Noism0+Noism1 「マレビトの歌」
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2025年12月6日(土)17:00 新潟市民芸術文化会館 劇場
Noism0:金森 穣、井関佐和子
Noism1:中尾洸太、庄島さくら、庄島すみれ、坪田 光、樋浦 瞳、
     糸川祐希、太田葉月、兼述育見、松永樹志、春木有紗
 

『マレビトの歌』

演出振付:金森穣
音楽:アルヴォ・ペルト
衣裳:堂本教子、山田志麻
出演:Noism0、Noism1

舞台監督:夏目雅也
照明:伊藤雅一(RYU)
音響:佐藤禎

 りゅーとぴあ専属の舞踊団として活動し、新潟の至宝といえる Noism Company Niigata のプロフェショナルメンバーである Noism0 と Noism1 の公演です。6月の公演は「アルルの女」と「ボレロ」でしたが、今回の演目は「マレビトの歌」です。

 この作品は、富山県黒部市で開催された「黒部シアター2023」で、Noism 初の野外公演で初演され、その改訂版として作られました。
 今年8月に富山県利賀村で開催された「 SCOTサマー・シーズン2025」、10月にスロベニアの SNG Nova Gorica国立劇場で上演し、今回いよいよ劇場版として本拠地りゅーとぴあでの上演になりました。
 12月5日(金)〜7日(日)の3公演開催され、20日(土)〜21日(日)は埼玉公演が開催されます。私は新潟公演の中日の6日の公演を観させていただくことにしました。

 演目名の「マレビト」というのは何のことかわかりませんでしたが、チラシの説明によりますと、「マレビト」というのは、民俗学者の折口信夫により提唱された民俗学上の概念で、時を定めて他界から訪れる霊的なナニモノカなんだそうです。
 浅学な私にはよくわかりませんが、今や Noism の代表作となった「FratresT」を含有し、“個と集団”、“彼岸と此岸”という創作テーマに沿った作品だそうです。音楽は私が大好きなペルトの曲が使用されるようですし、難しく考えずに心を無にして楽しませていただこうと思います。
 なお、オリジナルでは Noism0 のもう一人のメンバーである山田勇気さんが踊ったパートを、今回は金森さん自身が踊り、今回の公演には山田さんの名前がなくて寂しく感じました。


 今週は雪が降り、冬らしい天気が続いていましたが、今日は天候が回復して過ごしやすい土曜日になりました。コンサートホールで開催された新潟大学管弦楽団の定期演奏会が終わり、少し休憩してこの公演に臨みました。

 開場が始まりましたが、混雑が落ち着くのを待ち、少し経ってから入場して席に着きました。私の席は中段(2階席2列目)の右寄りです。1階は満席でしたが、2階席後方には若干の空席がありました。もったいなく感じましたが、なかなかの入りであり、開演を待つ熱気を感じました。

 ステージには黒い緞帳が下ろされ、その前方の左右に、白い皿の上に灯る火(火皿)が置かれ、炎が揺れていました。
 4分遅れて場内が暗転して、黒い緞帳が上がりました。後方にある幕以外に舞台装置は無く、これ以上ないくらいのシンプルなステージです。

 ベージュの衣裳の金森さんと井関さんの二人によるデュエットで始まりました。神々しいまでの二人の踊りに一気に引き込まれ、息を呑むばかりでした。

 後方に、ごつごつした黒い壁状のスクリーンが下り、その中央には四角い出入り口が開いていて、その出口から金森さんが消えて行きました。
 そして、井関さんも消えて、黒い衣裳で、頭にフードを被った Noism1 の10人が、手に火皿を持って踊り、近年の名作とされる「FratresT」が演じられ、その一糸乱れぬ群舞に圧倒されました。
 この群舞の中を金森さんが横切り、そして、金森さんを取り囲むように Noism1 が円形のフォーメーションで踊りました。

 音楽が変わって井関さんが踊り、歌とともに演じられる井関さんと金森さんのデュエットでの踊りが素晴らしかったです。金森さんが消えて、井関さんと Noism1 のメンバーが様々な人数、フォーメーションで踊りました。
 ベージュの衣裳に変わった Noism1 の6人と黒い衣裳の Noism1 の4人とが対峙し、黒い衣裳を脱ぎ捨てて、全員がベージュの衣裳となり、Noism1 の10人による群舞が続きました。10人が手をつないだり、びっしりと密集したりと、その圧倒的な演技は、視覚的に楽しませました。全員頭の被り物を取り、女性はロングヘアを揺らしていました。
 最後は「鏡の中の鏡」にのせて、Noism1 のメンバーが1人ずつパフォーマンスをしながら、後方の出口から去っていきました。ステージ最前方には12の火皿が横1列に並び、井関さんが消えていき、暗闇の中に緞帳が下りました。

 通常ならここで拍手が起こるタイミングですが、素晴らしいパフォーマンスに圧倒され、あまりの感動に拍手することも忘れ、その場に居た全員が金縛りにあったかのように沈黙を続けました。
 客席は静寂に包まれたままで、緞帳の裏で整列する出演者の足音が客席に聞こえてきました。そして緞帳が上がって、出演者全員が明るいステージに並んでいるのを確認して、割れんばかりの大きな拍手が沸き上がりました。
 カーテンコールが何度も繰り返され、スタンディングオベーションで圧倒的なパフォーマンスを讃えました。「新潟に Noism あり」をまざまざと見せつけられて、感動のステージは終演となりました。

 舞台装置は全く無く、バックスクリーンと、小道具としての火皿があるのみ。後は極限までに鍛え上げられた生身の人間の体と、バックに流れる音楽のみです。
 これでなんら不足はなく、これ以上に必要なものなどないことを教えてくれました。ペルトの音楽も効果的に使用されており、こういう音楽を選ぶ金森さんの音楽への造詣の深さにも驚きです。

 私は熱心なファンというわけでもなく、舞踊芸術には全く疎いのですが、Noism の凄さは実感できます。一度でも実演に接すれば、その魅力は理解できるものと思います。
 とにかく凄い作品ですので、この記事をお読みの音楽好きの皆様も、是非一度 Noism のステージをご覧いただきたいと思います。
 

(客席:2階15-24 ¥5500)