藤木大地&みなとみらいクインテット
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2023年5月3日(水) 14:00 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
カウンターテナー:藤木大地
みなとみらいクインテット
 ヴァイオリン:成田達輝、山根一仁、ヴィオラ:川本嘉子、チェロ:遠藤真理、ピアノ:松本和将
 
ショスタコーヴィチ:ピアノ五重奏曲 ト短調 作品57 より 第3楽章
J.シュトラウスII:喜歌劇「こうもり」より “お客を招くのが好き”
マスカーニ:アヴェ・マリア
ラフマニノフ:ヴォカリーズ 作品34-14
シューベルト:魔王 作品1
マーラー:《リュッケルトの詩による5つの歌曲》より
      “私はこの世に忘れられた”
ブラームス:鎮められたあこがれ

(休憩20分)

シューマン:ピアノ五重奏曲 変ホ長調 作品44 より 第4楽章
ヴォーン=ウィリアムズ:静かな真昼
モリコーネ:映画《ミッション》より “ネッラ・ファンタジア”
ヴュータン:アメリカの思いで「ヤンキー・ドゥードゥル」作品17
加藤昌則:レモン哀歌
木下牧子:鴎
平井夏美:瑠璃色の地球
村松崇継:いのちの歌

(アンコール)
アーレン:オーバー・ザ・レインボー
モノー:愛の賛歌

(ピアノ五重奏曲以外は、加藤昌則による室内楽編成のための編曲)
 

 今日は、日本を代表するカウンターテナーの藤木大地さんと、みなとみらいクインテットのコンサートです。藤木さんは横浜の「みなとみらいホール」のプロデューサーを務めておられ、横浜市と地域の文化施設をネットワーク化しようというプロジェクトとしてこコンサートが企画されました。一流演奏家を集めて「みなとみらいクインテット」を結成し、藤木さんとともに、各地で演奏会を開催することになり、新潟もその中に加えられて、今回のコンサートの開催となりました。

 藤木さんは、2012年に日本音楽コンクールで第1位をとられた後、翌年にボローニャ歌劇場でヨーロッパデビューを果たされました。2017年には、東洋人のカウンターテナーとしては初めてウィーン国立歌劇場にデビューされたほか、国内外で活発に活躍されておられます。
 以前に新潟にも来演されたことがありましたが、残念ながらそのコンサートには行くことができませんでした。その活躍は目にしていましたが、実際の演奏会は今回が始めてであり、楽しみにしていました。

 みなとみらいクインテットのメンバーはそのときどきで変更はあるようですが、毎回第一線で活躍されている実力者が参集しています。
 今回のヴァイオリンの成田達輝さんは、ロンティボー国際コンクール第2位、エリザベート王妃国際音楽コンクール第2位など、輝かしい実績を持っておられます。私は、2012年1月に、前橋で群馬交響楽団との共演を聴く機会があり、当時弱冠20歳ながら、堂々とした演奏で、抜群のテクニックに魅了されたことが思い出されます。
 第2ヴァイオリンの山根一仁さんは、日本音楽コンクール第1位という実力者で、国内外で活躍しておられ、私は、2018年7月に、東京オペラシティでの東京交響楽団との共演を聴く機会がありました。
 ヴィオラの川本嘉子さんは、ジュネーブ国際コンクール最高位など、多数の受賞歴を誇り、東京都交響楽団主席奏者、NHK交響楽団主席客演奏者を歴任し、後進の指導にも当たっておられます。
 チェロの遠藤真理さんは、日曜午後に放送されていたNHK-FMの「きらクラ!」でパーソナリティを務められていて、私もよく聴いていました。日本音楽コンクール第1位、プラハの春国際コンクール第3位ほかの受賞歴を誇り、独奏者のほか、読売日本交響楽団のソロ奏者も勤められています。私は、2021年11月に長岡で開催されたコンサートを聴かせていただきました。
 また、ピアノの松本和将さんは、日本音楽コンクール優勝、ブゾーニ国際ピアノコンクール第4位、エリザベート王妃国際音楽コンクール第5位等の受賞歴を持ち、活発な活動をされています。2019年10月の前橋汀子さんのリサイタルでの共演をはじめ、これまで何度か聴かせていただいています。
 以上のように、それぞれが凄いメンバーであり、みなとみらいクインテットとひとくくりにしてしまうのがもったいなく感じてしまいます。

 さて、このコンサートは、東京交響楽団新潟定期会員向けに優先発売され、残席を一般発売された形になっています。今シーズンから東響新潟定期は、年間6回から5回に減らされ、無料招待公演(実際は年会費に含まれていたのでしょうが)もなくなってしましました。
 その代わりに設定されたのが、チケットを優先販売して、セット券として料金を割り引くというバリューパックです。お徳感は随分と少なくなり、定期会員を続けて、バリューパックを申し込む人がどれだけいるのかと、勝手に危惧していましたが、第1回からの定期会員としての自負、りゅーとぴあへの愛着がありますので、バリューパックを申し込ませていただきました。

 いつもながら、前置きが長くなってしまいました。GWの真っ只中で、天候に恵まれて、絶好の行楽日和となりました。ウィズコロナの時代となって初めての制限のないGWですので、行楽地は賑わっていることと思います。野外活動も良いですが、私は文化活動にいそしみたいと思います。

 午前中は雑草に覆われた庭の草取りと、黄砂で汚れた車の洗車をし、ゆっくりと昼食を摂ってりゅーとぴあへと向かいました。駐車場に車をとめて、好天に誘われて白山公園を散策しました。新緑が目に鮮やかで、春爛漫を実感しました。
 チラシ集めをして、某コンサートのチケットを買い、入場しました。ホワイエでは、今日から3年振りにビュッフェ営業が再開されましたので、その記念に使えずにたまっていた定期会員のドリンク券でのどを潤しました。

 バリューパックのチケットはS席が割り当てられましたが、席は選べず、与えらた私の席は、1階席の中央の最後方のなかなかいい席でした。入退場の便利さから、いつも2階席を選ぶことが多いですので、この席は新鮮に感じました。

 開演時間となり、みなとみらいクインテットの5人が、譜メクリストとともに入場。左から、ヴァイオリンの成田さん、山根さん、チェロの遠藤さん、ヴィオラの川本さん、後方にピアノの松本さんです。
 成田さんはロングコートみたいな、ちょっと派手さもある衣裳、山根さんは白シャツにチョッキ、遠藤さんは白いドレス、川本さんはアズキ色のドレス、松本さんはオーソドックスに黒と、それぞれが個性を出していました。

 1曲目は、この5人により、ショスタコーヴィチのピアノ五重奏曲から第3楽章が演奏されました。コンサートの開演を飾る挨拶代わりの曲としては重すぎるように感じました。いきなりの暗くて激しい曲で、5人がのけぞりながら、激しくせめぎ合って演奏する姿に圧倒され、鬼気迫る演奏にひれ伏し、5人の実力をまざまざと見せ付けられました。

 演奏が終わり拍手の中にクリーム色のジャケットの藤木さんが登場。2曲目は、J.シュトラウスUの「こうもり」から「お客を招くのが好き」です。先ほどの激しい演奏から一転して、楽しいオペレッタの世界に誘われ、藤木さんの透き通るようなカウンターテナーの魅力と歌唱の巧みさをダイレクトに味わい、その素晴らしさがすぐに感じ取られました。

 2曲目は、マスカーニの「アヴェ・マリア」です。お馴染みの「カヴァレリア・ルスティカーナ」の間奏曲に歌詞が付けられたもので、柔らかなピアノ五重奏とともに歌われ、汚れた私の精神が浄化されるかのように思いました。

 3曲目は、ラフマニノフの「ヴォカリーズ」です。美しく哀愁を感じさせる人気曲ですので、さまざまな楽器による、様々な演奏を聴いてきましたが、やはりヴォカリーズですので、声楽で聴くのが一番です。しっとりと染み渡る歌声と、それを支える五重奏の美しさ。格別ですね。

 4曲目は、シューベルトの「魔王」です。しっとりと染み渡る癒しの時間から一転して、激しく、劇的な展開となりました。高熱に侵され、魔王の恐怖におののく息子を抱えて道を急ぐ父親。おどろおどろしい情景が、激しいピアノと弦楽四重奏とともに歌われ、その迫力ある演奏とパワーに圧倒され、ノックアウトされました。

 5曲目は、マーラーの「リュッケルトの詩による5つの歌曲」から「私はこの世に忘れられた」です。おどろおどろしい「魔王」から、マーラーの柔らかで甘美な世界へと変わり、興奮した心が鎮められました。ゆったりと穏やかな五重奏とともに歌われる藤木さんの歌声。ドイツ語の歌詞はわかりませんが、疲れた精神を癒し、虹の橋の彼方へと連れて行ってくれるかのような安らぎを感じました。

 そして、一旦全員退場し、前半最後は、ブラームスの「鎮められたあこがれ」です。この曲はピアノとヴィオラのみの伴奏で歌われました。ヴィオラの音域がアルト(今回はカウンターテナー)の音域と重なりますので、ヴィオラとの二重唱というべき演奏で、ゆったりと楽しませていただきました。藤木さんの歌声とともに、川本さんのヴィオラの素晴らしさを堪能しました。

 休憩後の後半は、シューマンのピアノ五重奏曲の第4楽章で開演しました。名手5人の渾身の演奏に、何も考えることなく、その音楽世界に身を委ねました。雄弁に語るピアノと複雑に絡み合う弦楽。耳に良く馴染むメロディが繰り返されて次第に熱を帯び、フィナーレとなりましたが、5人それぞれの魅力が発揮され、全曲を聴いてみたくなりました。

 藤木さんが登場して、続いてはヴォーン=ウィリアムズの「静かな真昼」です。先ほどのピアノ五重奏の熱気から、穏やかな音楽世界へと連れ帰ってくれました。美しい歌声と、柔らかな五重奏。甘美な世界を楽しみました。

 続いては、モリコーネの「ネッラ・ファンタジア」です。モリコーネの代表的な名曲「ガブリエルのオーボエ」に歌詞が付けられたもので、曲も歌声もバックの五重奏も最高としか言いようがありません。至福の時間でした。

 次は、藤木さんの声休めの時間ということか、ヴュータンの「ヤンキー・ドゥードゥル」です。「アルプス一万尺」のメロディの変奏曲で、演奏会のアンコール用に作られた曲だけあって、始めから盛り上がり必至です。成田さんが立って演奏し、熱く、ノリノリの演奏に、胸踊り、理屈なしに楽しませていただきました。コンサートの口直しには最高の演出だったと思います。以前誰かの演奏を聴いた覚えがあるのですが、誰だったかなあ・・

 藤木さんが登場して、以後は日本の歌曲が続きました。加藤昌則の「レモン哀歌」、木下牧子の「鴎」と、美しい歌曲を情感豊かに歌い、松田聖子の歌唱で愛されている「瑠璃色の地球」、そして松村崇継の「いのちの歌」と、美しい歌声とともに、原曲の素晴らしさを再認識しました。

 大きな拍手に応えてのアンコールに「虹の彼方に」が歌われ、これで終演かと思ったのです大きな間違いでした。
 5人がマイクを持って登場し、順に自己紹介がありました。各自が挨拶をした後、隣の出演者を紹介するという趣向で、川本さんに始まり、松本さん、遠藤さん、藤木さん、山根さん、成田さんと、楽しいトークが続きました。皆さんホールの素晴らしさを強調されておられました。たしかに、これ位の編成の音楽には最適な大きさであり、響きだと思います。

 トークが続いている間に藤木さんは水で喉を潤し、最後のアンコールとして、「愛の賛歌」が演奏されましたが、これは撮影OKで、宣伝のためにSNSで公開して欲しいとのことでした。
 私もスマホで撮影させていただき、一部をTwitterにアップさせていただきましたが、すぐに藤木さん始め、出演の皆さんから見ていただき恐縮しております。また、終盤部分はInstagramに載せましたので、ご覧いただけましたら幸いです。

 藤木さんの美しく濁りのないクリアな歌声は、聴く者の心に染み渡り、心を浄化させてくれました。ピアノの松本さん、ヴァイオリンの成田さん、山根さん、チェロの遠藤さん、ヴィオラの川本さんと、各人ともその実力と魅力を存分に味合わせてくれました。
 個々がソリストとして活躍する実力者ですから、当然といえば当然かもしれませんが、臨時編成のアンサンルとは思えない素晴らしさに息を呑み、美しい音楽性に酔いしれました。室内楽用に編曲した加藤昌則さんの素晴らしさも特記すべきでしょう。

 アフタヌーンティーでも飲みながら宮廷のサロンで優雅な時間を過ごすかのような、穏やかな癒しのひと時を楽しむことができました。
 贅沢な休日の午後を過ごし、大きな満足感を胸に、爽やかな春風が吹く白山公園を歩き、咲き誇る花々を見ながら、春の喜びを満喫しました。


(客席: 1階12-21、S席:バリューパック:\2900)