)-炭酸水素塩泉)
 ガス性除く溶存物質量が1000mg/kg以上あり、陰イオンとして炭酸水素イオン、陽イオンとしてカルシウムイオン、マグネシウムイオンが主体のもの。アルカリ性で肌がなめらかになる。
4.重曹泉(ナトリウム-炭酸水素塩泉)
 ガス性除く溶存物質量が1000mg/kg以上あり、陰イオンとして炭酸水素イオン、陽イオンとしてナトリウムイオンが主体。アルカリ性で肌がなめらかになる。
5.食塩泉(ナトリウム塩化物泉)
 ガス性除く溶存物質量1000mg/kg以上あり、陽イオンとしてナトリウムイオン、陰イオンとして塩素イオンを主成分とするもの。塩分量により、弱食塩泉(5g/kg以下)、強食塩泉(14g/kg以上)に分類される。当然塩辛い。熱の湯と呼ばれ温まりが良い。
6.硫酸塩泉(硫酸塩泉)
 ガス性除く溶存物質量が1000mg/kg以上あり、陰イオンとして硫酸イオンが主成分。陽イオンとしては、マグネシウムイオン(正苦味泉)、ナトリウムイオン(芒硝泉)、カルシウムイオン(石膏泉)を主。苦味がある。中風の湯、傷の湯などと呼ばれる。
7.鉄泉(鉄泉)
 鉄イオンを20mg/kg以上含む。陰イオンとして炭酸水素イオンを主とする炭酸鉄泉と硫酸イオンを主とする緑礬泉に分かれる。空気に触れると酸化して褐色の沈殿物を生じる。貧血に効果があるが濁った湯は効果が落ちる。
8.明礬泉(アルミニウム硫酸塩泉)
 ガス性除く溶存物質量が1000mg/kg以上あり、陽イオンとしてアルミニウムイオン、陰イオンとして硫酸イオンが主体。
9.硫黄泉(硫黄泉)
 総硫黄(硫化水素イオン+チオ硫酸イオン+遊離硫化水素に対応するもの)が2mg/kg以上。硫化水素を含まない狭義の硫黄泉と硫化水素を含む硫化水素泉に分類する。湧出時は透明だが、次第に硫黄分が沈殿して白濁する。
10.酸性泉(酸性泉)
 水素イオンを1mg/kg以上含む。皮膚刺激作用が強く慢性皮膚病に効く。
11.放射能泉(放射能泉)
 ラドンを100億分の30キュリー単位/kg以上またはラジウムを1千万分の1mg以上含む。皮膚、呼吸器粘膜からの吸収がよい。鎮静作用、リウマチ、不妊症などに効く。(ラドンはラジウムが崩壊してできる元素である。)

 幾多の変遷を経て、一般にはここに示した11種類の分類が使用されていますが、さらに、一般向けの浴室掲示用の泉質名として一部をまとめて、単純泉、塩化物泉、炭酸水素塩泉、硫酸塩泉、二酸化炭素泉、鉄泉、硫黄泉、酸性泉、放射能泉の9種類に分類されています。
 このように、新旧入り乱れて、いろんな泉質名が氾濫し統一されていませんので、混乱を招いています。一般向けの9分類ではあまりに味気ないですし、イオン表示の新泉質名は個人的には好きですが、科学的すぎて味わいが乏しく、直感的に分かりにくいかも知れません。ナトリウム-塩化物泉というより食塩泉と言った方が単純で分かりやすいですし、ナトリウム-硫酸塩泉と言うより芒硝泉と言った方が奥が深くありがたいような気分になります。
 先に述べましたが、医療的治療効果が期待できるものに限って「療養泉」として定義し、泉質名が付けられています。温泉の基準を満たしても、療養泉の基準を満たさなければ泉質名は付きません。泉質名が付かない温泉もかなり多いようです。療養泉として規定されていないメタ珪酸泉なんていう表示をしているところもあったりします。

附:鉱泉分析法指針(改訂)によれば、療養泉は含有する化学成分に基づいて、次のように分類される。
1.塩類泉
 ガス性除く溶存物質量が1g/kg以上のもので、陰イオンの主成分(mval値が大きいもの)により、1)塩化物泉、2)炭酸水素塩泉、3)硫酸塩泉に細分する。
 さらに陽イオンの主成分により、1)塩化物泉は、ナトリウム-塩化物泉、カルシウム-塩化物泉、マグネシウム-塩化物泉に、2)炭酸水素塩泉は、ナトリウム-炭酸水素塩泉、カルシウム炭酸水素塩泉、マグネシウム-炭酸水素塩泉に、3)硫酸塩泉は、ナトリウム-硫酸塩泉、マグネシウム-硫酸塩泉、カルイスム-硫酸塩泉、鉄(II)-硫酸塩泉、アルミニウム-硫酸塩泉に細分される。
2.単純温泉
 ガス性除く溶存物質量が1g/kgに満たないもので、泉温が25℃以上のものをいう。またPH8.5以上をアルカリ性単純温泉という。
3.特殊成分を含む単純冷鉱泉
 療養泉を規定する特殊成分のうち、少なくとも1つを限界値以上に含有し、ガス性除く溶存物質量が1000mg/kg未満で、泉温も25℃未満の療養泉を単純冷鉱泉とし、成分により、単純二酸化炭素冷鉱泉、単純鉄冷鉱泉、単純酸性冷鉱泉、単純硫黄冷鉱泉、単純放射能冷鉱泉と分類される。
4.特殊成分を含む単純温泉
 また、25℃以上の場合は、同様に単純二酸化炭素温泉、単純鉄温泉、単純酸性温泉、単純硫黄温泉、単純放射能温泉と分類される。単純硫黄温泉で、硫黄が主に硫化水素の形で含有するもの(旧硫化水素泉)と含有しないもの(旧硫黄泉)を区別する場合は、前者に硫化水素型と附記する。
5.特殊成分を含む塩類泉
 その成分により、「酸性−」、「含硫黄−」、「含二酸化炭素−」、「含銅−」などと泉質の初めに附記する。2種類以上含有する場合は「酸性・含硫黄−」というように列記する。
6.副成分による塩類泉の細分類
 成分のmval%が20以上の成分を多い順に列記して塩類泉を細分類する。

 関連情報 → 
温泉の分析表を見よう

 

3.温泉の効能

2014年7月1日付け 環境省自然環境局長通達で改訂されていますので、以下の内容は旧来のものですのでご容赦ください。(H26.9.15付記)

療養泉の基準、禁忌症・効能の改定について

(1)一般的適応症

 泉質によらない、温泉共通の適応症、禁忌症です。

一般的適応症 一般的禁忌症
神経痛、筋肉痛、関節痛、五十肩、運動麻痺、関節のこわばり、打ち身、くじき、慢性消化器病、痔疾、冷え性、病後回復期、疲労回復、健康増進 1.急性疾患で有熱、症状が進行性または悪化中のもの
2.悪性腫瘍
3.重篤な心・肝・腎疾患
4.出血性疾患、高度の貧血
5.妊娠の初期と末期における温泉療法(単回入浴は可)

 

(2)泉質別適応症

泉 質

適応症

禁忌症

浴 用

飲 用

浴 用

飲 用
単純泉 神経痛、冷え症、筋肉痛、関節痛、慢性関節リウマチ、打ち身、捻挫、脳卒中回復期、骨折、外傷後療養、手術後・病後回復期の静養、健康増進 胃粘膜刺激作用:軽度の胃炎
利尿作用
   
塩化物泉 神経痛、冷え症、筋肉痛、関節痛、慢性関節リウマチ、打ち身、捻挫、不妊症、切り傷、火傷、慢性皮膚病 胃液分泌・胃腸運動促進:
慢性消化器病、慢性便秘
  塩分制限の必要な高血圧症、心臓病、肝臓病、腎臓病、浮腫
炭酸水素塩泉 切り傷、火傷、慢性皮膚病、アレルギー性疾患、リウマチ性疾患 慢性胃炎、痛風、肝臓病、尿酸結石、胆嚢炎、糖尿病   ナトリウム泉は塩化物泉と同様
硫酸塩泉
(鉄・アルミニウム泉除く)
動脈硬化症、高血圧症、脳卒中、慢性関節リウマチ、打ち身、切り傷、火傷、慢性皮膚病、乾癬、にきび 胆嚢炎・胆石症、便秘、肥満症、糖尿病、痛風、蕁麻疹   ナトリウム泉は塩化物泉と同様
下痢のとき
二酸化炭素泉 高血圧症、動脈硬化症、心臓病、切り傷、火傷 慢性消化器病、便秘   下痢のとき
鉄泉
(含銅鉄泉含む)
月経障害、更年期障害、リウマチ性疾患 鉄欠乏性貧血    
硫黄泉 慢性皮膚病、切り傷、糖尿病、硫化水素型の場合は高血圧症、動脈硬化症にも有効 糖尿病、痛風、便秘 皮膚粘膜の弱い人、光線過敏症、硫化水素型では高齢者の皮膚乾燥症 下痢のとき
酸性泉 皮膚病、水虫、トリコモナス腟炎 慢性消化器病 硫黄泉と同様  
放射能泉 痛風、動脈硬化症、高血圧症、胆嚢炎・胆石症、慢性皮膚病、慢性婦人病、神経痛、慢性関節リウマチ 痛風、慢性消化器病、胆嚢炎・胆石症、神経痛、筋肉痛、関節痛、吸入も有効    

 

3.温泉の効能の機序

(1)温熱作用

 これは、一番分かりやすい温泉の作用でしょう。単純に温度の作用であって、温泉に限らず、普通のお湯でも得られる効果です。温度によって体への作用は異なりますので注意を要します。

高温の場合

 熱による刺激効果、覚醒効果が得られます。刺激によって交感神経優位になります。そのため、心拍数増加、血管収縮、血圧上昇が起こり、精神的緊張が高まります。温熱によって末梢循環が改善し手足の麻痺に効果があります。

低温の場合(体温に近い温度)

 鎮静効果、自律神経の正常化作用があります。副交感神経が優位になり、心拍数減少、血管緊張低下、血圧低下がおこり、精神的にリラックスします。
 ただし、低温すぎると侵害刺激として作用しますので、高温浴と同様に交感神経が緊張し、血圧上昇、血管収縮、ふるえが生じます。
 

(2)物理作用   

 お湯に入ることによって物理的に受ける作用です。これも水(お湯)の持つ物理的作用であって、泉質には関わりがありません。

静水圧 

 手足、胸腹部が水圧を受けて圧迫されます。そのため、末梢のマッサージ効果が得られ、下半身の血液が押し上げられ、静脈環流が増加します。胸腹部の圧迫により呼吸はしにくくなります。心・肺に強い負荷がかかるので、病気の人、高齢者は注意を要します。水位が心臓より下だと静水圧による心肺負荷はみられません。
 逆に浴槽から出ると静水圧が一気になくなりますから、心拍出量が減り、血圧が下がって脳貧血を起こすこともあるので、注意を要します。

浮 力 

 水中では体重が1/9になるので運動療法に有効です。麻痺のある人でも水中では運動しやすくなります。機能訓練に利用されています。

人工的物理作用

 泡沫浴(ジャグジー)、打たせ湯、圧注浴など、人工的に体に物理作用を加え、マッサージ効果を与えようという方法があり、実際にたいていの温泉にはこういった設備がなされています。超音波風呂と称しているものもあります。
 

これらの物理作用を利用して、リハビリテーションの分野では、水治療として治療に用いられています。
  
 

(3)皮膚の清浄作用

 泉質によらない一般的な作用として、垢を洗い流し、皮膚を清浄化するという作用があります。また温熱効果によって皮膚血流が増え、皮膚代謝が促進されるという作用があります。これに、温泉成分による薬理的効果も加わります。
 

(4)薬理作用

 温泉に含まれる化学物質による薬理効果です。温泉成分は皮膚や呼吸器粘膜から吸収されます。飲泉の場合は消化器粘膜からの吸収によります。(飲み過ぎに注意)
 皮膚からの吸収は、水は体表1平方cm当たり、1マイクロL/時で、1時間の全身浴で約18mlのの水分が吸収されるそうです。多価のイオン成分は吸収されにくいですが、二酸化炭素、硫化水素、ラドンなどの脂溶性ガスは容易に経皮吸収され、血液で運ばれて肺から呼出されます。鉄、ヨードなどの無機物で脂溶性のものは吸収されやすいといいます。
 温泉成分による薬理効果による効能、禁忌についてはすでに記した通りです。ただし、効能の医学的・薬理学的根拠については今ひとつ曖昧に思えます。また、温泉成分は多彩ですから、複数の温泉成分がどのように体に作用し合うのかという問題もあります。さらに、温泉はあくまでも温泉であって薬剤ではありませんので、「薬」としての効果を過度に期待することはできません。
 糖尿病の効能がある温泉といっても、入浴や飲泉だけで血糖が正常化するのではなく、食事療法・運動療法が基本にあるのだということは忘れてはなりません。貧血に効能のある鉄泉でも、赤茶けた湯を飲んでも効能はありません。効能のあるのは2価のイオンであり、酸化されて赤くなった湯(3価のイオン)は吸収されず、薬効は期待できません。また、病院で鉄欠乏性貧血を治療するとき、鉄剤としては1日100mg程度使用しますが、鉄泉の基準の20mg/kgで計算すると、1日5Lもの温泉を毎日飲まなければならなくなります。これは極端な例ですが、要するに、健康維持・増進としての薬効に期待するのはいいにしても、薬としての即効性を期待するのは問題であり、温泉の薬理作用は補助的なものだということを言いたいのです。
 

(5)転地効果

 温泉は多くは自然の中の風光明媚な土地にあり、きれいな空気、木々の緑、雄大な景色、渓流の音、世間から逃れる、これらが気分を落ち着かせます。
 温泉地の自然環境や気候・風土を利用した気候療法というものがあります。森林浴海洋療法(タラソテラピー)というのもこの中に含まれます。温泉に入るまでもなく、温泉地そのものが重要な意味があると言えます。
 渓流や滝、森林の中には、副交感神経を刺激し鎮静化するマイナスイオンが多くあります。また、森林内にたくさん発散されているテルペン系の芳香性成分が、鎮静作用を有することが知られています。(アロマテラピー)
 こういう様々な要素が相乗的に作用して、温泉の効能を盛り上げるものと考えられます。
 

(6)非特異的変調作用(総合的生体調節作用)

 温泉地で温泉に反復入浴(湯治)していると、体に変調が起こり、ストレスで歪みを持った生体リズムや病的状態が正常化していきます。「湯あたり」はこの反応にほかなりません。温度・泉質にもよりますが、入浴10回目くらいから出始めます。1日2回程度の入浴とすれば、4〜5日目頃から始まります。体はだんだん慣れてしまいますので、3〜4週後には効果が薄れます。
 温泉治療していると約7日間の周期で体のリズムが変化し、交感神経優位相と副交感神経優位相が交互にきて、体内環境は大きく揺り動かされます。しかし、繰り返すうちに変動は少なくなり、やがて平衡状態になり、乱れた体の調節能力が是正されます。したがって、温泉治療の効果を期待するには、2週以上継続し、4週くらい経ったら休みを置いて、再び開始するというやり方が効果的と考えられます。
 この作用は、温泉による直接作用が主体には違いありませんが、単に温泉だけによるのではなく、温泉地に来たという転地による心理効果、温泉地の気候による刺激、森林浴など、様々な刺激が関わっています。
 これらの総合的刺激により体の反応を引き出し、乱れた体内環境を正常化し、体の抵抗性を高め、自然治癒力を引き出そうというのが温泉療法の大きな目的です。ただし、刺激による体の反応を利用するわけですから、刺激に反応できないほど衰弱した状態では禁忌となります。

 私のような日帰り温泉しか行けない者にとっては、こういう温泉療法本来の効果は期待できません。2週間も休みが取れるなんて考えられないし、2週間も温泉地にこもっていられる精神的余裕もありません。こういうところにストレスいっぱいな私の大きな問題点がありそうですね。


 

 以上のように、温泉にはいろいろな効能効果がありますが、社会・家庭のしがらみから一瞬でも逃れ、瞬間的にも頭が空白となって、「ウー」、「アー、気持ちいいー」とため息を付くことが私の一番の楽しみであり、ストレス解消法です。

 

関連項目

   入浴における注意点
 
   温泉分析表を見よう

   新潟県内主要温泉の成分分析表

   私の温泉観とこだわり

   泉質で選ぶおすすめ温泉